2スレ目141
反対側の歩道で、知った顔を見つけた柴崎は隣にいた手塚そっちのけで友人へと駆け寄る。
デート中に旦那ほったらかしかよ。という手塚の意義も聞かず柴崎は友人、笠原郁に声を掛けた。
「笠原?」
郁がゆっくりと振り向く。
柴崎と手塚の姿を認めて、思わず郁は柴崎に抱きついた。
「柴崎~~~~~。」
「ちょっともうどうしたのよ。」
そういいながらも、柴崎の手は優しく郁の背中に添えられている。
郁は何も答えず、ただギュッと柴崎に抱きつくだけだった。
見かねた手塚が、近くの喫茶店にでも入らないか、と柴崎に声をかけた。
「はぁ!?妊娠?」
思わず手塚夫妻の声が重なった。
「うん。」
こくりと郁が頷く。
「・・・で?」
「・・・え?」
「それで、何が不満かって聞いてんの。」
少し乗り出して柴崎が郁に問う。
「別に不満はないよ?だって、あたしと篤さんの子供だもん・・・。けど・・・」
「けど?」
「・・・妊娠したってことは、あたしのお腹に新しい命があるってことで、つまり・・・」
「図書特殊部隊から一時的にでも離れるのが不安?」
柴崎が的確に郁が思っていたことを言葉にする。
今まで懸命に堪えていた涙が、郁の瞳から堰を切ったように溢れ出した。
「・・・不安に、ならないわけない!だってあたしみんなより図書館作業できないけど、その分図書特殊部隊でしかできないような仕事で本を守りたかったのに!」
「だから、お前は俺とお前の子供を下ろすのか。」
はっとして振り向くと、肩で息をしている堂上が郁を見下ろしていた。
「な、んで・・・篤さんが」
「あたしがさっき連絡しておいたのよ。」
柴崎が手に持っているケータイを振って示す。
「図書特殊部隊が出産後の女1人を受け入れないような部隊なわけないだろう!図書特殊部隊を、俺たちをなめるなっ!!」
堂上の怒声が響く。
先ほどとは意味の違う大粒の涙をぼろぼろと流す郁を抱きしめ、堂上は呟く。
「なんで、俺に先に言ってくれなかったんだ。かなり傷ついたんだからな。」
「ごめ、なさっ・・・ありがとう」
堂上に抱きつき泣きながら、柴崎が以前言っていたことを、ふっと思い出した。
いいなぁ
あたしもそんなふうに幸せになりたいなぁ
あぁ。あたし、本当に幸せだ。
end.