~魔導都市メルディア=シール~
魔導都市に降り立った一凛と十一が目にした光景。それは壮絶なものだった。
一凛「なにこれ…」
街の建物はいたるところが壊れている。まるで戦争でもあったかのようだ。
十一「魔導都市でいったいなにがおきたんですか…」
近くにいた魔導士に話を聞く二人。その魔導士の話では強大な力を持つ魔導士が巨大な蛇の化け物を従え、街を蹂躙したらしい。
だがその魔導士も倒され、今は再び平穏がおとずれたとのことだ。
十一「フォウバンたちの仕業でしょうか…」
一凛「わからないわ…」
十一「もういちど
メルトに連絡をしてみます!」
携帯端末を取り出し、メルトに連絡する十一。すると連絡が繋がった。
メルト『十一(シィイン)!どうしたの?』
ミストラルシティの時と違い、普通に意味の分かる言葉を話すメルト。
十一「メルト!元に戻ったの!」
メルト『そうなの!でも今魔導都市が大変なことになってて…』
十一「知ってるよ。今魔導都市に来てるから」
メルト『えっ!?そうなの!どこにいたの?』
十一「空港を出たあたりの場所だよ」
メルト『私もそんな遠くないところだよ!じゃあここで合流しよう!』
メルトから位置情報が送られてくる。どうやら近くの喫茶店のようだ。この街の状態で喫茶店がやっているのかは疑問だが…
一凛「いってみましょう。メルトなら私たちの力になってくれそうだしね!」
~魔導都市・喫茶店~
どこか見覚えのある店構えの喫茶店。だが今はその喫茶店も損傷し、営業しているようには見えない。
その店の扉を開くと彼女がいた。
メルト「十一!」
十一「メルト!」
久しぶりの再会に喜ぶ二人。
メルト「一凛さんもお久しぶりです」
一凛「相変わらず元気そうね」
静寂機関との戦いぶりの再会だ。
メルト「はい!それで二人はどうして魔導都市へ?」
十一「実は…」
これまでの経緯をメルトに説明する2人。ミストラルシティに現れたフォウバンと千百家の名を名乗る男。彼らを追って魔導都市に来たこと。
そして飛行機内で現れた木の怪物に、一凛の意思に呼応するように現れたヴィゼルのこと。
メルト「ここでもいろいろあったけど十一たちも大変なことに巻き込まれていたんだね」
十一「さっきも連絡してみたけど、私の実家に連絡がつかないんだよ」
メルト「昨日までの魔導都市の状況(ブランによる遺失魔導の発動状態)ならあり得るけど、今も繋がらないのはなにかあったと考えられるね」
一凛「まずは十一の家族が心配だし、千百家に行ってみましょう」
メルト「あっ!そういえば先ほどの飛行機での話ですけど…」
思い出したように話すメルト。
メルト「一凛さんと十一が遭遇した化物は怪異だと思われます。超常的な事象を引き起こす存在で人の常識では考えられない事態を招くそうです」
それ自体に悪意や善意があるかは定かではないが人の理(ことわり)を超える事象。
一凛「怪異か…」
十一「まるで幽霊や妖怪みたいなものなのかな」
メルト「それと一凛さんの言っていたイタチのような生き物、それは召喚獣だと思います」
一凛「召喚獣?」
メルト「はい。私の師匠たちもその力を使っていたんで間違いないと思います!」
メルトの話では召喚士となった一凛は召喚の力でヴィゼルを召喚できるらしい。
一凛「召喚か…」
あまり実感はわかないが、能力が使えなくても危機に立ちむかう力を得たと思えば悪くはない。
メルト「じゃあ十一の実家にむかいましょう!」
~魔導都市・千百家~
古めかしい大きな屋敷。そこが千百(スィンバン)の名を持つものが代々暮らす場所。
一凛「十一の実家ってこんな大きいんだねぇ」
十一「ずいぶんと古めかしくはあるのですが意外と歴史はあるみたいです」
メルト「久しぶりに十一の実家に来たね!」
家の前に立つ3人。家の中にはだれもいないかのようにあたりは静寂で満ちている。
メルト「誰もいないのかな?」
家の扉に手をかけようとしたその時
「人様の家に挨拶もせずに入ろうとは無作法な奴らだ」
最上階のベランダから聞こえる声。一凛と十一は聞き覚えのあるその声に即座に反応する。
一凛「お前は!」
十一「千百の名をかたる偽物!」
メルト「この人が例のやつですか!」
ベランダのほうを見上げるとそこには千百一(スィンバンシー)の姿があった。一は三人を眺めながら話す。
一「偽物だと?始祖であるこの俺が?」
十一「始祖?何を言っているんです?」
一「器の体は偽物だろうが、俺のこの意思はまごうことなき本物だ」
以前にミストラルシティで会った時とは雰囲気が全然違う。その余裕のある強者のオーラはこれだけの距離があってもビリビリと三人を緊張させる。
十一「おじいさまはどうしたんですか?」
一「おじいさま?あぁそうか。この家にいた奴か」
一は邪悪な笑みを浮かべる。
一「俺の肥やしとなった」
十一「肥やし…それって…」
顔が青ざめる十一。
メルト「ふざけたことをいわないでください!十一のおじいさまはそんな弱くはありません!」
一凛「そうよ!十一!あんな奴のいうことを真に受けないで!あいつは十一を揺さぶろうとしてるのよ!」
十一「そ…そうですよね。あんな奴のいうことを信じません!」
メルト「そうだよ十一!あんなやつけちょんけちょんにやっつけてやろうよ!」
一「所詮は弱者の強がりか。やれるものなら俺のところまで来るがいい」
屋敷の中へと姿を消す一。
一凛「いくよ十一!」
十一「はい!」
メルト「いきましょう!」
三人は屋敷の扉を開け、中に入る。
一階は大広間になっていた。上階へと続く階段が玄関の正面に見える。
一凛「だれかいる?」
上階へと続く階段の前に人影が見える。その人影に十一は見覚えがあった。
十一「林(リン)さん!」
昔からこの屋敷の掃除や家事全般をしてくれているお手伝いさんだ。
十一「無事だったんだね!」
十一の呼びかけに林は反応を示さない。
一凛「なにか様子がおかしい」
メルト「なんでしょうか…」
林「…」
林の体からどす黒いオーラが湧き出る。直後、その全身から毛が生え肉体が毛皮で覆われ肉体の形も変化していく。
一凛「あれってカワウソ?」
その眼は緑色に輝くカワウソのような姿へ変貌する林。
メルト「怪異への変貌…」
十一「これもあの男の仕業なの…」
林「……」
林の立っている地面から周囲に波紋が広がる。まるでそれは水面のように。
ズブズブ…
林の体が水の中に入っていくように地面に埋まっていく。地面から鼻から上だけを出し、三人を見据える林。
ズブン!
直後地面の中に潜水するように姿を消す林。
十一「消えた…いや潜ったの!?」
足元から振動を感じる三人。
一凛「まさか地面の中を水中のように泳いでる!」
メルト「どこからくるのかわかりません!」
ザパン!
三人の背後の地面から飛び出るように現れる林。その手の鋭い爪で三人に襲い掛かる。
ガキン!
その爪をメルトは手にした宝剣で受け止める。
メルト「これが怪異化だとすれば…あの男を倒せば元に戻る可能性はあります!2人はあの男を倒してください!」
十一「でも魔導も使えないのに一人で相手をするなんて…」
メルト「心配しないで!私だって無策じゃないよ!」
一凛「メルトさんを信じましょう!いくよ十一!」
十一「わかりました!無茶はしないでねメルト!」
上階へと進んでいく一凛と十一。
メルト「うわっ!」
林の強靭な腕の力で宝剣ごと吹き飛ばされるメルト。
メルト「すごい力…人間離れしてますね」
林は再び地面へと潜り、その姿が見えなくなる。
メルト「また奇襲を仕掛ける気ですね」
振動する地面。だがその振動は均一でどの方向から林がくるのか予想もできない。
メルト「……」
目を閉じ集中するメルト。
メルト(隣国のタウガス共和国では他人の気を感じ取る技術が発達している。同じく魔導を祖にする技術ですから私にもできるはず)
林の気配。それを感じ取れば地面から出てくる瞬間に迎撃できるはずだ。
メルト「今です!」
地面へ向けて宝剣を振り下ろすメルト。
ズブ…
だがそこに林の姿はなく、地面へと当たった宝剣は底なし沼に飲まれていくように地面の中に吸い込まれていった。
メルト「あぁ~!!宝剣が!!」
魔導の使えない今のメルトの唯一の戦う術が奪われてしまった。
ザパン!!
その隙を待っていたかのように地面から飛び出す林。その口を大きく開け、メルトを噛み殺そうと襲ってくる。
メルト「わわわ!!」
慌てふためくメルト。林の牙がメルトへと迫る。
メルト「なんてね♪」
スカッ!
林はそのままメルトを通り過ぎてしまう。まるでメルトの体が透明になったかのように。
後ろを振り返るとそこにいたはずのメルトの姿が消えていた。どこへ消えたのだろうか。
メルト「こっちですよ!」
声が聞こえたほうを振り向こうとしたその瞬間!
ドンッ!!
林の体が吹き飛ばされる。壁へと激突する林。
メルト「よしっ!いいぞ~キュラちゃん!」
林へと激突してきたそれは白い山羊だ。その体に赤い刺青のような線が走っている。それはメルトの召喚獣。その名は
メルト「オブスキュラ・グリモア・ゴート!私の召喚獣です!」
どや顔でえっへんとポーズをとるメルト。
メルト「昨日の皆さんの戦いの後、私も力に目覚めたのです!」
十也たちの影響かは不明だが、ブランとの戦い後に召喚士として覚醒したメルト。
メルト「やっちゃえ!キュラちゃん!」
林を指さし、オブスキュラへ命令するメルト。だが…
オブスキュラ「……」
オブスキュラはその場に座り込む。
メルト「なんでいうことを聞いてくれないの~!」
林はオブスキュラに狙いを定めたかのように鋭い爪で襲い掛かる。だが…
スカッ!
その攻撃は空を切る。林の目の前にオブスキュラはいるはずなのに何度攻撃してもその攻撃は当たらない。
メルト「無駄ですよ!これがキュラちゃんの能力なんですから!」
林は狙いをメルトに変え襲い掛かる。
メルト「わわ!」
ザシュ!
爪の形に川の字のように服がえぐられ、その中の肉が裂け血が噴き出る。
メルト「ぐっ…」
傷はそこまで深くはないようだが、痛いことに変わりはない。
メルト「なんでキュラちゃん守ってくれないの…」
我感ぜずの様子のオブスキュラ。
ズブズブ…
メルトの足元の地面が沼になったかのようにメルトの体が地面に沈んでいく。徐々に地面へと飲み込まれていくメルト。
メルト「せっかく…仲良くなれるとおもったんだけどな…オブスキュラ…」
地面からは頭と腕以外すべて飲み込まれてしまったメルト。
オブスキュラ「!!」
オブスキュラは何かを察したようにメルトのほうに駆けていく。
ガッ!!
メルトの腕を口で加えるオブスキュラ。そのまま地面から引きずり出そうとするが、地面へ埋まっていく力のほうが強く引きずり出せない。
林はメルトを引きずり出そうとするオブスキュラへと鋭い爪を振りかざす。
ザシュン!!
オブスキュラの体から噴き出す血。だがオブスキュラは痛みに耐え、メルトの腕を咥えた口を放そうとはしない。
林「…」
林はオブスキュラへ何度も切りかかる。それでもオブスキュラはメルトのことをあきらめようとはしない。
オブスキュラの足ががくがくと震える。痛みに耐えるのも限界のようだ。それを見た林は大きく腕を振りかぶる。トドメの一撃。それが今、振り下ろされる。
(オブスキュラ…あなたの気持ち…伝わったよ!)
オブスキュラの体が輝く。と同時に埋まっているメルトからも光を放つ。あまりの光に目を抑え、後ずさる林。
ザパン!!
地面から引きずりだされるメルト。その手には先ほど地面に埋まった宝剣が握られていた。
メルト「助けてくれてありがとうオブスキュラ!」
今ならオブスキュラの気持ちがわかる。彼女たちは通じ合えた。
メルト「私はあなたを軽視しないし、裏切りもしない!あなたの誇りを尊重します!」
宝剣を構えるメルトとその横に立つオブスキュラ。
メルト「オブスキュラ・グリモア・ゴート!2人でいくよ!」
メルトの飛びかけに応じるように背を低くするオブスキュラ。その背にメルトがまたがる。メルトを乗せオブスキュラが林へ突撃していく。
メルト「うぉぉ!!」
林は爪を構え、迎撃する。
スカッ!!
だがその攻撃はメルトたちを透過する。
メルト「どこを見ているんですか?こっちですよ!」
先ほどまで眼前にいたはずのメルトが背後にいる。メルトはオブスキュラに乗ったまま林を宝剣で切り抜ける。切り抜けた直後、メルトたちの姿が別の場所へと移動している。
メルト「あなたはもう術中にはまっているんです!私たちを捉えることはできません!」
オブスキュラ・グリモア・ゴートは認識阻害の力を持つ。本来いる場所と実際にメルトたちがいる場所。それが林には違う場所に見えているのだ。
何度もすれ違いながら切り付けるメルト。
メルト「これでとどめ!オブスキュラ!」
オブスキュラが頭の二本の角を上に向ける。
ポン!
角の先端が取れその場で高速回転する。高速回転した角は摩擦熱で炎を纏い火球となる。
メルト「くらってくださーーい!!」
勢いよく宝剣を野球のバットのように振り、二つの火球を林へ飛ばすメルト。
火球は進むにつれて徐々に大きくなり、林に迫ったその大きさは直系3mはあろうかというほどの巨大な火球となっていた。
林「…」
林は地面を蹴りジャンプする。そのま飛び込みのように地面へもぐり、その火球を避けようとしたのだろう。
グン!
二つの火球は急激に軌道を変え、ジャンプした林へと向かっていく。
メルト「逃げられませんよ!これは曲がる魔球(火球)ですから!」
ボオゥ!!
火球が直撃した林の体が燃え上がる。全身が燃えた林は黒焦げとなりその場に倒れる。
メルト「私たちの勝利です!」
オブスキュラ「メエェェ!!」
勝利の喜びを分かち合うメルトとオブスキュラ。
黒焦げになった林の体にひびが入っていき、ガラスのように砕ける。砕け散ったその中からは人の姿をした林が姿を現した。どうやら意識はなく、眠っているようだ。
メルト「怪異化が解けたみたいですね…よかっ…た」
気が抜けたように意識を失い頭から地面へ倒れていくメルト。メルトが地面へ倒れるよりも先にオブスキュラが体でメルトを受け止める。そのままゆっくりと地面に下ろし、横になるようにメルトを寝せる。
メルトの顔を舌で舐めるオブスキュラ。どうやら二人の信頼関係はうまく構築されたらしい。オブスキュラはメルトが気を失ったことでその身が透け消えていった。
~千百家・二階~
2階にたどり着いた一凛と十一。彼女たちを待ち受けていたのは
十一「おじいさまっ…いや、お父様!」
車いすに乗った老人。それは十一の父、現千百家当主。
千百十(スィンバン シィ)「来たか…来てしまったか十一(シィイン)…」
最終更新:2025年09月20日 17:37