図書館シリーズ手塚×柴崎 2スレ180-186

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ある朝のつづき

 

手塚のシフトによるが、週の2/3ぐらいは朝食を共にとることができる。
食堂の窓際、テーブルの端がいつの間にか2人の指定席になった。
手塚が端から2番目の席に座り、後から柴崎がきて、端に座る。食の細い柴崎が必ず残す朝食を手塚が片付け、2人で食後のコーヒーを飲んで出勤する。
絵に描いたような美男美女の作り出す空間は、そこだけ時間の流れが違うように感じられて、ほかの人間が立ち入る隙などない。

「ついてるわよ」
何気なく、口角を柴崎が触れる。ぞく、と首筋に電流が走った。
「今日のんびりし過ぎちゃった。遅れちゃう。また、後でね。」
屈託なく手を振って、柴崎が席を立つ。
柴崎の食事の後片付けをするのも、手塚の日課になった。
すでに敷かれてると笠原などはからかうが、手塚はちっとも苦に思っていない。
ちなみに女子隊員の評価はかえって高くなっていることを、本人は知らない。

昼休みは、すれ違いになった。
手塚のデスクに、予約していた本の入荷通知が届いており、受け取りに行くことにする。
サラリーマンの休憩時間が終わり、放課後の学生が押し寄せる時間帯までの、一息ついているカウンターに、柴崎の後姿を見つけた。
呼びかけていないのに、絶妙なタイミングで振り向いて、笑いかけてくる。「そろそろ来ると思ってた。」
「・・・この本、読みたかったし」うそだ。顔見たかった。

予約の本を差し出す手が、受け取る手にうっすらと残る傷跡をなでた。

名誉の負傷。

ガラスでスッパリ切ったので、実は何箇所か後が残っている。
「あと、残ったね」
白い指が何度か傷を往復するたび、ゾクゾクと悪寒のような震えが背骨を伝う。
「傷なんか、訓練と実戦でいくらでも増える。」
柴崎に他意はない。無いはず。泳ぐ目線に、制服の襟元から鎖骨が覗きみえて、否応なく惹きつけられる。・・・ヤバイ。顔が熱くなってきた。
「この作家のデビュー作、出しといて」
手塚は手のひらに冷や汗を浮かべて、なんとか目線と話題の向きを変えた。

「上がりで取りに来る?ついでにお買い物に行かない?」
「・・・わかった」
長身の整った容姿の俗に言ういい男が迎えに来て、一番の美人が席を立ち、隙を狙って声を掛けようとしていた何人かが肩を落とす。
この光景が、窓口業務の日常の一コマに組み込まれつつあった。

「終業にカウンターへのお迎え」は業務部の恋する乙女たちの憧れだ。
柴崎と手塚のような雰囲気をかもし出すことはできないので、いまのところ実行するカップルはいない。
恋人のいない後輩たちは、いつかを夢見て頬を染め、二人の背中を見送った。

生活雑貨の買い足して、寮まで遠回り。
ドラッグストアのビニール袋を下げて歩くのはいささか所帯じみているが、2人とも寮生活なのだから仕方が無い。
柴崎の歩調に合わせて歩くと、周りの景色の移り変わりがよく見えるので、手塚には新鮮だった。

信号まちの最中、ふいに手塚の唇に柴崎の指が触れた。「背伸びをしても届かないの」
「っな」動転して言葉が出ない手塚に向かい、うふふ、と笑って柴崎がひらりと身を翻す。
「手塚の、その無防備な顔が好きよ」
応えるタイミングを完全に失って、手塚は赤い顔のまましばらく立ち尽くしていた。

「てーづーかー。そろそろ正気に戻ってよー」
再び戻った赤信号の、そのむこう。愛おしいひとが、手を振っている。

或る宵
運悪く信号待ちの様子を同期に見られていたらしく、入浴中にからかわれた。
「何だあれ、キスのかわりか?」
「二人だけの暗号ってかー?ウラヤマシー」
「なになになんの話?」」
「いいよなー、柴崎さん。きれいで細くって白くって」
「なに言ってんの、お前の彼女もむちむちセクシーでうらやましーよ!」
手塚を離れて盛り上がる話はやがてぜんぜん違う方向にむいていったので、放置する。

柴崎とはまだ、俗に言う深い関係ではない。
正直、そうなりたいのは山々だが、あんな事件のあとだ。
SEXに関連するあらゆる事象が彼女に辛い思いを呼び起こさせ、嫌な気分を味あわせるのではないか。あせらず時間をかけて、と思っているというのに。

彼女が触っていった感触がよみがえる、。
なんで煽るようなことをするかな・・・
・・・違うな、俺が勝手に、自分を煽って追い詰めてるだけだな。
自嘲気味にため息をつきながら、とびきり冷たい水でシャワーを浴びて、浴室をでた。
ふいに思い立って、自販機による。

「なんで、今ここに来るかなぁ」顔を真っ赤にした、柴崎がそこにいた。
慌たからか、ばらばらとコインを落とす。
「なんでって、風呂帰り。柴崎こそ」風呂上りだから、俺は上気しててあたりまえ。自分に言い聞かせながら、小銭を拾って渡す。柴崎の手は、自分と比べるととても小さい。
「罰ゲームなの。みんなの分の買出し」心なしか、語尾が弱い。やましいところのある人間特有の、落ち着かない目線。
「うそつけ。1本分しかコインなかったぞ」
できるだけ、柴崎を見ないように冷たい水のボトルを2本買う。「座れよ」あごで促して共有スペースのソファに腰を下ろした。

「で?」
「・・・偶然よ、ほんとに」
目の前の柴崎は昼間、俺を翻弄していたのとは別人のように、有体にいえば、かわいらしかった。
「・・・風呂上りの濡れ髪なんて、反則」プイ、と横を向く。落とされた照明でも柴崎が耳まで赤いことがわかる。
テーブルを挟んで、向き合っていてよかった。いつもの様に横に座られていたら、まちがいなく理性が飛ぶ。
「おかげでしなくてもいい動揺しちゃったじゃない。損した」
「意味わかんねー。だいだい、そーゆーのは男の台詞だろ!?」

こっちは、一挙一動に動揺しっぱなしだと言うのに。
という言葉は、口に出さないつもりだったのに、口の端から漏れていたらしい。
しまった、と頭をかかえても後の祭り。立場逆転。日がさすように、柴崎の顔から笑みがこぼれる。

「だいたい、お前こそ不用意に人の体にさわんな。」
後に続く言葉が言い訳がましくなるのはしょうがない。
「俺がどれだけ苦労してっ」
「苦労して?」この天使のような悪魔の笑みに俺が勝てるわけもない。
頭を抱えたままで上目遣いで柴崎をにらみつける。「理性を保つのを、楽しんでたろう?柴崎」
柴崎がうふふ、と笑って手を伸ばし、手塚の髪に手を絡める。
ぴりぴりと電流のように流れる刺激に、唇をかんで耐えた。

畜生。このままで、済ますものか。

伸ばされた細い手をつかんで、こっちへ引く。
「いやあん、痛いわ、手塚」
近寄った耳元に、ささやいた。「次の前休日、外泊届けだしとけ」
唖然としている柴崎の唇を奪う。人に見られたってかまうもんか。

結局、柴崎の公休のほうが早く、手塚の休みを合わせることができなかった。お互いの公休を調整できたのは、2週間以上たってから。
柴崎のスキンシップは巧妙に、確実にエスカレートし、手塚は黙ってそれに耐えるしかなかった。
堂上班がその様子を偶然目撃してしまい、小牧は声を押し殺して爆笑し、夫妻は目を見合わせて苦笑したことを付け加えておこう。

 

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最終更新:2008年09月30日 22:18
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