第五章「砂漠に咲く星」-HERMES-


―北京宇宙港―

シゲポ艦長「敵部隊に動きが見られたそうだ。味方部隊がこれの迎撃に当たっている。我々もすぐに向かう。交戦予定位置はゴビ砂漠西部のA-322地点だ。」
全員「了解。」
シゲポ「また、今回は2部隊に分かれて行動する。ユウスケとミナは第1隊として、前線へ、ケイゴとフラウドは第2隊として、防衛線を張ってくれ。」
ユウスケ「ん?ロミオ達は?」
シゲポ「ハミダの事もあるので、日本のトヨタへ行くそうだ。今回の敵勢力は少数だから、我々でも十分だ。心配はいらない。」

―ゴビ砂漠西部―

ユウスケ「こちら第5機動艦隊所属ツクヨミの部隊だ。」
ゴビOP「確認完了しました。第7ハッチより着艦してください。」

―ゴビ砂漠待機艦“イザナミ”艦内―

ホーリー「どうも、艦長のホーリーです。以後よろしく。」
ユウスケ「………。」
ホーリー「…?どうしました?」
ユウスケ「いえ、ずいぶん若い人が艦長なんだなと思いまして…。」
ホーリー「ハハハ、よく言われるよ。でも、そういう君達だって、まだ若いのに、頑張ってるじゃないか。」
ユウスケ「確かにそうですけど…。」
ホーリー「これからの時代は、若い人達が頑張って行かないとね。期待してるよ。」

ユウスケとミナのイザナミ合流から数時間後…

~ゴビ砂漠西部・火星軍M.A.F.T.Y.所属高速万能戦艦“ヱリシウム”~

そこでは多くのモビルスーツがあわただしく出撃準備に入っていた。
イズミ=オーツ<BHジェネレータアクセス、主電源接続、全回路動力伝達、起動スタート…ロックボルト、全安全装置解除…システムオールグリーン…>
イズミが次々と“アマルテア”のシステムを立ち上げていき、機体を支えていたハンガーが解除される。
OP<アマルテア、カタパルトへ。>
カタパルトのオレンジの誘導灯が次々と灯り、緑色に変わる。
イズミ<進路クリア…発射準備完了。>
OP<アマルテア発進どうぞ!>
イズミ<イズミ=オーツ、アマルテア出撃する!>
イズミが叫びながらカタパルトを起動すると、リニア誘導によって瞬時に加速された機体はゴビ砂漠の空へと飛び立っていった。黄昏に染まりつつある砂漠の戦場へと…。

─イザナミ艦内─

OP「み、ミサイル多数接近!北西のマフティ艦隊からです!」
ホーリー「…!!迎撃ィッッ!ち、いきなり来たね…!よし、全機発進よろしく!」
ユウスケ&ミナ「了解!」
既に機体を立ち上げて待機していた二人が返答する。
OP「ディオネプロメテウス、発進準備。両機、カタパルトへ。」
プロメテウスがカタパルトへと固定される。
ユウスケ「ユウスケ=アヤゾノ、プロメテウス!いきますっ!!」
ユウスケは、ぐんっと加速を背中に感じ、その次の瞬間には、朱く染まる空へと投げ出される。続いてディオネが…、
ミナ「ミナ=デル=フィオーレ、ディオネ!出るわよっ!!」
荒涼とした大地に迫る夜の合図が、ミナ達を戦場へと駆り立てていく。

─ゴビ・戦場─

ユウスケ<もう…始まってる…ミナ!最前線に斬りこむ!離れるなよ>
ミナ<は、はい!(ユウスケ…どうしちゃったの?なんだかいつもと…)>
ユウスケ「(北京は落とさせない…みんなが笑って暮らせるように…!そしてあのこも…)」

イズミ「(ぴぴーっ)ん…?接近する機影2…速いな。しかも進路上の我軍を一掃しながら?生意気な…地球人の分際で…!だが墜とす!」
アマルテアがカリュケを引き連れてプロメテウスとディオネへと向かう。

ユウスケ「ん?空気が変わった…なんだか重たくて冷たい…でもどこか…“懐かしい”…」
ミナ<ユウスケ?>
ユウスケ<ミナ!気をつけて!なにかくる!>
イズミ「ふん…こいつか…マッシュがヤラレたっていうのは…」
ユウスケ「なんだ…!この機体は!?」
ユウスケとミナの目の前に現れたのは10数機のカリュケと、眩しく輝く光の翼“アンドロメダ”をまとった、MAFTYの最新ガンダモ“アマルテア”だった。

―ゴビ・戦場―

イズミ「邪魔するなぁっ!!」
ユウスケ「うっ!こいつ…強い!」
ミナ「くっ!ファントム・リフラクション発動!!」
するとモニターに映るディオネの像がぼやけ出す。そしてまたくっきりと見えるようになったとき…
マフティ兵「な、なんだ!?5機!?…5機に増えただと!?レーダーにも機影が…どうなっているんだ!?」
ミナ<一気に畳み掛けるわよぉ!!>
ディオネとプロメテウスは、ビームライフルを連射する。ディオネの虚像に惑わされたカリュケ達は瞬く間にその数を減らしていく…。
イズミ<こんな目くらまし、何てことない!!>
ユウスケ<…!この声!…まさか昼間の!?>
二人は光の刃を何度も交えながら、お互いに叫びかける。
イズミ<昼間の?お前、街でぶつかった…?>
ユウスケ<どうして君が!?戦争なんかに…!!>
イズミ<『何故?』…決まってる。マフティに…アルテミスに勝利を与える為だ!地球人を滅ぼしてな!!>
ユウスケ<ばかな!滅ぼすなんて!!こんなに綺麗な世界があるのに、こんなに綺麗な人達がいるのに、どうしてみんな闘おうとするんだ!憎みあわなければいけないんだ!>
イズミ<貴様らを滅ぼして復讐を果たすためさ!死ねぇっ!>

バキューンッ!!

ユウスケ<あぅ…あぁっ…!!>
アマルテアが撃った高出力BHビームが、プロメテウスに今にも突き刺さろうというそのとき…
ミナ<ユウスケ!危ない!!>
ディオネがユウスケと迫り来るビームの間に飛び込む。

一瞬だった。

ビームはミナごとコックピットを焼きつくし、ディオネは大爆発を起こした。

ユウスケ「……?」
閃光と共に、広がる土煙。
ユウスケ「ミナ…?…返事をしてくれ……ミナ…!!ミナッ!!」
やがて土煙がはれたあとにユウスケが見たのは、足元に散らばったディオネの残骸と、ミナのペンダントだった。
ユウスケ「……う、うぁぁああぁぁ!!!」

きゅぴぃぃぃん!!

~ユウスケ×イズミ×エルメス~


イズミ「ははは!バカな地球人だな!自分のことだけ守っていればいいものを!」
ユウスケ「うぁあああああ!」
今ユウスケの目の前にいるのは、街角で出会った輝く瞳を持ったイズミではなかった、心に闇が渦巻く殺人鬼と同じだった。あどけない純真なイズミ、そしてアカデミーからずっと一緒だったミナ…ふたりの大切な人をなくした今…ユウスケの心の中では、氷のように冷たい炎が燃えていた。そしてその炎が燃え盛る勢いに任せ、ビームサーベルをアマルテアにつきたてる。
イズミ「なっ!!」
ユウスケ「っい!っけぇぇぇぇぇ!」


エルメス「ダメ!!」


ユウスケ「!?」
ユウスケがためらった一瞬のスキに、アマルテアのBHソードはプロメテウスの胸を貫いた。プロメテウスのコックピットではあらゆる計器がアラートを発している。
イズミ「ハァ…!ハァ…!」
ユウスケ「うっ…イズミ…君も…笑って…」
プロテメウスはアマルテアの手を掴む。
イズミ「…っ!!!うぁぁぁ!はなせぇぇぇえええ!」
アマルテアがプロメテウスを振り払うよりも早く、プロメテウスのジェネレータが爆発する。


ずずずんっ


爆発の光が二機も包む。炎と衝撃波と爆煙が辺り一面に拡散する。

エルメス「……ケ…、ユウスケ…」
ユウスケ「(うぅっ…!!ん…)」
エルメス「イズミを殺しちゃダメ…。あのコは…悲しいコだから…ひとりじゃ生きていけない。あのコの心を救えるのはユウスケだけなの…」
ユウスケ「(エルメス…君か…おれは今度こそ死んだのか…?)」
エルメス「いえ。ここはわたしの世界。あなたとわたしのこころの中。あなたにはまだしなければいけないことがある。」
ユウスケ「(…彼女…は…?)」
エルメス「ふふっ。ユウスケはやさしかったものね。あのコは無事。でも…」
ユウスケ「(…でも…?)」
エルメス「あなたが傍にいないとダメ。少し…間違っているだけ…あなたにはわかるでしょ?ユウスケ…イズミを…お願い…」
ユウスケ「(はは…わけわかんねぇや…)」

~月が氷るような夜…ゴビ砂漠・どこかのオアシス~


ちゃぷん

ユウスケは静かな水音で眼を覚ます。
ユウスケ「ん…夢…なのか…?いや…エルメス…君は…」
イズミ「うっ…!ぅうぁっ…ハァッ!ハァ…!」
ユウスケのすぐ側に倒れていたイズミが眼を覚まし、苦痛に顔を歪める。
ユウスケ「…イズミ!?大丈夫!?」
ユウスケはイズミにかけよって上半身を抱き起こす。
イズミ「わたしは…うっ」
ユウスケ「動かないで…傷に触る…」
イズミ「…!?おまえはプロテメウスの!…うぐっ!」
イズミはユウスケの腕から逃れようともがくが体に激痛が走る。
ユウスケ「バカヤロウ!死ぬようなケガしてるんだぞ!敵も味方もあるかよ!」
イズミ「わたしは…火星のパイロットだぞ…おまえの仲間を殺して…おまえを殺そうとした…」
ユウスケの頭にミナの死が蘇る…
ユウスケ「…火星も地球も一緒だよ。」
イズミ「『火星も地球も』…?…っだが!地球は火星を植民地にした!ひどいめにあわせた!7年前に地球からの食糧供給が止められて…くっ…何億の民が…ごほっ!ハァハァ…!…10歳だったわたしも…死を覚悟した…!火星と地球はわかり合う事はもうできない!この戦争はどちらかが滅びることでしか…ぐっ!」
イズミは痛みも忘れて火星が地球から受けてきた悲惨な扱いを次々と並べていく。そこには欲に支配された愚かな人間の、醜い歴史があった。
ユウスケ「7年前…あのときは地球も世界的な大飢饉だったんだ…火星の人にはあんまり知らされてないみたいだけどね…化石燃料を吸い付くし、地球の資源をバカみたいに使ってきたバチさ。おかげで地球は今や死の星も同然だよ…この砂漠を見てみな?ここには昔、栄えた街があったんだ…7年前に亡くなったのは、火星の人だけじゃない…。地球が飢えれば、宇宙が飢える。どんなに繁栄を極めても、母なる地球をこんかにして許されるはずがない!」
イズミ「…わたしは…とうさんのために…火星をないがしろにした地球人に復讐を…!7年前の飢饉は地球人が仕組んだものじゃなかったの…?」
ユウスケ「あぁ。人類みんなの責任だ。君が今まで戦っていたのは実体のない“憎しみ”だ…」
イズミ「そう…じゃあ地球はとうさんがいうような…星じゃなかった…の…ね…」
ユウスケ「イズミ…?イズミ!?」
ユウスケは抱えあげたイズミが寝息をたてているのを聞いて安心すると、夜空を見上げた。一面の美しい星空だった。そしてツクヨミが天の川を横切る。

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最終更新:2006年07月27日 02:09