激闘(げきとう)

時は少しさかのぼり…
~EGO・ミストラルシティ支部~
十也「ドク!」
慌てるようにマードックへと駆け寄る十也。タウガス共和国から帰国の最中、カレン長官が倒れた話を聞き急いで戻ってきたのだ。
マードック「おかえり十也、っと談笑する場合でもないよね」
十也「カレン長官が倒れたって本当なのか?」
マードック「あぁ。錬金術師を名乗る連中にやられた」
十也「それで長官は無事なのか?」
マードック「命に別状はないよ」
十也「よかった…」
安堵する十也。だが長官が倒れた原因、そちらのほうはまだ片付いていないはず。そちらの進展が気になる。
十也「長官が戦った奴らは?」
マードック「更生院に立てこもっている。今うちの支部と治安維持委員で彼らに対処するための作戦を実行中だ。戻って早速だが行けるね?」
十也「あぁ!」
マードックの問いに迷うことなく彼は一つ返事で答えるのであった。

そして今…

~~
リヴィエラ「だれだあいつ…」
リヴィエラ、十一、零軌の前に立つ十也。
十一「たしかEGOミストラルシティ支部の…」
十一はミストラルシティ支部へ研修へ行った際、彼の姿を見たことがある。名前まではわからないが。
零軌(まさか…また会えるなんて…運命というものがあるのなら信じてみたくなるタイミングねぇ)
零軌の表情が少しほころんだように見える。
十也「君たちは下がって!この錬金術師は俺が何とかする!」
十一「ち、違うんです!先輩は…錬金術師じゃないんです!」
十也「えっ?どういうこと?」
零軌「いろいろと事情はあるのだけれど説明している暇はないのよねぇ」
リヴィエラ「とにかくあいつは殺すなってことだ!元に戻さなきゃなんねぇ」
十也「状況はまったくわかんないけど…とりあえず!!」
槍の矛先を一凛へ向ける十也。
十也「あいつを動けなくすればいいんだよな!」
一凛「…」
一凛は無言のまま、その右手を十也へ向ける。
十也「うぉ!?」
十也の体が地面へと押し付けられるように倒れる。上から風で押し付けられ身動きが取れない十也。
十也「いきなりかよ!くそっ!ブレオナク!」
十也の持つ槍の刃部分が射出される。一凛へと飛んでいく射出された刃。
一凛「…」
一凛は風の壁を作り出し刃を受け止める。
十也「通らないか…だけどこの隙に!」
風の壁を作るのに力を回したせいで、十也を押さえつけていた風の力が弱まったようだ。なんとか立ち上がる十也。
十也「『ブラスト・リンカー』!」

ゴオォォォ!!

十也の体を激しい突風が包み込む。

バシュン!!

突風の中から鎧を纏った十也が姿を現す。
リヴィエラ「鎧…あいつの能力か」
十也「こっからが本番だ!ブレオナク!」
十也の呼びかけに応じるように射出された槍の刃が柄へと戻る。
十也「風の壁を突破しないと攻撃は通らない…だったら!」

ガキン!

四枚刃の槍が二枚刃の槍2つへと分離する。
十也「『ブレオナク・ツヴァイ』!はぁ!」
一方の槍を投擲し一凛へと投げる十也。だがその槍は風の壁に阻まれる。
十也「いまだ!」
一凛の背後からもう一方の槍を手にした十也が切りかかる。だが十也の思惑むなしくその攻撃も風の壁に阻まれる。
十也「だめか…」
風の壁は一凛の全面に展開されている。多方からの攻撃でも壁を打ち破ることはできない。
十也「いったいどうすれば…」
一凛「…」
十也へと右手を向ける一凛。
十也「うっ…」
十也の周囲の空気が遮断される。呼吸ができず苦しむ十也。
十也(ぐっ…!)
零軌「まずいわね」
十一「とめないと!」
リヴィエラ「ちっ!」
十一とリヴィエラが一凛へと立ち向かう。
一凛「…」
一凛は地面へと左手を向ける。

ゴッ!!

地面を風の衝撃波が伝わり、リヴィエラ、十一を吹き飛ばす。
十一「きゃぁ!」
リヴィエラ「がはっ!」
衝撃で気を失う二人。
零軌「もう手は…ないわねぇ」

「はぁぁ!!」

叫び声が辺りに響く。その叫び声の主は十也へとまっすぐと飛んでいき、そのまま十也を蹴り飛ばす。
十也「ぐあっ!」
地面へと吹き飛ばされる十也。だがおかげで真空状態からは脱することができた。
零軌「あれは…」
十也を吹き飛ばした人物、それは…
列覇「まだ…まだだぜ!」
義丈列覇だ。全身に切り傷を負い、頭部からは流血しながらも彼が一凛の前に立ちはだかる。
列覇「大丈夫かあんた?」
十也「あ、あぁ(そういうお前のほうが大丈夫じゃなさそうだけど…)」
流血し、ボロボロになりながらも列覇は弱った様子もなく十也へと問いかける。
列覇「あいつを倒すんだろ?協力するぜ!」
そんな列覇に触発されてか、十也も気を引き締め改めて目の前の一凛への対策を考える。
十也「助かる!だけど壁に阻まれてこっちの攻撃は通らない…どうする?」
そんなの決まっているといわんばかりに列覇はにやりと笑い、腕を組みその場に立つ。
列覇「俺が壁を破壊する!その隙にあんたはあいつをなんとかしてくれ!」
理論も何もないが彼ができるというのならばできるのだろう。根拠のない自信。列覇のことも知らない十也は念を置くように彼に確認する。
十也「あの壁を突破できるのか?」
その問いは不毛!とでもいうように列覇は二つ返事で答える。
列覇「任せろ!俺ならできる!」
それを聞き十也も覚悟を決める。ほかに手がない以上、彼を信じてみようと。
十也「おし!なら任せた!」
十也のその言葉を聞いた列覇は拳に力を籠める。
列覇「よっしゃいくぜぇ!」
闘気のオーラが列覇の体を包み込む。オーラを纏った列覇は拳を構え一凛へと殴り掛かる。

ガキン!!

風の壁に阻まれる拳。だが…

バシュン!

拳に触れた風の壁が消滅する。
列覇「うおらぁ!!」
一凛へともう一方の拳を突き出す列覇。その拳は一凛を覆う黒い膜へと直撃する。

ビキビキ…

黒い膜にひびが入る。
一凛「…」
一凛は列覇へと手をかざす。再び真空状態を作り出す気だろう。だが列覇はそれを読んでいた。
列覇「やらせるかよ!」
地面へと両足を踏み込む。その衝撃で列覇の両足周辺の地面に亀裂が入る。

ガッ!!

一凛のかざした手をにぎるように掴む列覇。
列覇「全身全霊!!」

ボッ!!

列覇の体を包むオーラがひときわ大きくなる。
列覇「さっきまでの俺は根性が足りてなかった!もう押し負けないぜ!」
一凛「…」
列覇のオーラにつつまれる一凛。能力を発動しようとしているが列覇の力で発動できないようだ。
列覇「いまだ!!」
十也「いくぜ!AS(アクセラレート・シフト)!」
十也の着ている鎧が赤熱化していく。両足に力を籠め、その場で構えをとる十也。その右手に持つブレオナクの刃を一凛へと向ける。
十也「いけブレオナク!」
ブレオナクの刃がワイヤーで射出される。一凛へと迫るブレオナクの刃。
十也「捕える!!」

ガバッ!!

ブレオナクの4枚の刃が開き、龍の口のように一凛を挟み込む。
列覇「まかせた…ぜ!」
十也「あぁ!任された!」
一凛から手を放す列覇は力を使い果たしたように目を閉じ倒れる。ブレオナクに挟み込まれた一凛は身動きをとることができない。
十也「戻れブレオナク!」
ブレオナクのワイヤーが戻っていく。十也の元へと引き寄せられる一凛。
十也「アクセラレート…」
十也の右足に粒子の光が集まっていく。輝く右足。
十也「インパクトの瞬間…そこで!」
ブレオナクが戻ってくる。一凛をめがけて右足で蹴りを放つ十也。
十也「ブレイク!」
右足を振り切らず、力を押さえるように蹴りを放つ。一凛の腹部に放たれる蹴り。だがその衝撃はすさまじい。一凛を覆う全身の黒い膜、その全身にヒビ割れが入る。
十也「ブレイク・エンド!」
十也の右足の粒子の輝きが散弾のように一凛へ放たれる。その粒子の散弾は一凛を覆う黒い膜を次々と消滅させていく。

パキン!

黒い膜が剥がれ、消滅する。その中から一凛が姿を現す。彼女は意識を失っているようだ。その胸の前には赤く光る賢者の石が浮遊している。
十也「あれが力の源…破壊する!」
ブレオナクを賢者の石へと振るう十也。だが…

ガキン!

ブレオナクは賢者の石に弾かれてしまう。
十也「なんで!?」

十一「賢者の石。あれは普通の方法では破壊できません」

気を取り戻した十一。彼女は意を決したかのように自分の胸に手を当てる。
十也「じゃあどうすれば…」
十一「原書の魔導書と同じ特性を持つのだとすれば…」
スカートのポケットに手を入れる十一。そこからボロボロの魔導帳を取り出す。
十一「緊急用に残していた魔導帳…出て、おねがい」
魔導帳の1枚を手に取る十一。通信用の魔導が込められたそれはとある人物につながる。

『通信魔導?もしかして十一(シィイン)?』

通信の相手。それは…
メルト『久しぶりだね!どうしたの?』
十一「時間がないの!メルトが前に言っていたミストラルシティの地下、魔導書が封印されていた場所ってどこ?」
メルト『それなら今ちょうどそこにいるんだ!えっとねぇ、実は…』
予想だにしない答え。だけど今の十一にとっては好都合だ。
十一「ごめん!理由を聞いている暇はない。すぐにその場所に向かう!転移するから位置情報を伝達魔導で教えて!」
メルト『えっ、あっ…わ、わかった!』
メルトの位置情報が十一の脳内に送られる。
十一「よし…」

ガッ!

賢者の石をつかむ十一。
十也「どうするんだ?」
十一「私が…先輩を助けます!(たとえどうなったって関係ない…先輩のためなら!)」
魔導帳の一枚を手に取る十一。

シュン!!

賢者の石と十一が一瞬にしてその場から姿を消す。
十也「…消えた。っと!」
気を失った一凛を抱える十也。
十也「先輩…か」
一凛の顔を見る十也。一凛は意識はないはずなのだが十一の声が聞こえていたかのように少し安堵したような表情で眠っているように見える。
十也「いい後輩をもったな」


~ミストラルシティの地中奥深く~

シュン!

十一「ここは…」
賢者の石を手に転移してきた十一。
メルト「十一(シィイン)!」
十一の姿を見たメルトは涙を流しながら駆け寄ってくる。その手は土で汚れ、ずいぶん疲弊しているようだ。なにがあったか聞きたいところだが今はそんな暇はない。
十一「メルト。これを封印する!」
手に持った賢者の石をメルトへ見せる。仮にも魔導士であるメルトはそれがなになのかすぐに理解した。
メルト「えっ!?これって賢者の石!?なんで!?」
十一「説明している暇はないの」
そういう十一の眼は本気だ。その眼を見たメルトはすぐに気持ちを切り替える。
メルト「こっちです!」
十一を魔導書が封印されていた場所に案内するメルト。そこには台座があり、そこに何かがあったと推測される。
メルト「高鳴(ガオミン)様が輝鉱石で魔力の残滓を回収してしまったから今は何もないけど…」
長年封印されていた魔導書とその残滓をも蓄えておけるほどの空間。賢者の石を封印するには好都合の空間だ。
十一「賢者の石を封印する」
台座に賢者の石を乗せる十一。だが賢者の石は自分が封印されるのを理解しているかのように、そしてそれに抗うかのように触手を十一へと伸ばす。
十一「まずい!防御する手段は…」

ボッ!

触手が炎に包まれ燃える。
十一「メルト!」
メルト「いざというときに残していた魔力…しかたがないですね!ここで全部使います!」
十一「ありがとう!私もありったけで!」
二人は魔力を台座に込める。すると賢者の石が化石のように白化していく。

ビキビキ…

ただの石のように白化する賢者の石。物言わぬただの石へとその姿を変える。完全に機能を停止したようだ。
十一「やった…」
膝をつく十一。安堵とともに緊張が解け体の力が抜ける。
メルト「なんだかわからないけど…終わったの?」
十一「はっ!まだです!先輩!」
ふと我に返ったように最後の魔導帳を手に取る十一。転移魔導が刻まれたそれを発動する。
十一「助かったよメルト!またね!」
メルト「転移魔導!?あっ!まって…!」
メルトの声は十一には届かなかった。一人その場に取り残されたメルト。
メルト「仕方がないか…よし!」
覚悟を決めたようにメルトは眼前の土壁を見据える。
メルト「うぉぉ!!」
土壁を手で必死に掘り進めるメルト。彼女の明日はどっちだ。

~更生院・入口前~
十一「先輩!」
更生院へと転移してきた十一。辺りを見回すと倒れた一凛を抱える零軌の姿が見えた。すぐにそこへと駆け寄る十一。
零軌「安心しなさい。一凛さんは無事よぉ」
十一「よかった…せんぱ~い!!!」
涙を流しながら一凛へと抱き着く十一。
十一「よかった~…本当に…無事で」
零軌「あらあらぁ。本当にいい後輩を持ったわねぇ一凛さんは」
その日、救急隊が現れるまで、十一の鳴き声はその場にこだましていたそうだ。

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最終更新:2021年06月22日 21:50