『グゲー!!ゲルゲルゲル・・・』 奇っ怪な声が部屋に響く。 声の主は翠星石と雛苺・・・の前にある袋だ。 マ「あのさ、何それ?」 雛「ジュンのおうちから持って来たおもちゃなの。」 翠「『呪いのモンスターポケット』とかいう商品だそうですよ。」 マ「いろいろとギリギリだね。」 翠「なんとですね、このつまみを回すと・・・」 翠星石がなにやら操作してボタンを押した。 『ひ、ひひゃ・・・きひゃえい!!』 袋の中からもぞもぞと人形が出て来てうねうねと蠢きながら吠えた。 お世辞にも可愛くない、むしろ不気味だ。 翠「・・・とまあ、こんな風に組み合わせ次第で無駄に120通り以上のサウンドや行動パターンが!!」 蒼「悪趣味な・・・。」 翠「しかも自分で録音して音声データを作ることも出来るんですよ。 その上さらに、タイマーで音を出させたり、なんらかのショックで起動させたりも出来る優れものです。」 雛「ヒナも何度もビックリさせられたのー。」 マ「そんな物を買ってもらったんだ。」 蒼「イタズラ用かい?」 翠「違いますよ。こいつはジュンの大のお気に入りです。 翠星石を怒らせた罰にあるだけ全部持って来てやりました。せいぜいヤキモキするがいいです。」 マ「複数個持ってるんだ。流石と言うか、才能だけじゃなくってすごいセンスも持ってるんだね。」 翠「そういやジュンの入れた声もあるはずですよ。」 翠星石が何やらいじくると人形が喋り出した。 ジ『オッス、オラ桜田ジュン!いっちょ・・・やらないか? あっ、疑問系じゃないんだよな、もう一回やり直して・・・げえっ!翠星石!!』 翠『ジャーン!ジャーン!ジャーン、ですっ!』 そこで時間が切れたのか再生が止まった。 マ「・・・・・・。」 蒼「・・・・・・。」 翠「これを録ってるのを見つけた時のジュンの慌て振りったらそりゃもうケッサクでした。 あんまり愉快だったんで無理やり記録してやったんですが、まだ消してなかったみたいですね。」 翠星石が愉快そうに笑う。自分だったらそんなところを見られたら涙目ものだ。 真「そのドールなかなか素敵よね。さながら歌って踊れる伝説の天使ってところね。 流石にジュンはいい感性を持っていると思うわ。」 銀「あんた天使を馬鹿にしてんでしょ。私だったらクレイモアでぶった斬るわよ。」 蒼「僕にも分からない。」 銀「ひょっとしたら引き篭もりがいっちょまえに吠える辺りにシンパシィ覚えちゃったんじゃなぁい?」 真「失礼ね!」 銀「あらぁ、ミーディアムのために怒っちゃうぅ?」 真「ジュンの事は良いけど私の悪口は許せないわ!そこだけは撤回なさい。」 銀「あ、そう・・・じゃあそこは違うって事でいいわよぉ。」 真「ならよし。」 金「普通は逆かしら。」 真「あら、だって今は敵対中だもの、仕方ないでしょ?」 ひどいお言葉に金糸雀が突っ込むも真紅は涼しい顔のままだ。 蒼「ねえ翠星石、お花のお手入れを手伝ってくれないかな?」 翠「いいですね、久し振りに二人で庭師として一仕事しましょうか。」 雛「ヒナも手伝うの!」 翠「人の話を聞いてましたか?お邪魔虫はすっこんでろです。」 蒼「まあまあ、せっかくだし手伝ってもらおうよ。 ちょうどお花もたくさん咲いてるからさ、いくらか摘んで飾ろう。」 金「カナも手伝っちゃうかしら!」 蒼「そうだね、ちょうど大きな花瓶があるし、みんなで摘んでそれに入れよう。」 銀「花ねぇ、私が一番絵になるでしょうし、たまには戯れで手伝ってあげても良いわよ?」 翠「勝手にするがいいですよ。」 薔「私も・・・いいですか?」 蒼「みんなでこんな風にした事は無かったからね、歓迎するよ。」 雪「では私も。野草って食べられるものもあるんですよね?」 蒼「・・・今回は菜園じゃないからね。」 翠「その場でかじって味見たりすんなですよ?」 雪「分かりました。」 薔「大勢で・・・外で何かするのは・・・初めてです。」 金「ビギナーでもインテリのカナが手取り足取り教えちゃうから平気よ!」 薔「お願い・・・します。」 雪「じゃあ私も食べられるものとそうでないものの見分け方を・・・。」 銀「どうでもいいわよ、どうせ死にやしないんだし。」 蒼「ふふっ。」 翠「どうしたんですか?」 蒼「いやね、こうしてると姉妹だなあって感じがしてさ・・・。」 翠「・・・そうですね、みんなでこうしていつまでも楽しく過ごしたいものですね。」 みんなでわいわいと連れ立って庭に出て行った。 こんな風に取り留めの無いやり取りをしているうちにも時間は過ぎていく。 今日で真紅の言っていた一週間の期限が来ると思うとなんだか心が軽くなってきた。 マ「で、真紅はみんなと行かないの?って言うか行きなよ。」 真「あなたこそ。」 マ「おばあちゃんが言っていた、『女の子が花摘みに行くと言ったらついて行くな!』って。 ・・・今回はそれと違うってのは分かるんだけどね、なんか水入らずっぽい方が良いかなって。 いやー、それにしても真紅とも今日でお別れか。」 真「随分と嬉しそうね。」 マ「え、そんなこと無いよ。名残惜しいよ。」 真「あら、じゃあ吉報があるわよ。その件で単身ここに残ったのだわ。」 その言葉に嫌な予感を覚える。 マ「・・・もう帰ってくれるんだよね。」 真「そのつもりだったのだけど、そうもいかなくなったわ。 昨日の一件でジュンがまだ怒ってるでしょうし、今のこのこと戻ってもDVDごと売られかねないわ。」 マ「そりゃ自業自得だろうがー!」 真「じゃあ勝負で決めましょう。生きる事は戦う事よ?」 マ「勝負?暴力沙汰は嫌いなんだ。ましてや女の子相手に・・・と言うか、むしろこっちが不利じゃない?」 真「安心なさい、種目はかくれんぼよ。これなら問題ないでしょう?」 マ「ルール次第といったところかな?その辺をはっきりさせてもらわないと。」 能力を駆使されたら捕まえられる自信は無い。 それに捕まえてもまたああだこうだと後からごねられても困る。 真「そうね、じゃあこんな感じではどうかしら? 不参加者が居て隠れるところを目撃するとまずいと思うの。 探している時の反応なんかもヒントになり得るし、だから参加するのは全ドールとあなた。 制限時間はドールズが隠れてから一時間。 その間に鬼のあなたに見つからなければ勝者で、自分の要求を通せる権利を得る。」 マ「鬼である僕が勝者になる条件は?」 真「隠れた全員の発見。誰か一人でも逃したら駄目よ。分かりやすいでしょう。」 マ「なんか不利じゃない?一人でも逃したら全員居残るかもって事でしょ?」 真「でも一人でも見つけたらだとこちらには蒼星石と結託されるという心配もあるのだわ。 ・・・じゃあ要求については対象は自分と他の誰か一人に限定という事でどう? これなら必ずしもあなたが不利益を被るとも限らないし、ドール同士の結託への抑制にもなるわ。」 マ「つまり自分に対して誰々に何してくれって形で要求できるって事だね?」 真「そういうこと。」 マ「なるほど、それなら大丈夫だ。ただはっきりさせておいて欲しい条件がある。」 真「何かしら?」 マ「舞台は家の中に限定、あと薔薇乙女の力は使わない事。」 真「家の中?」 マ「舞台を家と言って屋根にでも出られたら困るしね。」 真「つまり屋内に身を置けと。」 マ「そういう事。」 真「もう一つの方、薔薇乙女の力は使うなって事だけど、私達では隠れられる場所に制限が多いわ。 自力だとちょっと高いところにも上れないし、簡単に探す場所が限定されてしまうでしょ? だから隠れるまではある程度の能力の使用は認めて頂戴。」 マ「翠星石が眠らせて一時間経過・・・とかじゃなきゃいいけどね。」 真「じゃあ隠れるまではあなたに対してでない薔薇乙女の能力の行使を認め、探す段階では駄目というのは?」 マ「まあそれなら・・・。」 真「じゃあとりあえず他のみんなと一緒にお花を摘んでくるわ。頃合を見計らって打診してみるから。」 マ「よーし。」 と、ここで満足げに笑う真紅を見てある疑問が湧いた。 マ「あのさ、随分とあっさりルールの雛形が出て来たけど今考えたの?」 真「どういう事かしら?」 マ「既に前もってこういう話に持っていくつもりであれこれ企んでたんじゃ・・・。」 真「さあ?でもだとしたらどうするの?私が作戦を練っている『かもしれない』からやめる? どっちみち勝者が『権利』と『未来』を手にするのだわ!これでスッキリするわ! 『権利』を手にするのがあなたか私達か、ここに残るのが蒼星石だけか私達ドールズ全員かッ!」 マ「ク・・・真紅・・・いい度胸だ・・・・・・。こーなったらやってやるぜッ!」 真「グッド!じゃあみんなに話してくるわね。」 マ「でも二人で盛り上がってるけどみんな付き合ってくれるかな。」 真「不参加でもお願いを要求される側にはなり得ると言っておけば簡単よ。」 マ「横暴な・・・。」 真紅の説得の効果なのか、それともそれぞれの思惑もあってかみんな参加することにしたようだ。 そんな訳で真紅達とかくれんぼで対決する事になったのである。 どうかこれが今回のラストイベントになりますように。