図書館シリーズ堂上×笠原 1スレ:17-19

1スレ目:17-19

 

堂上は笠原とキスをしていることを盛大に後悔していた。

業務時間外の書庫だから人が来る可能性は限りなく低い。念のため内から鍵をか
けているから、万が一鍵を開けられても見られることは無いだろう。

笠原を書棚に押し付ける形なのは、初めての時笠原の腰がくだけて立っていられな
くなったからだが、両手では足りないほどキスを繰り返した今、もう慣れたのか足
は少し震えるものの堂上の支えもあって何とか自立している。

本の匂いに仕事を思い出す(というかここは仕事場だ)場所に、空調と舌を絡める音
だけが響く。湧き上がる欲望を押さえ込みつつ身体を離すと、笠原は少し潤んだ目
で「今日もありがとうございました」と言った。

「うまくなったな」

正直溺れてしまってあまり記憶に無いが、そんなことはおくびにも出さずキスの評
価をする。なんと馬鹿げた関係。

キスを教えて欲しいと請われた時になんで断らなかったのか。普段なら絶対に了承
しないような願いに応えたことについて、今更考えても詮無いことであった。


はじまりは2週間前に遡る。

 

「聞いてください!王子様の居所掴めそうなんです!」

堂上は含んでいた茶を盛大に噴出し、かつ気管に入れてむせた。

「何やってるんですか汚いー」

っていうか何を言っているんだキサマは、と言いたいところをさらにむせる。正直
事務室にいるのが自分だけでよかったとか思えたのは、咳が落ち着いてからだった。

笠原の王子様話は、堂上から叱られる度に堂上との比較という形で俎上に上ってい
たため、笠原にとって堂上に対しては持ちネタ並に露出している。
今回の話も事務室に堂上以外の誰もいなかったから始めたのだろう。

内心の動揺を気取られぬように落ち着いた声で先を促してみる。

「…それで、何処の奴だったんだ」
「なんか、北海道にそれらしき人がいるらしくて~」

堂上は椅子から転げ落ちそうになり、やっぱり自分ひとりでよかったと思った。小
牧あたりが聞いていたらもう大爆笑であっただろう。

「柴崎情報ですよ。次の連休に観光がてら二人で行ってみようって話になってるん
です」

何のつもりだろう。柴崎は堂上が笠原の『王子様』であることを知っているはずだ。

「からかわれているんだ!」
「何言ってるんですか、酷い。柴崎の情報網の凄さは教官だって知ってるじゃない
ですか!っていうか柴崎のことを信じられないんですか?!」

知らぬは彼女ばかりなり。心底心配したのに、この扱いはどうだ。っていうか何を
考えている柴崎。どうにも返事が思いつかず黙っていたが、本当の爆弾はこの後に
来た。


今までの勢いが全て無かったかのように沈黙した後、

「キスを教えてもらえませんか?」
「…は?」

「だから、キスの仕方を教えてくださいって言ってるんです!」

顔を赤らめてはいるが何故か喧嘩腰で言われたその言葉の意味が飲み込めない。

どんな飛躍だ。
『あなたを追いかけてここにきました』と言うということは耳にタコが出来るぐら
い聞いているが、なぜそれがこんなことに。
笠原のもったいぶった言い回しを要約すると、『キスが拙いとカッコ悪い』らしい。
意味が分からない。柴崎の入れ知恵か?遊ばれているのか?

 

─────というか、何故俺が、俺にキスをするための練習台に?

 

怒っていいのか喜んでいいのか何なのか分からなくなり、とにかく怒鳴りつける。

「アホか!俺はそんなことを教えるためにお前の上官をやってるんじゃない!」
「でも頼めそうな人堂上教官しか…」
「でも とか言うな常識で考えろ!こういうことは好きな人とやるもんだろう!」

あ、これは。
泣き顔と泣きそうな顔はいくらでも見てる。これは、泣きそうな顔だ。

「堂上教官のご迷惑も考えず すいませんでしたッ。小牧教官に頼んでみます!」

くるりと踵を返し、事務室を出て行こうとする。
何でだ。何故そこで小牧。あっちにはれっきとした彼女がいるからそれこそ迷惑
じゃないのか。しかし一途な笠原のこと、頼んでみると言うのだからきっと頼むに
違いない。そう思った瞬間堂上は笠原の腕を掴んで引き止めていた。

冷静に考えれば小牧が引き受けるわけもなかったはずだが、その時は混乱していた
という言い訳ももう遅い。

こんなに馬鹿だとは思わなかった。誰がだ?俺もだ。
笠原の去った書庫で、堂上は一人ため息をついた。

 

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最終更新:2008年09月23日 22:44
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