軍法
軍法会議のシステムに興味があります。(486:623)
国によってかなり違うようですが、アメリカもしくは旧軍でお願いします。
例として怠慢行為で大損害を出した師団長を起訴するとしますが、
一般裁判なら検察に相当する部門は何という役職の人でどこに属しているのでしょうか?
また判事は(法務官ではない)軍人が勤めるのでしょうか?それとも専門の法務官でしょうか?
また判事は何処に属しているのでしょうか?
海外の映画などでは両方のケースを見たことがあります。
専門的な上に質問が分かりにくいのですが、宜しくお願いします
それではとりあえず旧陸軍について簡単に。
軍法会議は各師団および高等軍法会議に存在し、
その実体は地域ごとにまとまって設置されていました。
例えば東京ならば陸軍高等軍法会議と近衛師団軍法会議、
および第一師団軍法会議が青山の第一師団司令部の構内に存在しています。
また、戦場では後方の本部に設置された軍法会議と前線及びそれに類する地域に設置される特設軍法会議、
さらに総力体制に移行するに従って旧来のものにとって代わり機能しはじめる臨時軍法会議がありました。
裁かれるのが師団長との事ですが、軍法会議において判士長(普通の裁判でいう裁判長)および判士は
法務官に限らず一般将校の中から被告より上の階級をもつ者が任命されました。
また、被告が大将であるなどそれ以上の階級の者の任命が必ずしも適切ではない場合、
先任の同階級を当てる事でよしとしています。
検察官に相当するものを予審官と呼びましたが、
これは現代の検察官以上に強力な権限を保有しており、
その取り調べはさながら裁判の前に行なうもうひとつの裁判に似たものでした。
予審官は法務官より任命され、階級も必ずしも上位に限る訳ではありません。
ただし法務官は新米でも士官相当ですので、下士官兵を裁く場合は必然的に上の階級になります。
法務官は高等文官試験司法科の合格者の中から陸軍に採用された者で、
総力戦体制に移行するまでは軍の中で独自の地位を保証されていました。
裁判の判決ですが、いかに後世において批判の多い軍法会議でも
これは必ず公開されます。……という建て前です。
帝国憲法第五十九条は、安寧秩序・風俗を害するおそれがある時に限って
裁判の対審の公開の停止を認めておりましたが、判決の公開停止は認めていません。
が、憲法違反を承知で判決が非公開にされる事はありました。
一番有名な事例は二・二六事件でしょう。
この場合、「軍事秘密」扱いで判決の公開を事実上禁止しています。
この為、判決が完全な形で一般に公開されたのは戦後かなり経ってから
東京地裁の倉庫よりGHQより返却された資料として発見されるまで待つ事になりました。
第二次大戦中の米軍の場合は、大きなものであれば、Court Martial(軍法会議)で行います。
これには、陸軍軍法会議と、海軍軍法会議とがあり、主に軍人と軍属について軍の規律に反する犯罪について裁判します。
犯罪の種類は法律によって制限されています。
怠慢行為で大損害を出した師団長の場合という例示ですが、一番有名なのは、第二次大戦末期の巡洋艦インディアナポリスの撃沈
に関する査問会がそれに該当すると言えるでしょう。
査問会は、艦長の場合、艦隊司令官クラスが査問委員長となり、査問委員には戦域指揮官クラスの人物が2名選出されます。
そして、法廷において検察官、法律顧問、書記相当の仕事をする調査官には参謀クラスが1名選出され、彼が事件の細部を捜査する指揮を
執ります。
査問会は、準被告人と言える「関係人」を招致しますが、この関係人は、全ての法廷に出席し、全ての証言を聞く権利を持ち、また、弁護人と
相談する権利を持ちます。
各人は証言を行い、調査官の手によって事実を再構成し、最終的に査問委員と委員長の合議で、審決を下します。
陸軍の場合はMilitary Council(軍事委員会)と言うもので、最高司令官たる大統領権限で設けられるものですが、その委任で軍の司令官が
招致する場合もあります。
これは司法権ではなく、行政権の執行で、判決に際しては上級審への上告は出来ません。
ですので、判決に際しての判決理由もありませんし、司令官は法務官が審査し、その意見に従って、判決の認可と変更を行うと言う性格の
ものです。
軍法会議では、法務官が裁判全体の進行を管理し、検察官役を務め、法律を解釈します。
弁護士もいますし、陪審役として、将官クラス、上級将校クラスの判士団数名がいます。
判士団は、陪審役ではありますが、証人に対し質問するのは自由です。
普通に公開で審判が進められますが、この辺は米国の一般法廷と同じです。
(486:670:眠い人 ◆gQikaJHtf2)
丁寧な回答ありがとうございます。
かなり理解できて来ました。
ずうずうしいのですが
1)査問委員会では、事実調査を追求する検事役を「参謀クラス」の軍人が務め、
軍法会議(まで行った場合)では、法務官がその役を(検察官役)引き継ぐ、ということでよろしいでしょうか?
2)昔見た映画(ア・フュー・グッドメン)では、海軍の軍事法廷で裁判長がいて、法廷を取り仕切っていましたが
こういう裁判長は艦隊とか軍などに所属する法務官が随時務める、という解釈でいいのでしょうか?(486:698)
え~んと、査問委員会の場合でも、軍事委員会の場合でも、検事は参謀クラスの軍人ですが、
実際にその手足として動くのは、法務官になります。
あくまでも、これらは行政権の執行なので、法務官は黒子の役割を果たします。
(また、査問委員会ではありませんが、軍事委員会の場合、軍事委員会委員長は幹部クラスの
士官です。
但し、彼の役割は開廷と休廷、判決の宣告だけを行い、実際に法廷を運営するのは、法務官の
中から就任する軍事委員となります)
そして、軍法会議の場合は、行政権では無く司法権に基づく正規の法廷となるので、検察官として
専門の人間が必要になります。
よって、検察官には法務官が就任します。
ア・フュー・グッドメンについては、その粗筋から見るに、軍法会議ではなく、行政権に基づく軍事
委員会(査問委員会)による法廷ですね。
先述の様に、裁判長と言うか法廷を運営するのは法務官で、開廷、休廷、判決の言い渡しは、別の
士官が行います。
(486:703:眠い人 ◆gQikaJHtf2)
銃殺刑は軍人としての名誉を保った処刑法なのでしょうか
ドラマや漫画などで受刑者が「軍人らしく銃殺刑にしてくれて感謝する」というセリフを見かけるのですが、軍法裁判で銃殺刑は斬首に比べて切腹が武士の面目を保った処罰方法であったように、他の死刑方法(絞首刑や薬物投与など)に比較して、軍人としての名誉を保った処刑法、なのでしょうか
軍法会議に処されるのは基本的に“軍人”だし、そこで執行される“刑”によって
“死亡”するのだから、難しく考えなくても「軍人への死刑」以外の何者でもない。
ちなみに銃殺刑というのは、名誉を保つどころか軍事裁判では一般的に最も
重い刑とされ、国営墓地に祀られる事もなく遺族年金も出ないのが一般的。
名誉どころか、最も不名誉な罰とすべきだろう。
銃殺は「軍人に対しての死刑」方法
絞首その他は「一般の犯罪者に対する死刑」方法
どっちにせよ不名誉は不名誉だが、処刑される側にとっては前者の方は少なくとも軍人として死ぬことができるって点が重要。
最終更新:2008年10月01日 00:20