自宅にて朝食の風景 蒼:「マスター、美味しい?」 マ:「美味いね~。」 実際、マスターは美味しそうにモグモグと食べてくれている。 今日の朝食はご飯、お味噌汁、焼き魚、とろろ、漬物。 蒼:「今日も遅くなるの?」 マ:「う~ん。多分そうなるなぁ。」 蒼:「そう・・・。」 最近、マスターのお仕事が忙しいみたい。 マ:「だから今夜も柴崎さんとこで夕食食べてくれ。もう頼んであるから。」 蒼:「うん・・・。」 ここ数日、マスターは深夜に帰ってくる。 僕はマスターが帰ってくるまで起きて待っていたかったけれど、 無理しないで先に寝てるよう約束させられたんだ。 蒼:「・・・・。」 これじゃ朝食の時以外、マスターとゆっくり話せる時間が無いよ・・。 マ:「ごっそさん。んじゃ行ってくる。」 マスターがカバンを持って玄関の方へ向かう。 僕も見送りに玄関へ向かう。 マスターが靴を履いている。もうマスターが行ってしまう。 甘えたい。すごく甘えたい。 思うようにマスターと触れ合う時間が取れない日が続き、 僕のこの欲求は日に日に大きくなっている気がする。 マ:「んじゃ、いってきます。」 蒼:「いってらっしゃい。」 でも、マスターは行ってしまった。 同じ日、柴崎宅にて昼食の風景。 元:「・・・・。」 おじいさんがボーっとしてる。 蒼:「おじいさん、なんだか元気ないね。」 おばあさんが昼食の重箱をおぼんで運びながら マツ:「夏バテね・・。」 と心配そうに言った。 元:「大丈夫じゃよ~・・・。はふう。」 大丈夫かな。 マツ:「今日は老人会に出席しなきゃならないんですからね。しっかり食べてください。」 元:「うむぅ~。」 重箱の箱を開けると、見慣れない料理だった。 細く切られたウナギがご飯にまぶしてある。うな重とは違うのかな? 蒼:「おばあさん、このお料理なんていうの?」 マツ:「『ひつまぶし』っていうのよ。お爺さんにはスタミナつけてもらわないとね。」 とおばあさんが笑顔で答えてくれた。 元:「キツイのう・・・・。わしゃ『冷麦』とかあっさり目のものがありがたいんじゃが・・・。」 おじいさんがげんなりした声でぼやいてる・・・・。 マツ:「駄目です。しっかり食べてもらいますよ。」 元:「ううう・・・。」 おばあさんは容赦無いなぁ。けど僕もおばあさんを見習ってマスターをしっかり体調管理しなきゃ。 同じ日、柴崎宅にて夕食の風景 元:「マツよ・・・こんな暑いさなかに鍋かえ?」 今日の夕食は牡蠣のキムチ鍋。 マツ:「はい、いっぱい汗を流して涼しくなりましょうね。」 元:「ふぬう・・・・。」 おじいさんがいたたまれない顔してる・・・。 マツ:「さ、蒼星石ちゃんも召し上がれ。」 おばあさんがよそってくれた。 蒼:「いただきます。」 はふはふ・・ マツ:「あと、これ老人会の方から頂いたんだけど・・・。」 おばあさんが皿に盛られた料理を出した。 マツ:「おじいさんが夏バテだって言ったら、これを食べるといいって。」 食卓に載せられた皿には唐揚げが盛られていた。 マツ:「スッポンの唐揚げよ。」 元:「ほう、スッポンとな。」 夏バテのはずのおじいさんが箸を伸ばして嬉々としてそれを食べた。 元:「うむ、美味い。」 蒼:「僕も食べてみていい?」 元:「もちろんじゃよ。さ、食べなさい。」 蒼:「ありがとう。いただきます。」 ぱく・・。 蒼:「美味しい。」 マツ:「これで蒼星石ちゃんも元気が出るわねぇ。」 ? なんのことだろ? 食後から数十分後、テレビを見ていた蒼星石の体に変化が起こった。 蒼:「(変だな、なんだか体が熱いや・・・)」 朝食の「とろろ」 昼食の「うなぎ」 夕食の「牡蠣」と「スッポン」 今日一日、蒼星石が食べたものはいずれも精のつくものばかりであった。 特に「牡蠣」は催淫作用があるという説すらある。 そして、蒼星石が食べたスッポンの唐揚げの部位は「肝」だった。 精のつく食べ物として「スッポン」は有名だが、特に「肝」は凄いらしい。 蒼星石は自分の体の変化に戸惑った。 意味もわからず気分も高揚してくる。 蒼:「・・お茶でも飲んで気分を落ち着けよう・・・。」 蒼星石がキッチンへお茶を淹れにいくと元治が一足はやく茶を飲んでいた。 元:「おや、蒼星石。どうしたのかね?」 蒼:「あの、僕もお茶を飲みたいなと思って。」 元:「どれ、わしが淹れてやろう。」 蒼:「あ、いいですよ。僕がやりますから。」 元:「いいからいいから。丁度珍しいお茶が手に入ったんじゃ。」 そう言って、蒼星石は食卓のイスに座らされた。 元治が出してくれたお茶は蒼星石には見たことのない色と嗅いだことのない香りがしていた。 元:「これも老人会の人から貰ったものなんじゃがな。」 蒼:「へぇ。いただきます。」 コクン・・・。 蒼:「不思議な味ですね・・・。」 元:「イカリソウという茶葉が使われとるらしい。滋養強壮の効果があるそうじゃ。」 蒼:「滋養強壮ですか・・。」 <イカリソウ> その葉は薬膳茶として中国より古く飲まれている。 確かに滋養強壮の効果で有名だが、それ以上に強精剤としての効果でも有名である。 (元治と蒼星石はそのことを知らなかったようだが。) 別名「淫羊かく」。冗談みたいな名前だが事実である。 この草を食べた羊が発情しまくったことからその名がついたらしい。 今の蒼星石にとって、この茶はまさに「トドメ」であった。 茶を飲んで十数分後・・・ 蒼:「(なんか・・・ますます体が火照ってきた・・・?)」 そんな折、おばあさんが話しかけてきた。 マツ:「おじいさんもすっかり夏バテが解消されたらしいわね。蒼星石ちゃんはどう?」 蒼:「え、僕ですか?」 僕は夏バテなんかしてなかったと思うけど? マツ:「最近、元気ないでしょ。」 蒼:「それは・・・マスターが最近僕のこと構ってくれないから・・・。」 マツ:「・・・・。」 蒼:「あ、違います! マスターは忙しいからしょうがないんです。」 マツ:「そう、それで最近元気がなかったのね・・・。」 おばあさんが優しく語り掛けてくれる。 マツ:「大丈夫よ、そのうちマスターさんも仕事を一段落させるはずだわ。 マスターさんがいつまでも蒼星石ちゃんのこと放っておくはずないもの。」 そうかな・・? マスターに会いたい・・・・。 蒼:「あの、僕帰ります。」 マツ:「もう? マスターさん今日も帰り遅いんでしょ?」 蒼:「・・・マスターの帰ってくるところにいたいんです・・・。」 マツ:「うん・・・わかったわ。気をつけてね。」 柴崎夫婦に別れを告げ、蒼星石はカバンに乗ってマスターの自宅に急いだ。 蒼:「体がジンジンする・・・。僕、よっぽどマスターに会いたいのかな?」 自宅が見えてきた。 ・・・? 明かりがついてる! 蒼:「マスターが帰ってきてる・・・!?」 僕はカバンのスピードを上げた。 家に戻った僕。マスターはどこ? キッチンから音がする。 僕は駆け足でそこへ向かう。 蒼:「マスター!」 マ:「おかえり、蒼星石。」 マスターがニッコリと僕に微笑んでくれた。 自分の体温が急上昇するのがわかる。 マ:「思いのほか早く仕事片付いたよ。おかげで早く帰れたし。」 マスターはエプロン姿だった。 マスターのエプロン姿を見るのは久しぶりの気がする。 蒼:「晩御飯作ってるの?」 マ:「ああ。」 マスターは炒飯を炒めていた。器用にフライパンをひっくり返してる。 マ:「できた。蒼星石も食べる?」 蒼:「いや、僕はもう晩御飯食べてきちゃったから・・・。」 それよりも・・・・ マ:「そうか。」 マスターは炒飯を皿に盛り付け マ:「いただきます。」 モグモグと食べ始めた。 マスターはエプロンをつけたままだ。 蒼:「・・・・。」 マ:「なんだい?」 いけない。マスターの顔をジーっと眺めてたみたい。 マ:「俺の顔になんかついてる?」 蒼:「い、いや何でもないよ!」 マ:「明日からはいつもどおり夕食頼むよ。」 蒼:「・・・・・。」 マスター・・・ マ:「おーい。」 蒼:「え?」 マ:「明日から夕食お願いね。」 蒼:「う、うん。」 なんだろう、マスターを見てると・・・なんだか・・・体が熱くなって・・・ ぼぅっとしちゃって・・・・。そうだ・・・。 蒼:「マスター、ご飯粒ついてる。」 マ:「え、どこ?」 嘘。本当はご飯粒なんてついてない。 僕は食卓に上がるとイスに座ってるマスターの首元に抱きついた。 マ:「お、おい。」 蒼:「ここについてるよ・・・。」 僕はマスターの頬に口を押し付ける。 マ:「!?」 そしてマスターの耳を舐める。 ぺろ・・・ マ:「ど、どした!? 蒼星石。」 マスターがびっくりしてる・・・。 僕は・・・? 僕は何してるんだろう? こんなことしたら変な子だって思われちゃうよね? でも・・・僕の体と心が・・・・そうしないと・・・ マ:「酔ってるのか?」 僕はマスターの首に抱きついたまま顔をぴったりとマスターの頬にくっ付ける。 蒼:「酔ってなんかいないよ。」 マスター・・・ ただ体が熱いだけなんだ・・・。 マ:「・・・・。」 マスター・・・。 マ:「まさか・・・熱でもあるのか?」 マスターがオデコを僕のオデコにくっつけてきた。 マスターの顔が、すぐ真正面に・・・ 僕はそのままマスターの唇を奪う。 マ:「んん!?」 もうどうなってもいい。マスターを感じていたい。 そうでもしないと僕、おかしくなってしまいそう・・・。 マ:「んん・・!」 僕は唇を離す。 マ:「はぁっはぁ・・ 蒼星石、ちょっと落ち着いて。」 蒼:「駄目・・。抑えられないんだ。」 僕はまたマスターの唇を奪う。 けど、マスターが顔を強引に離した。 蒼:「あ・・。」 マ:「いったい、どうしたんだ? いつもの蒼星石らしくないぞ。」 マスターの真摯な視線に僕はハッとする・・・。 蒼:「ごめんなさい・・・。」 僕は、僕はいっときの感情に任せて、なんて、なんてはしたない真似をしちゃったんだろう・・・! どうしようどうしよう・・。 マ:「淋しかったのか?」 それでもマスターは僕に優しくしてくれる・・・。 蒼:「うん・・・。」 マ:「・・・・。」 マスター・・・。 蒼:「マスター、こんな変な子嫌いだよね?」 マ:「え? う~ん・・・。」 やっぱり、嫌いなんだ・・・。 マ:「嫌いじゃないよ。たださっきみたいのは、もっと優しくしてくれると、嬉しい。」 蒼:「!」 マ:「いや、俺も疲れてるからさ。」 マスターが頭を掻きながら照れてる・・。 蒼:「マスター、ごめんね。」 僕はマスターが仕事で疲れてるのに、こんなことを・・・ 蒼:「ごめんね、マスター。ごめんね・・・ひっく」 マ:「おい、何も泣く事こたぁ無いだろ。」 マスターが僕を優しく撫でてくれる。 マ:「きっと蒼星石も疲れてるんだよ。さ、もう寝ようか。」 蒼:「うん・・・。」 ほんとは疲れてなんかいないけど、はやく疲れたマスターを眠りにつかせたいから・・・。 鞄の中に横になってどれぐらい経つだろう。 全然眠れないや・・・。 目が冴えてしょうがない。外の空気を吸おう。 僕は鞄を開けた。 蒼:「あっ。」 マ:「ん。」 マスターが僕の鞄の前で胡坐をかいて座っていた。 蒼:「どうしたの、マスター、寝ないの?」 マ:「いや~、ん~。」 マスターが答えるのに困ってる。 蒼:「ねぇ、どうして?」 マ:「ん~、いや。ちょっと考え事をな~。」 蒼:「僕の鞄を眺めながら?」 マ:「あ~。うん。」 僕は何だか無性に不安になった。 今日、僕のこの変な態度を見て、やっぱりマスターは僕のこと嫌いになったんじゃ? そして、僕を捨てようと考えて・・・? 蒼:「本当のこと言ってよ、マスター・・・。」 マ:「なんのこと?」 蒼:「とぼけないでよ・・・。 僕のことやっぱり嫌いになったんでしょ?」 マ:「なんで?」 蒼:「なんでって・・・。僕・・・今日、変な子だったから・・・。 マスターが疲れてるのにあんなことして・・・。」 僕はやっぱり、駄目な子だ・・・。 マ:「まぁ、確かに今日の蒼星石は何だか変だなぁ。感情の起伏が激しいというか。」 蒼:「やっぱり・・・嫌いになったんだね・・・?」 マ:「そんなに俺に嫌われるのが嫌なのか?」 蒼:「嫌だ! 僕はマスターに嫌われたくない・・・捨てられたくないんだ・・・。」 マ:「わかった。」 そう言うとマスターは立ち上がった。 蒼:「マスター・・?」 マ:「俺が起きて蒼星石の鞄を眺めてたのはな、実は蒼星石が心配だったからなんだよ。」 蒼:「僕が?」 マ:「俺も色々と不安なんだよ。さっき心配事が無いなんて言ったのは嘘っぱちだ。」 蒼:「・・マスターの不安なこと?」 マ:「とにかく、俺も蒼星石に嫌われたくないからさ。不安なのはお互い様なんだよ。」 蒼:「そう・・なの?」 僕がマスターを嫌う? マ:「ここ数日、淋しい思いさせてすまなかった。許してくれ。どうか俺を嫌わないでくれ。 こんな虫のいいマスター、嫌いになって当然だろうけど。」 蒼:「あ、うう。」 僕がマスターに嫌われるのが嫌だって言ってるのに、僕がマスターを嫌う・・? わけがわからず押し黙ってると マ:「・・・俺は蒼星石に何をされようが、何をいわれようが嫌いになんてならないよ。 もう、蒼星石にゾッコンってやつだな。ハハハ。」 マスター、限りなく優しい僕のマスター。 蒼:「僕も・・・そうだよ・・・。僕もマスターに、その、ゾッコン・・・。」 マスターが笑った。なんだか恥ずかしい・・。 マ:「つうか、むしろ今日のは嫌いになる類のものじゃないだろ。むしろどんどんやってください。」 蒼:「え・・・? ・・・あ、あは。どんどんやっていいの?」 マ:「ああ。今でもいいぜ~。バッチコーイ。」 マスターが屈んで両手を差し出した。 蒼:「じゃあ・・・。」 本当はさっきから体が火照ってしょうがなかったんだ・・・。 蒼:「マスター!」 マ:「よしよし。あ、優しくおねがいしますぅ・・・。」 マ:「(お互い、胸の内に色んなものを秘めてるもんだな。こればっかりは、ただ好き合ってるだけじゃわからねぇ。)」 蒼:「ますたぁ、好き。大好き。」 マ:「(ああ~、明日は仕事やすも・・・。)」 ヒメテタアオイコ、ウケトメロマスター 終わり