1スレ目 554-562
「郁……」
甘い声が耳もとをくすぐる。
「し…柴崎、ねぇちょっと待ってって……」
あんまりに突然のルームメイトの豹変に、郁は焦って、密着していた柴崎の両肩をかるく押し返す形で抵抗した。
それでも、豊かなムネの感触は充分すぎるほどの存在感で。
ぐるぐると混乱する頭の中で、抑えがたい欲望が沸き起こってしまうのを認めざるを得なかった。
きっかけはほんの数分前のこと。
明日のデートの後に初めてのお泊りを控えた郁は、未知の体験になんとか覚悟を決めたもののやっぱりどうしてもどうしても不安がぬぐえず。
「ねぇ、下着はこのセットでいーかな?こっちは頑張りすぎな感じだし、かといってこれはそっけなさすぎで、教官のやる気を削いでもアレだし!!!」
と、下着の相談から入って、ついでにアレコレ初めての心得的なアドバイスを同室の柴崎から聞き出そうとした、…つもりだったのだけど。
ねぇ?あたしのものになりなさいよ。―――あんたが男ならあんたと付き合う――― 本気よ。
男じゃなくっても、別に良いか。って。
箍が外れてしまったんだから、もう仕方がないじゃない。
胸の奥が疼く。
このカタチの良い自慢のバストが、て冗談じゃなくて。
下着の相談をふられた柴崎は、一瞬真顔になった。
それから、ほんの少し傷ついた表情を浮かべたように見えたが、それは郁の気のせいだったかもしれない。
「明日は祝☆初体験、てわけねー」
パックをはがしてマッサージしていた手を休め、柴崎はからかうように言葉を返した。
「ちょ……やめてよ柴崎オヤジくさいなぁ」
「わざとよ。じゃ、万全を期して練習でもしときますか」
「………はっ?!」
郁が反論する間もなく、ふんわりと甘やかな香りが近づき、そして。
――――そして状況は冒頭に戻る。
「教官はどんなふうにキスするの?」
5センチの距離で、芝崎が郁の目線を捉える。
この距離で彼女に見つめられて落ちなかったオトコなんていないのだけど、 それが純情乙女・茨城県産にも通じるのかどうかは別問題。
「どう、って……」
まじめに答えようとするなバカ。
照れてそらした顔が可愛いとか思ってしまうじゃない。
赤くなった顔は、堂上教官のことを思い出してるから?
それとも。あたしとこうやって見つめあってるから、だと、ちょっとは期待してもいいのかしら。
女子寮の二人部屋。邪魔なんてさせない。
誰も、邪魔なんて出来ない。
「……んっっ…」
柴崎は、郁の唇を塞いだ。
「真面目に答えよーとしなくていいっつの」
それだけ言って、答える間を与えずにまた唇を合わせる。
眉根を寄せる郁も、拒もうとはしなかった。
力ならこの子の方がある。
嫌だったらすぐに拒めるはず。
しっとりと湿った舌で郁の歯列を探り、その奥の舌を絡めとる。
ふ、うっ……ん…っ 柴崎が唇と舌を使う合間に、小さな声が漏れた。
冷たかった唇は、互いの熱を移しあう。
甘い。可愛い。
(ずるい。やっぱりこんな郁、あの人に独り占めなんてさせてやらない――)
「やめっ…しばさ…は、ぁっ…」
「嫌なの?」
長い口づけの後、不意に真顔になって聞いた柴崎に郁は口ごもりつつ答えた。
「嫌っていうか、こんな……女同士だし。その…いくら柴崎でも、やっぱ変な気分になっちゃうし」
(なってよ。いくらでも。あたし相手じゃそんな気分になりたくないって?)
そんな焦れた気分は、敢えて押し隠す。
だってそんなの自分らしくない。
「いーでしょ、べつに」
わざと軽く答えて、柴崎はにっこりと笑って見せた。
「女同士だし。気にすることじゃないわよ」
「そ…れは、ちょっと違う気が……」
「なーにー?あんたのダーリンはオンナノコ同士のコミュニケーションにまで口出しする野暮な男なわけ?」
「こ…みゅにけーしょん、なのかな…?」
「そーそー」
深く考えなさんな、と、柴崎はもう一度郁の身体にぴったり寄り添った。
彼女の耳もとでささやく。
自分の声が、とびきり甘く響くことを願いながら。
「気持ち良かったらいいじゃない――」
あたしのものになって。
今晩だけでいいから。
明日は、初めてのお泊りだなんて、そんな嬉し恥ずかしな告白、聞かされるこっちの身にもなってよ。
せめて、あの人が触れる前に触れさせて。
だってずっと一番近くにいたのはあたしだもの。
勝手な言い分だということは判ってる。
だけど止められない。仕方ないじゃない。
何度も深く唇を重ねあう。
次第に、ふたりの吐息が混ざり合う。
「んっ……」
苦しげな甘い声は、自分のものか彼女のものか、もう判然としない。
自然と、郁の腕も柴崎の背に廻されていた。
柴崎は郁の背に腕をまわしてブラのホックを探った。
一緒に選んだ、うすい若草色の爽やかな花柄。
ほんの少しだけレースのついた下着。
堂上教官より先にあたしが外させて頂きます。
「ね。練習よ練習。いいでしょ?」
腰から崩れるようによこたわった郁を見下ろす形で、柴崎は床に手をついた。
潤んだ目で見あげる郁の顔には、さらりと零れる柴崎の髪が影を落としていた。
否、とも諾、とも言わない。
戸惑いを浮かべた表情。
だけど、拒まれてはいない。
高潮した頬は、戸惑いながらもたしかに興奮と期待を告げている。
ブラをそっと押し上げて外す。
その下のやわらかな膨らみを弄られ、郁はビクンと身体を震わせた。
「…ぃ…やぁ……っ」
「嫌?気持ちいいでしょ」
少年のようにすっきりとやせた胸は、それでも触れば張りのある弾力を感じる。
郁の部屋着をたくし上げ、柴崎は桃色の先端を口に含んだ。
声にならない喘ぎを聞きながら、ゆっくりと舌を遣う。
為すがままにされている郁の吐息が、次第に苦しげに途切れがちになる。
オンナだから。
どこをどう触られたら「イイ」かなんて、よく分かっている。
(あの人より気持ち良くさせてあげる――)
柴崎は、自分が羽織っていたワンピースタイプの部屋着も、ボタンを外して肩口から大きくひろげてすべり落とした。
「ね。あたしのも外して?」
郁の上に覆いかぶさった体勢のまま柴崎がそう言うと、言われるがまま下から手を伸ばし、 郁は戸惑いがちに柴崎のブラを探った。
……裸体くらい、いつもお互いに見ているはずなのに。
ほの白くきめ細かい肌をぎこちない手つきで撫で、豊かな胸の質量を感じながら、郁はその冷たい肌が次第に熱を帯びるのを知った。
体温を感じながら、きつく抱き合って口づける。
誰と付き合って、誰に抱かれても、こんな幸せを感じた事はなかった気がした。
柴崎が下腹部をまさぐると怯えたように郁の腿がこわばった。
初めてなのだから、順当な反応。
「……脚をゆるめて。怖くないから。」
そっと、腿の外側をなぜる。
「痛くするまではしないわ。練習だし。ね?信用して。」
初めてのときに自分が言って欲しかった言葉を、郁に言ってあげられる事が何だか嬉しかった。
この行為が練習なんてものじゃないことは、もうお互いに判っているはずだったけれど。
は……、ぁ… 柴崎の行為を探るように息を詰めている郁の其処に細い指を沈めると、 温かくぬるりとした感触が伝わる。
と、初めて他人に秘所を許した郁は、
「ひ…ぁあっ……やぁ…――」
泣き声ともつかない喘ぎをもらして身を捩った。
その声で、もう止まらなくなる。
「これ以上奥には挿れないから、大丈夫よ」
水音をわざと立てながら、柴崎は感じ易い部分を優しく何度も掬い上げた。
ひきつった高い音で、郁の喉が震える。
「……はぁっ、ひ…あ…あんっ……あぁ…」
柴崎の指の動きに合わせて上下する胸を愛撫すると、いやいやをするように、更に郁が身を捩る。
(や…もう、ガマンできない……っ…)
もっとゆっくり郁を気持ちよくさせる筈だったのに、こんなにすぐ焦れてしまうなんて。
柴崎は性急に郁の両脚を割って腰をおとした。
自分の濡れた部分を、熱くなった郁のおなじ場所に密着させ、
「…あぁん……」
思わず声を洩らし、柴崎はきゅっと眉をひそめる。
抱かれる時にはいつも、「サービス」として心掛けていた喘ぎ声だけど。
細く括れた腰を、ゆっくりとこね回すように擦り付ける。
硬くなった敏感な芯が刺激されると、痛みとも快感ともつかない電流が、 郁の身体中に走っていく。
とろりと熱い蜜が混ざり合ってふたりの脚を伝っていった。
っ、あぁ、んぅっ……ん、ふ…ぁっ 柴崎が巧みに腰を遣うたび、快楽に抗いきれないように郁が小刻みに震える。
すらりと伸びた健康な腕が白い華奢な背に縋って爪を立てた。
力加減も忘れて喘ぐ郁の姿が更に柴崎の興奮を掻き立てる。
どこかたりない。
もどかしい。
痛みのない、快楽だけの、行為。
どうしようもないもどかしさが、余計に刹那の悦楽を増す。
やがて、自身が蕩けそうな瞬間を迎え、柴崎は淫靡な音を立てながら郁の上で激しく腰を震わせ、つよく打ちつけた。
「ゃ…あっ、し…ばさ…っ、あたし、もう…だめッ―――」
郁のその声を合図にするように、ふたりは同時に達した。
荒い呼吸がおさまるまで絡みあったままベッドに横たわる。
ふぅっと大きく息をついてようやくぼんやりと目を開いた郁と、一呼吸遅れて目を開けた柴崎の視線が合った。
「ぁあ――――……大好きよ、郁」
やっと言えた。
何度も心の中では言っていた言葉。
たったひとこと、どうしても口に出せなかった言葉。
―――あんたのことが大好きよ、笠原―――
「使用済み」となってしまったおろしたての下着は洗濯に回されて、次の日ぼんやりしたまま郁はチェストの中に豊富にある、色気のカケラない(けど、とんでもなく彼女らしい)スポブラをつけて出て行った。
気付いたけど、言ってあげない。
せいぜい動揺していてよ。ね。
そのくらいの意地悪、許してね?
最終更新:2008年09月25日 03:29