RESTART

64話 RESTART

蒲生重勝、神楽坂雪子、ユルゲン、エリノアの四人は、
殺し合いの主催役である、吉橋寛和と岩岡朋佳の前に連れて来られていた。
応接間のようにソファーとテーブルが置かれた部屋だが窓が無い。
寛和と朋佳に対するように四人が向かいのソファーに座る。
周囲には黒い軍装に身を包み、自動小銃を手にした兵士が周囲を取り囲む物々しい空気。

「四人共お疲れさん。特別賞で家に帰れるぜ」

一応、ねぎらいの言葉を寛和は四人にかけるが、四人は素直に喜べない。
自分達の首輪を外してくれた狐閉レイナ、首輪を外せなかった篠原昌信、稲葉憲悦、イェレミアスは、
首輪解除に気付いた寛和の手により、首輪を爆破され無残な最期を遂げた。
その一部始終を目の前で見てしまっていたからだ。

「……聞いてもいいか?」
「何だ? ユルゲン」
「この殺し合い、目的は何なんだ?」

ユルゲンの質問の答えは、他の三人も聞きたい事だった。
大勢の者を閉鎖空間で殺し合わせて何を得ようと言うのか。

「目的はまあ、色々あるよ。答えられる範囲で言うと、お偉いさんの暇潰し」
「なっ……暇潰しだと……」

重勝が怒りに震える。他の三人も同様だ。
暇潰しで大勢の人生を終わらされては理不尽この上無い。

「他にもある……が、言えん」
「何でだよ! ふざけんな!」
「蒲生さん、落ち着いて……」
「だけど雪子ちゃん……」
「あんまり言っちまうと俺らの首が危ういし、それに、お前らを帰せなくなる」

最後の方は寛和は声のトーンを落として喋る。
ただの脅しでは無い事は四人にも察しがついた。
真相を問い詰めたいと言う気持ちはあれど、そのために命を捨てる勇気は流石に無い。
四人は沈黙する。

「……言っておくが、この事を世間にバラそうなんて思うなよ。
マスコミも警察も、政治の中枢も、俺らの組織の手の内だ。
そんな事してももみ消されて精神病院送りにされるのがオチだぞ」
「「「「……」」」」
「……それじゃあ、朋佳、四人を案内してくれや。
お別れだ。蒲生重勝、神楽坂雪子、エリノア、ユルゲン。
多分、もう会う事は無いだろうよ」
「……では、こちらへどうぞ」

四人は岩岡朋佳と数人の兵士に誘導され、部屋を出た。


◆◆◆


あれからどうやって帰ってきたのか、蒲生重勝と神楽坂雪子は思い出せなかった。
気付いたら自分の家の自分の部屋にいたのだから。
あの殺し合いは夢だったのではと錯覚もしたが、
重勝は腫れた頬と折れた牙、雪子は重勝に捧げた純潔によって、あれは夢では無いと確信する。
そして二人は今、再会していた。
殺し合いの時に教えあった電話番号が、二人を再び結び付けたのだ。

とある街ののセンター街で二人はデートのような事、いや、完全にデートをしていた。
具体的に言うと、通りを二人で歩くのは勿論、
ゲームセンターで遊んだり、レストランで食事したり、映画を見たりと、
デートのお手本のようなデートをしていた。

そして夜、ホテル街のラブホテルに二人は泊まる。

双方風呂に入り、ベッドの上で全裸となり寛ぐ。
まだ行為には及んでいない。

「今日は楽しかったです、蒲生さん」
「いやいや俺こそ……全然大した事してやれなかったけどさ」
「そんな事無いですよ」
「そう? そう言ってくれると嬉しいんだけど」
「……」
「……」

短い沈黙。そして二人は殺し合いの事を振り返る。

「あの殺し合い、現実だったのかと今でも思います」
「そうだな……ユルゲンとエリノアはどこかで生きてるのかな」
「別の世界の人らしいですし……もう会わないと思いますが……」
「だな……」
「……」
「……」
「でも、蒲生さんに会えて良かったです」
「マジで?」
「はい」
「……俺も、雪子ちゃんに会えて良かった」
「……蒲生さん」
「……そろそろ良いかな、雪子ちゃん、俺もう我慢出来無い」

そう言うと、重勝は尻尾を振りながら自分の股間を雪子に見せつける。
既に一物はそそり立ち透明な汁を垂らしていた。

「はい……」

微笑みながら、雪子は狐の獣人のそれをそっと握り、口に含んで舌を絡ませ、愛撫し始めた。

「ん……ぅ」
「あぁっ……はぁ……う……雪子、ちゃん……」

雪子は愛おしそうに重勝のそれをしゃぶり、
重勝は目を細めて恍惚とし、喘ぐ。

二人の夜は、まだ始まったばかりである。


……


蒲生重勝と神楽坂雪子はその後、雪子の高校卒業と同時に結婚した。
そして、一気に長男、長女、次女、次男と四人の子供をもうける。
重勝は汁男優からAVの販売スタッフへ転職し、雪子は重勝を支え良き母親として尽くす。
苦しい時もあったが殺し合いを生き延びた二人はそれらを乗り越えた。

そして時は流れ。

蒲生重隆は49歳になり、現在AV販売会社でそれなりの地位に付いている。少し老けたが色んな意味で元気。
神楽坂雪子改め蒲生雪子は41歳となったが美貌は衰えていない。最近は小説をネットにあげるのが趣味。
長男の蒲生重雪は20歳、自動車修理工見習いとなって一人暮らしをしている。
長女の蒲生愛里亜改め石田愛里亜は19歳、高校卒業と同時に結婚すると言う両親と同じような道を行く。
次女の蒲生励子は17歳、高校生活謳歌中。
末っ子であり次男の蒲生重充は16歳、色んな意味で変態になってしまい重勝と雪子は頭を痛ませている。

男子は重勝が、女子は雪子が名付けた。
余談だが、重勝曰く「重」の字は蒲生家の通字で男子はほぼ全員名前に「重」の字が入っているとの事。
例として、重勝の父は「重弘」、叔父は「重森」、従兄弟は「重豊」、祖父は「重栄」、曽祖父は「重書」、高祖父は「重孝」。
余談過ぎた。

ともかく、重勝と雪子は平和な家庭を築き、幸せに暮らしたそうな。


◆◆◆


旅の途中のエリノアは夜となったので、廃屋を見つけてそこで休む事にした。

「ふぅ……」

殺し合いから帰還して数ヶ月。
いつも通りの日常に戻っていた。
あいも変わらず、犬や狼としか行為は出来ていない。
そろそろ本気で人間とも経験したいと考えていた。

「……誰かいるか?」
「え?」

突然外から男の声が聞こえ、ベッドに横になっていたエリノアは起き上がった。

「いますけど?」
「もしかして、ここの住人か?」
「いえ、休んでるだけです」
「そうか、すまないが、宿になりそうな所を探していて、端でも良いから使わせて欲しいんだが」
「……良いですよ」

男は一泊出来そうな場所を探しているらしい。
エリノアはあっさりと男の申し出を承諾した。
男に暴行される恐れもあったが経験が出来るならそれはそれで良いと考えたのである。
そして男が廃屋の中に入る。

「……あれ? あなたは……」
「ん? ……エリノア、か?」

しかし、エリノアにとって意外な事が起きた。
男には見覚えがあった。
ほぼ全裸のハイエナ獣人――――紛れも無く、殺し合いの時に出会ったユルゲンその人である。

「あらぁ、エリノア……まさかこんな所で会うなんて奇遇だなあ」
「驚きましたよ私も……」
「あの殺し合いからどれぐらい経ったんだろうな、もう数ヶ月か?」
「それぐらいですね、多分……」

古びた椅子とテーブルに座り、殺し合いの事を思い返すエリノアとユルゲン。

「実を言うと、和歌子ちゃんの事未だに心残りなんだよな。
あの時一緒に連れて行っていけば死ぬ事は無かったんじゃないかって……」

「……すみません……私の力不足で……」
「いやいやいや、君が謝る事じゃない。責めるつもりなんてこれっぽっちも無いんだ、気分を害したのなら謝る。
……君は精一杯やってくれたじゃないか」
「……ありがとうございます」
「……他にも、あの時、俺が電話を取らなければ、もしかしたらレイナ達は……」
「もうやめましょうよ……今更何を言ってももう」
「……分かってるけどさ」
「自分を責め過ぎるのは、良くないですよ」
「ああ……」

あの時、こうしていれば、こう考えていれば、違う結果があったかもしれないと、ユルゲンもエリノアも省みる。
今更後悔したところでどうにもならないとは分かってはいたが、考えずにはいられなかった。

二人はその後しばらく旅を共にしたと言う。



【自由奔放オリキャラバトルロワイアル END】



063:虚空(そら)に消えてった打ち上げ花火 目次順 END
063:虚空(そら)に消えてった打ち上げ花火 蒲生重勝 END
063:虚空(そら)に消えてった打ち上げ花火 神楽坂雪子 END
063:虚空(そら)に消えてった打ち上げ花火 エリノア END
063:虚空(そら)に消えてった打ち上げ花火 ユルゲン END
063:虚空(そら)に消えてった打ち上げ花火 吉橋寛和 END
063:虚空(そら)に消えてった打ち上げ花火 岩岡朋佳 END
最終更新:2013年04月22日 12:49