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大長編イカ娘 栄子と山の侵略者 12 - (2012/11/28 (水) 21:50:49) のソース
相沢千鶴はイカ娘の天敵だった。 イカ娘が海の家れもんに来た当初、触手を華麗に切断されてから、ずいぶん時が経ったが、 千鶴がイカ娘に後れを取ったことなど、一度としてない。 相沢千鶴の特徴は、まずその人の目に映らないほどのスピード。 一度などは監視カメラをも欺いた。 そして体力。 軍隊仕込みとも噂されるが、千鶴がどこでそれを身につけたか誰も知らない。 そして何より、その手刀の切れ味である。 腕は細腕。手のひらを眺めても、普通の女性と変わりない。 しかし、おそらく超スピードによるのだろう、手刀の威力は常軌を逸している。 単純計算で5倍の物量を誇るイカ娘の触手を、いとも簡単にさばききった。 柔らかな身のこなしから繰り出される一撃は、自身を傷つけることなく、何度振るわれてもサビることはない。 相沢千鶴は、常にイカ娘の上位に立っていた。 だから、初の直接対決といえる今でも、その風格に"負け"の気配はない。 なによりも意外だったのは、 二人が全くの互角だったことだ。 3分、経過した。 イカ娘は疲れていた。ボクサーが試合に感じる疲れと似ている。 千鶴=狼娘は、いつもの表情のままである。 その点だけみれば千鶴=狼娘が有利だが、 イカ娘の健闘ぶりはムードを変えていた。 「いい加減に……しなイカ!」 イカ娘の触手が伸びる。その先端が千鶴の肩に食い込んだ"狼娘の牙"に触れそうになったところで、 千鶴=狼娘の手刀が切り落とす。 この攻防は3分の間に何度も繰り返されていた。 違うのは、"切り落とされて"イカ娘がにやりと笑ったことだ。 触手が、いつの間にか地面から、千鶴=狼娘の足元に絡みついていた。 「隙ありでゲソ!」 続いて触手が伸びる。 手刀の最大の弱点はリーチだ。地面の触手に対応しながら正面の触手を落とすことはできない。 が、しかし千鶴=狼娘は初めて足を使った。 触手の絡みついた足を、ハイキックするように持ち上げ、あえて正面の触手にささげたのだ。 二つの触手がぶつかり合い、ちぎれてはらはらと地面に落ちた。 イカ娘は舌打ちをすると、触手を再生させる。 千鶴=狼娘も、からまった触手の切れ端を取り払い、ジーンズのすそを直した。 「互角……、互角じゃないか」 「イカちゃん、千鶴さんとあんなに戦えたの?」 「イカ娘の最大の弱点はメンタルだからな」 栄子が事態を解釈した。 「本気を出せば、もともとあれくらいやれたんだ。 幸か不幸か、今まで一度も本気を出さなかった。 いや、出せなかったってだけで」 「でもまだ十分とは言えない」 梢が戦況を見据えた。 「触手はイカスミと同様、合成のたびに体力を消耗するわ。 対する千鶴さんは体力の塊。互角というだけでは勝ち目はない」 「あんたが加わったら勝てるんじゃないか?」 悟郎の問いに、梢はにっこり笑って、 「わたし、絶賛車酔い中なので……」 (ウソだ) (絶対ウソだ) (ていうか、あの人誰?) (タコ星人……) 長期戦となれば不利。 しかし、イカ娘は焦っていなかった。 (狼娘よ……、お主には弱点がある) 千鶴=狼娘の手刀を、触手の物量で防ぐ。 そうしながらも、機会をうかがう。 (お主の野生の勘も見事でゲソが……、 やはり千鶴のような注意深さはないでゲソ。 千鶴は背後から襲いかかっても、なぜか見抜いていたでゲソからね……。 いわば、操縦者の年季!) 大量に配備した触手を、千鶴=狼娘がひとつひとつ切断していく。 それがイカ娘によって準備された動きだとも知らずに。 (わたしは地上に来て釣りというものを知ったでゲソ。 魚の鼻先でエサを躍らせてやるでゲソ) 千鶴=狼娘が、ついに用意された一本を切断した。 「今でゲソ!」 イカ娘はいっせいに、触手を再生させた。 生い茂る木の枝のように張り巡らされた触手は、総勢9本。 エサとした一本を除く全て。今までで最大規模の攻撃だった。 「一本は正面からの一撃……、 一本は背面」 触手の檻の中で、狼娘は戦慄したように立ち止まる。 「二本がそれぞれ側面を、 二本が地中、二本は空中、残る一本は遊撃隊でゲソ」 栄子たちの"作戦B"は、地中を計算に入れていなかった。 知ってか知らずか、イカ娘はそれをカバーしている。 「全方位攻撃でゲソ! かわせるものならかわしてみるがいい!」