~アンモライシティ~
バトルグランプリが終了したあと、この街は再び静寂に包まれていた。
そもそもバトルグランプリ自体が、主催者である大富豪ジャーラの戯れ、秘書(として潜り込んでいた古藤
トキシロウ)から持ち掛けられた遊びであったのだ。
もともと廃墟であったこの街にはもはや誰の姿もなかったのだが・・・
ナル「さて、あとはどこを探そうか」
トニー「そうですね。街はほとんど回ってしまいました。めぼしいところは…」
二人は街の地図を広げながら相談を始めた。
彼らはこの街でとあるものを探している。とあるものからの指令によって。
ピピピ...ナルが持つアンビエント端末が鳴り響く。
ナル「お、ツバメからだ。…ピーチ作戦遂行中のナルだ。どうかしたか?」
ツバメ『そろそろ見つけたかしら?』
トニー『ツバメちゃん、それがまだなんです。もうほとんど探したんですが…』
ツバメ『…あそこは見たの?』
二人は「ああ」と思い出し、ツバメの提案に従い、バトルグランプリ会場を目指した。
それはあまりにも大胆に会場の中ほどに鎮座していた。
ナル「ボディは円筒状で先端は鋭角、天を向いている。ボディの側部には二つのブースター。ところどころに羽上の可動部がある。間違いないこれが探し物だ」
トニー「ナル、見てください側面に何か紋様が彫られていますよ」
巨大装置の側面にはこんな紋様が刻まれていた。
Measure...Agricultual...Radiowave...Inverse...Adjustment
ナル「…文字だろうか」
トニー「私には何らかの装飾に見えます。ほら、反対側にも同じように紋様がありますから」
彼らが戸惑うのも訳ない。巨大装置に刻まれた文字は彼らが常用する文字とは似ても似つかぬものなのだから。彼らはそれを模様や絵のようにしか認識できない。
もっとも魔導書を読み慣れているナルにとっては規則的に並ぶその形状様式から、それが文字ではないかと思い至ったのだ。
ナル「さてミッションをこなそう。とはいえこの巨大装置、どうやって破壊するか…」
トニー「簡単ですよ。周りに人がいないのはわかっていますから、思う存分出力できます!」
ナル「…まさか」
トニー「ライトニング・ボルト・マックス!!」
巨大な稲妻がたたき落ち、巨大装置は焦げ付きた。
~ミストラルシティ~
にろく「向こうはうまくやったそうだ。ツバメ、なにか見つかったか」
ツバメ「ええ。そりゃあもう。隠すつもりなんてないみたい」
彼らは今、EGO情報統括室に潜入している。ミッションによりある情報を探して。
ツバメ「見なさいにろく。これがEGOとWAOの癒着の証拠よ」
その資料にはEGOが非政府機関WAO(世界農業生産研究機構)へ多額の出資を行った契約書や金銭の授受記録が残されていた。
にろく「EGOはWAOと手を組み、EGO加盟国には農業生産の向上を、非加盟国には劣悪な環境を与え、無理やり食料品を輸入させていた。そんな絵空事が事実だったなんて」
ツバメ「しかもその事実を知るのはEGO上層部のごく一部。一般の隊員は人道派遣を通して非加盟国に貢献していると錯覚しているわ」
にろく「それにしても、農業生産効率をどんな方法で操作しているんだ?」
ツバメ「・・・マリア」
にろく「マリア?だれだそいつ」
ツバメ「・・・盲点だったわ、そんな方法があったなんて」
にろく「?」
ツバメ「WAOは宇宙から天候を操作してるわ。地球の衛星軌道上に大型装置を浮かべて、そこから局所的光線、おそらく未元粒子由来のエネルギーが主たるものね、を発射しているの」
にろく「その装置がマリア。まさかナルと
トニーが見つけた巨大装置ってマリアの2号機なのか?」
ツバメ「ミッションは成功よ。さ、かざぐるまに戻るわよ」
~アンモライシティ~
トニー「ツバメちゃんから帰還命令です。戻りますよナル」
ナルは足を止め後ろを振り返る。
トニー「どうしました?何かありました?」
ナル「なぁ、この会場の周りって、こんなに白い花が咲いてたっけ?」
トニー「あぁ、この花は不知火といって、とても早く生育することで有名なんです」
ナル「詳しいな。花が好きなんて意外だな」
トニー「いえいえ、前に訪れたある館の主人からたまたま聞いただけですよ。ただのきれいな白い花です」
ナル「ただの白い花、ねぇ」
彼らがそのまま会場を後にしたのは幸運だっただろう。
その数時間後、黒こげになった巨大装置MARIAのボディ内部から数十万の不知火の花の種子がはじけ出たのだ。
その種子は風に乗り、地球全土に飛び散っていった。
のちに大きな災厄を生み出す、文字通り災いの種として。
SIDE:W(WAOの秘めたる想いの怪異) Fin
最終更新:2021年08月29日 11:44