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――――凄い。

葵崎蜜柑は、純粋にそう思った。
参加者を探し、この『ゲーム』を最大限楽しんでやろうと思って会場を探索していると、異常すぎる光景を目にしたのだ。
閃光の光線が乱れ飛び、一つのエリアが少しずつ壊滅していくという。
彼女は詐欺師であるが故、隠れることや逃げることに特化した才能を持つ―――それを用いて陰ながらに観戦していたのだが、正直な話、ついていけなかった。

まるで映画でも見ているように、どうしても感情移入することが出来ない。
それほどまでに、その戦いは劇的なものだった。
片方は超能力者か何かのようで、蒼白い閃光を放って攻撃していて、もう一方は何と丸腰ときた。
それで互角の戦いを繰り広げていたというから驚きだ。
戦い自体は金髪の青年、能力者の勝利に終わったようだが、葵崎は丸腰の警官を賞賛する。

あの戦闘センスは、葵崎の『嘘』で出来た体さえ攻略してしまいかねなかっただろう。
葵崎としては厄介な敵が潰れてくれてラッキーだったのだが、やはり敗者の側を賞賛してしまう。
ゲームで言うなら、初期レベルのまま装備なしで裏ボス――最強の敵に挑むような無謀なのだから。
それであれだけ善戦できたなら大したものだ。
しかし、如何せん相性が悪かった。

接近戦に拳一つでは、どう考えても回避できない攻撃というものが存在する。
勝負を決めたあの光の剣でもそうだが、亜音速の速度で飛来するものを延々避け続けるなど不可能だ。
もし彼が何かしらの『超常』を身につけていたなら、倒れていたのは青年の方だったかもしれない。
冷静に分析しつつも、葵崎蜜柑という詐欺師の瞳は童子のように輝いている。
それもその筈だ。彼女は今や、『時間跳躍』を求めていない。
より面白く苛烈な『ゲーム』を楽しめればそれでいい、不純の塊だ。
その彼女にとってあの戦闘は―――最高のカンフル剤となった。


(どうしようかね。さっきの坊ちゃんたちを追ってみるのも面白そうではあるけど―――)

あの男性――名前を夜桜方程――達を追えば、なかなか面白い遊びが出来そうではある。
覚悟を決めた最弱キャラクターがどこまで強くなったのか確かめ、それをまた最弱に戻す――面白い。
同行者の死をきっかけに手に入れた強さを土足で踏みにじる行為はきっと、葵崎の欲を満たす。
滅多に出来ない経験だし、人生を面白く進める一環としてやってみるのもいい。


「さってと。んじゃそうと決まれば行ってみようか。楽しみだなぁ楽しみだなぁ」


うきうきと擬音が聞こえてきそうなほど軽やかな足取りで、彼らに先回りしようとする。
まだ通ったことのない道を通らねばならないが、余程のことがない限り迷うことはないだろう。
大体、争奪戦で迷子になって脱落、なんて間抜けな死に様は雨雲の奴だって望んでいないだろうし。

立ち塞がる倒れた樹木を片腕でひょいと持ち上げ、どかして進む。
およそ人間が、ましてや女性が為せる所業ではなかったが、葵崎蜜柑には大した関門ではない。
彼女自体がそもそも虚実の塊。
まさにあべこべに、『弱い力』だからこそ『重いもの』を『軽々と』持ち上げられる。
その気になれば百メートル走の世界記録を塗り替えることだって可能だ。

片腕で障害物を片っ端から退けて、正攻法とはあまりに縁遠い手段で進んでいく。
ようやく荒れた場所を抜けると、背後の道とは大違いの綺麗な道が広がっていた。
だが、だからといってのんびりしている暇はない。
どんなに面白い遊び道具でも、一度無くしてしまえば戻ってくる保証なんてどこにもないのだから。
急げばすぐに追い付けるだろう―――と、思った刹那、まさに刹那的な一瞬で、葵崎は今まで全く存在しなかった強大な殺気を感じ取る。
いや、それは殺気と言うよりかは『悪意』と表現するべきなのかもしれない。
長らく社会の裏側で暗躍している葵崎でも感じたことのない悪寒が背筋を凍らせた。

しかし葵崎蜜柑にはその感覚さえ愛おしく思える。
次はどんな不可解が自分を驚かせてくれるのか、考えるだけで心が躍る思いだった。
嬉々として、とても悪意を向けられたとは思えないような歓喜の表情で、振り返る。


見えたのは、彼女と同じく喜びの表情を浮かべる、金髪の青年。
葵崎には彼に見覚えがあった。
それどころか、是非一度会ってみたいとさえ思った『バケモノ』である。


「よお、盗み見とは感心しないね」
「やあ青年。君の名前はなぁにかな?」
「樋之上壊。職業は殺人鬼で趣味は殺人だ」


殺人鬼、その単語を聞いた瞬間葵崎の興奮はまさに最高潮へと達した。
今まで自分という人間の人生(シナリオ)には出てこなかったようなイレギュラーが、続々と現れる。
たとえば、やけに冷静で探偵チックな少年。
たとえば、異様なまでに覚悟を決めた面をしていた男。
たとえば、素手でバケモノと渡り合った警察官。
この争奪戦で遭遇した人物に、誰一人として平凡な人間がいない。
これは葵崎からすれば、最高の幸福。
今まで願っても現れなかったようなバグが、ここでは目白押しだ。

「いいね、それ。君最高だよ!」

悦びの色を隠そうともせず、堪えきれなくなったのか手を叩いて笑い始める葵崎。
それを見て、流石の樋之上も苦笑いするしかなかった。
そして、無言で右手を葵崎蜜柑に向けて翳す。


「えっとさ。分かってると思うけど、あんたにはここでおっ死んでもらう」
「あのビームみたいやつでだね。いいじゃない、その勝負お姉さん乗っちゃうよん」


つくづく気持ち悪い女だ、と心中で悪態をついて、樋之上はその右手から蒼白の光の束を放つ。
狐神桐雄と戦闘している時よりも僅かながら威力や範囲が上昇しているように見えた。
いわば『戦いの最中に進化していく』ような、早すぎる成長。
一切およそ成長というものをしない葵崎の能力に比べればずっと退屈しなさそうではある。


そんな暢気なことを考えている間にも亜音速の殺人光線は迫っていた。
後コンマ〇・一秒としない内に、葵崎蜜柑の身体は無惨な屍となることだろう。
――――まぁ、そうならないのが葵崎蜜柑、世界さえ騙した嘘吐きなのだが。


「………は? おかしいな、何で死んでないんだ?」


追撃。
追撃。
追撃。

しかしそれらは葵崎蜜柑の衣服さえ傷つけられず、まるで立体映像に放ったようにすり抜けていく。
対策も何もない筈なのに、最強の怪物の攻撃を悉く受け流していた。

あの警察官に引導を渡した剣でも掠り傷一つつけられず、樋之上壊の力は完全な無力だった。
葵崎は間近で見た樋之上壊の能力の迫力に興奮の色を示し、樋之上はといえばまたも立ちはだかる自らの力を超えてくる埒外の強敵に心を踊らせていた。
よくある設定の、『撃ちすぎて燃料切れ』なんてことには絶対にならない。
互いにそれを知っているからこそ、こうして長々と同じ場面をリピートし続けるのだ。
たまらなかった。今まで、どんな強者でさえも虫けらのように殺してきた力が、今や無力。
常識を超えている女の存在が愛しく思える程、樋之上壊もまた歓喜していた。


「ふぅ、驚いた。どうなってんだそれ。教えてくれよ」


「話すと長くなるので省略。簡単に言えば『あたしには強い攻撃は効かない』んだ。
だから樋之上君の攻撃はあたしには絶対に通らない。見たところどんなに弱くしても、人体を傷つけてしまうんだろ? だったらあたしには勝てないぞ、絶対にだ」


それを聞いた樋之上壊はしばらく呆然としていたが―――やがて、爆笑し始めた。
突っかかっていた疑問があっさりと解けたことに対するものではない。
そうでもなければ、葵崎蜜柑のあまりに強力な力に恐怖して自暴自棄になったなんてことも、ない。
彼は、自分の可能性に気付いているのだ。
自分が秘めている進化の可能性を、樋之上は先の決闘にて知った。
自分の力で自滅して、体内にまで自らの力を織り交ぜた結果、樋之上の力は確実に強くなったのだ。
もしこの女を倒すようなことが出来れば――そうでなくとも、何か掴めれば、自分は更に上に行ける。
最強を超えた、絶対的存在に昇華することが出来るのだ。

突然爆笑し始めた樋之上に流石に面食らった様子だった葵崎だが、次第に釣られて笑い始める。
非常識なる存在を完全にいなした爽快感もあれば、樋之上の考えるように、樋之上壊というバケモノが更に進化する可能性に気付き――笑わずにはいられなかった。
これが、更に強くなる。
自分の『嘘』を『暴く』ような力まで手に入れたら樋之上壊は最早無敵。
彼は神にもなれる。


「お稽古してあげる。かかってこいよ、青年」
「応。お願いしますぜ―――師匠さん」


それから小一時間程の間。
彼らのいる場所には絶え間無く暴虐の閃光が吹き荒れ、そして二人の人間の笑い声が響いていた。



◇ ◇


「ふむ。あたしに傷はつけられないみたいだけど、大分強くなったね。大方、『通れないもの』を『こじ開ける』方向に力が強化されたんだろう」
「よく分からんが、いい稽古だった」


葵崎蜜柑の力は、いわば『壁』だった。
正面からの突撃ではどんなに頑張っても超えられない高すぎる壁。
たかが三十分程度でそれを完全に超えることは不可能だったが、それは単に葵崎の力が強すぎるだけだ。
以前までなら阻まれた壁であっても、今の樋之上なら『こじ開ける』ことが出来るだろう。
いわば応用だ。
言葉にすれば短くはあるが、勿論破壊力・速度・熱量全てが上昇している。
相変わらず原理はまるで不明。未知数の伸びしろを持つ謎の力、くらいの結論しか出せなかった。


「とりあえず俺はもう行くから、また会おうぜ。もっとも次は殺しちゃうかもな」
「はは。十年早いぞ、若造」


葵崎は本来の目的地を諦め、丁度隣のエリアにある屋敷を目指すため足を進め。
樋之上は強化―――否、兇化された自らの力を童子のような純真さで試し続ける。

いずれにせよこの二人が何かしらの波乱を引き起こすことは、最早間違いのない決定事項であった。



【B-3/森/午前】

【樋之上壊@殺人犯】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、不明支給品1
[思考]
基本:愉しむ。
※葵崎との戦闘で、『削り取る力』を獲得しました


【葵崎蜜柑@詐欺師】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]基本支給品一式、ワルサーP99
[思考]
基本:優勝する

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最終更新:2012年05月11日 09:51
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