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585 - (2007/05/29 (火) 23:47:59) のソース

<p><dt><a href="menu:585" target="_top" name="585"><font color="#0000ff">585</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/23(水) 22:48:13 ID:MJm1Ujht </dt><dd>「じゃあ先行っとるわー」 <br />
そう言って大阪はお風呂場へ行ってしまった。 <br />
私も早く用意して&hellip;と。 <br />
<br />
ちよちゃんちの別荘に来るのはこれが2回目だ。 <br />
去年のこともあって、だいたいのことは把握している。 <br />
お風呂場はこの廊下の突き当たりで&hellip;確かそれほど大きなものではない。 <br />
それでも、一年に何回かしか使わない別荘にしては豪華なものだ。 <br />
二人ぐらいなら余裕で同時に入れる広さだったと思う。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:586" target="_top" name="586"><font color="#0000ff">586</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/23(水) 22:48:55 ID:MJm1Ujht </dt><dd>「大阪ー」 <br />
一応声をかけてみるが&hellip;返事はない。 <br />
電気はついてるんだけど&hellip;。 <br />
「入るぞー」 <br />
まぁ、遠慮することはないか。 <br />
小さめのタオルを一枚だけ持って&hellip;体重計&hellip;は後でいいや。 <br />
がらがらとガラス戸を開くと、湯気の中で体を洗う影がひとつあった。 <br />
「なんだ、返事くらいしろよなー」 <br />
私も体を洗おう。 <br />
今日は海で遊んだから&hellip;なんか砂っぽい感じがする。 <br />
幸い蛇口は二つあるし、隣で&hellip;ん? <br />
「あれ?榊?」 <br />
「え?&hellip;あぁ」 <br />
眼鏡をかけていないとはいえ、直前まで気付かなかった。 <br />
そういや大阪にしては大きかったような&hellip;気もする。 <br />
「いや~、大阪が先に行ってるって言うからさ、てっきり&hellip;」 <br />
「もう出ていった」 <br />
何!?早いな! <br />
あいつ、いつもはスローなくせに&hellip;時々妙に素早いんだから&hellip;。 <br />
「早いな&hellip;。ちゃんと洗ったのかよ」 <br />
呟いてみるが、榊は黙々と体を洗っている。 <br />
考えてみれば、こいつと二人というのは初めてかもしれない。 <br />
別に取っ付きにくいとか思ってるわけじゃないんだけど&hellip;。 <br />
「&hellip;どうしたんだ?」 <br />
え?あ!私!? <br />
なんかじろじろ見ちゃってたかな&hellip;。 <br />
「いや、何でもない&hellip;」 <br />
「&hellip;そうか」 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:587" target="_top" name="587"><font color="#0000ff">587</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/23(水) 22:51:20 ID:MJm1Ujht </dt><dd>長い髪を丁寧に洗う榊は、眼鏡をかけてこなかったことをもったいなく感じるほど綺麗だった。 <br />
スタイルのいい長身に、背筋の伸びた姿勢が美しい。 <br />
服を着ていないから、なおさらかもしれない。 <br />
&hellip;私ったら、何見とれてんだろ。 <br />
とっとと体洗ってしまおう。 <br />
うん、洗ってしまおう&hellip;。 <br />
&hellip;しまおうと思うんだけど&hellip;。 <br />
水を弾く白い肌と潤った黒い髪が、私の視線を離さなかった。 <br />
私も&hellip;髪は長いし、身長もある。 <br />
でも、榊のは&hellip;。 <br />
綺麗だな&hellip;。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:588" target="_top" name="588"><font color="#0000ff">588</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/23(水) 22:52:58 ID:MJm1Ujht </dt><dd>「榊、髪触ってもいい?」 <br />
私は&hellip;、自分でも何を言っているかわからなかった。 <br />
榊をこんな風に思ったことなんてなかったのに。 <br />
「い、いや。一日中海で遊んでたから&hellip;痛んでないかな&hellip;とか&hellip;」 <br />
我ながら苦しい言い訳。 <br />
変なやつだと思われたかな。 <br />
普段只でさえ親しくないのに&hellip;。 <br />
「いいよ」 <br />
ほら、榊も呆れて&hellip;。 <br />
え? <br />
「触ってみて。やっぱり痛むのかな?」 <br />
思いがけない返事に、私は固まってしまった。 <br />
彼女の言葉にしばらく返事ができない。 <br />
見つめあう静かな空間に、シャワーの音が煩わしかった。 <br />
「いいの?」 <br />
やっと出てきた一言とともに、私の左手は彼女の髪に吸い寄せられていく。 <br />
「どう?パサパサしてない?」 <br />
榊の髪はしっとりと重くて&hellip;露に濡れた草の葉のようだった。 <br />
肩越しに胸に覆っている髪に指を通すと、下から彼女の白い肌があらわれる。 <br />
「綺麗&hellip;」 <br />
うっとりとする私を、榊はどう思ったのだろうか。 <br />
彼女の穏やかな微笑みが自分に向けられたものだと気付くまで、私は髪を撫でていた。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:589" target="_top" name="589"><font color="#0000ff">589</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/23(水) 22:54:07 ID:MJm1Ujht </dt><dd>「さ、榊の髪って綺麗だよね&hellip;」 <br />
榊に見られているとわかって、私はとっさにその場を取り繕おうとした。 <br />
彼女の髪から手を離す。 <br />
焦る私に、彼女はまだ笑顔を向けていた。 <br />
私、どんな顔してたんだろ&hellip;。 <br />
「水原の髪も、綺麗だ」 <br />
囁くように話す彼女は、言葉とともに私の髪を持ち上げた。 <br />
「そんな。榊のほうが&hellip;」 <br />
想像しなかった言葉に、胸がぎゅっとする。 <br />
うまく話せないし&hellip;頬は赤くなっていたかもしれない。 <br />
「私のとは違う&hellip;。鮮やかな色」 <br />
榊は、自分と私の髪を見比べて言った。 <br />
「あぁ&hellip;小さいときから茶色くってさ。今日は日を浴びたから余計かもしれない」 <br />
私も榊の髪をもう一度手に取る。 <br />
二人の間で長い髪が交差した。 <br />
「だから、黒いの憧れなんだ」 <br />
私は&hellip;、こんな気持ちになったのは初めてだ。 <br />
榊を特別に思ったこともない。 <br />
でも&hellip;、今は&hellip;。 <br />
自分の気持ちに素直にならないと損だと思ったんだ。 <br />
<br />
</dd><dt><a href="menu:590" target="_top" name="590"><font color="#0000ff">590</font></a> 名前:<font color="#228b22"><strong>名無しさん@秘密の花園</strong></font>[sage] 投稿日:2007/05/23(水) 22:55:13 ID:MJm1Ujht </dt><dd>「え?ちょっと!?」 <br />
私は彼女の髪を離し、首もとに腕をまわしていた。 <br />
<br />
&hellip;自分でも何やっているかわからない。 <br />
ただ、腕に絡みつく髪が、少し冷たかった。 <br />
<br />
<br />
顔は見えないが、榊はそれほど驚いていないようだった。 <br />
声をあげたものの、私を突き放そうとはしない。 <br />
それどころか&hellip;。 <br />
彼女は&hellip;、私の肩を抱いてくれた。 <br />
「どうしたの?」 <br />
耳元で囁かれる声に、私は震えるしかなかった。 <br />
理由の無い涙がこみ上げてくる。 <br />
本当に&hellip;理由の無い涙が。 <br />
「水原&hellip;」 <br />
「暦って呼んで」 <br />
私は何とか涙をこらえると、彼女の言葉を遮って叫んでいた。 <br />
「暦って&hellip;。今だけ」 <br />
思ったこと全てを口にしていた。 <br />
<br />
&hellip;榊がどう思ったかは知らない。 <br />
知らないが、彼女は笑ってくれた。 <br />
私を肩から起こし、裸眼でもはっきりとわかる近さで笑って&hellip;。 <br />
それからの榊の表情はわからない。 <br />
私が彼女より先に目を閉じたから&hellip;。 <br />
一度こらえた涙は安堵とともに溢れ出し、重なった唇の上に流れ落ちていた。 <br />
<br />
「こよみ」 <br />
離れた唇が、ぼやけた視界の中でそう動いたのを感じて・・・やっぱり眼鏡をかけてくるべきだったと思った。 <br />
《おわり》 <br />
</dd></p>
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