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背中合わせ A
一年に一度か二度、どうしようもない寂しさに襲われることがある。
そんな時、いつも甘えてしまう。あの男に。
『いいかな』
『わかった』
交わされるメールが定型化してるのは、何年も続いてる証拠だ。
ただ、背中を預ける。それだけ。
胡坐をかき、常とは違う少し丸まった広い背中に、背中を預ける。
何も聞かず、何も語らず、ただ静かに背中を貸してくれる。
私は、その布越しに伝わるぬくもりを感じ、静かな息遣いを聴きながら、
潮が引くのをじっと待つのだ。
「…大丈夫か」
その一言が、元の私に戻してくれる。
「ありがとう」
背中合わせ B
そう、なんでもないときにふらりとメールがくる。
『いいか』
『わかった』
恋人、もうそんな言葉で揶揄するのは恥ずかしい年齢なのに、心がざわめく。
第一、私達は恋人同士ではないのに。
暗い部屋で男の上にまたがり、腰を振る私はその目にどんなに浅ましく映るのだろう。
―私だけを見てほしい
―私だけを考えてほしい
―私だけにしか見せない顔をみせて
―私だけにしか聞かせない声を聞かせて
独占欲にあふれた私は、どんなにか浅ましいのだろう。
「…マキ…」
こんな時にしか名前を呼んではもらえない。
私の名前を呼ぶ男は一人しかいないのに。
彼の欲望を全て受け止めることができる喜びで、私は果てる。
情事のあと目を覚ますことがある。
同じ部屋で暮らしていた頃、腕枕で寝ていて、太い腕で上下から圧迫され窒息しそうになったことがあった。
それ以来背中合わせで眠るのが習慣になっている。
視線の先に男はいない。
手を?いでいては戦えない。腕の中にいては、重荷になるだけ。
だから背中を合わせ、彼の戦った生き様を私は見たい。
それは、自分が選んだことだ。
そんな生き方を後悔はしていない。
でも、いつか。いつか。手を繋ぐことはできるだろうか。
今は、夜が明けるまで、背中合わせで眠ろう。