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  • 作者 105
  • 投下スレ 3代目スレ
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  • 備考 ネコ耳

105 :名無しさん@ピンキー :2009/11/07(土) 19:42:14 ID:PRoYOJNk 
 「あ〜畜生。鼻が無性にムズムズしやがる。熱もあるし、たぶん風邪だな」
 かれこれ十七年は人間やってるが、風邪をひいたのは初めてだ。
おそらくこの前遊びに行った海が原因だな。全く、姫路が『マドレーヌ』なんて危険な単語をちらつかせるから
夜の海でアサリを探すなどという凶行に及んじまったじゃねえか。
しかも次の日しっかりと致死量のシアン化カリウムを食わされたしな。
……そういや、アイツらは平気なのか? 
アイツらも夜の海で俺とバトル・ロワイアルを繰り広げたはずだ。
明久は……いや、アイツの心配はするだけ無駄か。『バカは風邪をひかない』は
アイツのためにあるような言葉だからな。ムッツリーニは……同じか。
でもアイツの場合、風邪にかこつけてあえて小児科に突入して『…………男子小学生しかいないだとぉ? 許せる!(ボタボタ)』
とか言いながら男子小学生を心行くまで盗撮してほっこりした顔で帰ってくる分だけ明久よりも始末が悪いな。
とすると、あの三人の中で一番風邪をひきそうなのは秀吉か。
アイツも中々にバカだが他の二人に比べればほんの少しだけマシな方だからな。
 「……雄二。どうしたの?」
 「そのセリフ、そっくりそのままお返しするぞ翔子」
 さも当たり前のように自室に不法侵入された挙句『どうしたの?』などと詰問される日本になるとは思わなかった。


106 :名無しさん@ピンキー :2009/11/07(土) 19:45:34 ID:PRoYOJNk
 「それにお前、夏休みなのにどうして制服なんだ? ははぁ、なるほど援交か」
 「……夏期講習がある」
 「ああ、そういやAクラスは夏休みも特別授業があるんだったな。
『志望校のボーダーラインを越えよう! 〜難関国公立を睨んだ基礎作り(笑)〜』ってやつか。
ご苦労なもんだな」
 「……雄二は行かないの?」
 「どうして俺が行くんだ? 俺はFクラスの掃いて捨てるようなゴミだぞ?」
 「……雄二、そんなこと言っちゃダメ。私は雄二が本気を出せば東大理Ⅲにだって受かることを知ってる」
 「俺が? 日本を代表する天才秀才どもが集まる理Ⅲに? それはまたエラく買いかぶられたもんだな」
 確かに、ガリ勉だった小学生のころは一度は夢見たこともある。
だが、今となっては全くもってどうでもいいことだ。
 「ほら、もう授業が始まるんじゃないのか? 早く行かないと遅刻するぞ」
 「……雄二も一緒に来て。そして結婚して」
 「さっき行かないといっただろう。そもそも俺はFクラスだからお前とはクラスが違うし、
ましてやお前と結婚するつもりもない」
 「……今日はFクラスも特別補習がある」
 「あ〜……そういやそうだったな」
 特別補習と仰々しい名前が付けられてはいるが、何のことは無い。
要するに問題児どもが犯罪に手を染めないように拘束するための檻だ。
『法のボーダーラインを越えよう! 〜戸○ヨットスクールを睨んだ基礎作り〜』って奴だ。


107 :名無しさん@ピンキー :2009/11/07(土) 19:51:43 ID:PRoYOJNk
 全く、可愛い生徒にクーラーのない教室で鉄人の灼熱授業を受けさせるなんて
学園側も暑さでトチ狂ってやがるな。丁度良く今日は風邪をひいているし、速やかに
バックレることにするか。ムッツリーニに借りた珠玉の一冊が俺を待っているしな。
それにはまず目の前のコイツをどうにかしなければ。
 「……だから雄二も来て」
 「すまん翔子。俺は無理だ」
 「……どうして?」
 「なぜなら俺は可哀想なことに風邪をひいているからだ」
 「……嘘。雄二が風邪なんてひくわけない」
 「お前絶対俺のことバカにしてるだろ」
 「……確かに熱がある」
 「な? だから俺に構わず先に行け」
 「……私、雄二を看病する」
 最悪だ。そんなことになったら俺の楽しいおサボりタイムがパーだ。
 「翔子。俺のようなゴミクズなんかのために自分の勉強を疎かにするな」
 「……でも、今日はお義母さんもいないから、ゴミクズの雄二を一人にしておくのは心配」
 「『お母さん』の発音と俺への暴言を同時に突っ込ませるとは流石は翔子だ」
 「……だから私が雄二のそばにいる」
 「あのなあ翔子……心配してくれるのは有難いんだが、古き良き日本の嫁というものは
頑張る夫を心から応援するものなんだぞ? あんまり過保護なのは良い嫁とは言えないな」
 「……学校に行ってくる」
 「わかってくれたか」
 よし。これで最大の難関はクリア。
 「……何かあったらすぐに呼んで。一瞬にて躍り出る」
 「心配には及ばん」


108 :名無しさん@ピンキー :2009/11/07(土) 19:57:15 ID:PRoYOJNk
 「さて、ウルサイ翔子もいなくなったことだし、のほほんと勉強でもするかな」
 寝っ転がりながらの勉強はどうしてこんなにも気持の良いものなのだろう。
怠惰と勤勉の両方を一度に貪ることができるなんて、大特価お買い得にも程がある。

             ☆

 数学の問題集を仕上げると、傍らに置いてある携帯電話が鳴った。
翔子か?……なんだ未熟児からだ。やはりコイツは無事か。まあ、健康が何よりだな。
 「もしもし、明久か?」
 『ひどいじゃないか雄二! サボるなら僕も呼んでよ! 
僕が干乾びて死んだら遺書に雄二からの度重なるイジメのせいだって書いておくからね!
そしたら涙の謝罪会見は免れないねHAHAHA!』
 一瞬でもこいつに慈愛の精神を見せた俺が便座カバーだった。
 「そっちは暑いか?」
 『僕の友達だったクラスメイトの須川君がこの世に産み落とした吐瀉物に含まれるシュールストレミングが
また心憎い演出をしてくれるんだ!
 「そうか。お前の電話を受けるまで俺の友人だったクラスメイトの須川は大丈夫なのか?」
 『鼻を摘まんだクラスメイト達に殴る蹴るの暴行を加えられて泣きながら救急車で運ばれて行ったよ』
 「朝からそんな生物兵器を食すとはさすが元友人でクラスメイトの須川だな」
 『全くだよ! おかげでゲロがゲロを呼んで教室はさながら暑さと悪臭のカーニバルになってるよ!』


110 :名無しさん@ピンキー :2009/11/07(土) 20:02:49 ID:PRoYOJNk
 「そうか。なら暑さだけでも和らげる方法を教えてやろう」
 『え!? なになに!? 涼しくなるのなら僕何でもするよ!』
 「まずカッターを持て」
 『ムッツリーニ、ギブミーカッターオウイエス!』
 「それを手首に押し当てろ」
 『こう?』
 「いいか? 絶対縦に引き裂くなよ? 絶対だぞ?」
 『そう言われると思い切り引き裂いちゃうのが僕の生まれついてのカルマさ!
(ブシャァア)アッー! 『いかん! 明久がいきり立って手首の動脈をまるで
裂けるチーズのように豪快に引き裂きおった! とにかく止血じゃ!』』 
 俺は携帯を片手にガッツポーズをとる。
 「どうだ明久。涼しくなって視界が赤黒くなってきただろう?」
 『うん! ちょっと膝はガクガクして喉もヒューヒューいうけど
寒気がするくらい涼しいよ! ありがとう雄二!(ドクドク)』
 「何だと!? お前はそこまでの仕打ちを受けてもなお俺の殺意に気付かないというのか!?」
 コイツの底知れぬ潜在能力にはいつも驚かされる。
 「ところで明久。今、秀吉の声がしたな」
 『秀吉? ああ、秀吉なら僕の横で寝てるよ』
 「嘘をつけ。秀吉は元気か?」
 『え? いつも通り元気で食べちゃいたい位に可愛いけど……話したいんなら代わろうか? 
秀吉も雄二のこと、とっても心配してたよ』
 「いや、元気ならいいんだ。実は俺、この前の海のせいで風邪をひいちまってな。
秀吉も体調を崩していないかと少し心配してたんだ」
 『雄二が風邪!? 冗談は存在だけにしてよ! そんな浅い嘘じゃ
鉄人には通用しないね!』
 「そうか。じゃあ『寝相が悪くて首の骨を折ったから二、三日安静にしています』
とでも伝えておいてくれ」
 『オーケー。それくらいぶっ飛んだ嘘なら案外イケると思うよ多分!』
 「頼んだぞ。じゃあ、切るからな。秀吉にくれぐれも体調を崩すなと伝えておいてくれ」
 「わかったよ。じゃあね(ブッ)」
 全く騒がしい奴だ。まあ、あのバカのおかげで学校生活に退屈はしないがな。
ふと時計に目をやると、十時半であることが見て取れた。
せっかくの休日だ。頭もクラクラするし、LOでも読みつつもう一眠りするか。


112 :名無しさん@ピンキー :2009/11/07(土) 20:15:15 ID:PRoYOJNk


 ピンポーン


 「……せっかく人が気持ち良く寝てるってのに、こんな時間に誰だ?」
 けたたましい呼び鈴の音によって俺は眠りから目覚めた。
時計を見ると午後一時。結構寝ていたようだ。おそらく外は物凄い気温だろう。
こんな平日の真昼間に坂本家の呼び鈴を鳴らすとは……翔子の授業は
五時頃までのはずだし……セールスマンか? こんな暑い中ご苦労なものだ。
商品は買えないが、冷えた麦茶でも出してやるか。


 ピンポーン


 「はいはい。今開けますよ。どちら様です(ガチャッ)ホアーッ!?」
 「すまんのう雄二よ。起こしてしまったかの?」
 何てことはない。秀吉だった。
 ————黒のネコ耳をつけてはいるが。
 いやいや。いくら秀吉と言えども普通の男子高校生だ。
まさかネコ耳を装着して登下校するはずがない。きっとこれは風邪による幻覚だ。
まあ、俺としては全力でスルーしたいところだが、一応聞いてみるのが礼儀というものか。
 「その頭に生えているのは何だ? キノコか?」
 「これかの? 見ての通りネコ耳じゃ。似合うかのう?」
 「不覚にもおっきしてしまったほど似合ってはいるが……って違う! 
どんな入射角と初速度で男前豆腐に頭を強打すれば真夏の太陽降り注ぐ平日の
まっ昼間の大通りを男一匹ネコ耳つけてのし歩く気になるのかと聞いているんだ!」
 「これは最新のファッションではないのかの?」
 「どこの三次元にネコ耳をつけた男がファッションショーで
拍手喝采を浴びる国があるんだ……?」
 「んむ? 話が違うのう。ムッツリーニと明久にこれをつけて見舞にいけば雄二は
喜ぶと唆されて行ったは良いものの肝心の雄二にボロクソ言われて心にぽっかりと
大きな穴が開いてしまったわい」
 「友人は選んだほうがいいぞ……」
 まあ確かに悦ばしい姿ではあるが。


113 :名無しさん@ピンキー :2009/11/07(土) 20:23:34 ID:PRoYOJNk

 「それはそうと秀吉。お前、補習はいいのか?」
 「補習は午前中で終わりじゃ。留年候補2トップの明久とムッツリーニは鉄人に残されておったがの」
 「色々と大変だったらしいな」
 「うむ。須川には悪いのじゃが、あのシュールストレミングの臭いは衝撃だったぞい」
 「お前は須川の事を嫌いにはならないのか?」
 「何ゆえワシがあやつを嫌いになるのじゃ? 大切な友人ではないか」
 「ん、まあそうだな」
 「明久からお主の具合が悪いと聞いての。心配でいてもたってもいられなくなって
授業が終わるとすぐに飛び出してきたのじゃ」
 「そうか。俺を見舞いに来てくれたのか。さっきはあんなことを言って済まなかったな」
 これは素直に嬉しい。こんなに暑い中わざわざ俺の家まで寄り道してくれたのだから。
 「気にするでない。ワシらの仲じゃ。それより具合の方はどうじゃ? 風邪なのじゃろう?」
 「お前はバカな俺が風邪をひくわけがないと笑い飛ばさないのか?」
 「何を言うか。お主がバカな筈がなかろう。それに……嬉しかったのじゃぞ?」
 「何がだ」
 「明久から聞いたぞい。お主、ワシの事をしきりに気に掛けてくれておったのじゃろう?」
 「ん、まあな」
 「そんな大切な友人をワシが子馬鹿にできるはずがなかろう」
 コイツは天然バカだが、超がつくほどの善人だ。
というよりもコイツほど素直で純朴な奴を俺は知らない。
なんだか秀吉と話していると、頭の痛みも忘れられそうだ。
 「こんな暑い所で立ち話もアレだ。涼んでいけよ」
 「いや、ワシがおるとお主も寝られんじゃろう」
 「俺はもう十分に寝たから大丈夫だ。遠慮するな。親友だろ?」
 「……! そ、それもそうじゃな。では、ちと邪魔するぞい」
 俺の何気ない一言が嬉しかったようだ。秀吉がパッと明るい笑顔になる。
…………本当に不思議な奴だ。いくら女っぽいからって、普通高校二年にもなれば
第二次性徴が進んで幾分かは男臭くなるもんだが、コイツの外見には男っぽさの欠片も無い。
しかもただ女っぽいんじゃなくて、滅多にはお目にかかれないほどの超絶美少女、
性格はナイチンゲールときたもんだ。Fクラスの連中が夢中になるのも仕方ないかもな。
 「雄二よ。ワシの顔に何かついとるのか?」
 「何でもない。どうぞ上がってくれ」


114 :名無しさん@ピンキー :2009/11/07(土) 20:28:54 ID:PRoYOJNk

               ☆

 「ふい〜、涼しいのう。ここは西方浄土じゃ」
 「飲み物はコーラでいいか?」
 「いや、お構いなく」
 「麦茶やら豆乳やら色々あるぞ」
 「豆乳もあるのかの!?」
 「飲むか?」
 「……はっ! ワシとした事が豆乳と聞いて持ち前のクールビューティーを失ってしもうた!」
 「豆乳で取り乱すとは渋いな」
 俺は紙パック容器に入った豆乳をコップになみなみと注ぎ、秀吉に供す。
 「ほれ。紀文の調製豆乳だ」
 「ほう、紀文とな? 全く風流にも程があるわい」
 「どこら辺が風流なんだ?」
 「では……んくっ……んくっ……ポホーッ! やはり夏は冷えた豆乳に限るわい!」
 「そうか……」
 俺は今、ネコ耳をつけた美少女にしか見えない爺言葉で喋る男子高校生が
物凄い勢いで豆乳を一気飲みした挙句奇怪な叫び声を上げて口についた豆乳を
手の甲で豪快に拭うという極めてシュールレアリスムな光景を目の当たりにしている。
どうやらコイツ、ネコ耳をいたく気に入っているらしい。全くけしからん。もっとやれ。
 「ところで秀吉、腹は減ってないか?」
 四時間ぶっ続けで鉄人の授業だ。さぞかし相当量のカロリーを消費していることだろう。
 「ちと空腹じゃ」
 「そうか。じゃあ俺が何か作ってやろう」
 確か冷蔵庫に豚肉と玉ねぎがあったな。肉野菜炒めでも作るか。
 「何を言うのじゃ雄二よ。
見舞いに行った挙句人様の家に上がり込んで病人に料理を作らせるなど、ご先祖様に申し訳が立たぬわい」
 「気にするな。ささやかな感謝のしるしだ」


115 :名無しさん@ピンキー :2009/11/07(土) 20:34:49 ID:PRoYOJNk

 「いやいや。料理はワシが作るゆえ、お主はベッドで寝ておれ」
 「お前、料理は苦手とか言ってなかったか?」
 「ワシだって卵粥くらいは作れるわい」
 「そうか。じゃあお言葉に甘えることにするか」
 正直、足がフラフラして立っているのも辛いしな。
 「フフフ雄二よ。何ゆえワシが卵粥に限定したのか分かるかの?」
 「? わからんが」
 「これを見よ!(ンバッ)」
 「そ、それはまさか……!」
 「あっと驚く主婦の味方じゃよ!」
 「全自動卵割り機……! 
お袋が買ってきてからわずか三時間で部屋の隅に追いやられた特別な存在じゃねえか……! 
なぜ今さらそれを取り出した!?」
 「なぜならワシもまた割り機ニスト、特別な存在じゃからじゃ! 
先程これを見つけた時、無性にプロフェッショナルの血が騒いだものでな。
やはり機械で割った卵はひと味違うからのう」
 ヤバい。物凄く不安だ。
 「秀吉。ここはやはり俺が……」
 「心配するでない。お主はしっかりと休むのじゃ(グイグイ)」
 瞬く間にベッドへと追いやられてしまった。まあ仕方ない、大人の絵本でも
読みながら待つとするか…………グラビアアイドルよりも秀吉を眺めている方が
ずっと興奮するような……はっ! 俺は何てことを考えてやがるんだ!? 
忘れろ! 今考えたことを綺麗さっぱり忘れるんだ坂本雄二!



116 :名無しさん@ピンキー :2009/11/07(土) 20:41:40 ID:PRoYOJNk

               ☆

 「できたぞい」
 未だにネコ耳をつけたままの秀吉が、湯気を立てている土鍋を
小さな体で重そうに抱えて部屋に入ってきた。また大量に作ってくれやがったな、おい。
 「さあ雄二よ。たんと食べい」
 ベッドから降りた俺の前に秀吉が土鍋をゴトリと置く。
 「せっかく作ってくれたところ悪いんだが、食欲がないからあまり多くは食えないぞ?」
 「ダメじゃ。風邪をひいたときには土鍋一杯の卵粥を
お茶漬けのCMのようにハフハフと平らげ死んだように眠るのが木下家のジャスティスじゃ」
 「顔に似合わず過激な治療法だな」
 「そうれ御開帳じゃ!」
 秀吉が勢い良く土鍋の蓋を外す。むわ…むわ…と熱い湯気が立ち上る。
ふむ、なかなか美味そうじゃねえか。
 「どうじゃ? 食欲が湧いてきたじゃろう」
 「少しな」
 秀吉が差し出したレンゲを震える手で受け取り、粥を一掬いしてみる。
米の一粒一粒がしっかり卵と絡まっていていい感じだ。
 「どれ……おお美味い」
 「雄二よ。そこは『びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛』じゃろう?」
 「びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひンゴパッ! ゴボッ! ゲボァッ!」
 「だ、大丈夫かの!?」
 腫れた喉に特殊な発音は少々酷だったようだ。力一杯むせてしまった。
 「すまねえ秀吉。俺はもう駄目ゲポッ……」
 「仕方がないのう。ここに仰向けになるのじゃ」
 秀吉が華奢な両腕で俺を抱きかかえ、ベッドへと導く。
秀吉に言われたとおり仰向けになる。思ったより身体は弱っていたようだ。
秀吉はレンゲで粥を一掬いし、息を吹きかけて冷ましている。この流れはまさか……。
 「ほれ。あーん、じゃ」
 いかん。さらに熱がひどくなってきた。


117 :名無しさん@ピンキー :2009/11/07(土) 20:47:38 ID:PRoYOJNk

 俺としては是非とも『あーん』したいところなのだが、
いくら外見は麗しの美少女でも同級生、しかも男にそういうことをさせるのは
いささか倫理的に問題がありはしないだろうか。
 「どうしたのじゃ雄二。あーん、じゃ」
 「いや、そう言われてもだな……何しろ同じ男でしょう……『あーん』だの『ゆやゆよん』だの言うのは簡単だけど……
そんな言葉に乗せられて『あーん』したら……要するに俺がただ困るわけで……そういうのは
ちょっと俺には向かない……っていうか……無理……たぶん無理……っていうか不可能…」
 「どうやらあまり食欲が湧かんようじゃな……そうじゃ!」
 秀吉が何かを思いついたような表情で掬った粥を頬張る。自分で食べるつもりらしい。
安堵感と後悔の念が同時に湧き起こる。まあ、残念なのは否めないがこれが最善手だろう。
 「じゃあ俺は寝る……どうしたんだ秀吉? 
なぜ粥を頬張ったまま顔を俺に近付けるん(クチュッ)ンンンーッ!?」
 なぜだ!? なぜ俺は秀吉とディープキスしているんだ!? 
そして秀吉の舌から流れ込むこのドロドロした熱い液体は……粥か!?
 「ぷはぁ! こうすれば楽に食べられるじゃろう?」
 未だに状況を把握できないながらも粥を飲みこんだ俺に向かって秀吉が得意気にウィンクする。


118 :名無しさん@ピンキー :2009/11/07(土) 20:52:00 ID:PRoYOJNk

 コイツ……もしかして誘ってやがるのか……?
いや待て落ち着けクールになれ飛散しろ坂本雄二。いくら外見は絶世の美少女でも
中身は男だ。ダメだ『秀吉』はダメ……あれはノーチャンスだ……! 
現実だ……! これはゆるぎなき現実……! 
それにアレだ、男とあんなことやこんなことをして何か生産性があるのか? 無いだろう? 
そうだ。俺は理で動く男じゃねえか。だからさっさと秀吉を追っ払うんだ。
 いや待てよ? その心配は無用だ。そうだ、きっとこれは夢だ夢に違いない。
秀吉に粥を口に流し込んでもらうというピンポイント極まりない夢を見るなんて、
俺はいつの間にかFクラスに色濃く感化されてしまったようだな。
嘆かわしいにも程がある。さて、安心してもう一眠りするか————
 「倍プッシュじゃ……ムグムグ」
 「ところがどっこい……夢じゃありません……! 現実です……これが現実…!」
 秀吉は……二度刺す…!
 「おい秀吉。次からは————」
 よしいけ。その調子で『もう家に来ないでくれ』とガツンと言ってやるんだ坂本雄二。
 「————ツバダクで頼む」
 何を注文している坂本雄二。
 「む、確かにそちらの方がもっと食べやすいかもしれんのう。了解じゃ」
 「えふっえふっ」
 理性? 何それ美味しいの?


119 :名無しさん@ピンキー :2009/11/07(土) 20:55:29 ID:PRoYOJNk

                ☆

 「素晴らしい食欲じゃったぞ雄二よ! お主が完食してくれてワシも嬉しいぞい!
 最後などワシがまだ粥を口に含んでいないにもかかわらずお主の方から
積極的に唇を重ねてきたほどじゃ」
 「腹ァ……いっぱいだ……」
 土鍋一杯分ということは、少なくとも50回は秀吉とディープキスしたことになるな。
ディープキス1回で1雄二だから、これがFクラスにバレたら三途の川をもれなく50往復できる計算か。
まあ、これだけ幸せならいつ死んでも悔いはねえ。
 「粥を口に含んでおったら体が火照ってきたのう」
 「冷房を強くするか?」
 「大丈夫じゃ。ワシが脱げばいいだけの話じゃ」
 秀吉がネコ耳を外しネクタイに手をかけ夏服のシャツを脱ぎ、あっという間に
タンクトップ一枚になった。さらにズボンのベルトまでもを外しにかかる。
 「もしかして、下も脱ぐのか……?」
 「ガンガン脱ぐぞい(シュルシュル)」
 ズボンが下に降ろされるにしたがって秀吉の雪のように白い太ももが露わになる。
ふむ、下着は薄緑のトランクスか。秀吉のイメージにぴったりだ。
しかしこの色っぽい身体つきに立居振舞い、コイツ本当に男か? 
 「雄二よ。そんなにまじまじと見られたら恥ずかしいではないか」
 俺の舐めるような視線に耐えられないとでもいった風に秀吉が内股で軽く身を
よじらせる。くそっ……悔しいが、可愛い……!


120 :名無しさん@ピンキー :2009/11/07(土) 20:59:34 ID:PRoYOJNk

 「……雄二のワシを見る目が明久たちのそれに似ておるのじゃが……」
 「なんて失礼なことを言いやがるんだ秀吉! よりにもよってあのゴミカスと似ているなんて……戦争だろうがっ…! 
疑っているうちはまだしもそれを口にしたら……戦争だろうがっ…!」
 「す、すまぬ雄二よ。ワシはとんでもない事を……どうか無礼を許して欲しいのじゃ」
 「他の奴ならその場でニワトリのように絞め殺しているところだが、
他ならぬ秀吉だ。特別に許してやろう」
 「感謝っ…! 圧倒的感謝っ…!」
 秀吉が涙を滲ませながら土下座する。
 「どうか頭を上げてくれ。俺たちは親友だろう?」
 「おお雄二よ……! そういうことじゃから早速お主のベッドに失敬させてもらうぞい(スルッ)」
 「オホーッ!? 何という急展開! 秀吉侮り難し!」
 「ワシらは親友じゃからこれくらい平気なのじゃ」
 秀吉が何の脈絡も無くベッドに潜り込み、俺と身体を密着させる。
汗でうっすらと湿った秀吉のタンクトップから何とも言えない芳しい香りが……まずい! 
俺の愚息が俄然成長期を迎えやがった……! 耐えるんだ息子よ! 
ここで手を出したら俺は男に欲情する性倒錯者のレッテルを貼られてしまう!


121 :名無しさん@ピンキー :2009/11/07(土) 21:02:35 ID:PRoYOJNk

 「ワシも眠くなってきたのでな。仲良く寝ようではないか」
 「俺はとても寝られる状態じゃないんだが……?」
 「大丈夫じゃ。ワシが子守唄を歌って進ぜよう」
 「ほう。それは楽しみだ」
 演劇部のホープである秀吉の演技力と声帯模写は天才的だ。噂によると特技の声帯模写を
活かしてオペラまでもを軽くこなすらしい。いつか聴いてみたいとは思っていたが、
まさかこんなタイミングで実現するとはな。
 「ちなみに何を歌うんだ? 『ねんねころりよ』か?」
 秀吉の歌なら必ずや俺の興奮を静めてくれることだろう。
 「『永久欠番』じゃ」
 「すまん秀吉。明らかに選曲ミスだ」
 タミフルとチョコラBBを服用した後に覚醒剤を使用して高速をブッ飛ばす
ようなものだ。
 「では『償い』にするかの」
 「コイツ、俺を自殺に追い込むつもりだ……」
 耳元でその歌を歌われたら脱水症状で確実に死ねる自信がある。
 「もう何も歌わんでいい! 俺は今から全力で寝る!」
 「むう……雄二は我が儘じゃのう……」
最終更新:2009年12月31日 16:16