アットウィキロゴ
  • 作者 918
  • 投下スレ 2代目スレ
  • レス番 918
  • 備考 非エロ 純愛

918 :名無しさん@ピンキー :2009/08/31(月) 21:16:36 ID:pjZKgU6x
「あー、実は俺たち今日来たばっかなんだけど、道に迷っちゃってさ」
「だから海水浴場までの道を教えてもらえませんか?」

僕と雄二がモテないことを認められなくて始めたナンパだったけど、そう簡単に女の子が捕まるはずはなかった。
声を掛けては失敗するということを何度も繰り返し、ナンパを始めてから時間も結構経ったからみんなのところに帰りながらターゲットを探そうということになる。
僕と雄二は自分たちがモテないことを嘆きながら歩いていると、雄二の視線がある一点で止まった。
僕がその視線の先を追うと女の子の二人組がいた。
一人は栗色の髪を後ろで束ね、切れ長の目をしたクールな印象を受ける美人。
もう一人は可愛い感じの女の子だった。
二人ともスレンダーな身体ですごく魅力的に見える。
歳も僕らと同じくらいだろう。
雄二は一人で歩いて行き声を掛け、僕もそれに乗っかった。

「えっ? 海水浴場だったらすぐそこだよ」
「もしかしてナンパなんじゃない?」
「しょうがないなあ。じゃあ私たちが連れてってあげるね」

クールな印象とは対照的に明るい声で返してくれる。
その上ノリも良い。
栗色の女の子はスッと雄二の隣に来たと思ったら腕を組んでどこかへ歩き出す。

もう一人の女の子も「じゃあ君は私が連れてってあげる」と明るく言ったけど、なぜかトボトボと僕の隣に来て腕を組んだ。
なんか嫌そうだ。
ここは恥ずかしがってるって考えようか。

その間に雄二たちはどこかへと歩いて行く。
あれ、そっちは岩場しかなかった気がするけど……。

僕の隣に来た女の子は喋るたびにビクッと反応していた。
なんでくっつこうとしているのかわからなかったけど悪い気はしないので放っておく。
この娘はこの娘で僕をどこかへ連れて行こうと考えてるのか、雄二たちが向かった方向とは逆に歩き始めた。
あれっ、どうしたのかな。
まあ、いいか。
案内してもらうんだし、行き先は任せよう。

———そして。

僕が案内された場所には女の子が数人いた。
俗に言う美人な女の子たち。
一人は胸が大きくて垂れ目で穏やかな物腰をしている女の子。
一人はペッタンコで吊り目だけど、脚が凄く綺麗な女の子。
一人はスタイル抜群で性格に問題がある僕の身内。

三人とも笑顔だけど、僕の意識はかつてない程の警鐘を鳴らし、身体からは滝のように冷や汗が流れ出た。
僕を案内してくれた可愛い感じの女の子は、この場所に連れてきた途端すぐに離れていった。
女の子の中から秀吉を見つけ出すと、すぐに秀吉の背中に隠れる。
ブルブルと震えていたけどなんでだろう、なんて思っているとパサッと髪の毛が落ちると、見慣れた友人の姿になった。

そんな風に余所見をしていると姫路さんと美波と姉さんがいつの間にか僕の目の前にいた。

………。

ぎゃあぁぁぁああああああ!!!

世の中には叫ぶしかない状況ってあるんだね。


919 :名無しさん@ピンキー :2009/08/31(月) 21:17:12 ID:pjZKgU6x

 * * * * *

どうやらナンパに成功したようだ。

俺の隣にはクールな外見の美女が腕を組んで楽しそうな笑顔をしている。
一言一言が明るく、嬉しそうに弾んでいた。
海水浴場に連れて行ってもらう予定だったが、なぜか人が少なくなっていく。

後ろを確認すると明久はいなかった。
気を利かせるなんていうことは嫌な意味でしか出来ないヤツだからわざとではないだろう。
あまりにも上手く行き過ぎる展開にビビッたが、これで俺がモテることが証明されたってことでよしとするか。


女が俺を連れて来たのは崖だった。
サスペンス劇場の最後のシーンに出てくるような崖。
自白をし、動機を語り、自分を責め、他人を責める犯人が説得されるような場所。

隣にいた女とはまだ腕を組んだままだ。
さっきまで明るく喋っていた人物とは思えないくらい静かに海を眺めていた。

俺の腕を締め付ける強さが増している。
その分、隣の女の胸の柔らかさが伝わった。
心臓がドキドキと高鳴り、ありえない展開を期待しちまう。
お、俺ってそういや翔子に寝込みを襲われたくらいしか経験がねえ。
いいのか、この展開は。
おいしすぎるぞ。
念のため周りを確認したが、人のいる気配はない。
もしあいつらだったら間違いなく痕跡を残してるからな。

そんなことを考えていると隣の女が喋り始めた。
少ししっとりしている。
艶があるって言った方がいいかもしれん。
どうでもいい話をした後、少しためを作ってから色っぽい声で言った。

「ねえ、キスしよっか」
「なっ!?」

いいのか!? この展開は!?
ありえないだろ!? 普通に考えたら。
今日会ったばかりどころか、さっき会ったばっかだぞ!?
ない!
そんな都合の良い展開がこの世にあるわけねえ!


920 :名無しさん@ピンキー :2009/08/31(月) 21:18:08 ID:pjZKgU6x

だが女を見ても何か罠を張っているようには見えない。
張ってあったとしてもどこかに隠れた男が襲ってくるとかか?
それならそれでいいんだが……。

なんというか…本気で俺を誘っているようにしか見えんのは気のせいか?
女の目が少し潤んでいるように見える。
それだけじゃなくてさっき聞こえた声も震えていたような……。
声だけじゃなく、唇も微かにだが震えている。

じゃあ本気か?
本気で俺のことを気に入ったのか?
やっぱ俺はモテるんだな。
ざまあみろ、明久。
俺の勝ちだ。

しかしどうするか。
女にこんな台詞を言わせるとは俺はつくづく罪作りな男なわけだが、しちまっていいのか?
今はいつも付きまとっている翔子がいない。
翔子がいたら俺の目を躊躇なく潰して、どこかへと連れて行くはずなんだが……。
なんか調子狂うな。

まあここで俺が何をしようと俺の自由だ。
だから翔子に責められる云われはねえ。
ここでキスをしても何の問題もないはずだ。

……その代わり翔子は泣くだろうな。
なぜかあいつは俺のことが好きらしい。
小学生の時のことをずっと引き摺って、罪の意識がいつ恋心にすり替わったのかは知らんが、たぶん勘違いだろう。
それが何年も続いていて、今でも付きまとって……うっとうしい。
けど、な、やっぱ翔子を悲しませることは絶対出来ねえよな。


921 :名無しさん@ピンキー :2009/08/31(月) 21:18:39 ID:pjZKgU6x

「悪い」
「なんで? そっちから誘っておいて」
「俺がそういうことをしたら悲しむヤツがいるからな」
「彼女?」
「いや、そんなんじゃねえよ。小学生の頃から一緒のヤツだ」
「幼馴染ってやつかな? その娘のこと好きなの?」
「わかんねえけど……。俺の中ではそいつを泣かすことだけは何があってもやっちゃいけないことなんだ」
「バレなきゃいいじゃん」
「そういう問題じゃねえよ。もしここでお前とキスしたら俺は俺を許せなくなる。あいつとも話せなくなる」
「そんなに大切なの?」
「たぶんな。ずっと一緒だからイマイチわかんねえけど、きっとそうなんだろうな」
「……そう」
「ああ、そうだ——っておいっ! 何泣いてんだよ!?」
「……だって」
「あ〜っと、悪かったな。こっちから声掛けといて。こんなはずじゃなかったんだ」
「……こんなはずって?」
「もっとこう楽に、楽しくって感じだな。明久たちと一緒に四人で話をしたかっただけだったんだ」
「……そう」
「だから、すまん」
「……いい」
「そうか」
「……うん、雄二の気持ち聞けたから」

女は言うと同時に俺にキスをした。
頬なんかじゃなく、唇に。
……翔子に見つかったら間違いなく殺される……。
監禁程度で済む気がしない。
命は助かったとしても両目は残ってないだろう。

「な、何すん…んんっ!?」

俺が抗議しようとするとまた唇を塞がれた。
今度はなかなか離れようとしない。
海に負けないくらいさわやかな香りが鼻を通り抜け、穏やかな気持ちにされてちまう。
柔らかい唇は甘く、遠慮がちに合わさっている。
両手で俺の顔を固定する力は物凄く強いが、触れ方は繊細だ。
そのギャップに驚いたが、このままじゃいかん。
だがあからさまな拒否をすることも出来んな。

「……いいの?」
「何がだ?」
「……私にこんなことされて」
「もともと俺のせいでもあるからな。お前の気が済むまですればいい。あとで俺は殺されるかもしれんが、それは俺の責任だからな」
「……わかった」


922 :名無しさん@ピンキー :2009/08/31(月) 21:19:00 ID:pjZKgU6x

女はまた唇を重ねる。
でもそれ以上のことはしてこない。
キスも単調で、とてもじゃないが経験があるようには思えない。
もしかして無理してるのかもしれんな。
恥かかされたから、か?

………。
……………。
…………………。

そういやなんでこいつは俺の名前を知ってんだ?
言った覚えはねえぞ?
ってことは俺のこと知ってたのか?

そういや話し方が変わってたな。
声の質は少し違うが、あれは聞きなれた話し方だった。
もしかして——

「翔子!?」
「……はい」
「『はい』じゃねえっ! お前何してんだよ!?」
「……キス」
「そんなこと聞いてんじゃなくて——」
「……雄二の気持ちに応えただけ」
「俺の気持ちって——」
「……雄二は私のことが大好き」
「そんなわけあるか!?」
「……外見も性格も私のことが大好き」
「ち、違う!!」
「……私に悪いからキスしなかった」
「それは違うぞ!!」
「……さっき告白された」
「誰がそんなことするかっ!!」
「……私のこと傷つけないって心に誓ったって」
「変な解釈するな! それはだな——」
「……認めると楽になる」
「認められるか!」
「……大丈夫。私は雄二のもの」
「俺の言うことを聞け!!」
「……うん。頑張る」
「そういうことじゃなくて!!」
「……お義母さんに聞いて雄二の好みは把握したから」
「なに赤くなってんだよ! 好みってなんだよ!!」
「……恥ずかしくて言えない」
「やっぱりそっちか!? あの本は明久ので——」
「……私、頑張るから」
「いいから聞けって!!」
「……頑張る」

翔子は俺の上に乗って、俺の手を拘束した。
その後、また唇を重ねて……。

……それだけだった。


923 :名無しさん@ピンキー :2009/08/31(月) 21:19:41 ID:pjZKgU6x

それ以上のことはしようとしない。
さっきから何度も触れている柔らかい唇が重なっただけ。

くそっ!!
あんなプレイをするんだって少し期待しちまったじゃねえか!!
応えるって言ったはずなのに、なんでだ!?
エロ本から俺の好みを把握したはずだし、こいつなら場所がどうとか言うはずはない。
たしか文化祭の時にはみんなの前でメイド服を脱ごうとしたもんな。
だがさすがにこんなところでするのは抵抗があったのか?


ふと俺の頬に水滴が落ちてきた。
いくつもいくつも流れてきた。

翔子は目を瞑り、キスをしながら泣いていた。
そして唇を離し、ただ強く俺のことを抱き締める。

「……雄二、雄二、雄二」

何度も俺の名前を呼び、顔を隠すように抱きついている。
背中をポンポンと子供をあやすように軽く叩いてやる。
頭を優しく撫でてみる。

そんなことをしばらく繰り返していると翔子は落ち着いたようだった。
震えていた肩も涙でぐちゃぐちゃになった顔も冷静さを取り戻したようだ。
自分の手で顔を拭った後、笑顔を俺に向けて翔子は呟く。

「……誕生日が楽しみ」
「誕生日っつっても俺らまだ高校二年だからな!」
「……十八歳になるのが楽しみ」
「俺はまだ認めんぞ!」
「……安心して。それまでにいっぱい勉強しておくから」
「勉強ってお前!?」
「……うん。インターネットでいっぱい調べる」
「やめろ!! お前が間違った知識を入れたら俺が困る!!」

思い込みが激しいからな。
もし俺が嫌がってもそういうプレイだと思いそうだ。
真面目だから引き際もわかり辛いだろう。

「……わかった。じゃあ教えて」
「誰が教えるか!」
「……やっぱりインターネットで」
「それはやめてくれ! 頼む!」
「……吉井に本を借りる」
「それもやめろ!! あいつが俺の弱みを握ったらどうなるか」
「……大丈夫。私はどんなことがあっても雄二と一緒」


924 :名無しさん@ピンキー :2009/08/31(月) 21:20:11 ID:pjZKgU6x

とりあえず俺の上にいる翔子を退けて、みんなと合流しなきゃいかんな。
このまま二人で居るとどうなるかわからん。

「翔子。そろそろ行くぞ」
「……イクだなんて」
「そういうことじゃねえ!」
「……恥ずかしがらなくてもいい。私はどんなことでも受け入れるから」
「違う! いいからそこ退け!!」
「……遠慮しなくていいのに」
「行くぞ!」
「……二回目?」
「違う!! あいつらを探しに行くんだよ」
「……そう。残念」
「早く立て」
「……勃て?」
「違うって!! お前はなんで頭いいのにバカなんだよ!」
「……雄二のだったら受け入れる」
「何を言っても無駄か!? くそっ。いいから明久たちのところに戻るぞ」
「……わかった」

やっと言うことを聞いてくれた翔子は崖に来たときと同じように腕を組んだ。
来た時との違いは、俯いて恥ずかしそうに、だがどこか嬉しそうにしていたことくらいか。

 * * * * *

しばらく歩くと声が聞こえてきた。

「でね、雄二ったら霧島さんの後姿見た時に固まっちゃって、何の躊躇いもなく声掛けに行っちゃったんだ。
 すごいよね。
 やっぱり雄二は霧島さんのことが大好きなんだよ」

やっぱりコイツは殺っとくか。


終わり。
最終更新:2009年12月31日 15:51