この街の空は相変わらず煤けていた
真っ青で、太陽の光が出ていて、空には雲ひとつ無いが煤けている空を塗りつぶすように飛行している。
飛行機の遠ざかっていくエンジン音は、まるで僕を冷やかしているようだ。
真っ青な空に対照するかのように―――――真っ赤な液体が、僕の体中から出ていた。
僕は数日前まで、顔も合わしたことの無い男に刺されて死ぬ。
断定したことではないが、この出血量ではもう長くは無い。確実に助からない。
だが、不思議と痛みは感じない。相手の動きが早すぎて、脳が判断できていなかった。
「_______________。」
青年が言い放った言葉が、耳にゆっくりと届く。
人生最後に言い放たれた言葉が、自分の心を動かすとは思わなかった。
もう少し、早くコイツと会っていたら僕の人生はどうなっていただろうか。
もっと、後悔のある人生となっただろうか。
こんな、後悔の無いちっぽけな人生ではなかっただろうか。
このままいけば、数分で体中から血が無くなって失血死するであろう。
それを物語るかのように、身体の機能は低下して、視界がふらつきだしてくる。
「大体…分かっている…。」
自分でも何を言っているか分からなかった。
負けたことが悔しくて嘆いていたのか、それとも死ぬことを恐れて言い放った言葉か。
普通の人ならそう思うだろうが、俺は無意識のうちに放った無様な戯言。
込められた意味など無い。ただ、勝手に口から出た言葉。
人生に最後になるかもしれない言葉の意味が、自分でも分からない。
出血のせいで、恐らく頭にまで血が回らないのであろう。
まったくバカな運命。馬鹿馬鹿しくてたまらないだと思う。
徐々に消えていく意識の中で、おかしくてたまらない、空っぽな命に対して心の中で笑う。
【2012 6/15 FRIDAY 19:00 関勝宏 死亡確認】
【残り 一人 / 三人 】
◇
この街の煤けた空は嫌いだ。
煤けて廃れた空の下には、虚しくて無愛想なコンクリートの世界が汚く点在している。
コンクリートの塊の上には、ポツポツとただの肉の塊のような人間が這う。
この街の匂い、この街の音、この街の感覚、この街の色、この街人々――――全部嫌いだ。
僕はそんな嫌いな町で、ただ同じ行動を何度も繰り返して、機械のように生きている。
この街、この世界、消えてしまえばいいのにと何度も思った。
「せっきー、今日暇?」
消えてしまえばいい世界にいるそんな奴が、僕に対して喋りかけてくる。
名前は、山口。フルネームは知らない。同じクラスの奴。
悪い奴ではない。だが、消えてしまえばいい世界にいる、腐った奴。
「別に暇じゃないけど…どうかした?」
「違うクラスのバカがタイムマシン探しに行くらしいんだ~。」
“タイムマシン”とは、『神の裁き連続殺人』と並んで今、クラスで有名な話題。
町外れの廃墟の館に“タイムマシン”が隠されているというバカバカしい噂。
色の着いているだけの世界にある創造の産物でしかない。
「ごめん、僕はパスするわ。」
「まだ何も言っていないのにさ~。」
「大体分かるよ。」
大体分かっている。分かっていなくても、思わず口にしてしまう言葉だ。
山口が寂しそうにその場を去ると、自転車小屋にある自分の自転車の籠にカバンを入れる。
ズシリと重い感覚が、ハンドルに伝わると自転車が少しふらつく。
自転車をこけないように支えながら、いつものように鍵を取り出そうとポケットの中に手を入れる。
“いつものように”何も変わらない行動――――――――
何も変わらない――――パターン化されて予想されている未来。
「あれ…鍵が無い?」
頭に感じた感覚より先に、思わず声が出た。
たまにあることだ。自転車の鍵をなくして、そのまま一日放置しておく。
だが、面倒くさいことにその辺のバカによってパンクさせられたり、サドルをなくされたりする。
仕方ない。自転車の修理に出すくらいなら、引きずって帰ったほうがいい。
――――迂闊な行動だった。
その行動は、予想以上に時間を消費して、なおかつ体力も消費した。
パターン化されていない未来。だが、このようなことになるとは望んではいない。
「邪魔だ!!クソガキ!!!!」
後ろから来たのは、軽トラに乗った大人。
頭は禿げていて、こんな大人にはなりたくないと言う象徴的な奴だった。
ゆっくりと自転車を道の脇に退けると、軽トラはスピードを上げて道のかなたへと消えていく。
大人たちは残酷だ。見捨て、罵倒して、見下す。そんな大人は残酷だ。
そう思いながらも置いてあった、自転車を八つ当たりのように蹴り飛ばす。
――――迂闊な行動だった。
「貴公が私の所有者か?」
どこからか聞こえてきた声。言っている意味も、言っている者の正体も分からない状況。
『神裁き連続殺人事件』と言う言葉が頭の中に過ぎる。
法で裁けない犯罪者を殺害していく事件。もしかすれば…
つまり、無残にも殺された不運な高校生として、夜のワイドショーに取り上げられる少年Aとされるわけだ。
偶然、鍵をなくして、ムカついて蹴り飛ばしただけで殺される。
まさか、そんなことがある分けないと心で笑っていたが、身体は震えていた。
「僕は悪戯は嫌いなんだ。出てきてくれないか?」
「悪戯?貴公は誤解している。」
背後にいたのは、倒れた自転車では無く、佇む一つの人影があった。
【2012 6/1 FRIDAY “envy”GAMESTRT】
◇
「(ジェームズ。君には期待しているよ。)」
黒いスモークガラスの張られたリムジンに、乗っているのは私とボス。
ボスの名前は、ソ・ワルピン。中華系犯罪組織である「蛇龍会」の若手実力派。
出身は韓国で、貧民街から麻薬の密売や殺人などでのし上がって来た男。
「(了解しました。)」
そう呟くと、ライフルの入ったケースを持って狙撃ポイントへと位置につく。
今回の標的は、南雲市を拠点とするヤクザ。森久保組の若頭の暗殺。
和辻組との取引中に、和辻組側の暗殺と見せかけて同士討ちを狙うと言う策略だ。
カスタムしたAN-94のスコープを覗き込むと、照準を若頭の平泉の額に合わせる。
パスン!!!
引き金を引くと、サプレッサーから微かに銃声が漏れる。
連動するかのように、若頭の平泉歩は脳天から血を噴出して倒れた。
カスタムしたAN-94をケースにしまうと足早にリムジンに乗り込む。
策略どうり、和辻組と森久保組の激しい銃激戦が展開されている。
「(さすがだ、ジェームズ。)」
「(お褒めの言葉ありがとうございます。)」
毎日こうして人を殺している。
アメリカ陸軍退役後は、フラッシュバックのせいで仕事をクビにされた。
まともな暮らしが出来ない、私にはぴったりな仕事。人を殺して、その金で飯を食う。
やがて、正義感は消えて無意味な殺しに身を投じた。
自分の家の窓ガラスが割れることなど、普通に暮らしていればそう無い。
家の所在は、ボスにもばれないようにしている。
あるとしたら二つ。野球ボールが窓を割ったか、不審者が家に侵入しているか。
もしもそれが後者なら、命すら危ない。
昨日の銃撃戦の生き残りなら、恐らく報復に来たのであろう。
ドアノブを触るが、まるでそれは自分の家ではないような変な感覚に陥る。
恐る恐るドアの音を立てずにゆっくりと開けるとポケットの中の拳銃を構えた。
日本では、玄関で靴を脱ぐが、アメリカ育ちの自分は土足のまま上がる。
心臓の音は高鳴り、四十五口径の軍用拳銃を握る手が微かに震えた。
バリン!!
どうやら気づかれた!?
音が聞こえたのは、リビング。包丁などが置いてある危険なスペース。
トリガーに指を掛け、台所に恐る恐る近づく。
躊躇えば死ぬ。戸惑えば死ぬ。イラクやアフガニスタンで学んだ教訓のひとつである。
戦友は少年兵を撃てず射殺された。親しかった上官は、女性を見逃して自爆されて死んだ。
「動くな!!!」
台所には、ワインのビンの破片が散乱して、中身が水溜りのようにこぼれている。
シンクには、飲み終えたようなボトルや空き缶が散乱して、酒臭い匂いを放っていた。
冷蔵庫をあさる人影がゆっくりとこちらを向いた。
オールバックの髪型に髭を生やしたワイルド系の大男。
身長は、200mを越すほどで、黒い革ジャンを羽織っている。
「おいアンタ。酒持ってねぇのか?酒が切れちまった。」
「…お前は何者だ!?殺し屋か!?」
「何言ってんだ?そんなことより所有者の癖に、酒が少ねぇんだよ。」
【2012 6/1 FRIDAY “sloth”GAMESTRT】
最終更新:2011年11月26日 16:51