澱む光

19:澱む光

畑が広がる農耕地帯、そこに建つ幾つかの民家の一つ。
ツェツィーリアは居間で、保護した蝶の羽根を持つ少女、エヴィアンが風呂から上がるのを待っていた。

(長いなぁ…)

もう二十分近く経つが一向に風呂から出てくる気配が無い。

(無理無いとは思うけど…)

しかしエヴィアンに非難の声をあげられない理由があった。
部屋の壁に掛けられた時計を気にしつつ、ツェツィーリアはテーブルの上に乗せた、
自分の支給品である特殊警棒と、ニンテンドーDSを交互に見詰める。



お世辞にも広いとも、綺麗とも言えない風呂場にシャワーの音と、嗚咽の声が響く。
もっともシャワーの音で声はほとんど掻き消されていたが。

「う……う……!」

どれだけ身体を洗っても、纏わりつ付いたあの男の唾液は、手垢は落ちないような気がしてならない。

「汚い、汚い、汚い、汚い汚い汚いぃ…ッ! 汚らわしいオスが、う、うううううぎいいいいいい!」

過去に自分の身に降り掛かった不幸が原因で異常とも言える男嫌いになったエヴィアンにとって、
先刻の卑劣漢にされた行為は、男嫌いの感情を、全ての男への憎悪へと変貌させていっていた。

「男なんてやっぱり最低の下衆な生物なのよ、男なんてみんな、みんな…ッ」
「ねぇ、エヴィアンさん」
「!!」

不意に声を掛けられ、エヴィアンは我に返った。

「つ、ツェツィーリアさん?」
「あのぉ、ゆっくりお風呂入っていたいとは思うんだけど、もう三十分ぐらい経ってるよ?」
「え? そ、そんなに経ってたの? ごめん、今出るわ…」

いつの間にそんなに時間が経ってしまっていたのか。
エヴィアンは風呂から出る事にした。



ツェツィーリアとエヴィアンは居間へと戻った。

「お、落ち着いた、かな…?」
「……少しは。ありがとうございます、ツェツィーリアさん…」
「そう? それなら良いんだけど…」

出来るだけツェツィーリアはエヴィアンを気遣うようにした。
ここに来る道中の会話から、エヴィアンは男性という存在に対し凄まじい嫌悪感を抱いていると気付いていた。
あまり深くは聞かなかった、と言うより聞けなかったが、どうやら男に纏わる非常に悪い過去があるらしく、
ただでさえ暴漢に襲われ心に深い傷を負っていると言うのにその傷をわざわざ抉るような事はすまいとツェツィーリアは思った次第である。

「……」

エヴィアンは自分のデイパックを手に取り、未だ確認していなかった自分の支給品を確かめる。
出てきた物はモシンナガンM1944騎兵銃と予備弾、更にアイスピックの二種類。

「……」

モシンナガンM1944を手に取り、エヴィアンはそれを観察する。
その様子に何か不穏な物を感じたツェツィーリアが何か声を掛けようかと考えていた時。

「……? 誰か来た?」
「え?」
「エヴィアンさん、ちょっと待っててね、見てくる」

玄関から微かに足音らしきものが聞こえ、ツェツィーリアは特殊警棒を携え様子を身に向かう。

「え…ま、待って、一人にしないで…」


◆◆◆


明らかに人間では無い人物を目にしても大して剛田武は驚かなかった。
今まで二十二世紀の猫型ロボットや友達と大冒険を何度も繰り広げ、外国人、宇宙人、異世界人などに、
何度も出会い、別れてきたため、ある程度の耐性は付いてしまっていたのである。

「おお、先に人がいたのか…」
「人じゃないけど…貴方は、殺し合いには…」
「乗ってねぇ。その口ぶりだとあんたもか?」
「うん」
「そうか、俺は剛田武って言うんだ」
「私はツェツィーリア…奥にもう一人いる、けど……」

ツェツィーリアと名乗った毛皮に覆われた竜のような女性の言うにはもう一人この民家にいるとの事だが、
なぜ口籠るのかは武には分からなかった。

「どうかしたのか?」
「いや…あのね…」

ツェツィーリアが口籠った理由を話そうとした時、
武はツェツィーリアの肩越しに人影を見付けた。
蝶の羽根を持った学生服姿の少女――――あれがツェツィーリアの言っていた隠れているもう一人の人物だろうか。
しかし、何より気にかかったのは少女の目付きだった。
自分を見るその目には、とても強い憎悪の光が宿っているように思える。

(何だ…?)

なぜあのような視線を向けるのか――いや、きっと警戒されているのだろう。
殺し合いと言う状況なら、見ず知らずの者がいきなり接触してきたらまず警戒するに違い無い。
そう武が心の中で結論付けようとした時。

(え?)

その少女は、自分に向けて何か銃らしき物の銃口を向けていた。
次の瞬間、銃声と閃光――――剛田武の意識は、消えた。


◆◆◆


自分の顔に生温かい飛沫がかかるのをツェツィーリアは感じた。
目の前にいた少年の顔の自分から見て左半分が吹き飛んでいるのが見えた。
少年は後ろに倒れ、動かなくなった。

「……え? え?? な、何で……」

突然の出来事に困惑しながらも、ツェツィーリアはゆっくり後ろを振り向く。

「どうして、エヴィアンさん…!?」

モシンナガンM1944を構えたままの蝶の少女と向き合った。

「どうして? どうしてですって? 決まってるじゃないそんなの?」
「は?」
「男じゃない、それ」
「なっ」
「汚いオスなんて、みんな消えれば良いのよ」

憎悪と、何か歓喜のようなものが籠った表情のまま、エヴィアンがM1944のボルトを操作した。

「で、でも、この子貴方に何もしなかったじゃない、なのに」
「うるさい…!」
「!」
「何かしたとか、してないとかって言う話じゃないのよ! 男って言う生物に生きる価値なんて無い!!」
「だからって…!」
「……何?」
「え?」

不意にエヴィアンの声が変わった。
そして銃口をツェツィーリアに向ける。

「ちょっ」
「あなたは、男の味方をするの?」

エヴィアンの目には、ツェツィーリアに対する侮蔑と悲しみの念が渦巻いている――ようにツェツィーリア本人には思えた。

「な、何? もうさっきから何の連続なんだけど」
「質問してるの、貴方は男の味方をするの? ねぇ? 貴方も、男無しじゃいられないの?
あの、男に依存した人達と一緒なの? ねぇ? ねぇ??」

明らかにエヴィアンの様子がおかしい。
銃口をツェツィーリアに向けたままゆっくりとにじり寄ってくる。
「男に依存した人達」と言うのが一体誰の事を言っているのかツェツィーリアには分からなかったが、
動揺しかかっている心を落ち着かせて持論を展開した。

「な、何言ってるのか良く分からないけど、男全員があなたの思ってるような……」

ダァン!!

一発の銃声と共に、ツェツィーリアの腹に穴が空き鮮血が迸った。
銃弾は彼女の身体を貫通し、呻き声を発しツェツィーリアは傷口を押さえてその場に蹲った。

「がぁ…あ!」
「そうなの、分かった、よく分かったわ、あなたも結局、吉良さんと同じなのね」
「は? き、吉良さんって誰…」
「男に依存した女も、死ねば良いんだわ」
「何? もう、意味分からない、何言ってるの? ねぇ!?」

先程からこの少女の言う事は飛躍し過ぎていて理解出来る範囲を越えている。
苛立ったツェツィーリアが声を荒げたがエヴィアンは意に介さず。
M1944の銃剣を、ツェツィーリアの胸元に突き刺した。
卒倒したツェツィーリアをエヴィアンは更に刺した。
何度も、何度も、何度も、何度も――――。

M1944の銃剣が血で真っ赤に染まる頃、ツェツィーリアはただの血塗れの肉塊と化していた。

「助けてくれてありがとう、でも貴方は許せなかった、だって、男の味方するんだもの、女として許せない、
絶対に、ぜったいに、男は、みんな死ねば良い、男を庇う、依存する、女も同じ、同じ!」

エヴィアンの心は歪んだ挙句、壊れてしまった。
彼女を突き動かすのは、男と言う存在と、それに与する女への激しい憎悪。
その憎悪は自身を救ってくれた恩人とも言うべき存在をも一方的な思い込みによって排するまでに膨れ上がった。
彼女の行く先には、恐らく、もう、光が差す事は無いであろう。


【剛田武@ドラえもん  死亡確認】
【ツェツィーリア@オリキャラ  死亡確認】
【残り  38人】


【早朝/E-6畑地帯:湯島家】
【エヴィアン@自作キャラでバトルロワイアル】
[状態]精神に異常、男及び男に味方する女への凄まじい憎悪と殺意
[装備]モシンナガンM1944(3/5、銃剣血塗れ)
[持物]基本支給品一式、7.62mm×54R弾(10)、アイスピック
[思考・行動]
基本:男は殺す、男に味方する女も殺す。
1:自分を襲った男(長谷川祐治)を殺したい。
[備考]
※本編死亡後からの参戦です。
※長谷川祐治の外見を記憶しました。



018:ウホッ、良い男達 目次順 020:Justice heart

005:LOTUS ツェツィーリア 死亡
005:LOTUS エヴィアン 030:腐ってく未来
GAME START 剛田武 死亡

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最終更新:2012年02月12日 13:44
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