手塚は上官の堂上の部屋で小牧と三人で酒を飲みながらこれからの自分達に必要な事を
熱く語り合っていた。上官の昔の体験や教訓などを教えてもらえるよい機会なのだ。
ふと空になったビールの缶の数を見て、お互い持ち込んだビールがそろそろ足りないことに気付いた
「自分が買いに行きます、つまみはまだ大丈夫ですか?」
「お、すまんな、つまみならまだ大丈夫そうだ」
「同じ銘柄でよろしくね~」
上官の部屋を出て、ほろ酔いで機嫌よく歩いていると共同区間のスペースのテーブルで
のんびりと、雑誌を読む柴崎を見つけた。
「よう」
「あら、今日は教官達と飲み会?楽しそうでいいこと」
「そんなに顔に出てるか?そんなに飲んでないが」
「目の周りが赤いしちょっと潤んでる、眼福だわ~」
そんな事をさらりと言うあたりが柴崎らしいが、どう見てもからかわれているとしか思えない。
何か言い返そうと思うが酒が入っている為、上手く考えもまとまらない。
いや酒が入っていなくても上手く返せない。面白くない…いつもこうだ。
突然柴崎の携帯電話からメロディが流れる。彼女はすばやくディスプレイを確認し
フリップを開く
「ちょっとごめん」
手塚に軽く謝り電話に出た。
「久しぶり。元気にしとった~?うん私も元気やよ。そっちはどう、もう雪降ったん?」
柴崎の言葉がいつもと違う。
一瞬手塚は驚いて柴崎の顔をまじまじと見た
内容はさておき言葉のイントネーションだ。聞きなれない語尾に発音。
自分の見たことの無い柴崎がここに座って知らない言葉で会話をしている。
言葉が違うのでいつも程クールに感じにくい。
面白いので柴崎の言葉に耳を傾け、いつの間にか横に座っていた。
「年末の休みになったら、そっちに帰るしご飯でも食べに行こうね。久しぶりに、お刺身食べたいー」
と言い電話を切った柴崎は真っ先に
「人の電話に耳を傾けるなんて、マナー違反よ」
「聞きなれない言葉が面白かっただけだ、内容まであまり聞いていない」
「地元の友人に標準語で話すと、あんまり良く思われないのよ。金沢って田舎だから
東京に憧れもあるけど、その分自分の地域に変にプライドみたいのを持っているからタチが悪いのよ」
方言を話す所を聞かれたせいか、どこか照れたように言う柴崎を見てちょっと可愛いと思った。
今日は面白いものを見れてよかった。
知っているつもりでいた柴崎の、知らない部分を見ることができた。
自販機の前で金沢訛りの柴崎の言葉を思い出しながら。ビールを6本買う
今度、この事でからかってみたくなったが、きっと3倍…いやそれ以上に自分が嫌がりそうな
兄のネタで返り討ちにあうのでやめておこう。
きっと、いくつも持っているのだろう…。想像しただけで襟足が寒くなった。
さて上官達がビールを待っている。早く戻ろう。
最終更新:2010年06月20日 20:48