2スレ目147-150
ある朝
手塚が食堂に行くと、すでに柴崎が座って朝食をとっていた。
いつもは手塚の方がはやい。
以前は、朝も夕も周りを女子で固めて隙なく食事をしていた柴崎だが、手塚と気持ちを通わせてからは、一人で食堂に現れるようになっている。
朝ご飯ぐらいは一緒に食べたいわ、と言ってくれたのが手塚にはうれしい。
ただ、寮生全員に2人が付き合っていると宣言しているわけではないので、柴崎の周りにできた隙に乗じる奴がいるのだ。今日のように。
柴崎の右側に、見たような見たことが無いような男が座って、しきりに柴崎に話しかけ、一人で盛り上がっている。
たったそれだけのことなのに、朝からなんだか落ち着かない。
柴崎が興味なさそうにプレートの魚を捏ねまわしながら、遠くのテレビを見ているのがせめてもの救いだ。
洋食プレートを受け取ると、折りよく新入隊の女子の群れが柴崎の前から大量にいなくなった。
そのまま、彼女の目の前に座る。
腰を掛けてから、後からくる柴崎がいつも隣に座るのがなぜか、判った。
テーブルは思った以上に広くて、正面だと遠い・・・
「おはよう。」動揺を表に出さないように抑制できたほうだと、我ながら思う。
柴崎が真直ぐ見返して、にっこりと笑う。「おはよう。」
「朝から迫力のある声出してんじゃないわよ。隣の人がびびるじゃない。」
そういう柴崎のほうが声がするどい。
くるのが、おそい。・・・と言われているのだろうな。
男はきょとん、としている。
察しの悪い奴。怒ってる柴崎のトーンがわかんないのか。現に、隣の女子はいごこちが悪くなったのか、柴崎さんお先に、と言って席を立った。
特殊部隊の手塚だ、所属は?と手を出せば相手が逃げだすのは判っている。
でも、柴崎の手の上で踊らされているようで癪に障る。
でも、口では勝てないことは・・・十二分に知ってる。
「よこせ」
身を乗り出して、柴崎がこねくり回していた和食プレートを奪う。
そのまま食べかけの原型がなくなりつつある魚を口に放り込んだ。
「もったいないから、俺が食べる。」
一瞬、食堂の時間が止まったように思えたのは気のせいじゃないだろう。
ぽかんとした柴崎の顔なんか、久しぶりだ。一本、取ったことになるか?
「・・・笠原みたいな事を言わないでよ」
ほおをぷうっと膨らませてはいるが、機嫌は直ったようだ。
「かわりにこれ頂戴」
柴崎が身をのりだして、手塚のプレートから朝食ヨーグルトを手に取る。
引き際に、するり、と顎の下を撫でられた。
「・・・っな」
「剃り残してるわよ。ココ」
完全にフリーズした食堂。
「プレート、一緒に帰しておいてね」
耳まで真っ赤になった手塚にひらひらと手を振って、鮮やかに柴崎は退場した。
しん、とした食堂は遠くの方から普段の喧騒を取り戻していく。
右後方からの押し殺したような笑い声は上官の小牧に違いない。
こ の 状 態 で、俺 を 残 し て い く か ぁ ー ! !
ココロの叫びは口から飛び出すことは無く。
せめて、何事も無かったように平然とプレートを片付けて食堂を出るしか、手塚にはできなかった。
「なんかの映画みたいだったって?」
郁の問いかけに、にっこりと柴崎が返す。「何のことかしら」
「小牧話ではコメディ映画だったのに、今後方支援へ行ってきたらラブロマンス映画になってた。」
うふふ、と笑って柴崎が身を翻す。
「ちょっと、焦らさないで教えてよぉ」
「業務中ですから~」
軽やかな足取りと輝く笑顔につられて、郁も笑顔になる。
「ま、いっか。柴崎うれしそうだもん」
「業務中!」がつん、と郁に元教官からゲンコツが入った。