リオルにより開催を宣言された『大運動祭(だいうんどうさい)』。その話は瞬く間にミストラルシティ中に広がった。
各高校の生徒、それにEGOと連携する組織である治安維持委員(それを構成するものも学生、高校生も多いためだろう)もミストラルシティ始まって以来のこの一大イベントに胸を躍らせるのであった。
~魔導都市メルディア=シール・千百(スィンバイ)家~
椅子にたたずみ優雅に紅茶を飲む黒い長髪の男。
コンコン!
彼の部屋の扉をノックする音が聞こえる。
一一(イーィン)「入れ」
部屋の扉を開け入ってきたのは彼の家の使用人だ。
千百家使用人「一一様。例の件ですが…」
はてと一瞬思ったが例の件と言えばあのことかと思い出す。
一一「ミストラルシティか」
千百家使用人「はい。あの街に潜伏していたエージェントから連絡が来ました」
一一「ということは」
舌なめずりをする一一。
千百家使用人「使えそうな現地の能力者を手配できたとのこと。送られてきたリストはこちらに」
一一の机の上に置かれる書類。
一一「そうか。下がっていいぞ」
千百家使用人「はっ」
一一(訳の分からない化け物の襲撃やEGOの内乱に巻き込まれてずいぶん遅くなったな)
机の上の書類に目を通す。
一一「んっ?現地調達の能力者…学生か」
少し不安がよぎるが、たしかあの街は学生でも強力な能力者が多くいると聞く。それにエージェントが選別したものだ。余計な心配は不要か。
一一「それに私自身もいく。待っていろ十一。私自らお前に粛清を下す」
そして時は経ち、とうとう迎える『大運動祭』開催当日。
~ミストラルシティ・大体育場~
ガヤガヤ!!
いまだかつてないほどに活気にあふれる会場。それもそのはずミストラルシティ中の高校の代表選手たちがここへ集まっているのだから。
一凛「いや~壮観だね」
十一「これだけの数の学生が集まることなんてないですからね」
裳丹(もにわ)高校のジャージに身を包む二人。彼女たちの周りには同じく裳丹高校の生徒たちがずらりと並んでいる。その中には当然彼女の姿もあった。
零軌「あらあらぁ?そこにいるのは一凛さんじゃないかしらぁ?」
一凛「げっ!?零軌!」
あからさまに嫌そうな顔をする一凛。
零軌「そんな顔をしなくてもいいんじゃないかしらぁ一凛さん。さんざん苦楽を共にした仲じゃない」
金色の長髪を靡かせ、流し目で一凛の方を見る零軌。
一凛「苦楽を共にした仲ぁ?あんたと私が…」
言いかけた一凛を遮るように割って入ったのは…
十一「私の方が先輩と苦楽を共にしてます!先輩への愛なら負けません!」
相変わらずの一凛愛を披露する十一だ。
一凛「愛って…」
零軌「相変わらず面白い子を連れてるわね。じゃあ競技が始まったらお互い頑張りましょう」
そういうとその場を後にする零軌。そんな零軌の後姿を番犬のようににらみつける十一。
「一凛さ~ん!十一さ~ん!」
遠くから二人を呼ぶ声が聞こえる。この声は…
十一「美天(みそら)!」
美天「お二人も選手として出場するんですね!」
一凛「美天さんもでるんだね」
十一「いつもは同じ支部の仲間だけど今回は敵同士!手加減はしないわよ!」
美天「はい!私も負けません!」
一凛「お互い頑張りましょう」
美天「はい!」
「美天!そろそろ点呼始まるわよ!」
美天を呼びに継応(つぎおう)高校の生徒がやってくる。彼女は確か…
十一「第3支部の…」
史香「第4支部の十一さんね。それと…」
一凛の方に顔を向ける史香。
一凛「私は裳丹高校2年の
也転一凛よ。よろしくね」
史香「はいこちらこそです。私は治安維持委員第3支部の三巻史香(みまきしか)。以後お見知りおきを。さぁいくわよ美天」
美天「は、はい!お二人ともまた後で!」
一凛「私たちも点呼がはじまる時間ね。いきましょうか」
十一「はい!」
始まる各高校の点呼。点呼が終わった学校の生徒たちが順に会場内に整列していく。
ずらりと並ぶ生徒たち。その前方にはEGOの職員と各校の教員たちが立っている。
リオル「ではこれより開会式を始めます」
EGOミストラルシティ支部長官の一言で『大運動祭』の開会が宣言される。
リオル「ミストラルシティの高校生諸君!本日はよく集まってくれました。各々の力を十二分に発揮してこの『大運動祭』を楽しんでいただければと思います。長々と話をするのは性に合いませんので、さっそく選手宣誓に移らせてもらいます」
マードック「選手宣誓。常西(じょうさい)高校・義丈 列覇(ぎじょう れっぱ)君、裳丹高校・響零 零軌(ひびお れいき)さんお願いします」
一凛「零軌!なんであいつが選手宣誓に!?」
一凛は知らないが零軌は外面は最高にいいのだ。品行方正で通っており、まさにお嬢様学校のお嬢様という感じを醸し出すほど。その品行方正さから選手宣誓の生徒に選ばれたのだ。
一凛「あっちの男はだれ?」
十一「何言ってるんですか先輩!義丈列覇と言えば高校生でただひとり治安維持委員の支部長になれた人ですよ。超有名人です!」
治安維持委員第1支部長義丈列覇。熱血・根性を形にしたような人物で猪突猛進を体現しているかの振る舞いを見せる。だがその正義感はだれにも劣らない。
一凛「へぇ~そんなすごい人なんだ」
そうしてるうちに学生たちの前にでてきた列覇と零軌がリオルの前に立つ。
列覇&零軌「宣誓!!」
列覇「俺たち選手一同は日頃の練習の成果を発揮し、全身全霊全力全開で!」
&
零軌「我 々 選手一同は日頃の練習の成果を発揮し、全身全霊で」
列覇の方をちらりと横目で見る零軌。
零軌(この人ぉ…ちゃんと練習通りやれないのかしらぁ…)
列覇「競技を勝ち抜くぜ!!」
&
零軌「競技に向かうことを誓います」
パチパチパチパチ!!
会場内に響く拍手。
マードック「え~、これにて選手宣誓を終わります。では長官」
リオル「これより『大運動祭』を開催する!!」
バン!バン!
街中に響き渡る花火の音。『大運動祭』開催の合図だ。開会式が終わり、競技の準備に取り掛かる学生たち。
一凛「最初の競技ってなんだっけ?」
十一「えぇと…」
携帯端末を操作して、大運動際のプログラムに目を通す。
十一「最初は徒競走ですね」
一凛「徒競走…確か私は…」
出場者リストに目を通す。裳丹高校の出場選手は…
一凛「あった!私の名前!」
一凛のほかにも裳丹高校の出場選手がいるようだ。
十一「先輩はAブロックですね。最初から出場、がんばってください!」
一凛「えぇ!いわれなくても!」
アナウンス『まもなく第1種目徒競走が始まります。各校の出場選手はスタート地点についてください』
一凛「いきますか!」
一凛を始めとした各校の選手がスタートラインへとつく。
ワーワー!!
各校の応援により沸く会場。いよいよ第1種目が始まる。
『こちらは会場内に設置された特設スタジオです☆私は今回大運動祭の実況を担当させていただくALICE(アリス)で~す☆』
ALICEといえば昨今メディア露出が増えてきたブレイクしそうなアイドルだ。アイドルの登場に沸く会場。
ALICE『解説役はEGOミストラルシティ支部副長官マードックさんで~す☆』
マードック『よろしくお願いします』
ALICE『まずは競技内容の説明で~す☆』
マードック『第1種目の徒競走はここ大体育場をスタート地点とし、ゴール地点である中央公園を目指してもらいます』
その距離は約1キロ。徒競走にしたら長距離だ。だがこれは普通の運動会ではない。参加する生徒たちは特殊な力を持っているのだから。
マードック『基本的には能力は使用していただいて構いません。ですが相手に大けがを負わせるような能力の使い方は禁止です。ルール違反を行った場合即退場していただきます』
ALICE『みんな仲良くゴールを目指してくださ~い☆ではでは~次は各校の出場選手を紹介しますね☆』
マードック『徒競走Aブロック、各レーンに並んだ選手の紹介を行ってもらいます』
ALICE『は~い☆まずは第1レーン継応高校三巻史香さん☆』
ワーワー!!
継応高校の生徒たちからの声援が聞こえる。
美天「がんばれー!三巻さーん!!」
ALICE『どんどんいくよ~☆第2レーン端東(はとう)高校玉原将(たんばらしょう)君☆第3レーン羽剛(ばごう)高校沼里周防(ぬまりすおう)君☆』
各校から聞こえる声援。
ALICE『第4レーン豊泉(ほうせん)高校鳥原伊緒(とりばらいお)さん☆第5レーン常西(じょうさい)高校砕雅怜霞(さいがりょうか)さん☆』
列覇「怜霞ぁ!!絶対勝てよお!!」
ALICE『そして第6レーンは裳丹高校の
也転一凛さんです☆』
十一「せんぱ~い!!ファイトです!!」
マードック『以上6名が徒競走Aブロックの出場者になります』
ALICE『みんな~準備はOKかな~☆』
各レーンで両手を地面につき足に力を籠める6人。
ALICE『OKみたいだね~☆それじゃあ~いくよ~☆』
スタート地点に立つEGOの職員が手に持った空砲を空へと向ける。
ALICE『位置について~、よーいドン☆』
パン!!
空砲が放たれる。スタートの合図だ。6人はそれぞれにゴールを目指しスタートする。
将「なんだ!?」
足がもつれる。
周防「なにかおかしい…これは地面が!?」
足をついた地面がまるで柔らかいゴムのように波打つ。足を取られ進めない学生たち。
史香「先手必勝で行かせてもらいます」
ALICE『お~っと、これは史香さんの能力ですかね☆ほかの選手が足を取られて前に進めません☆』
伊緒「こんな手で止められないわ!」
伊緒の両足を伝うように彼女の前方の地面が凍り付いていく。彼女は凍った地面をスケートのように滑っていく。
史香「氷の能力ですか」
伊緒「お先~!」
スィーと史香の横を通り過ぎていく。
伊緒「この勝負もらったね。ん?」
順調に自分の前方の地面を凍らせ滑っていくがなにか違和感を感じる。なにかに逆方向から引っ張られているような感覚。不思議に思い振り返ると…
伊緒「なに!?」
伊緒の服がはるか後方にゴムのように伸びている。体が引っ張られている感覚の正体はこれだ。その伸びた服の先、それをつかんでいるのは…
史香「これが私の能力『弾性増加』。物体の弾性を操ることができる」
伊緒「ま、まず…」
滑る地面の上を歩いてる伊緒がゴムのように引っ張られ、逆方向に力が働いたらどうなるかは一目瞭然だ。
バチン!
伊緒の服にかけた能力を解除し手を放す史香。すると伊緒の体がパチンコ弾のようにスタート地点の方へと吹き飛ばされていく。
伊緒「きゃあぁぁ!!」
ボスン!!
スタート地点に設置されていたマットに直撃する伊緒。吹き飛ばされた衝撃で気絶してしまったようだ。
ALICE『これは伊緒さんダウンですね☆残るは5人☆いまだ史香さん優勢か☆』
一凛「あ~!ったく!これじゃあ前に進めない!でも!私だって!」
地面に両手をつく。その手のひらに風が集まっていく。フワリと浮く一凛の体。
一凛「一気に会場の外まで!」
ブォン!!
風に乗り飛んでいく一凛。その姿は瞬く間に見えなくなる。
ALICE『ここで一凛さん一気に先頭だぁ☆他の選手に圧倒的な差をつけ、もう会場の外までいってしまった☆』
一凛を追うように史香たちも急ぐ。
史香「さすが裳丹高校の風力使い(エアロマスター)…でも勝負はまだこれからです!」
怜霞「市街地に出てからが本番…ここからが能力の使い方が勝負のカギをにぎる!」
最終更新:2022年01月01日 01:24