ロックンロール・ネバー・ダイ 1

今日はとても天気がいい。
金曜日なので、今日一日学校へ行けば明日は休みだ。
ここのところ少し体調を崩していたので週末はゆっくりと休もうと思う。
「なあ、よみ~!」
      • とまあ、そんな甘い考えもあいつの一言で消え去ってしまう訳だが。
「何だよ、智」
私に声を掛けてきたこの子の名前は智と言う。私とは幼少時代からの腐れ縁だ。
元気が良いのはいいのだが、良すぎるのも困る。おまけに何を考えているのかが理解できん。
正直な話、私が今まで持ち堪えているのが不思議なくらいだ。
まあ、癇癪は小出しにしているからかも知れないが。
「あのさぁ、私達って何もしてないよな~」
「お前はまだ物足りないのか」
いつもいつも何かしら騒動の火種になる割には、直ぐに飽きて次の事を起そうとする。
何かしていないと不安なのか?
例えて言うなら常に漕いでいないとこけてしまう自転車みたいなものだ。
補助輪になってくれるような男が現れでもすれば・・・そんな訳は無いか。
「だって帰宅部だろ?青春を楽しんで無いねぇ」
「そう言えばそうだな。で、何か考えているのか?」
私がそう問うと智は素っ頓狂な顔で
「え?まだ何も~」
と答えやがった。勢いだけで物を言うのはやめろと言ったのに・・・。

昼休み。
食事を終えた私は、疲れていた事もあって机に突っ伏して寝てしまった。
だが何しろ机が硬いのと周囲が騒がしいのもあって、深い眠りに入るのは困難だったのだ。
そんな浅い眠りの中へと、私の意識は歩いて行った。

  *

私はいつものメンバーとカラオケに行っていた。
智と大阪は必死に曲を探し、榊は前で歌っている。相変わらず歌がうまい。
夜通し歌ったのだろうか?ちよちゃんはソファの上で眠っている。
「さあ、よみの番だぞ。次こそは歌ってもらうからな。」
智がマイクを突き付けてきた。
「又お前は私に歌わせて音痴だと馬鹿にする気だろう。その手には乗らんぞ。」
私が拒むと智は、さらに声のトーンを上げて私に迫ってくる。
「何だよノリ悪いな~歌えよ~よみ~」
ノリだけで片付けられるお前が羨ましいよ。でも私はもう恥ずかしくて歌えない。
「う、うるさい!強要するのはマナー違反だぞ!」
「いいじゃんね~よみ~よみってば~!さあ!さあ!よみ~!」
頬にマイクをぐりぐりと押し付けられ、私は体を仰け反らせる。
「よ~~み~~」
「う…ぐ…やめろ…」

  *

「…み…よみ~…」

「っ…歌わないぞ私は~!」
大声を上げて立ち上がる私。
場所は教室。周囲で皆が驚いた顔でこちらを見ている。
夢か!
うわ…これこそ恥ずかしいな、等と考えながら、心を落ち着かせる為に座る。
「よみさん、大丈夫ですか?何だかすごく魘されてましたよ」
ちよちゃんが心配そうな顔で私を見上げている。
「ああ、大丈夫。それより何だ、智」
「いやぁ別によみさんは歌って頂かなくても良いのですよ。」
あいつはあの喋り方好きだな…
「で、何なんだ?」
「いやぁね、大した話じゃ無いんだけど、よみくんがぐっすり眠ってる間に、皆で話してたのよ。」
よみくんはやめろ、よみくんは。
「朝も言ったと思うけど、何かこう、青春な事をしたいわけ。」
「ああ、言っていたな。」
嫌な予感を感じながらも、話の続きを聞く事にした。
「そう言う訳で、バンドやろうぜバンド!」
何ぃぃ!軽く言ってのけやがった!

「…バンドが何か知っているのか?」
少し引き気味で私が尋ねると智はこんな返事をした。
「ぐれい!」
ハァ…
「演奏は難しいし、そもそも楽器を買う金が無いぞ。」
現実的な話を持ち出せば、如何に無謀な事を考えているかわかるだろう。
…だが、
「バイトすればいいじゃん!」
いやいや、簡単に言うなよ。
「どうせ直ぐに飽きるんだろ」
「んなこたーないっ!」
うわ…目が輝いてやがる。この高校を受験した時のあの目だ。
あいつ本気じゃないか・・・
「そもそも、どこで練習するんだ」
「音楽室を借りよう!それに…」
無茶な事を言うなぁ…
ん…?ちよちゃん?
「うちに地下室があるので、そこを使えば大丈夫ですよ!」
何だとぉーっ!
「ち、ちよちゃん、正気かぁ?」
もう何が何だか分からなくなってきた。
そうだ、榊はどうか。あまりアクティブな事は好きじゃ無さそうなんだが…
「榊…こんなバンドとか、好きじゃないよな?そうだよな?」
「昔から…ベースをやってみたかったんだ…」
やばい!完全に智のペースだッ!このままでは青春どころか、
人生まで滅茶苦茶にされそうだ!
…大阪はどうだろう!大阪は不器用だから、楽器とか駄目だろう…
「大阪、大阪はどうするんだ?」
「私~?………私はトライアングル~」
……もうだめぽ。
その日の夜から私は寝込んでしまい、せっかくの週末もずっと布団の中だった。
まさか、まさかこんな展開になるとは……。

<続く>

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最終更新:2007年10月20日 17:55