ロックンロール・ネバー・ダイ 4

変化に富んだ日々。
高校生になってからというものの、いつも私の周りでは楽しい友人達が
学園生活というものの楽しさ、素敵さというものを教えてくれる。
元々人付き合いのうまくない私がこんなに積極的になれるのも、彼女達のおかげだ。

今日は皆で音楽室に来ている。音楽の新田先生が私達に嬉しそうな顔で説明している。
新田先生はこの学校の非常勤で、ジャズをやっているらしい。
先生が言うには、この学校は男子生徒がかなり少ない為、
軽音楽部が無い事。また、軽音楽をやろうと言う人がいないとの事である。
そのため楽器室にある軽音楽用の楽器たちが埃をかぶっていたのだ。
そこで私達がこうやってきたので、先生は非常に喜んでいるらしい。
協力もしてくれるようで、非常にありがたい。
「それでですね、楽器を持っていないので借していただけませんか?」
もうすっかりちよちゃんが交渉役だ。リーダーは…?
…いない、どこに行ったのだろう…
「是非使ってちょうだい!楽器は使わないと死んでしまうから!」
やった。これで問題のひとつ、「楽器が無い」が解決した。
「ありがとうございます、新田先生!」
ちよちゃんがめいっぱいの笑顔でお礼をしている。ちよちゃんは可愛いな…
「おーい、こっち来てみなー。」
音楽室の奥の部屋から、リーダーである智の声がした。
あそこは楽器室…

楽器室を覗くと、吹奏楽で使われる管楽器や木琴などの奥に、
未だ使われた事の無いギターとベース、ドラムセットなどがほとんど
新品に近い状態で保管されていた。
智が皆に出すのを手伝うよう命じたが、私が体が大きく、
狭い楽器室の中で身動きが取れなくなるのを恐れて外に出る事にした。
表で運び出されたドラムなどを受け取る途中、智が
「ほら、これは榊ちゃんのだぞ」
と私に渡した黒い皮のケース。
意外にずしりと腕に堪えたそれを、私は開けずにはいられなかった。
考えていたよりも早く来たこの瞬間…
手をファスナーにかける。大きな鼓動、震える手。
そんな中私は、昨日見た夢を思い出していた。

  *

私は部屋で動物専門のの雑誌を読んでいた。
気に入ったページは角を折る癖があるので、ほとんどのページの角が折れている。
ページの角を折る事を、ドッグイヤーと言うらしい。
何てかわいい表現なんだろうか…
あ、このページ、一合升に入ったハムスターがとてもかわいい。
よしここのページも…
「やあ、おはよう」
…!
いきなり肩を叩かれたので驚いてしまった。
私は慌てて雑誌を隠すと、恐る恐る後ろを振り向いた。
「やあ、また合ったね。」
「…うわっ!」
私の後ろにいたのは…そう、ちよちゃんのお父さんだった。
「元気にしてたかなー?」
私の肩に置いていた手をふっと上げて、お父さんは言った。
「ええ…まあ、それなりに。」
私が答えるとお父さんは、どこから出したのか黒いケースに入った
ギターのような物を差し出した。
「ベースがやりたいと…そう言っていたんだよねぇ?」
落ちついていて、それでいて凄みのある声で言う。
「はい…そうです。」
動揺している私に、お父さんはそれを渡す。
受け取ったそれはずしりと重く私の腕へとのしかかってきた。
「これは本当のベースだ。これを君にあげよう。」
お父さんは私に背中を向けて言った。
「え…何故?」
ベースを抱いたまま私が尋ねると、
「腕を磨くのだよ~?」
お父さんは何も言わずに去っていってしまった…。

  *

「榊ちゃん何してんのさ、早く開けなよ」
私がファスナーに手をかけたまま思い耽っている間に、
楽器はすべて音楽室に運び込まれていた。
そこに並べられた楽器は本当に綺麗で、本当に長い間放置されていた物には見えなかった。
「誰も使わないから、私がいつも手入れしてたのよ。
新田先生が得意げに言う。
よみは黒地に白の変な模様のギターを抱えていた。
彼女は背があるからとても様になる。
大阪は昨日智が言ったようにブラスだったが、ブラストは全然違う形で
そもそも金属製では無いようだ。
それからはコードが出ているし、私にはよくわからない。
彼女は懸命に息を吹き込んでいるが、それから音はしない。
「音せえへん、この笛壊れてるんちゃうん~?」
ちよちゃんはキーボード。
背が低いので、教卓の下にある台を使ってやっと届く高さだ。
ちよちゃんはとても嬉しそうだ。
「榊さん!」
「…ん?」
「榊さんもほら、早く!」
そうか、私がまだだったな。
「…うん。」
私はファスナーにかけた手を、一息に引きおろした。
中から現れたのは想像もしていなかったほど赤く赤く、
そして触れる者を全て破壊してしまうようなフォルムと存在感を持ったベースだった。
「わ・・・」
私は恐ろしさよりも、早くそのベースを抱いて
全力で弾いてみたい感覚に襲われた。

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最終更新:2007年10月21日 16:25