アットウィキロゴ

joint

暴虐の白い光が瞬いた。
翼のようにも、或いは鞭のようにも見えるそれが、元は森であったろう空間を蹂躙し尽くしていた。
破壊の中心に立つ金髪の青年は、にたにたと値踏みするような顔でその男を見つめる。
樋之上壊。エンターテイメントのように人を殺す殺人鬼―――の顔をした、化け物。

振るわれる破壊を、卓越した運動神経を駆使して避ける人影。
警官服を纏っていながら、殺意に満ちた瞳をぎらぎらと光らせている不自然な、だが確かな気迫。
この世で最も憎らしく思う目の前の畜生に向けて、隠すこともなく殺意を放ち続けている。
狐神桐雄。善良にして優秀なる警察官―――の顔をした、冷酷なる復讐鬼。


戦力差は誰がどう見ても歴然というものだろう。
ほぼこのエリア内全域を直進出来る光のラインに、地球上の生物全てに匹敵する数の技術での光の操作。
至近距離でも遠距離でも、直撃さえすれば必ず致命傷を与えられる化学兵器。
対する狐神の武器は己が肉体一つ。
鍛え方でなら樋之上を遥かに上回るだろうが、彼は何一つとして特殊な才能を持たない。
攻撃をどれだけ避けようがじり貧というもの―――いずれはスタミナの尽きた彼が撃ち抜かれると相場が決まっている。
そんなことは当然の如く理解している狐神だが、やはり実力の差を埋めるのは容易いことではない。


「………分かってんのか、お兄さん。あんたじゃ俺にぜってえ、天地がひっくり返っても勝てねえよ」
「やってみなきゃ、分からねえ」


ファイティングポーズを構えて、狐神は挑発的な声色で樋之上を牽制する。
その声には絶対的な自信があり、微塵の不安も懐いていないことが感に障ったのか。
樋之上壊は、その周囲に計六個の光の球を出現させる。
一発一発が皮膚を焼き焦がし、骨さえも破壊する非科学の結晶を浮かび上がらせ―――内の一つが形状をいきなり変化させ、矢のように狐神の肉体に向け直進していく。

が。
狐神桐雄の肉体に穴が穿たれることはなく、破壊の矢は遠く離れた地点で空中に溶けるように消えた。
すっ、と肉体を反らし、予期していたかのような華麗な動作で亜音速の一撃を避けたのだ。
樋之上は余裕を崩すことなく、今度は二つの光球を同時に矢に変換し、放つ。


それすらも狐神桐雄には掠りもしない。
亜音速の光線が通り抜ける頃には既に大きく照準の座標を外れ、オリンピック選手さながらの速度で樋之上壊に向かい疾走してくる―――。
迎撃すべく放つは残り三つの光を変換した矢。
更に重ねて、右腕から顕現させた不健康な光の鞭を退路を塞ぐように振るう。
逃れることはまず困難だ。
樋之上は決して自らの実力に驕るような真似だけはしない。
たとえどれだけ自分が優勢な状況であろうとも、常に最善手を選択し、些細なミスを犯さない。
その彼が確信を持って言えた。あれを避けきることは常人では叶わないのだと。


「粘るなあ、アンタ。とっとと燃え尽きて――――っ!?」


魔術の怪物、生まれながらに絶対の力を有して生まれてきた樋之上壊が、心の底から驚愕した。
狐神桐雄の進撃は、止まってなどいない。
肩に本当に僅かな掠り傷が出来ているだけで、行動に支障が出るような傷は一つも負っていないのだ。
いくら亜音速の射撃といえど、避けることが不可能な訳ではない。
当然、視認してから避けることなどまず不可能―――それが複数の射撃ならば尚更だ。


(まさか、あれを全て……予測した、のか? 照準座標を、速度を?)


そんなもの人間業ではない。
優れた拳法家には、未来予知にも等しい超直感が宿るという話を聞いたことがあったが、こんな未知の能力にまで対応して超えてくるとなれば、それは立派な怪物だ。


狐神の使った手段は、確かに『座標の予測』である。
速度は目見当しか頼れるものがなかったが、大体のそれを設定し、丁度超えられるように動いた。
亜音速の一撃などまともには避けられない。
故に、あらかじめ避けた攻撃の座標へと移動し、華麗にスペースを作りながら全てをかわしていたに過ぎない。言葉で言うだけなら簡単ではあるが、実際にこれを成し遂げられる人間はそういない。
まず、脳が通常なら対応できないだろう。
全くの未知、論外もいいところの攻撃を微塵の焦りもなく捌く度胸と、即座に速度、座標、移動距離を割り出し、ミリ単位で計算する能力が無ければ到底不可能な芸当だ。

だが、狐神にとってそんなことはどうでもいい些事だ。
妹を殺されて、復讐の為だけに肉体を酷使して鍛練を積み上げてきた彼には、関係がない。
いや、造作もない。


ただあの憎き男の首を獲る、それだけを原動力として、狐神は疾駆する。


流石に焦りの色を見せる樋之上は、攻撃を頭上から落とすものに変える。
空中から落雷のように降り注ぐ破壊の光。
嫌でも上に注意しなければならない、そこを逆手にとって―――近接戦で刈る。
ひゅひゅひゅひゅひゅ――――と気の抜けるような音を立てて、狐神の頭上から降り注ぐ光の柱。
当然当たれば頭は弾け飛び、無惨な中身を晒すこととなるだろう。

狐神は真横に、反復横飛びを原型とした跳躍術で移動しその攻撃を避ける。
が、もう遅い。
樋之上壊の両手の中には、剣のような形状の『光』が収まっており――それを、双剣のように振るう。
鉄さえバターのように切り裂く刃を―――生まれてこの方一度も使ったことのない『刃』の形として―――、たった一人の人間を殺すために使う。
回避直後。
あれだけの距離を跳躍していれば嫌でも隙というものが生まれる。
そこを叩けば、おしまいだ。


ドゴッ! という鈍い音がした。
樋之上壊の腹には、狐神桐雄の拳がめり込んでおり、両手の双刃は意味を成していない。
読まれていた。
着弾する位置も、そして樋之上の攻撃の軌道までも、完膚なきまでに見透かされていた。


「ガッ――――てめえ!」


顔面を憤怒の形相に歪めて、狐神桐雄を排除するに足る威力の光線が、狐神の顔面目掛けて直進する。
有り得ない、眼中にすらなかった『自分が攻撃を受けた』という事実に動揺を隠せない樋之上に対して、狐神は憎き相手を目の前にしているとは思えないほど冷静に対処する。
直撃どころか、掠っただけでも消えない傷となるそれを、微塵の恐れもなく避ける。
その動作は頭をたった数センチずらすという単純なもので、こうも読まれやすい攻撃を繰り出す時点で、樋之上壊が何れ程冷静さを欠いているかが窺える。

安全地帯であった空間から惜しむことなく一歩を踏み出し、拡散しながら飛来する光線を、地面を転がりながらかわす。
不格好な方法ではあるが、それでも泥以外に狐神を汚すものはない。

「どうした、殺人鬼。もう終わりか」

挑発でただでさえ冷静でない仇敵を、自滅へと追い込まんとする。
およそ武器の類を何一つ持たず、拳と体術のみで自分が追い込まれているということが、樋之上壊には信じられなかった。自らの力の強大さを正しく認識しているからこそ、その常識はずれに対応できない。
そして何より、これだけ優勢な状況を作っておきながら狐神桐雄には『油断』がまるでない。

距離は五メートル弱。
あと二歩の接近で相手の攻撃圏内に入ってしまうが、それはこちらも同じである。
この至近距離でならまず外すことはない。ちょっと調整して放てば、この苛つく警官を消し炭に出来る。
よって、アドバンテージはこちらにある―――これを勝機と言わずして何と言うか。


威力はとびっきり。
攻撃範囲は狭く、ドーム状に。
狐神桐雄の拳が俺の身体を打ち付ける前に、焼き尽くす。


醜悪な笑顔で、迫る狐神を中心に攻撃範囲を示す『円』を設定する。
距離はおよそ二メートル強。
拳はまだ振り上げられていない。

(勝った)

樋之上壊は、勝利を確信して、精一杯の冷静さを保って狐神に応ずる。
既に少しずつ形成されつつある青白いドームが、この忌々しい警官への手向けだ。
復讐だか何だか知らないが、自分が負けるなんてことは認めない―――!
エゴの塊のような執念を燃やしてその姿を捉え、


「っ、あぁ!?」


狐神桐雄のとった行動は、拳による殴打でも回避行動でもなかった。
それは、駆け抜けること。
樋之上に衝突することも構わず、全ての行動を放棄して、樋之上ごと突っ切った。
そして樋之上の首を掴み、驚異的な腕力で形成された光のドームの中に投げ飛ばす。

うがっ、という短い悲鳴がして、完成した死のドームは自らを生み出した張本人すら外に出さず―――中では今頃絶対の威力が吹き荒れ、樋之上の身体は文字通り消し炭になっていることだろう。
復讐の終了にしては随分と呆気ない、だが自らの振りかざしてきた力によってその命を落とすという、なかなか皮肉の効いた幕引きだ。
念願の復讐を遂げた狐神の表情は―――優れない。
生きてきた目的を、こんな一瞬で失ってしまった男は、ひどく動揺していた。
妹の仇は討った。
だからこそ、自分がこれ以上警官を続ける意味もなくなったわけだ。


(終わった、訳か)


未だ消えず残留している光のドームをぼうっと眺めて、彼は自分が全く喜んでいないことに気付いた。
追いかけてきた悲願を達成したというのに、心中には冷たい風が吹き荒れているようだ。
一言で言えば、虚しい。
一心不乱になって目指していた目標を失ったことで、狐神桐雄は虚無感に包まれていた。
喪失感、と言ってもいい。


(俺は………こんな奴の為だけに、正義を突き詰めてきたのか)


祭りの後の静けさのように、復讐に急いていた男は、冷めた。長い長い悪夢から醒めた。
しかし悪夢を見続けたせいで、現実に適応できなかった。

「何だ……これじゃまるで、バカみてえじゃねえか」

愚かだ、と狐神桐雄は思う。
自分が間違っていたのかと疑いたくなる。
頭では自分のしたことは正しいと思っていても、心は困惑の極地にあった。
積み上げてきた正義という大義名分が音を立てて崩れていく―――そんな錯覚にさえ、囚われる程に。


――――ひゅん。


風を切る音がした。
空気を切り裂き、それは狐神桐雄の腹に一つの、コルクくらいのサイズの穴を穿つ。


「…………驚いたな。お前、生きてやがったのか」
「カハハ……一回死んださ。そこから、粒子サイズで身体を組み直してきたんだよ。
蛇は自分の毒じゃ死なない。同じ手はもう二度と食わないぜ」


狐神の後方には、全身を粒子レベルで消し炭にされた筈の青年、樋之上壊の姿があった。

彼の使用したのは、自らの力を『自己再生』の形で応用する離れ業だ。
自分の力で破壊されたからこそ、その不可解な力で、肉体を再度構築した。
衣服まで寸分狂わず、構築したのだ。
もっとも、それは自分の力による自滅だったからこそ出来た芸当だ。
もしあそこで、地面に叩き付けて首の骨でも折っていたなら、勝者は間違いなく狐神桐雄だった。
銃弾で心臓を破壊しても、鉄剣で切り刻んでも、死からは逃れられない。
――――ただし、自分の力でなら話は別。
更に、肉体のパーツところどころに『光』の断片を使用したことで、自滅は二度と起こらない。

狐神桐雄のとった手段は、樋之上壊を相手取るには最悪の手段だったのだ。
結果、正義の警官は腹を撃ち抜かれ、極悪の魔術師は無傷で直立している。


「―――でも、あんたすげえよ。俺は素直にあんたに敬意を示すぜ。
あんたの妹さんをぶっ殺したことも今なら素直に詫びよう。俺はあんたを尊敬する」
「そうかい……なら、地獄で千年でも償ってこいよ」
「お断りだ」
「そりゃ残念」


満身創痍の警官は、その言葉を皮切りに疾駆する。
幸いだったのは、腹を撃ち抜いた光線が超高熱のものであったこと。
おかげで通り抜けた断面がほぼ炭化し、出血量はほぼ零。
だからと言って無事で済む筈がない――恐らく内臓を掠めている。
あまり長生きは、出来そうになかった。

(だから、どうした)

一発でいい。あの下衆の顔面を渾身の拳で打ち抜く。
それさえ決まれば、首に手をかけて頸椎をへし折ってやる。
それで今度こそ終わり、虚無が残ろうが構わない。
これをここで沈めなければ、最悪の事態さえ考えられる。

一歩でも早く。
一瞬でも早く勝負をつける。
前方から飛んでくる光の束を避けるが、掠る。
あれも戦いの中で進化したと言うことか。
全身の至るところに熱を感じ、時には身体に穴が穿たれる不気味な感覚さえ感じた。
――――それでも、止まらない、止まれない。


「小癪なッ!」


右からの、薙ぎ。蒼白の長剣の斬撃を掻い潜る。
背後から迫ってくる熱。身体を反らしてかわそうとするが、脇腹を浅くだが切り裂かれる。
しかしそれでいい。
直撃を避けられたというただそれだけの事実でさえ、狐神桐雄にとっては僥幸―――。


――――距離はおよそ五メートル。


奇しくも最初の失敗と同じ間合いだ。
あのドームを発現させてくるというなら、さっきと同じように突き抜け、首を折る。
至近での光線ならば、避けることまでは不可能でも、掠り傷に止める。
回避した位置から、カウンターの一撃を叩き込み、畳み掛ければそれで終わりだ。


「うおおおおおぉぉらああああぁぁぁあ!!!」


それは、放射だった。
単純な軌道の、避けるにはあまりにも容易い行動。
だが、ここでこの狡猾な殺人鬼がそんな正攻法を取ってくるとは思えない。

軌道の急転換。
狐神の予測の通りに、それが進む方向を変えた。
予め想定していたパターンに当てはめてそれを難なく避け、そしてーーー叩き込んだ。
固く握り締めた拳は、樋之上の顔面を確かに打ち抜いてその身体を地面に叩きつける。

しかし、狐神桐雄の体は動かない。
自分の胴体に視線を落とすと、何かが突き出ている。
貫いていた。
蒼白の長剣が―――確かに避け、そこですっかり眼中から外してしまっていたそれが、深々と狐神の胴体を貫き、その進撃を止める程の致命傷として、君臨した。

「……驚いたな。まさかあれがここで響いてくるか……俺も、馬鹿だな」
「どうだい。これが俺の力だよっと。んじゃ俺そろそろ行くけどさ、何か最期にあるかい」
「そうだな。ずっと言いたかった。死ね」
「死にたくない、よって却下だ」

軽薄な口調でそう言う。
殴られた衝撃など感じていないかのように、樋之上は立ち去っていく。
追いかけようにも、もう身体が動かない。
正確には少しなら動かせるが、立ち上がるまでのことは出来そうになかった。
胴体には複数の穴が穿たれていて、我ながら、よくこれで戦えたな。


「……狐神っ!」


意識を闇に委ねようとした瞬間、狐神桐雄の耳が青年の声を捉える。
聞き慣れた――という程付き合いは深くないが、それでも自分が道を正すことに成功した、青年。
夜桜方程。科学者志望の気弱な青年が、傍らに幼い少女を抱えて、走ってくる。
逃がしたと思っていたのに、まさか自分の勝利を確信して待っていてくれたとは思わなかった。
ある程度まで近付いて夜桜はその顔を悲痛そうに歪め、狐神がもう助からないことを悟ったようだった。


「夜桜………か……はは。偉そうな口叩いといて、やられちまった」
「全くだっての……散々ぼくを焚き付けといて、勝手に死ぬなんて勝手すぎるぞ!」
「無茶苦茶を、言うな……こりゃ無理だよ。まず確実に内臓が再起不能になってる」


泣き言の一つも吐かず、狐神は笑う。
これから死ぬなんて思えないその笑顔を見て、夜桜は逆に胸が締め付けられる思いだった。
夜桜方程は落ちこぼれなりにも科学者志望だ。
人体の構造なんかにも、少なくとも目の前の二人より詳しい自信がある―――だから、分かってしまうのだ。この男が、この勇敢なる警察官が、助からないということが。


「そっちのガキ……怪我はねえ、みたいだな。名前は、何だ」
「……椋梨水花です、お巡りさんのおじさん……死んじゃうの?」


水の花とはいい名前だ、と笑って、最後の質問には答えない。
水花もその様子を見て悟ったのか、それ以上の追求をやめて悲しそうに、目を細めた。

「いいか、夜桜。樋之上壊―――金髪の、あいつには絶対に近付くな。今のお前じゃ、殺される」
「あいつ……一体何なんだ? あんなの、まるで」
「兵器、だな。俺も分からん。分かるのは、あれがこの腐ったゲームの中でも一番腐った野郎だってことだ」

その語り口には、どこか悔しさのような感情が見え隠れしている。
最初に樋之上を見た時の反応から考えて、狐神は樋之上壊と、並々ならぬ因縁があったのだろう。
その因縁の相手、憎き仇敵に敗北したことなんて―――悔しくないわけが、ないじゃないか。

同じような経験を何度もしてきた夜桜はその気持ちがよくわかるつもりだが、狐神桐雄のそれはきっと、夜桜なんかには想像も出来ないやるせなさ。
永遠にリベンジの機会は与えられないし、見返してやることももう、出来ないのだ。
何故だか、涙は出なかった。
心の中で自分は涙脆いと自負している夜桜だったが、どうしても、涙は出なかった。
彼を今支配しているのは、同情の涙でも樋之上への怒りでもない。
――――強い、人生で一番と言ってもいいほどの強固な決意だった。


「約束するよ、狐神」


弱々しさなど欠片もない、強く毅然とした態度で、もうじきに命を失うであろう男に宣言する。
誰が何と言おうともこの決意だけは絶対に曲げられない。
もしかしたら夜桜方程という人間を破滅に導くかもしれない。
それでも、夜桜方程は言った。


「ぼくは必ず樋之上を倒す。仲間を集めて、あの化け物に報いてやる」
「……馬鹿。無茶言ってんじゃねえよ」
「無茶でもだ。これはぼくの決めたことだ。いくらお前の言うことでも、聞いてはやらない」
「……か、はっ……何だそりゃ。最高だ……何だよおい、俺のしたことだって……無駄じゃ、なかったんじゃねえかよ……これだから、警察官ってのは止められねえ」


視界が霞んで、もう夜桜の表情さえ窺うことが出来なくなっても尚、狐神は笑った。
自分は不幸だと、どこかで思っていたのに―――どうやら自分は思っていたよりずっとついていたらしい。
そんなことに今まで気付けなかったことが可笑しくて、笑うしかなかった。


「いいか、夜桜。水花のお嬢ちゃんを守れ。そんで、お前の道を往け」
「心得た」
「わたしも、先生のお手伝いします」


希望は、ある―――そんな当たり前に、狐神桐雄は報われた。
それ以上の言葉はいらない。
そう判断したのか、狐神は静かにその瞼を閉じた。
二度と、開かれることはない。
正義に生きて、復讐と板挟みにされながらも懸命に自分の道を進み続けてきた男が、ここに眠った。
無念の色など感じさせない安らかな表情で、眠るように死んでいる。
次に希望を繋げたのだから、彼にとってはそれで満足だったのかもしれない。
妹のいる世界へ、静かに―――召される。


「……行くぞ、水花。この人を埋めてやりたいけど、樋之上ってやつが近くにいるかもしれない」


こくり、と頷く水花の目にはうっすらと涙が浮かんでいる。
目の前で見た人の死の瞬間は少なからず衝撃的だったのだろう――しかし、得たものもあったようだ。
必死に涙を堪えているその姿を見て、夜桜は素直に彼女を強いと思った。
まだあまりにも幼いのに、現実を受け入れて進もうとしているその姿勢に、感銘を受けた。


(いいさ、やってやる。水花は守る。樋之上壊は倒す。そんくらい、やってやろうじゃないか)


椋梨水花の『先生』として、生徒に頼りないところは見せられないだろう―――?

失ったものは大きかった。
それでも、それと同等に得たものだって大きかった。
争奪戦―――バトルロワイアルはまだ続く。


二人の参加者は、確固たる決意を胸に、振り返らずに立ち去るのだった。



【狐神桐雄@警察官 死亡】



【B-3/森/午前】

【夜桜方程@科学者】
[状態]健康
[装備]猟銃
[道具]基本支給品一式
[思考]
基本:ぼくの道を往く


【椋梨水花@小学生】
[状態]疲労(小)
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、不明支給品1
[思考]
基本:先生についていく。悪いことはしない

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2012年05月11日 09:47
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。