~時はさかのぼり・モゴラ大陸・リオルクラフト研究所~
ピピピ!!
赤髪の男の持つ携帯端末に連絡が入る。
リオル『調子はどうかしら?』
「特に変わりはない。能力が使えなくなったことを除けばな」
リオル『能力喪失。その件についての電話なのだけれど』
リオルの話では今十也たちが能力喪失の件で敵と戦っているらしい。
リオル『今からあなたに魔導都市にむかってほしいの』
「魔導都市?」
リオル『えぇ。今十也たちはそこにいる。敵の力は未知数。あなたにも協力を要請するわ』
「わかった。ちょうど退屈していたところだ。すぐに向かう」
~魔導都市~
魔導都市についた赤髪の男。だがすでに街は半壊していた。大きな戦いが終わった直後のようだ。
「一足遅かったか」
すでに敵の気配もない。徒労に終わってしまったか。
「んっ?何かを感じるのか?」
赤髪の男は街の奥の方を見つめる。
「あっちになにかあるのか…わかった」
こうして赤髪の男は千百家へとむかったのであった。
~魔導都市・千百家2階~
十「だれだ」
ゲイン「俺は
ゲイン・ブレイズ。怪異というのは人の言葉を理解するんだな」
一凛「何者なの…」
少なくとも一凛にとっては敵ではなさそうだ。
ゲイン「怪異ならばリオルが言っていた戦うべき敵には違いないな」
機械の腕を構えるゲイン。
ゲイン「お前もまだ戦えるか?」
一凛「私は戦いたいけど…」
ヴィゼルのほうに目を向ける。ヴィゼルは一凛の戦う意思に呼応するように、自身の出血箇所の周辺に風を当て急速に乾燥させることでその場しのぎではあるが出血を和らげる。
一凛「まだやれるんだねヴィゼル」
ヴィゼルはうなずき、敵を見据え立ち上がる。
ゲイン「お前の相棒もやる気のようだな」
2対1の状況。数的には有利になった一凛たち。だが敵は怪異化した現千百家当主千百十(スィンバンシィ)。そして彼が今解放している千百家の門外不出の人体魔導術式千百款染(スィンバイクァンラン)は怪異したその肉体をさらなる次元へと押し上げている。
十「力に飲まれる感覚。その感覚が今のわしにはよくわかる」
千百款染の効果だろうか。十が人間時の意思を取り戻しているようにも見える。
一凛「もしかして自我が戻ったの?」
十「十一(シィイン)の友よ。お前には礼をいう」
一凛「礼?」
十「あぁ。本当に…」
十の様子に気が緩む一凛。だが次の瞬間、目にもとまらぬ速さで一凛へ襲い掛かる十。
ガキン!
機械の腕で十の攻撃を受けとめるゲイン。
ゲイン「ぼさっとするな!こいつは敵意をむき出しにしている!その言葉は人の言葉を真似、甘言を発しているだけだ!」
十「邪魔をするなぁ!!」
一凛「これが怪異…」
人を欺き、利用し陥れる。しかも今目の前にいるのは大事な後輩の親に寄生した怪異。
一凛「許せない…」
どす黒い感情が自身から湧いてくるのを感じる。
ドクン!
一凛の中で何かが鼓動する。それは彼女の知らない力。
ヴィゼル「…」
ヴィゼルの眼が鋭くなり、その眼が赤く光る。
一凛「潰してやる!」
ヴィゼルが一凛の目の前に立ち、ヴィゼルと一凛を覆うように風が渦巻く。
すさまじい風が竜巻のようにヴィゼルと一凛を包み込む。二人の姿は風に包まれ見えない。
ゲイン「なんだ!?」
十「なに!?」
突風により吹き飛ばされ、部屋の壁に激突するゲインと十。
バシュン!!
竜巻が消えその中姿を現す一凛。
ゲイン「なんだあれは…」
その姿は先ほどまでとはまるで違う。髪はボサボサに伸び、頭からは獣のような耳が生え、毛皮を着ているかのような姿だ。
一凛「グルル!!」
その眼は赤く光り、獣のように歯をむき出しにし獲物を狙っているかのようだ。
ゲイン「怪異化…なのか?」
十「なんであろうと関係ない!」
十は一凛へと襲い掛かろうろうとする。だが…
バシュ!!
風を纏った一凛は十が動き出すよりも早く、十の目の前へと襲い来る。
十「わしよりも速いだと!?」
一凛の拳が十の顔面へと放たれる。その拳は風を纏い、十の鱗を切り裂きながらその中の皮膚へと直撃する。
十「ごはっ!」
強烈な一撃にその場に倒れる十。
一凛「ガオゥ!」
一凛は倒れた十に馬乗りになる。両腕を上げる一凛。
ゴゴゴ!!
その両腕を覆うように風が渦巻く。
一凛「ガゥ!!」
両腕を十に振り下ろす一凛。その両腕から放たれた風が渦巻き、鋭い竜巻のように十を襲う。
十「あががっ!!」
十の鱗を切り裂き、その中の皮膚をえぐっていく竜巻。そして…
ドシュ!!
竜巻は十の体に風穴を開ける。
十「ごふっ…」
十の体全体にひびが入る。直後、ガラスのように砕け散り中から人の姿をした十が姿を現す。だが…
一凛「ガゥ!!」
人の姿に戻った十に対して再び攻撃をしようとする一凛。その両腕に再び風を纏わせ振り下ろそうとする。
ドゴン!!
だが機械の腕が一凛の顔面へと直撃する。それはゲインの攻撃だった。
ゲイン「そいつはもう怪異ではない。人間に戻っている」
一凛「グルルル…」
無傷に見える一凛。
ゲイン(腕部ユニットは直撃しているはず…いや!)
よくみると一凛は自身の周囲に風の壁を発生させている。その壁が攻撃を防いでいるのだ。
ゲイン「一筋縄ではいきそうにないな。こいつがな」
一凛「ガオゥ!!」
一凛は狙いをゲインへと定め、獣のように襲い掛かる。
ガキン!!
機械の腕で一凛の風を纏った拳を受け止めるゲイン。
ヒュオォォ!!
ゲインの足元から音がする。直後、足元から突風が沸き上がり、その体が地面から離れる。
ゲイン「なに!?」
突如宙に受くゲインの体。まるで無重力状態にでもなったかのように浮いた体はバランスを保つことはできない。
ゲイン「まずい!」
体制を崩したゲインへ両手を向ける一凛。その両手に風を集め、風の塊を形成する。
一凛「ガアゥ!!」
風の塊を勢いよくゲインへ放つ一凛。空中で無防備になっているゲインにそれを受け止める術はない。
ゲイン「ちっ!」
ドゴォン!!
風の塊がゲインの腹部に直撃する。腹部をえぐり炸裂する風の塊。
ゲイン「がはっ!」
そのまま壁へと吹き飛ばされるゲイン。壁へと衝突し、その場に倒れる。
ゲイン「まずいな…このままでは…」
能力が使えない以上、あれをやれば腕部ユニットは壊れるだろう。使えるのは1度きり。
彼の能力は『フォース・アサルト』。その能力は自身と自身の使う武器を活性化させ、その力を限界を超えて引き出すことができる。
今までは能力によってアーヴァヘイムの腕部ユニットの力を引き出し、普通ならば壊れるであろう程の出力をも可能としてきた。
ゲイン「大博打だ。こいつがな」
一凛は獣のようにとどめを刺そうと向かってくる。立ち上がり、一凛を迎え撃つため拳を構えるゲイン。
ゲイン「リミット解除!」
腕部ユニットの球体が赤く輝く。
ゲイン「粒子光弾!!」
ババババ!!
粒子の弾が一凛へ放たれる。だが一凛は突風を巻き起こし、その体を浮かせ粒子の弾を回避する。
ゲイン「回避するか。だがそれは読んでいる!」
一凛が回避した粒子の弾が床に衝突し、あたり一面に煙が舞う。その煙によりゲインの姿が見えなくなる。宙に浮いている一凛はゲインの居場所を探るように周囲を見渡す。
バッ!
煙の中から現れた機械の手が一凛へ迫る。
一凛「ガゥ!」
その手を風の壁で防ぐ一凛。だがその機械の手は腕から先がない。ゲインが左腕の腕部ユニットだけを飛ばしたのだ。
ゲイン「本命はこっちだ!」
一凛の背後から現れるゲイン。右腕の腕部ユニットで一凛へと拳を叩き込もうとする。だが…
ガガガ!!
背後からの攻撃も風の壁に阻まれる。
ゲイン「やはり全身を覆う球体状のバリアか…」
両目を一瞬閉じ、覚悟を決めるゲイン。
ゲイン「ガーランド、アーヴァヘイム!俺は未来へ進む!」
右腕の腕部ユニットから腕を抜くゲイン。
キュィィン!!
腕部ユニットの赤い輝きが増す。
ゲイン「オーバーロード。限界点だ」
ドゴォン!!
強烈な爆発とともに2つの腕部ユニットが爆発する。あまりの衝撃に風の壁を纏ったまま吹き飛ばされる一凛。部屋中をピンボールのように何度も衝突し飛んでいく。
球体状の風の壁に守られてはいるがその中の一凛には目が回るほどの衝撃が与えられる。あまりの衝撃に風の壁を解除し、ふらつく一凛。その隙を彼は待っていた。
ゲイン「これで!」
服の中から2本の小さい筒状の棒を取り出すゲイン。それを両手に持ち一凛へと迫る。
ゲイン「粒子(マテリアル)ブレード!」
筒から赤い粒子の刃が出現する。その粒子の刃を振るうゲイン。
ザシュン!!
粒子の刃が一凛の体を切り裂く。その場に倒れる一凛。その体を覆っていた毛皮は消え、元の姿へと戻る。
ゲイン「終わったな…」
両手に持った粒子ブレードを手から落とすゲイン。もう手に力も入らない。それだけ限界だったようだ。
一凛「ん…」
倒れた一凛が目を覚ます。どうやらゲインに受けた肉体的なダメージは変化が解けたと同時になくなっているようだ。
一凛「あれっ…?」
周囲の状況が一変していることに驚く。先ほどまでの記憶はないらしい。
一凛「十一のお父さんが元に戻っている!あなたがやってくれたの!」
ゲイン「やれやれだな…」
安堵と共に疲れがどっと出る。あれだけのことをしておきながら何も覚えていないとは。
ゲイン「怪異化はとけた。もう大丈夫だろう」
一凛「じゃあ、すぐに上に行かないと…」
上階にいった十一を追わないと。そう思うのだが体がいうことを聞かない。もう一歩も歩けないかと思うほどの疲労感が襲ってくる。
一凛「どうしちゃったの…私の体…」
ゲイン(外傷のダメージはないが、肉体としてはダメージはうけているということか)
一凛「速くいかないと十一のところに…」
ゲイン「安心しろ。上の階にいった少女なら大丈夫だ」
一凛「大丈夫って…何を根拠に…」
一凛の言葉を遮るようにゲインは不器用に笑みを浮かべながら話す。
ゲイン「すでに援軍が行っている。あいつなら戦力的には申し分ない。俺が保証する」
最終更新:2025年09月23日 00:38