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アヴェンジャー

藤崎真という少年は、これまで普通の立ち位置を貫いてきた自信があった。
何故か? そんなことは決まっている。ひとえに、上手く生きる為だ。
高校生活で学べるものは多い。この腐敗した教育環境の中でも、それは確定的に明らかなことだ。
この三年間でなるだけ多くの技能と経験を獲得し、卒業と同時に学んだ技術を昇華させる。
そしてゆくゆくは有名企業へ就職を決め、不自由のない暮らしを送るだけだ。
だがこれはなんだ。
こんな悪趣味な実験など、行事予定にはなかった。
藤崎は予定にないことを嫌う。
時間をずらされるのも大嫌いだし、何よりその場の空気で予定の時間が引き伸ばされるのを見ると殺意すら覚えた。
だからこそ、藤崎真にはこの異常事態が許せない。
泉井弘美の身勝手な実験。
こんな予定外のイベントが挟まれれば、修学旅行の予定は大きく狂ってしまうだろう。
見学先で学び取れたかもしれない多くのものを、取り損ねたらどうする。
人生はただの一度きりなのだ。
貴重な時間を無駄に使わせてくれた泉井への憎しみのせいで、まともな思考さえ不可能になっていく。
「……殺しってのを経験しておくのも、有りか」
藤崎はにやりと酷薄な笑顔で呟いた。
だが、殺しの対象はクラスメイトではない。
クラスメイトを殺すという行為には何ら忌避感は抱かないが、問題はその後だ。
どれほどの強大な圧力をもってしても、人の噂までは抑えきれない。
もしもこれからの人生で、人殺しの汚名を被るようなことがあってはたまったものじゃない。
「泉井弘美―――」
あの気持ちの悪い女を殺す。
どんな手段を使ってでも、殺してやる。
仮に全てが公表されたところで、サイコパスの奇人を殺したとなれば正当防衛の免罪符がつく。
そうすれば自分の背負うのは十字架ではなく、悲劇の主人公の異名だ。
これも、一ピース。
完璧な人生を実現するための。

そう――これは単なる、過程だ。
これを踏み越えて俺は更なる高みへ上る。

「絶対に、殺してやる」

――――ズガン。




「……くだらない」
銀髪の小さな少女は、そう呟いた。
全てを見下した、地を這う蟻を見るような目で。
右手に持ったリボルバー拳銃から硝煙を一筋立ち上らせながら、それでも一切微動だにすることなく。
脳天を撃ち抜かれて昇天している藤崎真のデイパックを漁ることにも、何の躊躇もしない。
その姿はまるで、感情のない機械のようだった。
彼女の中からは、とうの昔に感情なんてものは消えていたのだ。
忘れもしないあの日。
あの日の忌まわしい記憶が、今でも病魔のようにじわじわと心を蝕んでいく。
地獄のような日々だった。
どんなに冷静に振る舞おうとしても、以前通りにはできなかった。
全ての会話が自分を嘲笑っているように聞こえた。
全ての笑顔が嘘臭くしか見えなかった。
青春も、友情も、何もかも――腐敗した果実にしか見えなかった。
千鶴雅一。
あの夏の日に、彼は自分を犯した。
態度が気に食わないなんて下らない理由で、何度も何度も何度も何度も何度も蹂躙された。
殺したかった。
ああ、とても殺したかった。
けれど力がなくて殺せなかった。
何より許せなかったのは――千鶴が、今も笑いながら毎日を過ごしていることだ。
彼はほんの一度だって、自分に謝罪したことはなかった。
悪いとさえ思っていないようだった。
ずっとずっとずっとずっと――待っていたんだ。殺す機会を。
遂にやって来た。
千鶴雅一(男子5番)を殺す機会が。

「絶対に殺してやる……!」
少女の名前は古藤咸(女子3番)。
少女の立場は復讐鬼。
少女の目的は報復。
千鶴雅一の殺害。
その為になら――何を犠牲にしたって、構わない……!


【藤崎真 死亡】

【深夜/B-1・海岸】
【古藤咸/マーダー:健康、リボルバー拳銃、藤崎真のデイパックの中身】


【藤崎真】…普通であることを主義とし、何事からも物事を学び取ろうとする計算高い性格。黒髪に学生服と飾りっ気のない普通極まる容姿をしている。
【古藤咸】…過去に千鶴雅一(男子5番)に犯され、それから復讐心を持って生きてきた。性格は無口で冷淡。銀髪のショートで身長は小学生と間違われそうなほどの小柄。

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最終更新:2012年12月30日 18:45
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