~ミストラルシティ空港~
アナウンス「魔導都市行きの最終便はこちらです」
一凛「やばっ!ギリギリだ!いくよ十一!」
十一「ハイ先輩!」
時間ギリギリで最終便の飛行機に乗り込む二人。
空港職員「これで最後だな」
乗客の乗り入り口を閉めようとする職員。
シュン!!
なにかが一瞬横切った気がする。だが周囲を見渡しても何も見当たらない。
空港職員「気のせいか?」
空港職員はそのまま入り口を閉めるのであった。
~ミストラルシティ発魔導都市行き飛行機~
乗務員「ミストラスシティ発魔導都市行き。まもなく離陸いたします」
一番後ろの席に着く一凛と十一。
一凛「魔導都市までは数時間はかかるわね」
十一「はい、つく頃には朝ですね。今のうちに体力を回復させといたほうがよさそうですね」
いろいろなことが起きた一日。この日の二人は疲労が蓄積していた。やわらかい快適な飛行機の席は2人をすぐに眠りにいざなった。
二人が寝て、数分後とある席の乗客が立ち上がりトイレへと向かっていく。
トイレに入ったその乗客は自身の顔に手をつかむようにあてる。
ベリベリベリ!
乗客の顔がはがれ、中から別人の顔があらわれる。はがれた顔は変装のマスクであったのだ。
「さて」
マスクの中の顔。黒髪で後ろで結んだ髪が特徴的、さらにその口元はマスクで覆われている。飛行機に誰にも気づかれず潜入した彼はなにやら自身の服をまさぐり、何かを取り出す。
「とうとう完成してしまった安寧世界。それは我ら一族の使命を否定された世界と同意」
彼が取り出したのは小さな種と輝鉱石。
「幾年と続いてきた一族の歴史、主君を支える一族の使命を否定するこの世界を持続させるわけにはいかない 」
彼が持つ種から触手が伸び、輝鉱石を取り込んでいく。
「怪異の種。俺の意思を汲み取り、この世界を否定しろ」
彼は輝鉱石を取り込んだ種を手から離し、飛行機の床へと落とす。すると種は床をつたり、飛行機中へとその根を伸ばしていく。
「手始めは飛行機墜落事故。世界の安寧を上回る混沌を。それこそが一族を否定する世界へ示す俺の意思」
そういうと彼は一瞬にしてその場から姿を消した。その姿はだれにも見つからず、空を飛ぶこの飛行機内から消えたのであった。
~~
ゴゴン!!
一凛「ん…」
飛行機内に響く振動。その衝撃で目を覚ます一凛。
一凛「なにか…景色が」
寝起きでぼやけているせいだろうか。飛行機内の内装が眠る前とは違うように見える。目をこすり、よくみてみると…
一凛「なにこれ!?」
衝撃的な光景が眼前に飛び込んできた。機内の壁や床を植物の根のようなものが張っている。その根は人の血管のように脈動しており不気味さを醸し題している。
一凛「十一!」
隣の十一のほうをみるとそこに十一の姿はない。代わりにその席には植物の根が張り、そこから白い花が咲いていた。
一凛「十一!?いったいどこに…」
席を立ちあがり、機内を見渡す。乗った時よりも乗客の姿が少なく見える。というよりも片手で数えられる数しか姿が見えない。とりあえずは手前の席に座っている人物に声をかける一凛。
一凛「あのっ!」
返事がない。何かおかしいと思い、その乗客に近づくと…
一凛「きゃぁぁ!!」
その乗客の体は生気が吸い取られたように干からびていた。まるでミイラのように。
一凛「なにが…」
直後その乗客の体は光となって消え、その背後に張っていた根から白い花が咲く。
一凛(この根にさわるとこうなっちゃうの…まさか十一も)
最悪の事態を想像してしまう。だが今はいやな感情を振り切り、この事態をどうにかしないといけない。
一凛(だれか無事な人はいないの…)
他の数人の乗客を見て周るが、全員先ほどの乗客と同じく生気のないミイラのようになっている。
一凛「私以外に意識のある人はいないの…」
ゴゴン!!
再び揺れる機内。機内が揺れたことで一凛は思い出す。自分がいたのが空を飛んでいる飛行機内であるということを。
一凛「まだ飛行機は飛んでいるってことは運転手は無事なはず!操縦室に行けば!」
操縦室へ向かう一凛。その向かう途中の道にも植物の根のようなものが無数に張っている。この根はどこから生えているのだろうか。それも気になるが今は操縦室へ向かうのが先だ。
一凛「ここね」
目の前には操縦室の扉がある。この中にいる運転手は無事なはずだ。操縦室の扉を開く一凛。
「うおぉぉ!!」
そこには鬼気迫りながら、声を荒げる機長が飛行機を操縦していた。その顔はだいぶやつれているように見える。部屋の壁を這う根が機長の体を半分ほど多い、体から養分を吸い上げているようだ。
一凛「大丈夫ですか!?」
機長「まだ意識のある乗客もいたのか…」
機長はやつれていっているように見えるがその眼は力強く飛行機の進む方向をみている。
機長「次々と乗務員たちとも連絡がつかなくなり、空港の管制室とも連絡がつかない!挙句この得体のしれない触手たち…だがそれでもこの機を墜落させるわけにはいかないのだ!」
一凛「なにかわたしにできることはないですか!」
機長「このままでは私ももうもたないだろう…そう、この根をどうにかしないかぎりな」
一凛「でもどうすれば…」
機長「ヒントはある。乗務員たちの連絡が途絶えたのは機内の奥のほうからだった。そして一番最初に連絡が途絶えたのはトイレの近くにいた乗務員だ」
一凛「ってことは…トイレにこの根の原因となるなにかがあるってことね!」
機長「私は手を離せない!頼む!君にしかこの状況をどうにかすることはできないんだ!」
一凛(やるしかない!)
能力が使えない自分に何ができるかはわからない。だが今はそんなことを考えている猶予すらもない。
一凛「わかった!私に任せて!」
機長「頼んだぞ!」
急いで操縦室を離れ機内の後方へと向かっていく一凛。そしてトイレのある部屋の前へとたどり着く。
一凛「ここになにかがあるはず」
扉の周囲にはほかの場所よりも多くの根が扉の奥から生えてきているように張り巡らされている。覚悟を決め扉を開く一凛。そこには…
一凛「十一!?」
傷ついた十一が、壁を背に倒れていた。その体には根が張ってきており、顔も少しやつれている。
十一「先輩!?」
突如現れた一凛に驚く十一。一凛は十一へと駆け寄る。
一凛「無事…ってわけでもなさそうだけどよかった!」
安堵のあまり十一に抱き着こうとした瞬間!
十一「危ない!」
十一が一凛を突き飛ばす。一凛が先ほどまでいた場所の壁を何かが貫く。それはドリルのように鋭利に絡まった木の枝だ。そのドリル状の枝のようなものが襲ってきたほうをみるとそこには木の怪物がいた。
一凛「なにこいつ!?」
木の怪物は人ほどの大きさで、その場に根を張り無数にその根が飛行機内へ伸びていっているようだ。その幹の中央の樹皮が割れており、そこから目玉のようなものが一凛たちをのぞいている。
十一「こいつが根を伸ばして機内の人々を吸収していっている元凶みたいです」
一凛よりも先に目が覚めた十一は機内で起こっていた異変に対応すべく機内を探索していると、この木の化物を発見。そのまま戦闘を行っていたのだ。
十一「でもダメです…魔導もつかえない…この化物に歯が立ちません」
一凛「…あとは私に任せな!」
十一「先輩…でも先輩も能力が使えないんですよ!」
今のこの世界ではだれしも能力が発現しない。それが安寧世界なのだ。
一凛「それでも…こいつをなんとかしないと飛行機は墜落する。やるしかない!」
木の怪物へと向かっていく一凛。木の怪物は自身の枝をしならせ、素早く鞭のように振るう。
一凛「うわぁ!」
枝の鞭による攻撃が一凛を襲う。木の怪物は一凛を敵と認識したように何度も枝の鞭ではたきつける。見るにも痛々しいダメージを追っていく一凛。
一凛「こんなもの…能力が使えれば」
十一「ダメです先輩!早く逃げて!このままじゃ死んじゃいますよ!」
容赦ない枝の鞭の攻撃にとうとう地面へ膝をつく一凛。
一凛「はぁ…はぁ…」
木の怪物はそんな一凛にとどめを刺そうとしているかのように枝を絡め鋭いドリルのように形成し、彼女に狙いを定める。
十一「先輩!」
一凛を助けるために動こうとするが十一の体は養分を吸われ、立ち上がることもできない。
一凛(能力がない私って…こんな無力だったなんて。十一も守れないし…飛行機の墜落も止められない)
自身の無力さを悟る。だがそんな彼女の感情に終わりを与えるように無慈悲にも木の怪物は枝で作ったドリルを一凛にめがけて伸ばす。
一凛「くそぉぉ!!私の力ぁぁ!!でやがれぇぇ!!」
今の無力な彼女には叫ぶことしかできない。だがその叫びが奇跡を起こす。
キュィィン!!
一凛の服のポケットに入れていた輝鉱石が輝きを放つ。
ガキン!!
十一「えっ?」
枝のドリルが何かにぶつかり、一凛の眼前で止まる。
一凛「なにこれ?」
一凛の眼前でドリルを受け止めたそれは…
一凛「イタチ?」
動物のイタチのような姿をしている。だがその尻尾は風が逆巻いており、その尻尾で根のドリルを受け止めている。イタチは一凛のほうを見る。その眼は次の命令を待っているかのようだ。
一凛「なんだかわからないけど…(このイタチの考えがわかる気がする…今思っているのは私と同じ感情!)」
今の彼女の気持ち。それはただ一つ。
一凛「この飛行機に乗っている人たちと私の後輩を痛めつけたこの化物をぶったおす!!」
一凛の言葉に呼応するようにイタチが空中へと飛び上がる。飛び上がったイタチは風の尻尾を大きく振りかぶりその身を高速回転させる。
一凛「いっけぇ!!エアロ・キーン・ヴィゼル!!」
無意識にイタチの名前を叫ぶ一凛。風をまとい高速回転するヴィゼルが木の化物へと飛んでいく。木の化物は枝のドリルをヴィゼルへ向かって伸ばす。
ザシュシュ!!
ヴィゼルが身にまとった風は鋭く、それに触れた枝のドリルは切り裂さかれていく。枝を切り裂きながら、木の化物へと迫っていくヴィゼル。
ザシュン!!
風の刃で両断される木の化物。直後、その体は干からびたように朽ちていき、その体中から機内に張り巡らされていた根も朽ちて消滅していく。
パアァァ…
周囲に光があふれていく。すると一凛と十一の傷も消え、奪われていた体力も回復していく。まるで何も起きていなかったかのように。
一凛「やったの…」
十一「すごいです!先輩!」
一凛へと駆け寄る十一。
一凛「よかった…」
肉体的なダメージは回復したが、精神的な疲弊は回復していなかったらしい。安堵とともに意識が遠のく一凛はその場に眠るように倒れる。それと同時にヴィゼルも消滅するように消えてしまう。
十一「先輩!」
どうやら眠っているだけのようだ。一安心する十一。だが1つの疑問が浮かぶ。
十一(あのイタチはいったい何だったんでしょうか)
今の二人に知る由はないがそれは『召喚』の力。この能力が使えない世界『安寧世界』での脅威に立ち向かうことができる力。それを一凛は手にしたのだ。
十一(考えてもわかりませんね。今は先輩を介抱するのが先決です!)
一凛を抱えトイレをでる十一。
こうして謎の人物が放った木の怪異は倒された。木の怪異が倒されたことで、その怪異によって起きた現象はすべてなかったことになり乗客や乗務員たちは何もなかったかのように元通りに復活した。
機長も怪異に対する記憶は消失したそうだ。この怪異のことを覚えているのは、輝鉱石をもっていた一凛と十一の二人のみ。その怪異を放った人物を除けば。
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件(くだん)の怪異を放ったその人物はとあるビルの屋上で携帯端末を見ていた。
「おかしい…」
どこのニュースにも飛行機墜落事故の情報はない。
(失敗した?そんな馬鹿な…)
天十也たちは
トキシロウの石扉の攻略に手を取られている。乗客にもなにかしらの力を持っていそうなものもいなかった。
(何者かが怪異を倒したというのか…あり得るとすれば『召喚士』。それもまだ誰も知らない召喚士)
自身の計画を阻止されたのは解せぬが、自分だけが得たこの情報。それはこの安寧世界に対するカウンターとなりえる。
(この情報を生かさぬ手はないな)
その場から一瞬にして姿を消す男。暗躍する彼が向かう先はいずこか。
最終更新:2025年09月18日 21:32