毒蛇駆除共同戦線!

〜グリフ大陸・西端部 デルポイ神殿~
緑に生い茂った短い草が広がる丘。そこに佇む朽ちた神殿。そこにはアポロンボルクの二人が揃っていた。
ボルク「どうだ?新しい神託は降りてきたか?」
アポロン「いや。言の葉は何も紡がれていない」
ボルク「そうか、せっかくスピノザの偽りの神託を破棄できたのにな。あらたな神託を得られれば『メサイア』の力を使えるようになるってのに…って今はそれも叶わないか」
そう、能力消失は誰であっても生じている。能力は誰にも使えないのだ。
アポロン「ソナタの力であればまだしも、今は待つしかない。我は人事を全うする」

とその時、神殿の中を風が吹き抜けた。その風は自由気ままに吹き抜けていく。
すると二人は何かを感じ取った。
アポロン「風の知らせか。遠い地で何かが起きているようだ!」
ボルク「ああ!アポロン、今の風は、こいつと同じ感じだぜ!」

ボオゥゥ!
業炎と共にそれは現れた。
人型の上半身に四つの足。顔は獅子がごとく逆巻く鬣。ボルクの中に潜む炎神ヘルフレイムの顕現である。
ボルク「ヘルフレイム!今のは他の召喚獣が放った風だよな!」
炎神ヘルフレイム「いかにも。一つはまだ生まれたばかりのひよっこじゃ。じゃがもう一つは、ワシと同等…いやそれ以上の力を秘めておる」
アポロン「炎神以上の力を秘めた召喚獣…間違いなく恐鳴召喚獣(ナイトメア)だ」
ボルク「もう一つは生まれたばかり…なんとなくだけど、あの自由気ままな風の感触…十也じゃないか?」
アポロン「ソナタも感じたか。我もそう思う。さすればそれは十也の窮地やもしれん!」

二人はすぐに神殿を後にした。
炎神ヘルフレイムが空を駆ける。二人をその背に乗せて。

彼らは知っている。秘密結社スピノザが何をもたらしたのかを。
彼らは知っている。今のままでは十也は恐鳴召喚獣に勝てないことを。

〜ミストラルシティ 中心部にできた巨穴〜
十也「放て!閃光のブラスターストリーム!!」
ブレオナクが放った波動球はもくろみ通り、毒と龍を地面の奥そこに追いやった。
しかし、そうしてできた穴の中には毒が溜まり、時折稲妻が降り注ぐ。

ギャァァァァァォォォ!!!
穴の奥から金色の龍の叫び声がこだまする。
波動球は毒竜の自由は奪ったが、大したダメージは与えられていないようだ。
飛び出てこない様子から察するに、あの龍の翼は飛び立つには不向きの様子。時間は稼げた。

十也「ふぅ。これで街中に毒が蔓延することはないけど、この大穴は危険度MAXになっちまったな」
空中を飛ぶ白龍の背中の上で十也は腕組みをしていた。
ブレオナク「あそこに飛び込むのは自殺行為だ」
十也は悩む、さてどうしたものか…EGOの技術開発部になら解毒装置はあるだろうか…

するとそこに十也を呼ぶ声が響いた。結利の声だ。
だが今この真下は毒龍がのせいで死の世界と化している。
結利は大丈夫か?そうだ、他のEGO隊員や住民は…!
目線を周囲に向けて見ると、完全防毒服に身を包み、救助に当たるEGO部隊の姿があった。
先ほどいくら敵襲と言っても取り合わなかったのに。ああ、街に穴が空いたから流石に動き出したのか?
結利「そうじゃないよ。十也が動いたからみんなそれに続いたんだよ!」
十也「俺が動いたから?」
結利「誰も敵が来たとは思わなかった。攻撃されていると思わなかった。正直、今もそうだけど。でも、あの十也が先陣をきったから!みんな自分の心に背いて、組織の判断に背いて、十也に続いたんだ!」

これまでの十也の選択の賜物だろう。
誰よりもこの世界をまもろうとした十也の行動が、人の心を、世界をうごかしたのだ。
安寧世界の中で、何かが変わりつつある。

続いてシティ防災無線が鳴り響く。
リオル「あらゆる可能性を肯定して対応したのよ。例えば毒が街を覆っても誰も死なすことがないようにってね」
マードック「簡単に言ってくれるね。技術開発部の総力のおかげだよ。地上は僕たちに任せろ十也!」
地上で気を失った住民に防毒マスクをつけて救護しながら結利も叫ぶ!
結利「私もできることをするよ!」

十也「みんな…ありがとう!俺はあいつをなんとかする!」
だがあの巨穴の中の毒を装置で浄化するのは到底不可能なようだ。だがこのままにするわけにはいかない。
十也「一か八か。ブレオナクの波動球を連発しながら突っ込めば!」
半ば呆れ顔のブレオナク。

「その必要はない」
いつの間にか十也とブレオナクのそばにいたアポロンが答えた。
ボルク「俺たちが来たんだ!無謀なことはするなって!」
十也「おお!来てくれたのか…ええ!」
驚くのも無理はない。だって二人は炎神の背中に乗っていたんだから。

十也「召喚獣?召喚師は俺とあいつだけじゃなかったのか…」
がっくりと肩を落とす。
ボルク「紹介してなかったな!この方は火の国アルバンダムの守護神ヘルフレイムだ!召喚獣とはちょっと違うが、まぁ同じようなもんだ!」
アポロン「細かい話は後回しだ。恐鳴召喚獣(ナイトメア)はあの穴の中か?」
十也「ナイトメア?あぁ金色の龍のことか。ならそうだ。俺とブレオナクであそこに閉じ込めることには成功したんだが…」
ブレオナク…こと白き龍を見つめるアポロンボルク、そして炎神ヘルフレイム。
アポロン「ソナタ、龍を召喚したのか」
ボルク「大丈夫…だよな。だって十也が召喚師だもんな」
炎神ヘルフレイム「純然たる悪意は感じない。申し分ないじゃろうて」
何か引っかかる反応を気にしつつも、まずはなすべきことをしなければと、十也は話を戻した。
十也「何か知恵はないか?あの金色の龍を倒すには、どうしたらいいか!」

アポロン「策はある。まずは地上に降りるぞ」

〜巨穴のそばに降り立って〜
アポロン「最初に告げておく。あのナイトメアを討つのはソナタだけだ」
十也「?お前たちも一緒に戦ってくれるんじゃないのか?」
ボルク「召喚師の戦いには、他の召喚師は関与できない、そういう決まりなんだ。能力も使えないしな」
十也「そういうもんなのか。それで、策ってなんなんだ?」

アポロン「召喚師には二つの選択肢が与えられる。一つは召喚獣を呼び出す『召喚』。そしてもう一つの『晶煥』だ」
十也「『晶煥』?」
ボルク「やって見るのが早いな。そうだな…結利、ちょっと来てくれるか!」
救護作業を終えた結利を呼び寄せると、あの石を持っているよな、と問いかける…
結利「石って、輝鉱石のこと?うん、持ってるよ」
それをブレオナクに投げ渡すように指示され、結利は訳もわからずその通りにしてみた。

投げ飛ばされた輝鉱石はブレオナクの首元にすっと引き寄せられ、次の瞬間、ブレオナクの姿を変えた!
白銀の鎧を身に纏う龍。その鎧には独特な武装紋様が施されている。
結利「わぁすごい!まるでフリントブレードみたい!」
十也「ブレオナクがフリントブレードを纏ったのか!」
その通り、召喚獣は他者の能力を纏うことができるのだ。そのためには能力者が念を込めた輝鉱石が必要となる。
能力が消えた世界にも、能力の残滓がある証拠でもあるのだ。

アポロン「武装だけではない。晶煥で纏うのは能力そのものだ」
結利「『リンク』を纏ったってこと?」
ボルク「さああとは十也、お前の仕事だ。あ、もう一つヒント、なぜフグは自身の毒で死なないのか?」
十也「ふぐ?…結利の能力…ってことは…そうか!何をしたらいいかわかったぞ!ブレオナク…いや、ブレオナク・リンク・ドラゴン!いくぞ!」
十也は武装したブレオナクの背に乗ると再び飛び上がった。

〜巨穴上空〜
ギャァァァァァォォォ!!!
穴の奥からは絶えず叫び声が響いている。
穴の中は混濁していて何も見えないものの、その禍々しさが致死を思わせていた。
十也「さていくぞ!」
ブレオナクが口元を大きく開く。
十也「爆ぜろ!炸裂のリンクストリーム!」

先刻同様、口元から波動球が放たれるのに合わせて、ボン!ボン!ボン!と爆発が発生する。
爆発は連鎖的に周囲に伝播する。
波動球が巨大な穴の中ほどに到達する頃には、爆発は穴全体に行き渡っていた。

十也「今だ!リンク!」
毒龍が放った毒素を爆風であつめて再構築し、毒龍が耐性を持たない毒素へと構築する。もちろん、毒龍以外には影響のない安全な毒だ!

未知なる毒素と、放たれた波動球を受ける毒蛇龍シュピーゲル・ヴァイパー。
ギャァァァオオオオオ!!!
一際大きな断末魔の後、毒龍はその姿を消し去った。

十也「やったぜ!」
結利「私たちの勝利だ!」

こうしてなんとか、十也たちは毒龍の魔の手からミストラルシティを守ることに成功したのであった!

だが忘れてはならない。
スピノザの一人、トキシロウがまだ、この街にいることに。
そして毒龍が去った後の巨穴が、ミストラルシティの地下に秘められた扉を開けてしまったことに。


かくして十也は最初の恐鳴召喚獣(ナイトメア)を退けた。
だがスピノザは安寧世界を維持するためにさらなる資格を送り込んでくるだろう。
十也はこの街を、そしこの世界を守り切ることができるのか。

そしてアポロンボルクが語る召喚と晶煥とは一体!?


TO BE COUNTINUED

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最終更新:2020年09月22日 23:16