~モゴラ大陸・「火の国」アルバンダム~
Nの脅威が去ってからしばらくして、火の国アルバンダムでは轟轟と大きな音が町中に響き渡っていた。
その音はこの国を守護する神を称える祭りのために打ち鳴らされる楽器であった。
ボルク「いやー何年ぶりかな!こんな盛大な祭りなんてさ!」
ブロル「今年は炎神様が招来する大事な時じゃ。お前もふらふらせずこの国の安寧を願うんじゃぞ」
たしなめるようにボルクに話しかけたのは、巨体のドワーフ。ボルクが居候している鍛冶屋の主人だ。
ボルク「そうなのか!炎神様ってどんな奴なんだ!強ええのかな!」
闘う気まんまんである。
ブロル「わかっておるのか?炎神様はこの国を守護されておる方じゃ。闘うなんて言語道断じゃ」
ボルクはシャドーボクシングを繰り出しながら目をキラキラさせている。どうやら聞こえていないようだ。
ブロル「やれやれ…」
そして二日後の晩、町は盛大な盛り上がりを見せたのであった。
~グリフ大陸・デルポイの丘~
星が瞬く夜に
アポロンは一人古びた神殿の前で考えを巡らせていた。
アポロン(ヴァーダンドが為した人事は誠に立派なものだった)
ハイ・ヒューマンにより生み出されたクローン体。神を冒涜するがごとく行為である。
だが、アポロンをベースに造られたヴァーダンドとは戦闘の末、その美しきまでの生き様を見届けた。
アポロンの力を進化させると同時に、この出来事は彼の信条を揺るがすきっかけとなったのだ。
アポロン(我が神より賜った神託…しかし、その真意が見えない…我が為すべきことが…掴みきれない)
その想いの根源はミストラルシティで受けたあの一撃。
アポロンが神より賜った「メサイアサルバロール」を打ち砕いた”その人”の存在。
神の力を上回るものがいようか。いや、いない。そんなことあるわけがない!
アポロン「ともすれば、我が神託は…」
神からの託し事ではない、その可能性が大きく膨らんでいく。
アポロン(我が直接動くは反神となるやもしれん…ボルク、ソナタの力が再び必要だ)
~モゴラ大陸・「火の国」アルバンダム~
祭りの最終夜、炎神の招来の儀式が行われていた。
炎神とともに戦う神の軍隊「炎下一〇八部隊」はその名の通り108人からなる。
ボルクもまたその一隊員だった。ついさきほどまでは。
深紅に燃え上がる炎の中から炎神が姿を見せる。
人型の上半身に四つの足。顔は獅子がごとく逆巻く鬣を有している。
ボルク「え…神様ってマジでいたのか…」
炎神はその身体すらも燃え上がらせていた。
ブロル「静かにせい。炎神様の御姿を見られるなど一生に一度あるかないかじゃぞ」
ボルク「ちなみに…親方は何回炎神様とあってるんだ?」
ブロル「わしか?そうさなぁ10回程かのう」
ボルク「もはや冗談かどうかわからんよ...」
炎神ヘルフレイム「火の国の民よ。戦乱の中見事戦い抜いてきた。見事だ」
火の国民「炎が勢いよく燃え上がっているぅぅ!!」
炎下一〇八部隊員「炎神様が招来されたにちがいなぁぁいい!!」
ボルク(ん…皆には見えてないのか?親方には見えてるみたいだけど…)
炎神の姿はを見ることが出来るのは特別な条件を満たしたものだけなのだ。
炎神ヘルフレイム「これからもワシの加護のもと安寧を生きるがよい。時に此度の人身供物であるが…」
ボルク「ジンシンクモツ?なんだそれ?」
ブロル「生贄のことじゃよ」
ボルク「え…俺の国っていまだにそんな前時代的なことしてたのか…やめさせる!」
ブロル「お、おい!馬鹿言うでない!そんなことしてみろ!この国は炎神様の加護を失い、即座に周辺国からの進撃を受け滅びるぞ!」
ボルク「その考えが古いっての!ちょっとは外の世界を見て来いって!これだから歳だけった頭でっかちは困るぜ」
ブロル「なんじゃとー!それに人身供物といってもだな…」
彼の言葉を遮るように、大きな声が広場に響いた。
炎下一〇八部隊長「人身供物として捧げるのは、【爆】の将を冠むるボルク=ウェスタンでございます」
炎神ヘルフレイム「ほう威勢のいい若者か。よかろう、ふん!」
その声とともにボルクの身体は浮き上がり、そして炎神の前に飛びよった。
ボルク「うへぇぇ!なんだってーーーー!!!」
炎神ヘルフレイム「早速」
炎神は大きく口を広げた。そして...
ガブッ!!
一噛み(人神)したのち、炎神はその姿を拳ほどの炎の玉に姿を変えて、ボルクの胸元へ吸収されていく。
ボルク「・・・あれ生きてる…ってうわっ」
彼の身体は地面にたたき落された。
ボルク「いててて・・・」
その腕をつかみ上げ高く掲げるのは炎下一〇八部隊長のヴァルトだった。
炎下一〇八部隊長「皆の者!新たな神託者がここに生まれた!新たに【玉】の将を冠した男…ボルクだ!」
火の国民「うおぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」
ボルク(あぁー思い出した。そういうしきたりだったな)
火の国スープレックスは、炎神の加護を受けている。それにより火山流が街を襲うこともなく平和に過ごせているのだ。
またこの国に住まう者たちは炎神の力により、それぞれの能力がベースアップされている。
つまりはプラス修正のようなもの。ほかに人間に比べて彼らの身体は頑丈であり強靭なのだ。
だがその代価として、生贄が必要となる。だがそれは命を捧げる類ではない。逆だ。
命を共に燃やす役目。それがこの国における神託者の役割なのだ。
火の国王「これからは炎神様とともに国の安寧のためによろしく頼むぞ。ボルクよ」
ボルク「ははぁ」
初めて入った王城は外の暑さを感じさせないほど涼しかった。そんな記憶しか残らないほど、祭りの後は怒涛にすぎていったのだ。
ボルク「ふぇぇやっと帰ってこれた」
彼が自室に戻れたのは祭りの夜から二日後だった。
ボルク「一休みっと…ん?窓のそばに何かいるなぁ」
それは真っ白な鳩。コンコンと窓をたたき中に入れろと言っているようだ。
ボルク「…あのハトは」
窓を開け鳩を招き入れる。足首には手紙が携わっていた。
ボルク「やっぱり。アポロンの鳩だ。モゴラまで遠かっただろうお疲れ様。」
鳩の頭を人撫でし、手紙の内容に目を落とした。
ボルクよ
ソナタの力を借りたい
果倉部かもめを探し出しその真の姿を確かめたし
だが大きな危険をはらむだろう
故に選択はソナタ次第だ
ボルク「まったく、なんにせよやるに決まってるっての・・・え」
手紙の続きを読んだところでボルクは動揺した。
これは神託ではない
その結果により我は力を失うやもしれぬ
だが、これは我からソナタへの信託だ
我はソナタを信じている
キノの過去にもかかわることだ
我はキノの力にならねばなぬのだ
ボルク「俺はバカだからアポロンが何を想像しているのかはわからない。だけどアポロンはキノのため神託を捨て能力を失う覚悟をしている!なら俺もやるしかないだろう!」
拳を握ると赤く燃えるように光り輝いた。
ボルク「うおおおお!やってやるぜ!まずは
果倉部かもめを探す!」
ブロル「ボルク!夜にうるさいぞ!」
ボルク「うおうおうおうおうお!」
ブロル「果暮部かもめといったか?ちょうど下で話しておったが、彼女のことを知っておるのか?」
ボルク「うおうおう…え?」
どたどたと階段を降り居間に行くと、そこには…
ブロル「かもめとは長い付き合いでな。特にあの塔での戦いは今も胸を踊るわい。もう数十年になるかのう」
かもめ「数百年のまちがいでしょう?あら貴方がボルクね!炎神の神託者おめでとう!これからはあなたがこの国を背負っていくのね!素敵だわ~!」
ボルク「…(これも炎神の加護なんだろうか)」
かくしてボルクはアポロンに協力するために果倉部かもめに接触をはかった。
手伝ってほしいことがあるとかもめと与することになったのは自然な流れ。
ボルクは秘密結社スピノザの一員となるのであった。
しかし彼がこの組織について、果倉部かもめについて調べるにつれ、キノの国を亡ぼすに至った経緯、その代価を知るに至る。
それらは一筋縄では瓦解できないことを意味していた。
アポロンとは鳩を媒介に連絡を取り合い、そしてスピノザを叩きのめすためにお互いに準備を進めることになったのだ。
ボルクは幼少から誰かの心を燃やす起爆剤の役目になりたいと考えてきた。
そして今、炎神の加護のもと、彼はアポロンの想いをたくされた一人として、エンジンを起動させるのだった!
SIDE:V(ボルク・ウェスタン) Fin
最終更新:2017年10月09日 17:28