治安維持委員(セキュリティ)

~更生院(カリキュラム)・入口前~
肇李(ちょうり)「前衛部隊!パターンα4(アルファフォー)」
肇李の合図とともに前衛部隊がさすまたを構え、33(みみ)へと突撃していく。それにすぐさま反応し、臨戦態勢をとる33。
肇李「『物質移動(マターチェンジャー)』」
肇李が言葉を放った瞬間、前衛部隊が手に持っていたさすまたがガス銃へと姿を変える。

パン!パン!

ガス銃から放たれるゴム弾。それは33の頬を掠めた。
肇李「いくら超聴覚による反応ができたとしても視覚情報との差異による反応誤差が生まれる。『物質移動』」
前衛部隊が手に持っていたガス銃がさすまたへと姿を変える。さすまたを手に33へと攻撃を仕掛ける。だがその攻撃は超聴覚を持つ33にはいともたやすくよけられてしまう。
33「…」
短剣を構える33。
史香「来ますよ!」
肇李「わかってるさ。後衛部隊!」
後衛部隊が手に持ったガス銃を構える。ガス銃の引き金に手をかける後衛部隊。
肇李「いまだ『物質移動』」
後衛部隊がガス銃の引き金を引いた瞬間。そのガス銃はさすまたへと姿を変えた。

パン!パン!

33「…」
33の体に直撃する無数のゴム弾。33と対峙していた前衛部隊の手には先ほどまで後衛部隊がもっていたガス銃が握られていた。銃口から登る硝煙。
33「…」
33は体をよろけさせ、その場に倒れる。
史香「これが肇李支部長の能力『物質移動(マターチェンジャー)』です」
九穏肇李(くおんちょうり)の能力『物質移動(マターチェンジャー)』は肇李率いる治安維持委員(セキュリティ)第3支部全員に作用する能力。第3支部員が手に持っているものを即座に入れ替えることができる。
肇李「遠くで放たれたと思った銃が即座に目の前に現れればさすがに対応できなかったみたいだね」
史香「これでこちらは片が付きましたね」
肇李「そう…んっ?」
勝利を確信し、安堵する…わけにはいかないようだ。
33「…」
33が起き上がろうとしている。至近距離であれだけのゴム弾を受けても、まだ立ち上がろうとしている。そう、33はホムンクルスと化している。ホムンクルスはどれだけ肉体的ダメージを負おうとも立ち止まることはない。なにせ死人なのだから。
肇李「まだ止まらないか」
史香「なんてタフさ…なんて言っている場合ではないですね」
肇李「様子のおかしい相手だとは思っていたが…まさか痛覚がないのか?」
史香「まるでゾンビですね…だったら前衛部隊!」
史香に応じるように前衛部隊がさすまたを33へと突き出す。
史香「これで!」

シュルル!!

さすまたの先端が鞭のように伸びていき、33の体に巻き付いていく。全身を拘束され身動きが取れない33。
史香「拘束完了です」
肇李「さすがだね史香」
史香「いえ、私たち第3支部の結束力あっての結果です」

~~

挫羅(くじら)が造り出した風の壁により攻撃が鎖霾(さめ)に通らない。88(はっぱ)はゆっくりとその場から歩み始める。
88「…」
一歩目を踏み出した88。だがその歩みが2歩目を迎えることはなかった。

ヴン!

88が足をついた地面に何かが表示される。

『DANGER(デンジャー)!Explosion(エクスプロージョン)!』

赤く光る文字が地面に表示されたと思った次の瞬間!

ドゴォン!!

88の足元の地面が爆発する。爆発に飲み込まれる88。
鎖霾「私の罠(トラップ)にかかったわね!」
挫羅 「さすがですね鎖霾支部長。事前に仕込んでいましたか」
鎖霾「当然でしょ。ただ逃げ回っていただけじゃ…」

ゴゥ!!

爆炎の中から何かが上空に飛ぶ。88だ。その身は火傷でただれているが、動きに違和感はない。まるでダメージがないかのように動いている。
鎖霾「あの爆発に巻き込まれても平気なの!?」
88「…」
空中を蹴るように鎖霾に向かって突撃してくる88。よくみると88の足には無数の葉っぱがくっついている。その葉を操り、空を飛ぶように移動しているようだ。
鎖霾「挫羅!」
挫羅「はい防風壁(エアロ・シャッター)!」
両手を前に突き出す挫羅。突撃してくる88が風の壁へと衝突する。

バチン!

衝撃音とともに風の壁を突き抜ける88。
挫羅「防風壁が突破された!?」
88「…」
鎖霾へと狙いを定めた88が迫る。もう突撃する目前だ。
鎖霾「やばっ…なんてね」
そういうと鎖霾は頭を抱えしゃがみ込む。

『DANGER(デンジャー)!Explosion(エクスプロージョン)!』

空中に表示される赤い文字。そして…

ドゴォン!!

空中で起きる爆発が88を包み込む。
鎖霾「そういえば言ってなかったわね。私の罠(トラップ)は空中にも設置できるのよ」
挫羅「やりましたね鎖霾支部長」
鎖霾「えぇ。さすがにこれで…」

チッ!

鎖霾の頬を掠める葉。
鎖霾「いた…」
頬を抑える鎖霾。この葉っぱは…
88「…」
赤く焦げ、皮膚がただれ落ちた88が地面に倒れた状態で葉っぱを操っている。
挫羅「まだ動けるなんて!こいつ人間じゃないのか」
鎖霾「見た目は人間でも、大方そこらじゅうの化け物と同じってとこね」
88「…」
周囲の木々から無数の葉っぱが88のもとへ集まってくる。88の周囲に浮かぶ無数の葉。その一つ一つが鋭い刃のように襲ってくればひとたまりもない。
挫羅「これだけの数…私の防風壁じゃ防ぎきれない」
鎖霾「ふぅ…心配する必要はないわ挫羅」

パチン!

鎖霾が指を鳴らす。すると88の倒れている地面に赤く光る文字が表示される。

『DANGER(デンジャー)!Pitfall(ピットフォール)!』

直後、88を中心に円状に赤い光が発生する。

ボゴン!

赤い光の円に囲まれた地面が陥没する。陥没した地面に落ちていく88。穴の深さは底が見えないほどだ。落ちてしまったら、自力で上がってくることはできないだろう。だが能力者なら話は別だ。落ちていく88に向かって無数の葉が追いかけるように落とし穴の中に飛んでいく。
鎖霾「挫羅!」
挫羅「はい!」
両手を落とし穴の上に当てる。
挫羅「防風壁(エアロ・シャッター)!」
落とし穴に空気の壁で蓋をする挫羅。
鎖霾「相手は人間じゃない…だったら遠慮はしないわ!」
落とし穴の中に表示される『DANGER!』の文字。
鎖霾「燃え散りなさい!『Explosion』!」

パチン!

鎖霾が指を鳴らした瞬間、落とし穴の中で起きる爆発。落とし穴の中は爆炎で満たされる。88と葉っぱはその身を炎に焦がされ、塵と化していく。
鎖霾「最初の一歩を踏み出した瞬間、あなたの敗北は確定していたのよ」

~~

焙那の能力『温度調整(テンパーチャー)』によって64(むし)が操る虫は去っていった。
64「…」
美天「もう虫は怖くないです!」
焙那「観念しなさい!」
64「…」
64は奥歯を鳴らすように噛む。すると奥歯の中から液体が漏れ出し、64の体に浸透していく。

ビキビキ!!

変貌していく64の体。その四肢は昆虫を思わせ、顔も甲虫を連想させる姿へと変貌する。
美天「ひぃ!昆虫人間!?」
焙那「自分自身を虫に…」
64「…」
口を大きく開く64。

ヴヴヴヴ!!

その口から無数の虫が飛び出てくる。焙那たちに襲い掛かる虫たち。
美天「きゃぁぁ!!」
焙那「うっ!」
十一「美天!先輩!」
魔導帳のページをちぎり、二人へ向かって投げる十一。

ボォ!!

魔導帳のページから炎が発生し、虫たちを燃やしていく。だが虫は次々と湧いて出てくる。燃やし尽くせない!
64「…」

ビュッ!!

64の口からムカデのような触手が十一に向かって放たれる。
十一「あっ!」
十一の魔導帳が触手に奪われる。
十一「私の魔導帳!!」
魔導帳を追うように64へと縋る。
64「…」

ヴヴヴヴ!!

虫たちが十一と64を囲み、壁のように集まっていく。魔導帳を飲み込む64。
十一「仲間と遮断して、一人づつというわけですか…」
魔導帳を失った十一は絶体絶命。虫の壁に阻まれ逃げることもできない。そして虫の壁の外では美天たちが虫に襲われている。一刻の猶予もない。
十一「ピンチには違いないけど…状況は都合がいい!」
自分の姿が見えているものは目の前の64のみ。となれば…
十一「人体魔導術式『千百款染(スィンバイクァンラン)』!!」
服の上からでもわかるほど十一の体が青く光る。彼女の体に刻まれた模様と魔導文字の刺青が光を放っているのだ。
十一「時間がありませんので!」
64の視界から十一の姿が消える。
十一「一撃で決めさせてもらいます!」
64の背後から聞こえる十一の声。右手のひらを開き、64の背中へと当てる。
十一「魔導帳を飲み込んだのは悪手でしたね」

ボゴン!

64の腹が風船のように膨らむ。
十一「魔導帳の術式を間接的に発動させました。あなたの体の中で行き場を失ったマナは爆ぜる」

ボゴボゴ!!

全身が風船のように膨らんでいく64。そしてマナの奔流に耐え切れなくなった64の体は…

パン!

衝撃音とともに爆ぜた。
十一「やりすぎましたかね…でもこれで…」
あたりを見回す十一。おかしい。64を倒したのに虫の壁は消える気配がない。
十一「なんで…」
爆ぜた64のほうを見るとあたりに散らばる体はよく見ると小さな虫が集合して形作っている。
十一「これは…」

ズッ…

なにかが十一の脇腹を貫く。脇腹に目をやると、ナイフが突き刺さっている。じわりと服に血がにじむ。
十一「うっ…」
ナイフが飛んできたほうを見ると、そこには64の姿があった。その姿は昆虫などには変貌しておらず、最初に対峙した時の姿のままだ。
十一「昆虫への変貌は見せかけ…視覚的な衝撃を与えるための手段。この小さい虫を集めて形作っていたということですか…」
64「…」
焙那の能力『温度調整』によって虫が去っていったところから64の策略に乗せられていたということだ。能力で操られている虫に温度変化など関係なかったのだ。
十一「読みあいはあなたのほうが上手でしたね…」
膝をつき、両手を地面につく十一。そのわき腹からナイフが落ちる。
64「…」
ナイフを手に64が十一へと迫る。
十一「ですが…」

フッ…

姿を消す十一。

ドゴッ!

激しく揺れる64の頭。十一の蹴りが64の頭を捉え、地面へとたたきつける。地面に顔面から打ち付けられる64。その体がピクピクと痙攣している。
十一「はぁ…はぁ…。これでしばらく…起き上がってこれないでしょう」
十一の脇腹の傷が治っている。
十一(細胞の活性化…傷の治癒はできますが体力は著しく消費しますね)
千百款染を解除する十一。

ヴヴヴヴ!!

虫たちがいずこかへと去っていく。
十一「美天!先輩!」
美天「十一さん!よかった~無事だったんですね」
焙那「やったのね」
十一「はい、なんとか」
焙那「こっちはなんとかなりそうね」
十一「でしたら私は一凛先輩のほうに合流しようと思います」
美天「大丈夫ですか?戦ったばっかりなのに…」
十一「心配しないで美天。先輩のほうが心配だわ」
杞憂ならいいのだがなにか胸騒ぎがする。早く一凛のもとへ向かわなければいけない気がする。
十一(先輩…今行きます。どうぞご無事で)

~~

列覇(れっぱ)「うぉぉぉ!!」
列覇の体を覆うオーラ。分身した86たちは構わず列覇へと襲い掛かろうとする。だが…
怜霞(りょうか)「…決着ですね」
一瞬のことだった。列覇の体を覆っているオーラの輝きが周囲に拡散したと思った次の瞬間、86の分身はすべて消滅し、86自身も物言わぬ死体へと戻っていた。
列覇「なんだ!?まだタイマンは終わっていないぞ!」
86の死体に近寄る列覇。そのまま死体につかみかかろうとする列覇を怜霞が止める。
怜霞「先輩。相手は息をしていません。終わったんです」
列覇「なに!?死んでしまったのか!?」
怜霞「いえ…最初から死んでいたというのが正しいかもしれません」
列覇「死んでいた!?俺はやつと戦っていたぞ!意味が分からん!」
怜霞「はぁ~。相変わらず単細胞ですね。ようするに先輩が戦っていた相手は何者かが能力で操っていた死体だったということです」
列覇「死体を操る!?それは驚きだな!」
怜霞「えぇ、珍しく先輩の意見に同意です。ですがいまは驚いている場合じゃないです。ほかの連中も止めないといけません。行きますよ先輩」
列覇「おぅ!」

~~

涅尤(くりゅう)「こいつ…」
目の前の男の身のこなし。見覚えがある。
涅尤「秘密諜報員か。だがなにか…」
様子がおかしい。まるで生気がないような。
涅尤「まぁいい。こいつの正体など俺には関係ないことだ」
炭の刀を両手で持ち、真上へと向け構える。
涅尤「はぁ!」

ズッ…

刀を十字に振り、74の体を切断する涅尤。
涅尤「炭刀・残心(スミガタナ・ココロノコリ)」

サァァ…

涅尤の持っていた炭の刀が塵のように消えていく。涅尤は勝利を確信したかのように74の姿を見ず、更生院へと歩いていく。だが…
74「…」
74の体は切断などされなかったかのように元通りになっている。背中を向け無防備な涅尤へと74がナイフを持ち狙いを定める。

チリチリチリ…

74の周囲で音が鳴る。何かが擦れるような音。だが気づいた時にはもう遅い。

ボン!!

74の周囲で起きる爆発。空気中に舞っている炭刀の炭が摩擦で連鎖爆発を引き起こしていく。次々と起きる爆発。それは74の体を徐々に吹き飛ばしていく。
74「…」
能力で体の状態を1秒前に戻す74。だが爆発はやまない。体を戻してもすぐさま次の爆発によるダメージを負う。いくら回復しても体がもとに戻ることはない。次第に回復が追い付かなっていく。
74「…」
能力の限界か。74は体を元に戻すことができない。爆発により吹き飛ばされていく74の体。だがそんなことに涅尤は目も触れない。それが当たり前の結果だとわかっているから。
涅尤「残心の息。感じられなかったお前の負けだ」
そう言い残し涅尤は更生院の中へと進んでいくのであった。

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最終更新:2021年04月17日 15:24