奇遇(きぐう)

リヴィエラ「テメーは誰だ?諜報員か?なんで死んだスカイとアンダーがテメーと一緒にいやがる」
リヴィエラの眼には一凛のことはまるで目に入っていないようだ。彼女にとっては死んだはずのスカイとアンダーが目のまえにいること、そしてそれを操っているパラケル以外は見えていない。
一凛「あいつ…生きてたの」
静寂機関のビルから落下したのを確かに見た。だが彼女は死んでいなかった。ふらふらと歩きながらパラケルへと近づくリヴィエラ。
パラケル「こやつらの知り合いか。何者か知らぬが今お前に手間取っている暇はない!いけホムンクルス!」
スカイとアンダーがリヴィエラへと襲い掛かる。

ザシュ!

二人の手に持ったナイフがリヴィエラの体を切り裂く。だが…

ガッ!

リヴィエラは怯む様子もなく左腕で二人を抱きかかえるように掴む。
リヴィエラ「これは夢か?だったら悪い夢だな。悪夢は消し去らねぇとなぁ!!」
ニヤリと邪悪な笑みを浮かべるリヴィエラ。

ボッ!

スカイとアンダーの体を貫く突起物。二人の体を赤い槍を思わせる突起物が貫いている。それはリヴィエラの切り裂かれた体から出血した血。血が槍へと形を変え数十センチもの穴を彼女らの体に空けた。
リヴィエラ「どうしたスカイ、アンダー!これで終わりかぁ?」
体に穴が空こうともホムンクルスと化した二人の動きは止まらない。アンダーはその手をリヴィエラへと伸ばし、彼女へと触れようとする。だが…

ボッ!

見えない何かにアンダーの腕が吹き飛ばされる。
リヴィエラ「お前の能力は使わせねぇよ…」
そういったリヴィエラの眼はどこかを遠くを見ているような悲しい眼をしているように見えた。
リヴィエラ「おらっ!」
リヴィエラが二人の足めがけて蹴りを放つ。その常人離れした脚力から放たれた蹴りは二人の足が通常では曲がらない方向に曲がっている。その場に倒れた二人はなんとか起き上がろうとするが立ち上がることができない。
パラケル「ホムンクルスをここまで圧倒するとは…何者だ」
リヴィエラ「痛ぇ…痛ぇなぁ」
リヴィエラの体から流れる血。ボタボタと流れるその血は普通の人間ならば倒れていてもおかしくないほどの出血量に見える。
リヴィエラ「だけどよぉ…スカイとアンダーはもっと痛かったのかもしれねぇよなぁ!」
パラケル「なんだ…」
何かが迫ってくる気配を感じるパラケル。

ゴッ!

直後何かがパラケルを吹き飛ばす。
パラケル「ごはっ!」
地面へと叩きつけられるパラケル。
パラケル(見えないなにかが…)
リヴィエラ「だれか教えてくれよ…この悪夢はいつ終わるんだ」
空を見上げるように上を向く彼女。なんともいえぬ表情で空を見るその眼は悲愴に満ちている。その眼には得も知れぬ感情が詰まっているのだろう。
リヴィエラ「気が付けばよぉ…復讐を果たす相手ももう死んでいる。そのうえ今度はスカイとアンダーが目の前に現れるってか…どこまで続くんだよこの悪夢は!!うぉぉぉ!!!」
咆哮するように雄たけびを上げるリヴィエラ。なぜ彼女が生きていたのかはさだかではないがその異常さだけは肌にひしひしと感じる。かかわってはいけない…その感情が一凛の心に感じられる。
一凛(あいつ…今の私じゃ太刀打ちできる気がしない。でもチャンスかも、あいつが引き付けている隙に私は…)
その場を後にしようとする一凛。だがパラケルは一凛の動きを見逃さなかった。
パラケル「奴を逃がすな!ホムンクルス!」
スカイとアンダーが立ち上がる。ありえない方向に曲がった足は治っているようだ、一凛を捕えようと走り出すが…

ゴッ!!

見えない何かに吹き飛ばされる二人。
リヴィエラ「おいおい…なにあたしをシカトしてんだぁ?おまえらの相手は私だろ?どこにも行かせやしねぇよ!!」
パラケル「厄介な…なんなのだこいつは」
一凛(こいつに感謝するものあれだけど…今回ばかりは礼をいうわ。もう会わないのを期待してるけど…)
街中へと姿を消す一凛。
パラケル「ちっ!逃がすものか」
一凛を追おうとするパラケル。だがその前にリヴィエラが立ちはだかる。
リヴィエラ「どこに行こうってんだ?てめぇを逃がすわけないだろ!」
パラケル「貴様のような奴に構っている暇はない!ホムンクルスよ!!」

ボゴン!!

地面から植物のツルが生えてくる。

ガッ!

リヴィエラに巻き付くように、彼女を締め付けるツル。
リヴィエラ「これは…」
ツルに締め付けられ身動きが取れない。雑木林の中から誰かが姿を現す。
パラケル「我がホムンクルスの力を舐めるなよ」
その人物がリヴィエラの体を締め付けるツルを発生させているようだ。
パラケル「これで動けまい。ホムンクルス3人がかりでやっととは…てこずらせおって」
リヴィエラ「ぐっ…」
体を締め付けるツル。それを操る目の前の人物。それは彼女にとっては思いもよらぬ人物…
№25「…」
ホムンクルスと化した№25。目の前に現れた彼はスカイとアンダーと同じように生気が感じられない。
リヴィエラ「最高の…悪夢じゃねぇか」ニヤリ
口元を歪に歪ませ、笑うリヴィエラ。その笑みは単純な高揚感ではなく、様々な感情が入り混じったもの。不気味ともいえる笑み。直後!

ボッ!

ツルが見えない何かに切断される。ツルから解放されあおむけの状態で大の字に倒れるリヴィエラ。
リヴィエラ「だめだ…もう立てねぇ」
能力の使いすぎだろうか。その場から一歩も動くことができない。
パラケル「お前にこれ以上構っている暇はない」
一凛の後を追うようにパラケルとホムンクルスたちはどこかへ走り去っていった。その場に一人残されたリヴィエラ。彼女の寝そべっている地面が赤く染まっていく。彼女の体から流れる血が夕日に照らされ一段と輝く。
リヴィエラ(まさか…まさかだな)
もうその機会は失われたと思っていた。自分に生きる価値などないと自暴自棄にもなっていた。だが違った。予想だにもしなかったその機会は今現れた。
リヴィエラ(この機会(チャンス)を得られただけでも…いや違うか。この機会のためにあたしは死ななかったのかもしれない)
夕日へと手を伸ばし、その手のひらを大きく開く。
リヴィエラ「だったらよぉ!死にぞこないのこの命を燃やし尽くしてでも!!」
地面へと左手をつき立ち上がるリヴィエラ。その眼は先ほどまでの空虚な眼とは違い、何かを取り戻したようだ。
リヴィエラ「必ずあいつをぶっ殺してやる!そして…」
リヴィエラの脳裏に浮かぶのはともに任務をこなしてきた二人の姿。
リヴィエラ(スカイ…アンダー…あいつらを)

~ミストラルシティ治安維持委員第4支部前~
一凛「はぁ…はぁ」
息を切らすほど全力で走って来た一凛がたどり着いた場所。そこは十一たちの治安維持委員の支部だ。

ドッ!

何かが一凛にぶつかる。この感触…これは!

十一「先輩!」

十一だ。彼女が一凛に抱きついてきた。
十一「探したんですよ~!!」
一凛「心配かけたわね」
十一「先輩が無事でよかったです!」
犬のように一凛にスリスリと頬を擦り付ける十一。
美天「一凛さん無事だったんですね!よかった~」
焙那「也転一凛さんね。行方不明になってたと聞いていたけど…」
十一と共にいたのは第4支部のメンバーの美天と焙那。彼女らは遺体窃盗事件を追っていた。その中で遺体を操る男(パラケル)と対峙した。一凛から話を聞き状況を整理する一同。
美天「一凛さんを捕まえた目的は不明ですが他にも公園で行方不明になった人たちは全員能力者でした」
焙那「遺体を持ち去ったのは一人ではなく、仲間がいた。一凛さんが対峙した体を変貌させる能力者。それと死体を操る能力者。他にもいるのかはわからないけれど…」
一凛「死体を操る奴はその能力を錬金術といっていたわ。能力とは違うのかしら」
十一「錬金術…でもそんなはずが…」
その言葉になにか引っかかる様子の十一。
一凛「なにか知っているの十一?」
十一「先輩が対峙した相手がその能力を錬金術と言っていたのは間違いないんですね?」
一凛「確かにそう言っていたわ」
十一「そうですか…だとしたら彼らはヘルメスの流れを汲むものかもしれません」
美天「ヘルメス?」
聞きなれない名だ。だが一凛はその名を聞いた覚えがある。
一凛「そういえば…」
パラケルは「錬金術は能力ではない。我らが祖ヘルメスが生み出した術」と言っていた。
一凛「そのヘルメスのこと我らが祖とか言ってたわね」
十一「祖ですか…間違いないですね。爱马仕(ヘルメス・トリスメギストス)…彼の血脈が受け継がれていたとは」
焙那「爱马仕(ヘルメス)?」
十一「爱马仕は魔導都市メルディア=シールの歴史の中では有名な人物です。メルディア=シールを語るうえで外せないのが原初の魔導士。7つの魔導書を作り上げた大きな力を持った7人の魔導士。だけどその魔導士になりえなかったものがいた」
爱马仕は第八の魔導とも言える錬金術を生み出した。だがそれは大衆には理解されず、彼は行き過ぎた研究を続けメルディア=シールを追われてしまった。彼のみがその術の構築を可能としていた錬金術は彼と共に失われた技術として忘れ去られた。
十一「歴史のみに存在していた錬金術師を名乗るものが現れるなんて…それもここミストラルシティに」
一凛「あいつらはその爱马仕の錬金術を継承した奴ってわけ?」
十一「はい。錬金術を自称している以上その可能性が高いですね。死体を操る…そして肉体を変貌させる術。両方ともメルディア=シールの歴史書に書かれていた錬金術の記述に書かれています」
だが一番の謎は彼らが錬金術の継承者だとしてもなぜ今このタイミングでミストラルシティに現れたのか。それは一番の謎だ。
美天「いったいなにが目的なんでしょうか…」
十一「この前の公園の件…能力者を集めてる。それがなにか意味があるのかも」
一凛「…(私も手術台のようなところに拘束されていた…ただ暴れているわけじゃない。なにかをしようとしている)」
彼らがこのミストラルシティで何をしようとしているのかは定かではない。だがなにか目的があって能力者を集めているはずだ。
十一「私はメルディア=シールの資料から錬金術のことを探ってみます。彼らの狙いがわかるかもしれません」
焙那「私たちは直接彼らの動きを追うしかないわね」
死体を操る能力者と肉体を変化する能力者。錬金術師を自称する二人を追うしかない。
一凛「理由はわからないけどさっき公園であったあの死体を操る錬金術師も私のことを捕えようとしていた…」
錬金術師の狙いはわからない。だけど自分を狙っているのならばその行方を追うのも容易い。自分を撒き餌のようにあつかえば彼らはすぐに姿を現すはずだ、
一凛「なんでかわからないけどあいつらは私を狙っている…ようなきがする。だったらこっちもそれを利用して!」

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最終更新:2021年02月02日 22:53