ぼん
大阪は急にプロレスが見たくなった。
「ちよちゃん、猪木見にいこー」
「いいですよー」
猪木は強かった。
「猪木ボンバイエ~~やねん」
「ボンバイエーー」
「ただいまー」
玄関のドアを開くと同時に、カレーの匂いが大阪の鼻腔をくすぐった。
母親が台所から顔を覗かせる。
「歩、今日の夕御飯はおつ――」
「待ってお母ちゃん。まさかお疲れーて言うんちゃう?」
「……なに言っとるねん歩、いくらなんでもそれはないねんよ」
「…………」
「…………」
「お母ちゃん、汗いっぱい出とるで」
「……鋭くなって来たんやなー」
「ふっ、私は猪木を見て感覚が高まったんや。もう無敵やで」
「そう。ところで今日は、ボンカレーやで」
「ぼん?」
「そうや、ボンカレーゴールド、甘口」
「ゴールド! 甘口! ぼん!」
大阪はそわそわを抑えきれず、靴を脱ぎ捨てて台所にかけこむ。
いい香りが部屋に広がっていた。
「ぼん! ぼん……ぼんばいえーごーるど!」
「うふふ、まだまだやね歩」
後方の視線に、大阪は固まった。
「他にもあるで。ほれ、サーターアンダギーに、チャンプル」
「ちゃ、ちゃんぷるー! さーたーあんだぎー!」
「あら歩、どうして涙を流しとるんやー? ふふふ」
「な、なんで口が勝手に……」
「可愛いわね。はい、ボンカレー」
「いのきぼんばいえー!」
最終更新:2007年10月21日 19:26