変革世界(へんかくせかい)

各校、接戦を繰り広げ大運動祭も波乱の1日目を終えた。
~ミストラルシティ・裳丹高校学生寮~
一凛「はぁぁ~~」

ボスン!

大きなため息とともにベッドへと勢いよく飛び込み寝転がる。今日一日の疲れがどっと出てくるのを感じる。
一凛「明日の競技も一発目から出場ね~。明日に備えて寝るとしますか」

~ミストラルシティ某所~
一一(イーィン)「ここがミストラルシティか」
見渡す街並みは彼が住んでいる魔導都市とは似ても似つかない。彼にとっては新鮮な光景なのだろう。
???「一一様。お待ちしておりました」
一一の前に姿を現した女性。黒いスーツに身を包んだ彼女はキリっとした佇まいで品の良さを感じさせる。
一一「フォウバンか」
フォウバン「はい。こちらでの準備は滞りなく済んでおります」
一一「さすがだなフォウバン。君の手際の良さにはいつも感心させられる。この間までの任務も見事な手腕だったな」
とある研究所に学者として潜入し、そこで行われていた「能力」についての研究成果を盗み出してくる任務。まったく疑われることなく彼女は見事にその任務をこなしたのだ。
一一「それで君の後ろの2人は?」
フォウバンの後ろに学生らしき男2人が立っている。
フォウバン「現地の協力者です」
一一「能力者か」
フォウバン「はい。彼らは学生ですが実力は大人相手にも引けをとりません」
一一「ほぅ。確かこの街には以前、暗部組織があったと聞いた。それ関係か?」
フォウバン「お察しの通りです。彼らは静寂(しじま)機関という会社が造った暗部組織…たしか『構成員(メンバー』とかいう…。そこの残党です」
???「残党なんて言い方はないんじゃねぇの?」
???「確かに心外だな」
2人の男はフォウバンの発言に気分を害した様子だ。
???「仮にも俺らは更生院(カリキュラム)のランキング2位と3位だ。そこらの能力者には負けやしない」
こぶしを構える男。
フォウバン「えぇ、あなたたちの実力はわかっています。ですからあなたたちに依頼したのですから。ご無礼な発言は訂正します」
頭を下げようとするフォウバン。だが一一がフォウバンの肩を掴みとめる。
一一「ずいぶん威勢がいい学生たちだ。だが…躾がなってないなフォウバン」
フォウバン「申し訳ございません」
一一が二人の男の前に立ちはだかる。
???「なんだ?やる気か?」
一一「学生の能力者…どれほどのものか疑心暗鬼な点もあったからね。ちょっとした肩慣らしを兼ねて…」

ゴキッゴキッ!

肩を鳴らす一一。
一一「君たちの有用性をためしてやろう」
手を二人に向け挑発するような姿勢をとる。
???「試す気か…いいぜやってやるよ!」
???「こちらも依頼主の実力を見させてもらいます!」

~~

ドォン!!

大きな衝撃波があたりに響く。
フォウバン「決着ですね」
???「くそっ…!」
???「まさかこれほどとは…」
一一に対し手も足もでない二人。二人の知らない力、魔導を使う一一には彼らの能力では太刀打ちができない。
一一「まぁまぁ楽しめたよ。合格だ」
???「合格?」
一一「あぁ。君たちの力を認めよう」
???「まっ、これだけ力の差を見せられては、こちらも従うしかないよな」
???「えぇ、彼の力を認めます。それにこちらとしても組織が解体されてから現状仕事がないのは事実。一時的に感情的になってしまいましたが、僕も従います」
一一「いい関係を築こうじゃないか」
フォウバン「一一様。動くのは明日の朝からでよろしいでしょうか」
一一「そうだな。君たちも体を休める必要がありそうだからね」
???「…気遣い感謝するよ」

~ミストラルシティ・とあるホテル~
とあるホテルの高層階。その窓からミストラルシティの夜景を眺める女性。
ALICE(アリス)「きれいな夜景ね…」
遠いまなざし、その眼はどこか儚くも憂いを持っているように見える。
ALICE「でも…そんな世界は今日で変わる」
手に持った小さな石のかけらを見つめるALICE。
ALICE「明日には『日常』が『非日常』へと変わる。だけどそれを認識できるものはいなくなる。認識できない『非日常』はいずれ『日常』へと変わっていく。それが正しかった、元々の世界へと…」
空に浮かぶ月を見つめるALICE。その月あかりは街中の光にかき消されるようにその存在をも小さく見せる。
ALICE「変革の時…あとはあの方次第…私は信じるしかない…あの方が目覚めるのを…」
手にした石のかけらを握りしめ、ベッドで眠りにつく。
ALICE「さようなら今日までの世界、そして…明日の私に挨拶を送る…Hello,This is our WORLD(こんにちわ,これが私たちの世界よ)」

~翌朝~

ガバッ!

ベッドから勢いよく飛び起きる。

「あれっ…?」

なにか違和感を感じる。なんだろうか。だが違和感の正体はわからない。支度をして、部屋を出る。

ガヤガヤ!!

何やら騒がしい。何かあったのだろうか。どうしたのと近くにいた女性に話を聞いてみる。

「それが能力が使えないんです!」

能力が使えない?周りの人にも聞いてみるが同じくみんな能力が使えないようだ。それが騒ぎの原因のようだ。

「…駄目ね」

確かに試してみたが能力が使えない。私も同じ状態のようだ。どうしたものか。能力が使えないことで生活に支障はないが、今は運動祭の最中。運動祭もどうなることやら。

「せんぱ~い!!」

いつもの聞きなれた声。これは!
一凛「十一(ともろ)!!」
十一がいつものように抱き着いてくる。
十一「なんだか大変なことになってるんですよ!私の魔導もつかえないし…!」
一凛「なにが起きてるの…」

突如として能力、魔導が使えなくなった。まだ一凛たちは知る由はないがそれはこの街だけではなく、全世界で同時にこの事象が起きていた。

~EGOミストラルシティ支部・長官室~
リオル「状況から判断して、この現象は全ての能力が使えなくなったとみるのが妥当ね」
マードック「どうするんだい姉さん。こんなこと前代未聞の事態だよ」
能力が急に使えなくなる。そんな事態はいまだかつて聞いたことがない。
リオル「ほかの支部とも連絡を取り状況を確認!本部の指示を仰ぐ状況になりそうね…」
マードック「了解!すぐに確認するよ!」
部屋を急いで出ていくマードック。
リオル「運動祭の最中だというのに…これでは運動祭は中止せざる得ないわね…。私にも少しでもできることをやらないと…」
脳裏によぎったのはかつての研究仲間。そういえば彼女なら…
リオル「私の研究所にいた彼女なら…」
携帯端末を手に取り電話をかける。

プルルルル

『はい』

リオル「久しぶりね。元気かしら?」

『元気よ!リオル、あなたこそどうなの?研究所を離れてからミストラルシティの長官になったって聞いたけど』


リオル「そうね。慣れない仕事は大変だけれども…今は身の上話よりもあなたに頼みたいことがあって電話したの」


『能力喪失の件かしら?』

リオル「なぜそれを!?」

『実は私今ミストラルシティに来ていたの。運動祭が気になって見に来てたんだけどね。今朝起きたら街中能力が使えなくなった人たちでパニック。そして長官であるあなたからの電話。となればその内容は…っていうわけ』

リオル「さすがの洞察力だな。「能力」の起源を研究していたあなたならなにかわかるかもしれないとおもってね」

『わたしも神様じゃないからね。すぐにはわからないけれど私なりに原因をさぐってみようとは思うわ』

リオル「そうか助かるよ。ミストラルシティにEGOと提携している研究機関がある。そこの施設を使えるよう連絡しておく。場所はメールで送るよ」

『了解。じゃあ私はそこで原因を探ってみるわ』

リオル「頼んだ」

『任せて。できることはしてみる』
相手との通信を切るリオル。
リオル「少しでも情報が欲しい状況だ。彼女ならなにかわかるかもしれない。そういえば…」
もう一人彼女とともに能力の研究に従事していた人物がいた。彼女のほうにも連絡を取ってみるか。

~ミストラルシティ・某所~
フォウバン「はい」
フォウバンの通信端末に連絡が入る。
リオル『久しぶりねフォウバン』
フォウバン「研究所以来ですね。お久しぶりです」
リオル『あなたに協力をお願いしたいのだけれど…』
能力喪失の件を説明するリオル。
フォウバン「そうですか。わかりました。私もそこに向かい原因究明をしたいと思います」
リオル『よろしくね。彼女には私のほうから伝えておくから』
フォウバン「はい」
リオルからの通信が切れる。
フォウバン「というわけですのでこの状況を打破できる可能性を探してきます」
一一「頼んだぞフォウバン。能力が…魔導までが突如使えなくなるなど…何が起きている」

~ミストラルシティ商店街~
一凛「運動祭も中止か~」
十一「困りましたね~」
EGOミストラルシティ支部から発表された運動祭の中止宣言。突如として能力が使えなくなった状況ではイベントどころではないので当たり前の判断だが、彼女たちにとってはモヤモヤする状況ではある。
一凛「はぁ…」
手を開き力を入れる。だが彼女の能力は元々なかったかのように発動しない。
一凛「どうしちゃったのかしらいったい…」
十一「わけがわからないですよね」

タッタッタッ!!

前方から走ってくる女性。

ドッ!

女性は急いでいたのか前を見ていなかったため、一凛とぶつかってしまう。

「きゃっ!」

その場にしりもちをつく女性と一凛。
一凛「大丈夫ですか?」
立ち上がり手を女性へと伸ばす一凛。

「あぁ!すいません!ちょっと急いでまして!」

一凛の手を取り立ち上がる女性。

「ちょうどよかった。この街の学生さんですよね?ちょっと道に迷ってまして…」

十一「どこか行きたいとこでも?」

「そうなんです!っとその前に人に道を聞くのに名前も言わないのは失礼でしたね」

女性は転んだ時に服についたホコリをパンパンとはらう。

「私はパルトナー・トルッペ。よろしくね」

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最終更新:2022年05月04日 19:19