追跡(ついせき)

~裳丹高校学生寮~
十一「先輩!」
一凛と零軌のもとに駆け寄ってくる十一。
情報を集めているうちに夜になってしまったが、それぞれに調べた情報を共有する3人。
一凛「フォウバンと一一の行方については何もつかめなかったわ」
零軌「私の情報網を使ってもなにも引っかからないなんてかなりのやり手ねぇ」
十一「そうですか…。私は実家のほうに連絡してみたのですが連絡が繋がりませんでした。それで親戚のメルトに連絡してみたら、連絡はつながったのですが…」

メルト「gmンァsjfgぁfsが!」

十一「メルトはわけのわからない言葉を発していたんです。何かしらの異常が魔導都市で起きているみたいです」
そう話す十一の様子はそわそわして落ち着きがない。それもそうだろう。
自分の故郷に何かしらの異変が起きている。その事態に冷静に対処できるはずがない。
零軌「それはゆゆしき事態ねぇ」
一凛「異常事態なのは間違いないわね」
零軌「今の世界は異常な状況。その影響の一端が魔導都市でも起きているということかしらぁ」
人々が争い、戦いという概念を失った世界。その影響の一端が言語の異常として魔導都市で起きているのだろうか。
一凛「フォウバンの行方は分からないし、今はそっちのほうが気になるわね。すぐにでも魔導都市に向かいましょう!」
十一「そうですね。実家に連絡がつかないのも心配です」
零軌「そうねぇ。今からならぁ」
携帯端末を操作する零軌。
零軌「空港に行けば1時間後には魔導都市行きの便が出てるわよぉ」
1時間後ならばここから十分に間に合う時間だ。
一凛「決まりね!すぐに空港に向かいましょう!」
零軌「それじゃぁタクシーでいきましょうか」

~ミストラルシティ空港~
タクシーから空港の入り口で降りる3人。
その足で空港へと向かっていく。
一凛「だれかいるわね?」
こんな遅い時間だが空港へと向かう道に二人の男が立っている。
気の荒そうな男と眼鏡をかけた冷静そうな男。二人とも大学生くらいに見える。
「おいおい!本当に来やがったぜ」
「依頼主の予想通りというわけですね」
二人は一凛たちの前に立ちはだかる。
一凛「私たちに何か用かしら?」
眼鏡の男「君たちは飛行機に乗るつもりかい?」
十一「空港に来たのだからそれはそうでしょう!」
眼鏡の男「だったらここから先には行かせられないね」
一凛「どういうつもり?」
気の荒そうな男「あんたたちを魔導都市には行かせないってのが俺たちの仕事だ」
零軌「やっぱりぃこいつらは間違いないわねぇ」
携帯端末を操作していた零軌が確証したように話す。
零軌「こいつらはあのフォウバンとかいう女と一緒にいた元構成員(メンバー)ね。それがここにいて私たちを止めるということはぁ、魔導都市にフォウバンたちもいる可能性が高そうねぇ」
一凛「なるほどね!それにそっちのやつはわざわざ魔導都市に行かせないって言ってくれたしね。ほぼ間違いなさそうね!」
フォウバンの行先も魔導都市なら一石二鳥だ。なおさら魔導都市に向かわないわけにはいかない。
気の荒そうな男「バレちまったらしょうがねぇか」
眼鏡の男「すでにリサーチ済みですか。何にしろあなたたちをここから先に行かせないのは変わらない」
零軌「構成員第2位ベルト・トールベ、構成員第3位グラス・スラッグ。能力は強力だったみたいだけどぉ、能力が使えない今そこまで脅威ではないのかもぉと思ったりしてぇ」
グラス「能力が使えないのはお前たちも同じ」
ベルト「ただの高校生のお前たちが俺らに勝てると思っているのか?」
能力が使えないのは一凛たちも同じだ。大学生ぐらいの男相手に一凛たちが力で勝てるとは思えない。だがそんな状況でも零軌は強気に前に出る。
零軌「そうねぇ。でもぉ、時間も限られてるしぃ。一凛さんは千百(ちはく)さんと一緒に空港に向かって」
一凛「あんた一人でこの二人を相手にする気?」
零軌は運動は全然できないいわゆる運動音痴だ。そんな彼女が男2人と戦って勝てるとは思えない。そんな一凛の考えをわかっているというかのように零軌は話す。
零軌「心配はしないでもいいわぁ。いろいろと策はあるのよぉ」
一凛「信じるわよ零軌」
零軌「えぇ。早くしないと乗り遅れるわよ」
一凛「いくわよ十一」
十一「はい零軌さん頼みます!」
一凛と十一はグラスとベルトの脇を駆け抜けようとする。そんな二人を見逃す元構成員ではない。
グラス「行かせはしません!」
グラスとベルトが二人を止めようと動き出そうとしたその時!

ドゴン!!

十一「うわ!」
先ほどまで一凛たちが乗っていたタクシーがグラスとベルトに激突し、吹き飛ばした。急な事態に驚く一凛と十一。
零軌「今のうちに行って一凛さん!」
一凛「これも作戦のうちってことね…頼んだわよ零軌!」
一凛と十一は空港の中へと進んでいくのであった。
ベルト「いてて……」
グラス「まさかこんな強硬手段でくるとは…」
タクシーに吹き飛ばされた二人が起き上がる。元構成員だけあって肉体は丈夫なようだ。
グラス「少々驚きましたがこの程度、今までの任務に比べれば大したことはありませんね」
ベルト「お前を倒してすぐにあいつらを追ってやる!」
グラス「あなた一人で我々を倒すことができると思っているなんて浅はかな考えをその身をもって思い知らせてあげますよ」
零軌の前に立つ二人。2対1の状況になっても零軌は以前冷静なまま、落ち着いていた。
零軌「その身をもって思い知らせてあげるなんてぇ怖いわぁ~。でもさすがに私だってぇ、自分一人で戦えるなんて思ってないわよ。一凛さんと違って暴力は苦手なのだしぃ」
指をパチンと鳴らす零軌。

バタン!

グラスとベルトに衝突してきたタクシーの運転席の扉が開き運転手が降りてくる。
帽子を被ってその表情は伺い知れないが、スーツに身を包んだ成人男性のようだ。
ベルト「タクシーの運転手?」
グラス「私たちを引いた奴…当然あなたの仲間ですか」
タクシーの運転手はタクシーの背後に回りトランクを開ける。

ガバッ!

「ふあぁぁ~~!!」

トランクをあけると大きなあくびが聞こえた。あくびの主はトランクのなかの女性だ。右腕のないその女性は寝起きのようで随分眠そうだ。
タクシー運転手「仕事だリヴィエラ」
トランクの中で寝ていたリヴィエラはけだるそうにその中から出てくる。
零軌の前に立つタクシー運転手とリヴィエラ。
零軌「あなたたちの相手は彼らよぉ」
頭にかぶった帽子をとるタクシー運転手。その表情は冷静そのもの。仕事を確実にこなす元掃除人。そう彼は…
涅尤「静寂機関の構成員か」
リヴィエラ「元構成員とはこいつもなんかの縁だな」
タクシーを運転していた涅尤とリヴィエラがベルトとグラスの前に立ちはだかる。
グラス「静寂機関の掃除人…まさかこんなところで会うとはね」
ベルト「おもしれぇ!掃除人はおれがやる!」
涅尤へと殴り掛かるベルト。その拳をすんでのところでよける涅尤。
涅尤「筋は良さそうだ。だがまだ経験が浅いな」

ドスッ!

涅尤のカウンターで放った肘がベルトの腹部へと打ち込まれる。
ベルト「ぐふっ!」

ガッ!

ベルトは打ち込まれた肘を両手でつかむ。
ベルト「これでとらえたぜ!」
涅尤の腕をつかみ、全力で持ち上げそのまま涅尤を背中から地面へとたたきつけるベルト。
涅尤「ぐっ!」
涅尤の全身に走る痛み。地面へとたたきつけられた衝撃はすさまじい。
涅尤「想定以上か…だが!」
地面についている背に力を込め、両足をベルトへと向ける。そのまま両足を勢いよく突き出しベルトへと放つ。その一撃で吹き飛ばされるベルト。
ベルト「やりやがるな」
涅尤「さすがは元構成員。その実力は認めざるを得ないか」
再び間合いを詰め、激しい拳闘を繰り広げる涅尤とベルト。
グラス「あちらの戦いに入る隙はなさそうですね。では私の相手はあなたですかリヴィエラ」
拳を構えるグラス。
リヴィエラ「やる気だな。いいぜ!やりあおうじゃないの!」
左腕を突き出しグラスへと襲い掛かるリヴィエラ。

スッ…

その左腕をいなすようにかわすグラス。そのままリヴィエラの左腕をつかみ、襲い掛かってきたリヴィエラの重心をうまく利用し背負い込むと地面へと振り下ろすようにたたきつける。
リヴィエラ「ちっ!」
グラス「右腕がないのはどうにも不便そうですね」
リヴィエラ「うるせぇ!」
リヴィエラは勢いよく地面を蹴り上げ立ち上がり、何度も左腕で殴り掛かる。だがそのいずれもいなされ躱される。
躱される度にカウンターをくらい、全身ボロボロとなり疲弊するリヴィエラ。
リヴィエラ「はぁ…はぁ…くそが!」
グラス「力の差は歴然のようですね。能力に頼り切っていたあなたとは違い格闘術の鍛錬も怠っていなかった私に天秤が傾きましたね」
リヴィエラ「偉そうにご高説垂れてんじゃねぇよ!」
再びグラスへと向かっていくリヴィエラだがその拳は躱され、グラスに蹴り飛ばされる。疲弊したリヴィエラは地面へと寝そべった状態で立ちあがる力もないようだ。
涅尤「リヴィエラ!」
涅尤がリヴィエラのほうに気を取られた一瞬、ベルトの拳が涅尤の腹部へと直撃する。
涅尤「がはっ!」
ベルト「よそ見してんじゃねぇよ!」
ベルトは反対の拳で勢いよく涅尤の顔面を殴り、吹き飛ばす。

ガゴン!!

自分が運転してきたタクシーに激突し、その場に倒れる涅尤。
ベルト「あっちも決着がついたみたいだし、こっちもそろそろ終わりか?」
涅尤「リヴィエラは直情的…感情で生きている。まるで野生動物を思わせるやつだ」
ベルト「急に何を言っていやがる?」
涅尤「トランクで寝てるうちに本能的にこれをはずしてしまったんだろう」
何かをトランクの中から取り出し勢いよくリヴィエラのほうへと投げる涅尤。

カラン!

リヴィエラの眼前に投げられたその物体は…
リヴィエラ「あっ!?こいつは…」
機械の腕、義手だ。義手と言ってもただの義手ではなく、最新技術(カミナ工業とかいう駆動鎧技術の最先端を行っている会社で作られたものらしい)でできている義手を零軌がどこからともなく入手してきたものだ。
リヴィエラは最近はこの義手をつけていたのだがトランクで寝ているうちに無意識に外してそのまま放置していたのであった。
涅尤「リヴィエラ!それをつけろ!」
リヴィエラ「忘れてたぜ!」

ガシュン!

右腕に義手を装着するリヴィエラ。立ち上がり指の動きを確認している。
グラス「右腕が付いたところでそのボロボロの状態では!」
グラスがリヴィエラにとどめを刺そうと向かってきて、蹴りを放つ。

ガッ!

だがグラスの蹴りはリヴィエラの右腕の義手に足首をつかまれ止められる。

ミシミシミシ…

グラスの右足首が強烈な力で締め付けられる。
グラス「ぐぁぁ!!(このままじゃ足をちぎられる!)」
リヴィエラ「あん?さっきまでの威勢はどうしたよぉ!」
グラス「くっ…なめるなよ!」
右足をつかまれたまま拳を構えリヴィエラへと殴り掛かるグラス。だが…
リヴィエラ「おせぇんだよ!」
リヴィエラは右足をつかんでいた義手を放し、そのまま義手でグラスの右拳をつかむように受け止める。
グラス「なに!?」
リヴィエラ「ざんね~ん!一個貰いだ!」

ベギョッ!!

鈍い音が周囲に響く。
グラス「うぎゃぁぁ!!」
グラスの右拳が砕け、あらぬ方向にその指が曲がっている。
リヴィエラ「やっぱ両腕があると動きやすくていいよなぁ!こんなに蹂躙できんのも両腕がないとできないしよぉ!」

ドドド!!

両拳でグラスを何度も殴りつけるリヴィエラ。
涅尤「あいつのほうはこれで終わりだな」
ベルト「なんなんだよあいつ…あんな簡単にグラスがやられるなんて…」
グラスの悲惨な状況にあっけにとられるベルト。
涅尤「お前もよそ見をしている場合じゃないぞ」
ベルト「えっ…」

ドゴン!!

重い拳の一撃がベルトの腹部に打ち込まれる。あまりの衝撃に気を失いそうになるベルト。
ベルト(い、痛てぇ…さっきまでと重みが違う)
涅尤「元構成員としての実力は認めたよ。君のポテンシャルもみれたしね。だが…」
首を左右に振り、コキコキと鳴らす涅尤。
涅尤「それもここまででいいだろう。ここからは大人の時間だ。全力で君を大人として指導しよう」
涅尤の激しい蹴りと拳が幾度も放たれる。その攻撃の速さにはベルトはまるでついていけない。
ベルト「ぐわはぁ…(さっきまでのはお遊びかよ…全然攻撃が見えねぇ)」
涅尤「これが社会の厳しさだ。身をもって知れたことに感謝するんだね」
ベルト「掃除人…こんなに…強いなんて…」
ボロボロの状態のベルトとグラス。
零軌「これで決着ねぇ」
グラス「単純な実力では我々の負けですね…」
零軌「どういう意味かしら?」
ベルト「仕方ねえ…」
ベルトとグラスはポケットから黒く光る鉱石を取り出す。
零軌「あれは輝鉱石!?」
黒い輝鉱石を握りしめるベルトとグラス。その姿が黒い霧に包まれ、変貌していく。

ゴゴゴゴゴ!!

ベルトの体は毛皮に覆われ爪は鋭く、2本足で立つ狼を思わせる風貌へと変わっていく。
グラスの体は丸い球体に包まれ、周囲の地面から無数の骨が生えるように湧き出てくる。その骨たちは球体を中心に集まっていき、巨大な骨の人体を構成し心臓部にグラスを覆っている球体が鎮座する。
ベルト「この力!素晴らしいぜ!」
グラス「力があふれる!まさにその表現がふさわしい!」
先ほどまでのダメージがなくなったかのようなベルトとグラス。
涅尤「人外の姿に変異した!?」
リヴィエラ「なんなんだこりゃぁ!?」
零軌「能力じゃないならば…なんなの…」
突然の出来事に驚きが隠せない3人。

ベルト「一瞬で切り刻む!!」

ジャキン!!

両手の爪を伸ばし、高速で涅尤に切りかかるベルト。あまりの速さにとっさに防御しようとするが間に合わない。

ザシュン!!

涅尤の体を深く切り裂くベルトの爪。
涅尤「ぐはっ…!」
その場に倒れる涅尤。

グラス「押しつぶす!!」
巨大な骨の手がリヴィエラの頭上から迫る。義手で受け止めようとするが、あまりの質量差に壊れるリヴィエラの義手。そのままリヴィエラは巨大な骨の手に地面へと押し倒される。
リヴィエラ「がはっ…!!」

意識も絶え絶えその場に倒れている涅尤とリヴィエラ。
ベルト「残るはお前だけだな」
グラス「もうあなたの勝ち目はありませんね。とっとと倒して先に行った二人を追わせてもらいます」
零軌「そんな…」
零軌に成す術はない。これ以上彼女に取れる手段がない以上、彼女に待っているのは…
グラス「圧殺してあげますよ!響零霊軌(ひびおれいき)!!」
零軌「きゃぁぁ!!」
巨大な骨の手を上空から振り下ろすグラス。

ドゴォン!!

激しい衝撃があたりに広がる。地面はひび割れ、その中心には骨の手につぶされた彼女の体が…
グラス「んっ…?」
零軌の姿がない。そこにあるはずであった血に染まって倒れているはずの零軌の姿が見当たらない。
グラス「どこにいった!?」
あたりを見回すグラス。倒れている涅尤とリヴィエラの姿は見える。だが零軌の姿はない。
グラス「なんだ…あいつらは…?」
零軌が男に抱えられている。零軌を抱えている男は長髪で赤と白の鎧のようなスーツを着ており、その顔はバイザー付きのヘルメットを被っている。
「間一髪だったな」
「まさかこんな化け物が現れるとは予想外だったね」
赤白の鎧スーツの隣には片目に眼帯をつけた黒スーツの女性が立っていた。
「扉は十也たちに任せて、もしものためにうちらはここに残っていたけど…まさか本当にこんな化け物が現れるとはね」
「やれやれ、こいつらもあいつらが遭遇した怪異とかいうやつか?」
赤白の鎧スーツと眼帯の黒スーツの女性はなれた様子で会話を続ける。
「俺たちを残した読みは当たっていたということだな。準備はいいか?」
「当然!」
臨戦態勢をとる赤白の鎧スーツと眼帯の黒スーツの女性。
「それじゃあ妖怪退治と洒落こみますか!」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2025年09月13日 22:47