休み時間、智は大阪と話をしている様子のよみを見つけた。
「さーて、またよみをからかってやるか~」
智はそう思いながら、よみの近くへと近付いた。
どうやら、よみは何か本を読んでいるようだ。なになに、『東万ヶ岳の殺人』だと?聞い
たことがあるぞ。えーと…、そうだ。前にちよちゃんから教えてもらった本だ。でも、途
中を読むのが面倒くさくて最後の犯人のところだけ読んだんだっけな。ほぅ、よみは今そ
の本を読んでいるんだ。
智はよみと大阪のそばで二人の会話を聞いていた。
「大体どの辺りまで読んでいるん?」
「うーん、真ん中辺りかな。これから物語が佳境に入って来て面白いところなんだ。も
う、犯人が誰なのかドキドキものだよ」
何だと!…ってことは、よみはまだこの本の犯人を知らないんだな?これは面白そうだ。
智は不敵な笑みを浮かべ、
「おっ、よみー。お前、その推理小説を読んでいるのか?」
と言って、よみのすぐそばへと近付いた。
よみが自分を見て、迷惑そうな顔をしていた。
智はよみが何を考えているのかは大体察しが付いている。前に、よみが推理小説を読んでいるのを邪魔した前科があるからだ。
「今、すごくいいところなんだ。悪いけど今はこの本を読ませてくれ」
よみが自分の方を見向きもせずに言った。
お前がそういう態度を取るほどこっちは邪魔したくなるんだよなー。しかも、その本の
犯人を知っているだけにさっ。
「別にいいけどよ、その小説私ももう読んだんだー」
智は何気なしにボソッと呟いた。
「なっ、なんだって!」
その言葉によみは相当驚いているようだ。本当にリアクションが素直な奴だ。
「だって、その小説、ちよちゃんに教えてもらったんだろ?私もちよちゃんに教えても
らって、その本読んだんだよ。いやー、面白かったなー」
「おい!絶対に犯人が誰だか言うなよ!」
よみの口調は必死だった。そりゃそうだろう、犯人の名前を言ったら、それでもうこの
話の興味は尽きてしまうんだからな。でも、それをしたいんだよなぁ~。
智はいたずらっ子のような意地の悪い笑みを浮かべた。
「うーん、どうしよっかなー。言うななんて言われると、余計に言いたくなちゃうんだ
よなー。犯人はー…」
「ダブルチョーップ!!!」
智が犯人の名前を言おうとした瞬間、よみのチョップを頭部に食らってしまった。かな
り本気なのか、いつもよりも数倍痛かった。
「絶対に言うな!言ったらただじゃ済まさないぞ!」
「痛たたた…。もう、ただじゃ済んでないだろう」
智はチョップを食らった頭をおさえながら言った。しかし、内心ではもう少しこのネタ
でからうことができそうだと感じていた。
(続く)
最終更新:2008年03月21日 14:11