咎の一:悪意の巣窟!?ここは咎人の街!

大きな門扉が背中で閉まるのを感じる。
今度はどこに連れてこられたんだろう。頭を布で覆われているから周りの風景はわからない。
もうずっと歩いてきた。足が言うことを聞かない。
「とまれ」
村からずっとついてきた男の声がする。ああようやく着いたのか。
「一度しか言わないからよく聞くように。お前は・・・」

まさかこんなことがあるなんて。
生きている間にその“言葉“を聞く日が来るなんて思ってもいなかった。

「・・・お前はもう“自由“だ」

〜とある街の街角〜
10代半ば、身長は170cm前後、少し痩せている大人しい青年。
どこにでもいるような特に特徴のない人間。周りからはそう見えているだろう。
「さーて、どれにしようかな」
顎に手を当てて思い悩む。目線の先には掲示板に貼られた紙がいくつもはためいていた。
周りには彼と同じように掲示板を眺める、見た目は柄の悪そうなやからがたむろしていた。
「麻袋運びは疲れる割に報酬が少ないし。壁面清掃は上長が口うるさいって話だからなあ」
どうやら仕事の募集を眺めているようだ。
とはいえ日雇いの報酬もそこそこ。今日の食事代に足りるかどうかそのくらいのものばかり。
「よし決めた!」
掲示板から一枚の紙をちぎり取ると、勢いよく指定の場所に向かって駆け出した。

街の最南端から大通りを北に向かって数キロ。目的地はそこにある。
少し遠い?確かに徒歩で行くには骨が折れる距離だろう。
だが彼にとっては歩くことができる、それだけで幸福を感じられるのだ。

「到着っと。ここが今日の働きどころの図書館かー」
3階建ての煉瓦造りのこじんまりとした建造物。
周囲にも同じような建物が並んでおり、金属を叩く響きや工作機械の動作音が漏れ聞こえている。
どれもが何かしらの作業場のようだ。
「最初は挨拶が大事だからね・・・ふぅ。失礼します!!」
遠くこだまするくらいな大声と共に扉を開けて驚いた。
今まで見たことのない量の本がそこには収められていたからだ。
そして今、所狭しに収められた本の一つ一つが宙を舞い、床にどさどさっと落ちていく。
彼の声が本を驚かせてしまったのだろうか。
「・・・あちゃぁ」
やらかした彼に向かって司書が近づいてきた。静かだ。とても静かに怒っている。
「あ、掲示板を見てきましたアルムです。最初の仕事は本の片付けですかね・・・?」
彼は・・・そう、アルムは学んだ。図書館とやらは静寂を好むらしい。

〜街唯一の図書館〜
恐る恐る尋ねたアルムの顔をじいっと見つめてから、司書は深いため息をつく。
そして静かな口調で答えた。
「はい、そうです。ですが、これからは本は丁寧に扱ってくださいね。大切な知識が詰まっていますから」
アルムは頷いて床に散らばった本を一つずつ拾い上げた。
その中には見たこともないような古い書物や、未来の技術が書かれた最新の科学書もある。
心が躍り、知識の宝庫に身を置いていることに感動していた。
文字を読むことができないアルムでもそう感じるほどの不思議な空間だった。
時間はあっという間に過ぎ、アルムは本棚に戻す作業を終えた。司書は彼を見て微笑んだ。

「お疲れさまでした。本の世界に少しでも触れることができてよかったですね」
アルムは感謝の気持ちで頭を下げる。
「ありがとうございます。本って、すごいですね。初めて本を読んでみたいと思いました」
司書は優しく微笑みながら言った。
「図書館はいつでもあなたを迎え入れます。どんな知識や冒険が待っているか、楽しみにしてください」
「ただ俺は文字が読めないからなぁ」
「あら、尚更ここに通うといいですね。本を読めばいくらでも文字を学ぶことができますよ」
「あーでも働かないことには飯にありつけないし・・・」
「図書館の仕事は毎日ありますよ。ここの仕事は全く人気がないのでいつも人手不足ですし」
そこでアルムはハッと気づいた。
朝から今の今まで図書館にいたのに、アルムと司書以外にここを利用するものが誰一人いなかったのだ。

まぁそれも当然だろう。この街の住民の中に書物に時間を割くようなものはわずかなのだ。
なぜかって?ほとんどの住民にとってそんな素養は必要とされていないからだろう。きっと。

「じゃあまたきます!あっ司書さんの名前を聞いていなかった。聞いてもいいですか?」
司書はピンク色の髪をかきあげて、改めて自己紹介をしてくれた。
「私の名前はフォウと言います。またお会いする日を楽しみにしていますね」

手を振りながらさっていく青年を見つめる彼女の目には喜びと憂いが浮かんでいた。
「まっすぐな青年ですね。この街には珍しいわ。だけど・・・」
自らの手の甲を見つめる。そこには数字で“104”と文字が青白く浮かび上がっていた。
再び青年を目で追いかける。彼の手の甲には“9999”と記されていた。
「あの子は一体どれほどの、どんな咎を背負っているのかしら」
青年の姿からはまるで想像ができないといった様子だ。

その数字は咎の証。課せられた懲役年数そのもの。
アルムのその数字は、彼の咎によりこの街で9999年を過ごすことを意味する。

ここは咎を背負った咎人が贖罪を受けるために住まう街。
しかしこれまで投獄された咎人の中に、いまだかつて釈放されたものはいない。

アルムはそんな街に投獄されてしまったのだ。

『咎人の街』そう呼ばれるこの監獄に。

〜〜
アルムはこの街で、これまでで最大の悪意に出会うことになる。
だが同時に、これまでで最大の幸福に出会うことになる。

この物語はアルムにとって、最悪か、最福か。
それは最後が来るまで分からない。

アルムが犯した咎とは何のか。
それはすぐにわかるだろう。


TO BE COUTINUDED

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最終更新:2024年01月03日 22:47