- 作者 794
- 投下スレ 2代目スレ
- レス番 794
- 備考 非エロ 純愛
794 :4巻if :2009/06/23(火) 02:02:07 ID:TzslHFmx
三人ともそれ以上言うことはないのか、気まずそうに周りを見渡している。
もしかしたら、流石に悪いことをしたと思っているのかもしれない。いつもと違う反応は少し新鮮だ。
けど、そんなことはどうでもいい。こいつらの記憶を消さなければ。
あんな弱みを握られたままで生きて行ける気がしない。
とりあえず、いすで殴って記憶を消そう。
僕はこれからすることを頭の中で組み立て、三人に気付かれないようにいすのほうへ移動していた。
けれど、そんな僕の行動を遮るかのように、ガラガラと音をたてて、ゆっくりと教室のドアが開いていった。
そこには、
「…………」
顔を真っ赤に染めて俯いている、いつもとは全く違う様子の美波が立っていた。
「「「「「…………」」」」」
しばらく沈黙が辺りを包んだ。僕たち四人はもちろん、入ってきた美波すらも声を出せずにいる。
雄二と秀吉は気まずそうにに辺りをきょろきょろと見回していて、ムッツリーニはすまないと言いいたげな視線を一度こちらに向けた後は
、頭を下げてしまっている。
美波も僕をちらりと見てはまた下を向くということを繰り返している。
このままじゃ埒が明かない。とにかく美波になんで入ってきたのかを聞かないと。
半ば諦めつつも、一縷の望みをかけて美波に話しかけた。
「……えっと、美波? まさかとは思うんだけど、僕たちの話……」
「……うん、聞いてた」
目だけを僕のほうに向けて質問に答えると、美波は赤い顔をさらに真っ赤に染めて、再び俯いてしまった。
少し潤んだ目で上目遣いをした美波の姿は、いつもと違ってすっごく可愛い……ってじゃなくて!
あの台詞を聞かれた!? よりにもよって張本人の美波に!?
『僕にとって美波は——とても魅力的な——女の子だよ』
「うわあぁぁぁああ!」
「お、落ち着くのじゃ明久! そっちは窓じゃ! ここは三階じゃぞ!」
「離して秀吉! 僕もう生きていけない!」
あんなものを聞かれて、誰が生きていられるって言うんだ!
生き恥をさらして生きるくらいなら、僕は死を……
「アキ……その、ちょっといいかな?」
「はひぃ!?」
急に話しかけられ、声が裏返ってしまった。
美波は口を開いて言葉を続けようとしていたが、ためらうように口を閉じると、また下を向いてしまった。
時折目線を僕に向け、何か言いたげに口を開くが、また口を閉じて僕から顔を背けるということを繰り返している。
真っ赤な顔がさらに赤く染まり、そろそろまずいんじゃないかと思う。止めたほうがいいのかなあ……
795 :4巻if :2009/06/23(火) 02:03:41 ID:TzslHFmx
と、そういえばなんで美波は顔を赤くしてるんだろう。
思い当たるのはあの言葉だけれど、僕だけじゃなく美波まで赤くなっている理由は……
1.僕が言った言葉に照れている
ありえない。あんな言葉で照れるのは、好意を持った相手から言われたときだけで、僕のような奴に言われたときではない。
そもそも昨日思いっきり否定されたばかりじゃないか。僕の妄想癖も大概にしないとね。
2.僕に怒っている
これはありそうだ。昨日からあれだけのことをしておいて、今さらあんな言葉を信じてくれるとは思えない。
僕が言ったことは決して嘘ではないけれど、そういうことは相手にわかってくれると期待するものではない。
でも、これだと僕が殴られていない説明がつかない。
本気で美波が怒っているなら、真っ先に再起不能にされていてもおかしくはない。
3.急な高熱で助けを求めに来た
これか! これなら顔が赤い理由も、しおらしくなっている理由も全て説明がつく。
テープを聴いたとかいうことは、きっと何か僕らの間に食い違いがあるんだろう。
こんなことにも気がつくなんて、僕も成長したなあ……
いや、感慨にふけっている場合じゃない。美波がああなるなんて、よっぽど酷い熱のはずだ。早く保健室に連れて行かないと。
「ねえみな「昨日のことなんだけど、その、ウチに……キス、されて……どうだった?」
「み、体調が……って、えっ!? キス!? どうって何!? なんで今その話が!?」
「なっ……ひ、人が勇気出して聞いてるのにその反応はないでしょ! いいから嫌だったかそうじゃなかったか答えなさい!」
熱で体調が悪かったんじゃないの!? なんでキスが関係あるんだ!? 僕はなんて答えればいいんだ!
ってこんなのあいつらがいる前で答えられるわけがないじゃないか。ちょうどいい、そう言って誤魔化そう。
しかし辺りを見回しても、三人の姿はどこにも見あたらない。あいつら逃げやがったな! いつの間に!
誤魔化す手段もなくなって、どう答えようか迷い、とりあえず美波のほうに視線を向けた。
その先には当然のように美波がいて、見なければ良かったかなと、少し後悔した。
美波は、立っているのがやっとではないかと思えるほど、強く両足を震わせていた。
夕日に染まった教室でもはっきりとわかるほど赤く染まっている顔にも、きゅっと真一文字に結ばれている唇にも、
少しの切欠で崩れてしまいそうな雰囲気が漂っている。
瞳にはいつもからは考えられないほどに弱弱しく、けれど決意の込められた光が湛えられていて、その視線は僕のことをじっと捉えていた。
こんなのは卑怯だ。誤魔化そうなんて思ってた僕が悪者みたいじゃないか。
僕の頭の中は不思議と落ち着いて、だけど真っ白になっていた。ただ嘘をついちゃいけないということだけはわかっていて、僕の口は
「嫌だったわけ、ないじゃないか」
と、勝手にそんなことを言っていた。
796 :4巻if :2009/06/23(火) 02:04:56 ID:TzslHFmx
「うん、それじゃあ、これは……」
美波は一瞬だけ表情を崩すと、僕のほうへゆっくりと近づいてきて、
「昨日からの、お詫び。それと、」
最後まで言い終える前に、美波は僕に口付けた。
柔らかく瑞々しい唇の感触は昨日の朝に感じたものと全く同じで、けれどその温度は昨日よりもずっと高くて、
火傷するんじゃないかと思うほど熱かった。
多分僕もそうなんだろう。さっきから顔が熱くて仕方ない。見なくても顔が紅潮していることがわかる。
「んっ……はぁっ」
十秒ほどそうしていただろうか。どちらともなく唇を離して、僕らは再び見つめ合う。
美波は目を閉じて深呼吸を一回すると、ゆっくりと目を見開いて、一言一言をかみ締めるように言葉を紡いだ。
「アキ……ウチ、やっぱりアキのことが好き。昔からずっと好きだった。女の子として扱ってくれないのが嫌だった。
女の子としてちゃんと扱われてる瑞希に凄い嫉妬してて、だから昨日は演技でも凄く楽しかった」
昨日、僕の右腕が危機的状況だったことは忘れておこう。
「でも、アキが瑞希を追いかけて、たとえ演技でやってても敵わないんだって思うと寂しくなったの。
それで美春にウチが思ってたことをそのまま言われて、頭の中ぐちゃぐちゃになって、胸が締め付けられて、どうしようもなくなって逃げちゃった」
演技じゃなく、本物の告白をされている。
搾り出すような声も、潤んだ瞳も、紅に染まる顔も、どれも普段の美波とは全く違う雰囲気を纏っている。
秀吉はこれを参考にするべきだ。あれも十分な威力があったけれど、これは破壊力が全然違う。
これでなんとも思わない奴は男じゃない。
「だからあれを聞いて、すっごく嬉しかった。……ウチは、アキのことが好き! 大好き!」
ここまで言い切ると、これまでの勢いが嘘のように口ごもり、
「だから、えっと、その……へ、返事はいいから!」
何とかそれだけ搾り出すように口にすると、教室から駆け出そうとした。
冗談じゃない。ここまで言わせて何も返事をしなければ、僕は本当に最低だ。
とっさに腕を掴むと、美波が驚いた顔をして振り向いた。
僕は美波が振り向いたすぐ後に、何か言おうと口を開きかけたところでキスをした。
「んっ!」
突然のことで驚いたのか、美波は眼を見開いて固まっている。
僕は初めて自分からしたからか、前の二回よりもずっと落ち着いていられる。
思えば僕は二回もキスをされている。男としてされてばかりというのはどうなのだろう。
回数で負けているなら質で勝たないと。
こんなことを大真面目に考えていた僕は、美波の口の中へ舌を滑り込ませた。
「んむっ! んぅ、んふ……はぁ……ん」
始めは体を硬くした美波だけれど、だんだんと僕にされるがままに受け入れだした。
調子に乗った僕は美波の口内を少しずつ陵辱していく。
「んっ……、んぁ……ちゅ、んふぅ……」
歯の一本一本を確認するようになぞり、上顎をくすぐり、舌を絡めあう。
その度に可愛い反応をしてくれる美波が愛しくて、お互いに息が苦しくなるまでそれを続けた。
「ん、ふぁっ……はぁ、はぁ……」
名残惜しく感じながらも唇を離す。
二人の間に唾液の橋が、離れるのを惜しむかのように架けられている。
しばらく僕らを繋いでいたそれは、やがて重みに耐え切れなくなったのか、真ん中から切れて地面に小さな染みを作った。
僕も美波も息が荒い。新鮮な空気を少しずつ取り込んでいると思考がクリアになってくる。
797 :4巻if :2009/06/23(火) 02:07:11 ID:TzslHFmx
というか今さらながら、僕は何をしていたんだろう。
回数で負けているから質で勝つ。だからディープキスをする。
何を言っているのかさっぱりわからない。
少し冷静になっていれば絶対にしなかった。きっと僕も気が動転していたんだろう。
自分の行動を分析してきっとこうだろうと納得したけれど、
「な、なんでいきなり舌なんか入れてくるのよっ! アキのバカ!!」
「痛いっ!」
やっぱり殴られた。僕もこれには文句がない。
いくら好きと言われても、告白の返事にすることじゃないと、自分でもそう思う。
だから僕には、殴る力がいつもよりずっと弱かったことが凄く意外だった。
「ご、ごめん。このまま行かせちゃいけないと思って、何とか引き止めようとつい」
「つい、じゃないわよ! いきなりあんなことするなんて。……こ、心の準備も出来てないのに」
美波の反応もどこか歯切れが悪い。
怒るという感じではなく、これはむしろ……
ぼんやりとした頭でそんなことを考えていると、少し顔を俯けて美波が喋り始めた。
「その、これは、ウ、ウチのことが、す、好きってことでいいのよね?」
僕は美波を好きなのか。正直言って、キスをしたのは雰囲気に流された部分もあったと思う。
告白されたから舞い上がっただけだという自分がいる。姫路さんを諦めるのかという自分もいる。
でも、僕が美波の言葉を聞いて、美波に対して抱いた感情。それは嘘じゃないと思う。
誰と比べてでも、何か妥協してでもなく、僕は胸を張ってこう言える。
「うん、僕も美波のことが好きだ」
「……っ! で、でも瑞希は!? アキ、いっつも瑞希のことあんなに好きって」
目に溜めた涙を溢れさせそうになりながら、必死で美波は言葉を続けている。
正直これを言うのは怖いけれど、嘘はつきたくないし、これが僕の気持ちだ。駄目だったならそれはそれでしょうがない。
「好きじゃないって言えば、それは嘘になると思う。でも僕が美波のことが好きだって言うのもほんとだ。
少なくとも美波を裏切るようなことはしないって約束する」
言った。言ってしまった。
美波の反応を見るのが怖くて目を瞑っていると、鼻を啜るような音が聞こえてきた。
まさかと思ってこわごわ目を開くと、流れ出る涙を拭おうともせず口を押さえて泣いている美波がそこに居た。
あ、あれ……駄目だったかな……?
「み、美波?」
ちょっと怯えながら声をかける。美波はハッとしたように涙を拭って僕に向き直った。
「さ、さっきのアレ。と、突然だったから、何があったか良くわからなかったじゃない。だ、だから……」
声を震わせながらそこまで言うと、目を瞑ってわずかに顔を上げた。
これは……い、いいのかな?
「えっと、美波? その……するよ?」
「い、いいから早くしなさい!」
覚悟を決めて美波の両肩に手を置くと、一瞬美波が体を硬くして、けれどすぐに力を抜いて僕に体を委ねるようにした。
何か妙な責任感がわいてきて、とりあえず紳士的に振舞おうと思って目を閉じようとした。
でも、出来ない。すぐそこにある美波の顔から目が離せない。
まだ少し涙に濡れている頬とまつ毛が、どことなく妖艶な雰囲気を醸し出している。
よく見ればまだ涙は治まっていなくて、少しずつ流れてきている。それを見ていると僕の心臓の動悸も、頭の熱もぶり返してきた。
熱に浮かされた頭のまま、目も閉じようと努力をしながら顔を近づけていく。
あと少し、唇が触れ合う直前まで来たところで、それは起こった。
798 :4巻if :2009/06/23(火) 02:08:40 ID:TzslHFmx
「おーい。まだ誰か残っているの……か?」
見回りだろうか、鉄人が教室のドアを開けた。
思わず僕も美波も鉄人のほうを見て、目が合って、固まった。
鉄人は僕ら二人を交互に見ていて、僕らは何も言えずに固まっている。出来ればそのまま出て行ってくれないかなあ……。
というかこれはかなりまずい状況じゃないか?
状況だけを抜き出してみると、放課後の教室に男子生徒と女子生徒が二人きり。
僕が美波を押さえつけてるように見える体勢で、美波の目は涙に濡れている。
普段の力関係からは有り得ないことだけど、下手をすれば僕が美波を襲っているように見えるんじゃ……
やばい、顔にも背中にも変な汗が滲んでる。
美波が証言してくれるだろうから停学とかはないだろうけど、この場で反省室送りになるのは確実だろう。
いくら処分されなれてる僕でもあそこには行きたくない。
どうにかしてこの場を収める言い訳をしないと。
「あ、あの「あー、お前ら」
遮られた!?
鉄人の台詞に僕も美波も体を固くする。
「そのー、なんだ。すまなかった」
謝られた!?
予想外の展開に呆気に取られる。
「邪魔をして悪かったな。お前らがそういう関係とは知らなかった。ただ、いくら禁止されていないからといってあまり校内でそういうこ
とをするんじゃないぞ。Fクラスの連中に見つかったらただじゃすまないからな」
そう言って豪快に笑っている。誰だこのきさくなおっさんは。
とりあえずこの場を流すために、わざとそう振舞っているんだと思い込もう。
「恋愛もいいが、勉強もちゃんとしておけよ」
そう言って鉄人は教室から立ち去って行った。
……なんだろうこの気持ちは。
まだ素直に反省室送りにしてくれていたほうがずっと良かった気がする。
誰にも見られたくないところを、よりにもよって教師に見られた上気を使われることがこんなに辛いなんて。
勘違いしてくれていたほうがよっぽどましだ。
これから先教室でずっとそんな風に見られるのか? 考えたくもない……
げんなりしていると今までの雰囲気も吹っ飛んでしまった。
美波を見てもそんな感じで、二人で顔を見合せて空笑いをした。
「……はあ、帰ろうか」
「そうね。なんだかめちゃくちゃ疲れたわ……」
鞄を持って教室を出る。
少し先を歩いている美波の左手が開いている。
僕は少し足を速めてその左手を掴むと、顔を見られないように前に出た。
手を掴んだときに一瞬驚いた美波が、僕に笑いかけたような気がした。
僕は気がつかない振りをして、返事の代わりに手をぎゅっと握り締め、やや早足になりながら歩いて行った。
最終更新:2009年12月31日 15:35