~ミストラルシティ・市街地~
一凛「このまま行けば一位はもらいね!」
中央公園に向け、走っていく一凛。その頭上に何かが飛んでくる。中継用のドローンだ。
ALICE『このまま一凛さんの独走で決着してしまうのでしょうか☆』
「そうはいきません!」
一凛「上から声が?」
上空から聞こえる声。
一凛「なに!?」
ドゴォン!!
一凛の周りに何かが降ってくる。衝撃で吹き飛ばされる一凛。
ALICE『おっと~☆これはー☆』
上空から落ちてきたのは…
将「なんとかなったな」
周防「これで追いつけた」
怜霞「無事ですね」
史香「えぇ」
4人の選手だ。
一凛「どういうこと…なんで上から…」
~時はさかのぼり数分前・大体育場~
怜霞「みなさん!」
他の3人に声をかける怜霞。
怜霞「このままじゃ一凛さんに追いつけません。ここは一時休戦。力を合わせて追いつきましょう」
将「どうするんだ?」
周防「これだけ差をつけられてるんだぞ」
怜霞「史香さんの能力を使いましょう」
史香「私の?」
怜霞「さっきの伊緒さんを飛ばしたやつの応用です」
ギギギギ!!
ゴムのように伸びた体操服の上着。その両端が固定され悲鳴を上げそうなほど伸びている。まるでパチンコのようだ。
将「人間パチンコ!?」
怜霞「これで飛んでいきましょう」
史香「成功するんですか?失敗したら大変ですよ」
怜霞「射角と距離の計算は私が行います。着地時の衝撃は史香さんの能力でカバーしてください」
史香「そこまで自信があるなら乗りましょう!」
怜霞「飛んでる最中に離れ離れにならないように体を結んでください」
周防「わかった」
怜霞「準備はいいですか?ではいきます!」
バン!
4人の体が宙に浮く。大体育場の上を飛び越えていく4人。そして今に至る。
ALICE『まさかの奇策が大成功☆一気に一凛さんに並んだ~☆』
怜霞「ここからは敵同士です。では」
将「くっそー!まけてられないぜ」
史香「いい発想でした。参考にさせてもらいます」
一凛「とんでもない方法で追いついてきたわね。でもまた引き離す!」
両手に風を集める。
周防「おっと!そうはさせない!」
一凛の手を握る周防。
ズシン!
突如重くなる一凛の体。
一凛「体が…重い!」
まるで体重が急激に増えたかのようだ。
周防「これが俺の能力『体重貸与(ウェイトレンタル)』。触れた相手に俺の体重を貸し付ける。急に重くなった体じゃうまく動けないだろ?じゃあお先~」
一凛「うまく動けない…」
一凛が戸惑っている隙にほかの4人は先へと走っていく。一凛は風で飛ぼうにも体が重すぎて思うように進まない。
周防「ちなみに利子は1分ごとに増えてくぜ!」
一凛「利子?」
周防「そうだよ。貸してるんだからな。貸してるものには利子がつくのは常識だぜ」
一凛「なにそれ…うっ!」
一凛の体が先ほどより重くなる。これが利子か。
一凛「このままじゃ…」
考えているうちにもほかの選手はどんどん先へ進んでいき、彼女の体は重くなっていく。
ALICE『このまま一凛さんは脱落してしまうのか~☆』
一凛「脱落なんてしてたまるか!」
前方に手を向ける一凛。その手の先に見据えるのは周防の姿。
周防「体が前に進まない?」
何かに引っ張られる周防の体。いや違う。彼の体は風により後ろへと押し戻されている。
周防「うわっ!」
後ろへと吹き飛ばされる周防。その体は一凛の元へと飛んでいく。
一凛「あんたは体重を増やすではなく貸すって言ってたわよね。ってことは返すこともできるんじゃないの?返す条件は普通に考えて貸す条件と同じ」
周防「そこまで気づいて…」
一凛「貸されたものは利子ごと返すわ!」
パン!
飛んできた周防の手を叩く。
周防「うっ!」
直後周防の体が地面へと叩きつけられる。
一凛「よし!体が軽くなった」
周防「俺の『体重貸与』のデメリットだ。貸した体重は返されると自分の体重にそのまま利子も含めて増加する」
つまりいまの周防の体重は2倍以上。
周防「重すぎ…う、動けない」
一凛「さ~て3人を追わないとね!」
ALICE『なんと脱落したのは一凛さんではなく周防くんだ~☆先頭争いはどうなっているかな~☆』
市街地を走る3人。ほぼ並走状態で拮抗している。
将「得意の『弾性増加』は使わないのか?」
将の疑問はもっともだ。スタート直後のように能力を使用すれば史香が有利になるはず。
史香「使わなくてもあなたたちには負けません」
怜霞「使わないんじゃなくて使えないんじゃないですか?」
鋭い意見が史香へと投げつけられる。痛いところを突かれた。
史香「くっ…(見透かされているようですね)」
『弾性増加』はあくまでもともとある弾性を強化する能力。その強化幅は強力だが、アスファルトの地面ではその能力も発揮できない。
将(さっきのように足を取られることもない…体力的にも俺の方が上のはず…ここで勝負を仕掛ける!)
両手を地面につきクラウチングスタートの体制をとる将。
史香「能力ですか?」
ムキッ!!
将の両太ももから足にかけての筋肉が異常に発達する。
怜霞「……」
将「『筋肉増量(バンプアップ)』!!」
ダッ!!
地面を蹴り走り出す将。だが次の瞬間!
ズザァァ!!
地面に顔から激突し、滑っていく。そのまま近くにあった建物へとすごい勢いで衝突してしまう。
ALICE『これはなにがあった☆将くんまさかの自爆☆レスキュー隊急いでくだーい☆』
史香「今の…」
その場にいた史香には何が起きたのか見えていた。将は自爆などしていない。
怜霞「思ったより盛大に飛んでいきましたね。大丈夫でしょうか?」
将が走り出そうとした瞬間、怜霞が一瞬足をかけるのが見えた。一瞬のことだったので中継で見ていた人たちは気づいていないようだ。
史香「能力をつかったの?」
怜霞「彼が吹き飛んだのは私の足に引っかかったからです」
史香「ただ足が引っかかっただけであんな…」
スッ…
史香の口元に人差し指を当てる怜霞。
怜霞「なるんですよ。緻密な計算があれば」
史香「そんな計算一瞬で…はっ!まさか!」
怜霞「そう。私の能力『解析(アナライティクス)』です」
怜霞の能力『解析(アナライティクス)』は自分の眼で見たものを一瞬で情報、数値化する。将の筋肉の変化から下半身のみの強化、そして彼の態勢から一瞬にして無効化する手段を判断したのだ。
怜霞「急激に増強した下半身の筋肉。体のバランスが変わった直後に予想だにしていないバランスの崩壊を立て直すのはまず不可能。でもあそこまでなるとは思っていなかったけど」
史香「というか怜霞さん…足を引っかけるのはルール違反じゃ…」
怜霞「はっ!!そうでした…つい反射的にやってしまいました…」
史香「反射的にやってしまうのは私も治安維持委員に所属しているのでわかります。ほかの人は気づいていないようなので今回だけは黙っておきます」
怜霞「ありがとうございます」
史香「じゃあ改めてフェアプレーでいきましょう!」
怜霞「はい!」
「や~っと追いついた!」
二人の後ろから聞こえる声。この声は…
史香「也転さん!」
怜霞「追いついてきましたか」
一凛「はぁ…はぁ…」
だいぶ能力を使いつかれているようだ。これ以上は風で飛ぶのも難しいだろう。
一凛「飛べなくたって!」
史香「私たちも負ける気はないです」
怜霞「えぇ!」
~ミストラルシティ・中央公園前~
ALICE『さ~てそろそろ先頭の選手が来る頃ですね☆』
先に公園前に現れた選手。それは…
ALICE『一凛さんだ~☆』
一凛「はぁ…はぁ…あと少し」
ALICE『追って史香さんと怜霞さんも来ているぞ~☆』
怜霞「はぁ…はぁ…普段の鍛錬が足りてませんでした…」
怜霞は体力の限界のようだ。徐々に前2人との差が開いていく。
史香「このまま走っていても一凛さんには追いつけない…だったら!」
着ているジャージの上着を脱ぐ史香。ジャージの片腕の端をつかみ頭上でブンブンと振り回し始める。
ALICE『史香さんなにをする気だあ☆』
史香「あそこまで届け!!」
ブン!
ジャージの端をつかみながら勢いよく前方に投げる。するとジャージは長い鞭のようにはるか前方に伸びていく。
一凛「なに!?」
一凛の横をも通り過ぎ伸びていくジャージ。
バシン!!
その先端が何かに引っかかる。
ALICE『ジャージの先端がゴール地点横の木に巻き付いた☆』
史香「能力解除!!」
ビュン!!
史香の体がジャージに引っ張られていく。このまま飛んでいけばゴールへ一直線だ。
一凛「負けらんない!!」
ヒュォォォ!!
一凛の背中に風が吹く。追い風だ。
一凛「飛ぶ力はもうないけど!うぉぉ!!」
追い風を起こしながら走る一凛。
ALICE『これは~☆一凛さんと史香さんゴールに先につくのはどっちだ~☆』
一凛のゴールまでの距離は50mを切っている。あと少し、だが史香のジャージの戻る速度はかなり速い。
ゴールへの距離が次第に近くなる。まだ読めない。
残り5m。二人の体が並ぶ。
史香「もらいました!」
一凛「負けるかぁぁ!!」
ダッ!!
ジャンプする一凛。両手をゴールテープに向け伸ばす。
史香「私だって!」
負けずと手を伸ばす史香。
パン!!
ゴールテープが切られる。勝ったのは…
ALICE『一位は…』
会場の応援している生徒たちが息をのむ。
ワァァーー!!!
歓声に沸く会場。
一凛「よし!!」
史香「負けました。さすがでしたね」
一凛「あなたもすごかったわよ。ほかの競技でもまたよろしくね」
史香「はい」
マードック『徒競走Bブロックが始まります。出場する選手は準備をお願いします』
~ミストラルシティ・中央公園~
ゴクゴク
スポーツドリンクを飲みベンチで休む一凛。
一凛「少し疲れたし…一休みするか」
目を閉じベンチに横になる。
~~
パチリ!
目を開ける一凛。体を起こし、蹴伸びをする。
一凛「う~ん!体調は万全!調子もバッチリ!」
十一「先輩!」
駆け寄っててくる十一。
一凛「十一?どうしたの」
十一「まだ公園にいたんですか!いつまでも先輩が来ないから迎えに来たんです!次の競技のスタート地点はプロバンス通りですよ!」
一凛「えっ!?」
あっけにとられる一凛。てっきりここがスタート地点だと思っていた。ここからプロバンス通りまでだと…ざっと30分はかかるだろう。
一凛「しかたがないわね!」
両手を地面につける一凛。
十一「どうするんです?」
一凛「私の能力で!」
一凛の手と足元に逆巻く風。
一凛「一気にいくわよ!」
ボシュゥ!!
風を纏い、すさまじい速度で飛んでいく。これならなんとかスタート時刻に間に合いそうだ。
十一「まったく…先輩ったら」
十一はポケットから魔導帳の1ページを取り出し、破る。すると彼女の体を風が包み込む。
十一「すぐに追いつきます!」
風を纏い、一凛を追う十一。
一凛「この大会。絶対裳丹高校(うち)が優勝するわよ!!」
最終更新:2022年01月02日 17:27