37話 武装確保
展望台にて大崎年光は悔恨の念に駆られる。一人の少女を救う事が出来なかった為だ。
その少女は年光を誤解して逃走し、展望台に辿り着いたは良いが、最上階で邪な黒豹獣人の男に襲われその身を汚されてしまった。
年光は男に憤り立ち向かったは良いが、力の差は歴然としており、あっさり気絶させられてしまう。
そして意識を取り戻した時、少女は展望台から身を投げてその命を絶ってしまっていた。
年光は悔やみに悔やんだが、最早時は戻せない。
少女の物らしいデイパックが、切り刻まれた少女の衣服と共に放置されているのを見付け、年光は気が進まなかったものの中身を調べる。
すると基本支給品一式に混じって、催涙スプレーが3本出てきた。
これを使えば或いは少女も助かったかもしれないがそのような余裕も無かったのだろう、そう思うと年光はますます少女が気の毒でならなかった。
「ごめん、これ、使わせて貰うよ……」
少女に断り、年光は催涙スプレーを入手する。
自分の命の事も考えなければならない。ナイフしか武装らしい武装を持っておらず、少しでも生存確率を上げるには仕方が無い。
そうあっさり割り切れれば楽なのだが、年光は上手く割り切れなかった。
階段を下りて建物の外に出る。
そして、少女の亡骸の元に向かう。
「うっ……」
近くで見ると本当に惨い有様であった。
頭蓋骨が砕け中身が血と共に飛び散り辺りには何とも言えない刺激臭が漂っていた。
おまけに少女は直前まで性的暴行を受けていた為、全裸であの黒豹の体液があちこちにこびり付いてそれが悲惨さをより一層際立たせる。
(このままにしていきたくは無いけど、掛けてやれそうな布も無いし、穴を掘れそうな道具も無い……)
死体を放置しておきたくは無かった年光だったが、出来る事は何も無く、そのままにしておく他無かった。
「誤解させて、助けてやれなくてごめんな……あの黒豹野郎……次に会ったらタダじゃおかねぇ」
少女へ詫びると同時に、年光の中で黒豹の男への怒りが再燃していた。
……
……
草原に敷かれた二車線の幹線道路の上を歩く年光。
アスファルトは最初にこの道路が建設されてから一度も補修されていないのか傷みが目立つ。
道路標識も潮風の影響か錆が目立った。
「ふぅ……」
年光の怒りは展望台を後にした時と比べれば大分収まっていた。
(最終目標はあくまでこの殺し合いから脱出する事だ……怒りで目標を見失うのはまずい)
心中で自分に言い聞かせる年光。
先程は黒豹の男への怒りから彼への制裁が第一目標のようになってしまっていたが、そうでは無く、あくまで第一の目標は殺し合いからの脱出だ。
感情的になり過ぎてそれを忘れてしまってはならないと戒めた。
ただ、黒豹の男への制裁を完全に思考の外にした訳でも無い。
少女の件も有るが自分への暴力の恨みも有る。
「ん? あれは……」
年光はある物を見付ける。灰色に塗装されたトタン板の壁の小さな建物。
看板には「武器店」と書かれており、どうやら地図上のC-3エリアに記載されている武器屋のようだった。
丁度良い、あそこで装備を整えよう――――年光は武器屋に向かう。
金など持っていないが咎める店主もおるまい。
ドアを開けて中に入ると様々な銃器や刀剣類、その他の武器が陳列されている。
欲張っても仕方が無いので、年光はその商品の中から自動拳銃P225と、散弾銃イサカM37を選び、
それぞれの予備のマガジンや弾薬も手に入れた。
「こんなもんか……」
装備を整えた年光は武器屋を出た。
その足は、市街地方面へ向かう。
【午前/C-3武器屋】
【大崎年光】
状態:顔面打撲、身体全体に痛み(行動に支障は無し)
装備:シグP225(8/8)
持物:基本支給品一式、コンバットナイフ、催涙スプレー(3)、P225の弾倉(3)、イサカM37(4/4)、12ゲージショットシェル(10)
現状:殺し合いには乗る気は無い。あの黒豹男(シャーガ)に次に会ったら制裁を加えるつもりでいる。市街地方面へ向かう。
備考:シャーガの外見のみ記憶し彼を危険人物と認定。
《支給品紹介》
【催涙スプレー】
支給者:籠彩愛
分類:補助
説明:暴漢や野生動物などに襲われた際に、噴射して怯ませその隙に逃げる為の護身用アイテム。
最終更新:2016年06月29日 13:48