~ミストラルシティ「巨穴補修地帯」・「巨穴」の最深部~
フォウバン「お久しぶりです。トキ
シロウ様」
トキシロウ「フォウバン…」
怒りで我を忘れかけていたトキシロウだったが彼の前に現れた思わぬ人物に冷静さを取り戻す。
フォウバン「この時をずっとお待ちしていました。あなたの記憶が戻るのを」
どうやらフォウバンとトキシロウは彼が記憶を書き換えられる以前からの知り合いのようだ。
トキシロウ「安寧世界は完成されている。どうやって俺のことを知った」
スピノザに捕らわれ、死んだはずのトキシロウ。その彼が生きているのをなぜ彼女は知っていたのか。今は能力も使えないはずだ。
フォウバン「お忘れですか」
その言葉にフォウバンの能力を思い出すトキシロウはそれと同時に自身が彼女に問うたことの答えを知るのであった。
トキシロウ「いや…そうだったなお前の能力は」
彼女の能力ならば自分が生きていたことを知っていてもおかしくはない。それだけではなく安寧世界が完成するまでのことならばトキシロウが知っていることはすべて知っているのだろう。
フォウバン「はい。安寧世界が造られる前にすべてわかっていました。あなたがこの街にくるであろうというのは推測でしたが」
ただ安寧世界が完成した以上彼女も能力は使えない。トキシロウがここに現れるというのは賭けであっただろう。
トキシロウ「アンモライシティ以来か…あの時、俺はお前に言ったはずだ」
~アンモライシティ・バトルグランプリ開催直前~
バトルグランプリ開催の直前、大富豪ジャーラの家に彼らはいた。
トキシロウ「スピノザをおびき出すための準備は終わった」
フォウバン「ではとうとうスピノザとの戦いが始まるのですね」
トキシロウとフォウバン。二人の関係は数年前から続いていた。
10年前のアンモライシティ、アンモライ王国で仲間を失いその復讐のためにスピノザの情報を集めていたトキシロウ。
情報を集める中で偶然出会ったのがフォウバンであった。科学者として能力についての研究をしていたフォウバンはトキシロウにすぐに惹かれた。
彼の研究していた輝鉱石は、フォウバンにとって実に興味を惹かれるものであった。
だがトキシロウの話を聞いているうちに彼女は研究よりもトキシロウ自身にその興味を惹かれていった。
そして彼の復讐、その手伝いをすることを自ら志願しこの時に至る。
トキシロウ「そうだ。そしてお前とはここでお別れだ」
フォウバン「お別れ?どういうことですか!」
突如トキシロウから切り出された言葉に納得がいかない。
トキシロウ「ここまで協力してくれたのは感謝する。ここから先は俺一人でやる」
フォウバン「なぜ…いえ聞く必要もないですが」
彼女にはトキシロウの考えが読めていた。
フォウバン「『危険だからこれ以上は突き合せられない。またレナや
タクミのようになってしまうかもしれない』」
トキシロウ「お前には隠し事はできないか。だが、わかってくれ。これが最善なのだ」
フォウバン「いやです!私はあなたと一緒に…」
トキシロウ「聞き分けがないな」
フォウバンが言い終えるよりも先に彼女の足元に魔導陣が展開される。
フォウバン「トキシ…」
バシュン!!
フォウバンの姿が消える。いずこかへと転移させられたようだ。
トキシロウ「過去の過ちは繰り返さない、二度と」
~~
フォウバン「あの時はあなたの魔導陣でとばされてしまいましたが今はそうはいかない」
トキシロウ「お前には無理だ。スピノザとの戦いにはついていけない」
あえて彼女を突き放すがフォウバンはそんなことには聞く耳も持たない。
フォウバン「なぜ私を拒絶するのですか。私はあなたが思っている以上に力をつけました。あなたが死んだと思ったあの時以降、あなたに代わりスピノザを倒すため着々と準備を進めてきたのです」
トキシロウ「準備だと?何をする気かわからないがやめろフォウバン」
フォウバン「いいえやめません。あなたが生きていたと知ったとき、私は喜びに震えました。こうして再び会えたことも…」
断固としてトキシロウのいうことは聞かないフォウバン。
フォウバン「なのにあなたはなぜ私を突き放すのですか!」
その表情は鬼気迫る。
トキシロウ「同じく研究を進めた仲間だ。だからこそ、これ以上危険なことに突っ込んでほしくは…」
過去に仲間を失った彼だからこその考え。だがそれも彼女の耳には入らない。
フォウバン「あなたが私をいくら突き放そうとも!私は必ずスピノザを倒す!そしてあなたに認められて見せる!きなさい!」
彼女の呼びかけに応じるように千百一一が後ろから現れる。だがその目は虚ろで意識がないかのようだ。
トキシロウ「だれだ?」
フォウバン「門外不出の禁術を使う千百(スィンバン)家のDNAデータで造ったクローンです。思考定着はうまくいきませんでしたがね」
トキシロウ「クローン?それに千百家…あの魔導都市のか。どうやってそんなものを造った?」
フォウバン「千百家が協力してくれたんですよ。ある条件でね」
トキシロウ「条件だと?」
門外不出の術式を使う千百家が術式流出の恐れがあるクローンを造ることに協力するとはとても思えない。協力したのだとすればそれはろくでもない条件に違いない。そしてそのトキシロウの予想はあたった。
フォウバン「千百家初代、千百 一(スィンバン シー)の現世への復活。それがDNAデータ提供の条件」
トキシロウ「死者の復活…」
普通ならばできるはずがない。だが彼女はその術(すべ)を知っていた。
トキシロウ「そうか、それも私の記憶から得ていたのか」
フォウバン「えぇ。そして復活させるための舞台も今ここにあります」
あたり一面の壁面にある千を超える輝鉱石。彼女の狙いは…
トキシロウ「これだけの輝鉱石があれば煌鉱石(クトゥルヴァイス)にも匹敵する力をだせるだろう。これを使う気か」
フォウバン「はい」
トキシロウ「やめろ!死者の魂をもてあそぶな!それをすればお前ももう戻れないぞ!」
フォウバン「もう…遅いです」
キィィィィィン!
周囲の輝鉱石が煌きをます。その輝きが一一のもつ輝鉱石に集まっていく。
フォウバン「これで…」
ガララ…
何かが崩れる音が聞こえる。音のほうを向くとそこには壊れて崩れかけた台座においてある白い石があった。
トキシロウ「石?なぜあの台座に…」
以前彼が魔道書を回収しに来たとき、たしか魔道書が設置されていた台座だ。そこに見慣れぬ石が設置してある。
ピキピキ…
白い石にひびが入っていく。
パキッ!
ひび割れた白い石の隙間から赤い輝きが周囲を照らす。その輝きに吸い込まれるように輝鉱石の輝きが吸い込まれていく。
フォウバン「何が起きてる!?」
トキシロウ「あれはいったい…」
一一のもつ輝鉱石と白い石に吸い込まれていく無数の輝鉱石の光。そして…
カッ!!
あたり一面が目も見えぬほどの光に包まれる。目を閉じるフォウバンとトキシロウ。光が収まり、二人が目を開けたときその目の前には…
青年「若い肉体…蘇りの儀か」
少女「……」
自分の体を確認している様子の青年と物言わずその場に立ち尽くしている少女の姿があった。
トキシロウ「男は千百(スィンバン)か…だがあの少女は何者だ…」
さきほどまで台座の場所にあった石が消えている。この少女はあの石が変化したものだろうか。
フォウバン「千百一(スィンバンシー)だな」
一「私を呼び起こしたのはお前か」
フォウバン「そうだ。お前には協力してもらうぞ」
一「いい肉体だ。よく馴染む。この肉体を用意してもらった分の礼はしよう」
フォウバン「それでこいつはなんだ?」
少女のほうをみるフォウバン。
一「知らないな。私と一緒におまえがよみがえらせたのではないか?」
少女「…」
少女は何も言わずその場にたたずんでいる。
フォウバン(この姿…あいつとなにか関係があるのか…)
フォウバンにはその少女の姿に見覚えがあった。だがその理由を今知る術がない以上、詮索するのは無駄なこと。それよりも自身の戦力になるのならば利用するだけだ。
フォウバン「お前も私と来るか?」
少女「…」
小さくうなずく少女。
トキシロウ「フォウバン…」
フォウバンのことを見つめるトキシロウ。その瞳はどこか悲しそうに見えた。だがフォウバンはそんな彼のことは見えていない。彼女に見えているのはあくまで理想のトキシロウなのだろう。
フォウバン「トキシロウ様。私はあなたよりも先にスピノザを倒して見せます、必ず!」
そういうとフォウバンたちは一瞬でいずこかへと姿を消した。
トキシロウ「千百一の魔導か…ブランと同じく古の魔導士クラスであれば安寧世界でも力を使えるか」
いずこかへと去っていたフォウバンたちをすぐに追うことはしない。状況を見極めねばならない。
トキシロウ「フォウバンもこのままにはしておけないが、スピノザを倒すのが先決だ」
まずは自分のなすべきこと、スピノザの打倒。スピノザを倒すためにはいくつかの手順が必要だ。その手順を一人でなすのは困難極まりない。
トキシロウ「奴らに手を借りるほかないか」
手を借りる。その考えを持った時点で自身のおかしさにはっとする。
トキシロウ「希望を他者に見出すとは…」
以前の自分ならば他者を利用し、どんな手を使ってでもスピノザを倒す手段を考えたはず。なにかが彼の考えを変えたのかもしれない。
トキシロウ(これももしかしたらあいつの影響か)
死の淵より生き返ったときのことを思い出す。だが今は感傷にひたっている暇はない。それは彼自身が一番わかっていた。
トキシロウ(まずは奴らに真意を問い、世界の理を取り戻す!)
この後、トキシロウは天十也たちに世界を救う意思を問うのだが、それはまた別のお話である。
十也たちと別れた彼は決意を胸に次の行動に移る。
トキシロウ(十分だ。天十也、お前の存在が俺をさらに突き動かす)
スピノザの打倒。どんなに困難でもやり遂げて見せる。そして…
トキシロウ(フォウバン。お前も必ず止めてみせる)
最終更新:2024年05月19日 22:54