SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ内検索 / 「“涼宮ハルヒ”の憂鬱 アル晴レタ七夕ノ日ノコトⅠ51-1」で検索した結果
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短編SS
...ん☆さま) “涼宮ハルヒ”の憂鬱 アル晴レタ七夕ノ日ノコト(hiiさま) VP (銀杏丸さま) 武装錬金_ストレンジ・デイズ(ハロイさま) 「BAMBOO 電王」 (名無しさま) HAPPINESS IS A WARM GUN(さいさま) カルマ(銀杏丸さま) Hell's angel(ガモンさま) チルノのパーフェクトさいきょー教室(ハシさま) 未来のイヴの消失(ハシさま)<連載中> 闘りゃんせ(銀杏丸さま) のび太の更正(カイカイさま) のび太 IN バキ(カイカイさま) 邪神に魅入られて(ガモンさま) <連載中> 東方聖誕祭(サマサさま) ドラえもん ギガゾンビの逆襲・2chの特別編(カイカイさま) 番外編(カイカイさま) 杉本家... -
“涼宮ハルヒ”の憂鬱 アル晴レタ七夕ノ日ノコトⅠ51-1
今も時々思い出す。 あれから三年半も経っているっていうのに、すごく鮮明に。 今が楽しくないわけじゃない。 あの頃に比べたら、何もかもを壊したかった頃に比べたら、私は楽しい。 でも、足りない。 あの日には、あの場所には、あの人には、届かない。 「七夕…か」 7月7日、日本は全国的に七夕祭りの日を迎えた。 東中の一年生の教室で、涼みやハルヒは呟いた。 織姫と彦星が年に一回だけ会えるっていう誰でも知ってるような話の詳細は置いておく として、放課後のHR中に夜空を見上げる少女にとっては、一年の内で誕生日よりもクリス マスよりもお正月よりも楽しみにしている日だった。 だけど、最近は少し憂鬱だわ。 と、ハルヒは思う。 これまた有名な七夕伝説だが、短冊に願い事を書いて笹につるすと願いが叶うという話 しがある。ハルヒ... -
涼宮ハルヒの正義49-1
「おい、ハルヒ!目を覚ませよ!おい!!」 「う、うーん・・・。キョ、キョン・・・?」 結局、ハルヒが『自分が正義の味方になって怪人を倒す世界を欲した理由』が分からなかった。 しかし結果として、俺達は元の世界―――学校の体育館に戻っている。 そう、互いに最後の一撃を繰り出したあの刹那、ハルヒの笑顔と共に急に意識が暗転したのだ。 全ては唐突に始まり、そして終わる・・・。 まあ、短時間で人の心を知ろうなんて虫の良い話だが、そんな俺達の行動は決して間違ってはいなかったはずだ。 「あれ・・・?アンタ、蜘蛛男になってなかった?」 ハルヒはようやく目を覚ますと、毎度の調子で話しかけてくる。 無論、今の俺の姿は、長門のおかげでちゃんと人間に戻っている。 「いや、よく言っていることが分からんが・・・・。夢でも見ていたんじゃないか?」 「えっ?ほら... -
涼宮ハルヒの正義 47-1
平穏というのは忘れた頃にやってくる。 一般人と違った生活を・・・。いや、俺は一般人だが・・・。 ともかく様々な事柄に慌しく奔走していた毎日にも、ひと時の別れを遂げる瞬間だってあるということだ。 まあ・・・、 「キョン君~。お薬持ってきたよ~。」 「ああ、ありがと。」 風邪を引いたとき限定だが。 「えへへへ、キョン君がこの時間に家に居るのって久しぶりだね。 毎日毎日、部活に入りびたりだから返ってくるのは何時も夜だし。」 兄が風邪を引いたというのに、妙に嬉しそうな顔で話しかけてくる我が妹。 おい、俺が風邪を引いたのがそんなに嬉しいのか? ――――ま、どうでもいいか。 今はこの平穏な瞬間を少しでも長く噛み締めていよう。 どうせ二・三日もしたら学校に行かなくてはならんのだし。 「ねえ!キョン君!聞いて... -
完結した短編集
素晴らしい国(キノの旅)(名無しさま) ある昼休み (鬼平さま) 二重の極め (鬼平さま) 無題 43スレ201さま 戦争を愉しむ者 (銀杏丸さま) Will Meet Again (さいさま) 一寸先は (しぇきさま) クロノート (41さま) kazikili Bey (銀杏丸さま) 18禁スーパーロボット大戦H -ポケットの中の戦争-(名無しさま) 強くなるのは、なれるのは(ふら~りさま) 魔法少女リリカルなのは外伝 ~恋は永遠の魔法なの~(VSさま) (掛川宿の噂「作者はVSさまだって!?」- まことであったか!!) 傷跡の記憶(流花さま) ハンバーガーにライ麦を(涼宮ハルヒの正義作者さま) (しぇきさま?) 力の解放 (名無しさま) サナダムシさん復活祈願! →... -
涼宮ハルヒの正義、SOS団はいつもハルヒのちキョン48-1
この感覚は前に一度体験した事がある。 ハルヒがやたらと不機嫌だったあの日。 ベットの上で寝ていたはずなのに、何故か俺とハルヒしかいない世界へ連れて行かれたあの日。 まるで意識だけがそのまま何処かへ移動したかのような・・・、感覚。 決して俺は夢を見ていたわけではない。 でも・・・、もしかしたら夢かもしれない。 そんな事を一日中考えさせられた・・・、あの体験。 今度は見紛う事無く目の前の現実で起きている。 ―――長門の言葉と同時にブラックアウトした意識。 あのときの感覚。あのときの体験が今再び。 「こ、ここは・・・。」 俺は取り戻した意識を確認しながら月並みな言葉を呟く。 全く見知らぬ風景―――いや、見知らぬ室内。 どうやら俺達は、ハルヒが創り出した閉鎖空間内に来ている様だ。 「あれは・・・、確か... -
第006話 「時間も分からない暗闇の中で」 1-3
当事者 4 様々なコトから逃げ続け。 泥まみれの姿でたどり着いたのは。 手狭な診察室だった。 2つの椅子の横にがっしりとした灰色の机があった。机上にはカルテやレントゲン写真を貼る器具があった。 名前を知りたい気もしたが憂鬱な気分なのでどうでもいい。 今自分は人生最悪最低の憂鬱を味わっている。今は亡き上司や同僚にすがりたい気分だった。 「へえー。やっぱり死にたいっていいますの?」 向かいに座った女医が聞き返す。ひどく冷たいキツネ目はからかいと興味深さを湛え自分を見ている。見ているだけだ。 自殺やめるといえば「ああそうですの」と突き放すだろう。幇助を頼めばあっけなく叶えるだろう。それがよく分かった。 まったく、医者にあるまじき姿態だ。 なのにそれを倫理的局地から責める気概が、自分にはまるでなかった。 結局この診療室にい... -
SOS団はいつもハルヒのちキョン49-1
ガリバー旅行記という物語をご存知だろうか? 冒険者ガリバーが、現実世界にはありえない国々―――例えば巨人の国などを旅行する物語だ。 「ちょっと有希!みくるちゃんに古泉くん!?何でそんなに大きくなっちゃたのよ? いいえ、それよりもあの蜘蛛男は一体どこに・・・。」 そんな絵空事でしかない出来事が、俺の目の前で現実として起こっている。 しかも三人の巨人が、一人の巨人と闘うという、ちょっと卑怯な情景なのは内緒だ。 無論、この巨人達は、全てSOS団の提供でお送りしている訳だが。 「すいません理由は聞かないでください。でも仕方ないんです。こうなっちゃったんです。 だから・・・・、へ~んしん!!」 朝比奈さんは本当に申し訳なさそうな顔をしながら、自分なりの変身ポーズ。 ―――左手を天に向かって掲げた・・・が! 「へ、変身ってみくるちゃん?何も... -
過去編第007話 「傷だらけの状況続いても」 1-2
当事者 2 灰色で塗り固められた部屋が闇に沈んでいた。 元は何かの研究所だったらしい。ディスプレイのついた筐体や巨大なカプセルが無造作に並べられ、それらは部屋の隅 から差し込む青白い光の中で錆や罅割れを無残に晒している。使われなくなって久しいらしい。 天井から剥離したと思わしきコンクリートが点在する床には空のペットボトルやコンビニの袋、染みのついた割り箸なども 散乱しており、ここが若者たちからどんな扱いを受けているか雄弁に物語っている。 ちょっとした講堂ほどある部屋の隅に、奇妙な一団がいた。 見た限り彼らはとても人間とは思えない。もし肝試しと称し侵入してきた若者がいれば、あまりの異様さに声を失くし全速力 で踵を返して逃げるだろう。 奇妙な格好の鳥と。 1mほどの筒と。 鎖で繋がれた子猫がいた。 そしてまず、鳥と筒の間で何かが爆... -
第006話 「時間も分からない暗闇の中で」 1-5
当事者 4 夜。都心にある廃工場でハシビロコウはため息をついた。ハシビロコウとはペリカンに似た大型鳥類の名称だ。全身はネ ズミ色。トレードマークは、異様に大きいクチバシ&何を考えているか分からない三白眼。 ああ。憂鬱だ。 すぐ横の錆びた鉄柱が火を吹いた。何か刃物のような物が掠ったようだ。というか簡単にいえば「投げつけられた」。銀色 の円弧が鉄骨に似た柱を一削り。そして反転。遡行。遠ざかっていく。元来た軌道をブーメランのように、持ち主へ。入れ替 わるように響く怒号、飛びこむ殺意。人影が来る。辺りに散らばる塗料の缶──昔ここで生産された物らしい──をガタガタ ガタガタ吹き飛ばし。 ああ。憂鬱だ。 ディプスレス=シンカヒアという名のハシビロコウは何度目かの溜息をついた。 工場は暗い。天井に空いた大穴から月明かりが射しこんでいる以外、... -
第006話 「時間も分からない暗闇の中で」 1-6
当事者 3 冗談じゃない。 『最後に残った戦士』は叫びたい気持ちで走っていた。 廃工場の敷地はすでに出た。いまは全力疾走仲。視界の横をギュンギュン過ぎるは高い塀。世界と工場、区切る塀。 来るときはここを8人で通り過ぎた。 まず頬傷の戦士がやられた。次に2名。次に茶髪。向かっていった3人も恐らくは、もう。 (7人が瞬く間にやられた。俺が最後の1人) 「お前は逃げろ。やられた連中の核鉄を回収し、戦団に連絡しろ」 走るたび、ポケットの中で3つの核鉄が小うるさく打ち合う。戦闘初期に死んだ奴らの所有物。よく戦闘のドサクサにまぎ れ回収できたものだと思う。 「ハシビロコウの足を凍らせた時に」 落ちている核鉄にも氷を伸ばし、引きよせた。もしそれを見咎められていたらタダでは済まなかっただろう。 世界に100しか... -
第094話 「パピヨンvsヴィクトリア&音楽隊の帰還」後編 (8)
──────銀成学園。演劇部一同がよく使う教室で────── 「ほう」 「以上が、修業の成果だ」 「三日後の劇には俺たちも参加させて欲しい」 教室には鳴りやまない拍手が満ちていた。 「すげー! 秋水先輩と斗貴子さんの打ち合い!」 「これが修行の成果!!」 「秋水先輩の方は武術演武の流れをくむクラシカルな受け答え!」 「片や斗貴子先輩の方は美しくも荒々しい女豹のような動き!!」 「通常なら前者がヒーロー役で後者を倒すという流れこそ王道! にも関わらず斗貴子先輩の方が何度打撃を受けても 立ち上がり最後は勝つという流れ! たった3分という短い時間の中で起承転結と意外性に富んだアクションシーンは まったく見応え充分だ!」 「特に2:31の倒れ伏した斗貴子先輩が最後の力を振り絞って立ち上がる場面! 一連の逆転劇の糸口になったこの 場面! スローモーション... -
「演劇をしよう!! (前編)」 (9)
「きゃあああああああああ! どいてどいてどいてー!!!」 明るい声が銀成学園廊下を劈(つんざ)いた。同時に激しい衝突音が響き大地を揺るがせた。 「ゴメン! ゴメンね!! ちょっといま急いでたから!! 大丈夫? ケガはない!?」 上記全ての原因──武藤まひろ──は慌てて立ち上がると被害者に駆け寄った。そこは廊下の交差点だ。どうも曲が 角が人影を不意に吐き出したせいで衝突したらしい。 「……痛いわね。廊下を走るなって校則、知らないの?」 ぶつかられた方はというと地面に尻もちをついたまま恨めし気に頭をさすっている。日本の学校にはそぐわない顔立ちの 持ち主だ。衝突のせいか筒に束ねた金髪はうっすらホコリを被っているがそれでもなお眩く輝いている。 「フン。衝突される方も衝突される方だ。仮にもホムンクルスなら避けてみたらどうだ」 「アナタが避けたせいでぶつかったんじゃない」 「... -
永遠の扉51-3
第022話 「環境の変化(後編)」 自身の薄暗い感情をつまびらかに見据えてみると、源泉はつまる所ひとつであるらしい。 それが感情の起伏に沿って流れて樹状化し、日々の鬱陶しさと諦観へと続いている。 が、地下にいる時の陰鬱さの要因はたった一つで済んでいたから、ある意味では楽だった。 いったいこの、地上でのややこしさはどうか。 他者の事情が際限なく絡まってくる。 頭が痛い。 馬鹿馬鹿しい。 只でさえ奥に秘めた感情のもつれに長年窮々としているのに、その窮々に事情知らずの連 中が頼みもしないのに関わってきて、ますますややこしくしている。 社会の雑駁さへの怒りを禁じえないが、外からは相変わらず珍妙な指示が下ってきて動かざ るを得ない。 声をかけているのはまひろで、実にやり辛いタイミングで支持を下してくる。 それを油の切れかけたゼンマイ仕掛けのよ... -
「”代数学の浮かす” ~法衣の女・羸砲ヌヌ行の場合~」 2-2
「しかしイジメか……。やっぱり女子のイジメって難しい? 斗貴子さん」 「私もそれほど詳しくはないが、男子ほど単純でもないだろう」 「いきなりオレたちが出てって「やめろ!」とか言っても聞いてもらえないよね?」 「むしろ逆効果だ」 後にヌヌ行は(遠いにも関わらず)銀成学園に進学する。 何かとピーキーな斗貴子さえ受け入れた銀成学園は代が変わっても同じだった。 カズキたちがその肌でイジメを知らぬのも無理はない。 にも関わらずどうすればいいか考えている彼らの姿はとても好ましかった。 話し合っていた彼らはやがてゆっくりと向きなおった。 まず最初に口を開いたのは斗貴子だった。彼女は気まずそうに視線を外しながら 「正直、逢って間もない私たちが今すぐキミの悩みを総て解決できるかどうか自信がない。内心じゃ私たちの言葉に何というか 物足りなさを感じているかも知... -
項羽と劉邦 第6話 生きていた呂后
やがて 背景 → (焦げた木々) 数十分の 背景 → (雲ひとつない夜空) 時が 背景 → (上空から見た城) 流れた。 背景 → (城の中庭から見た縁側) 「う、うーん。はっ!」 布団で寝ていた行者は慌てて跳ね起きた。 身のこなしは実に素早い。一瞬後には布団のそばにストンと着地して、両手をメトロン星人 みたいな形で上段に構えている。 ちなみに上記のポーズは文庫版闇の土鬼、中巻132ページ1コマ目だ。 自らのおかれている状況が不測ゆえの警戒か。 じっとり汗ばんだ憔悴の表情で、拳を無暗にふりかざす。 部屋は三国志とかでよくある中国丸出しの部屋(名前はよく知らん)で、敵はいないらしい。 「まーまー落ち着いて。これから共同戦線を張ら... -
永遠の扉 第064話
話は、八月二十七日の夜──屋上で空を見上げて泣くまひろを秋水が見た頃──に遡る。 銀成学園の職員室で鐶は生徒手帳を広げ、沙織の写真と、それそっくりの顔を並べていた。 「……似てますか?」 「カッコは似てるけどさ、そのタルい話しかたは何とかならんワケ?」 「やっぱり? 私このコの喋ってるとこを無銘くんの忍法で見たけど、すぐ覚えるの無理みたい」 「……うーんとさ。うまいかもしれんけど、キャラかわりすぎじゃん」 突然の豹変に香美は鼻の頭にシワさえ寄せて困惑した。 「はぁ……でも……まだ定着しないというか……友達の呼び方を間違えてバレそうな……」 『ふはは!! その不備を補うべく僕たちはココにいる!! まぁ僕は人間関係について努力 しようとして挫折したクチだが!!』 「ところでさひかりふくちょー。あたしのマネとかできる?」 沙織に扮した鐶の口が明... -
「演劇をしよう!!」(中編) (3)
パピヨン率いる演劇部の陣容はいまや最高のものとなりつつある。 抜群の運動能力を誇る秋水と斗貴子。学園一美しいと評される桜花。遅れて加入した音楽隊はさまざまな分野において めざましい可能性を秘めている。毒島や防人といった外様連中もまた然り。 誰かがいった。とても面白い劇になるだろう。 誰もがいった。きっとそうだろう。 笑いあい気運を高める生徒達は……気付かない。 楽しい時はいつか終わる。その、逃れられない事実を。 もっとも……もし気付いたとしても彼らは気楽に笑いこう答えただろう。 「そーだよな。劇はもうすぐ終わるんだよな」 「ん? ひょっとして学園生活のコト? 考えたら卒業式までもう1年半切ってるし」 彼らはほんの僅かでも脳裏に描くべきだった。 ありえからぬ非日常の存在を。 かつて銀成学園... -
「演劇をしよう!! (前編)」 (7)
「指!! オオオオオ俺の指ィィがあああああああああああああああああああああああああああ!! 狂ったように喚く金髪ピアスの掌には成程明らかに「欠け」があった。それを補うように何本か、細長い肉の塊が彼の前に 転がっている。筋のようなものを垂らしながら赤い液体をとろとろ零しているところを見るとやっぱりそれは指のようで、何本 か切除する羽目になった、そう見るのが正しそうだ。 突き立てられたハルバードの澄んだ刃。叫ぶ表情が歪んで映る。更にそこへ小指が、ぐっぐっ、と引きずられるように向 かっていく。一段と大きさを増した悲鳴が響く。金髪ピアス。彼の腕はなおも動いている! 意思に反した動きなのは彼が 懸命に手首を抑えているところからして明らかだ。なのにびィんと突き立った小指ときたら等間隔を滑るように動いていく。 一瞬止まっては一瞬進み、一瞬止まっては一瞬進み。 ぐっ、ぐっ。 ゆ... -
「演劇をしよう!!」(中編) (6)
「あ、ありがと垂れ目。も、もうダイジョブ。いやそのまだダイジョブじゃないけどダイジョブじゃん」 たしなめるコト249秒。香美は少し落ち着いてきたらしくいまは体育座り。太ももの後ろで手を組む彼女の横に剛太はい て複雑な表情だ。 (ああクソ。なんで俺こいつの都合に付き合ってんだろ。ホムンクルスだしそもそも斗貴子先輩じゃないし!) 戦士である以上ホムンクルスには冷淡であるべきだ。でなければ本分が果たせぬ。武装を行使し殄滅(てんめつ)する守 護者の本分が。さらに香美は斗貴子ではない。心身とも魅力に富み岡倉などは存分に鼻下を伸ばしているが、しかし剛太の 抱える恋慕はそういう系統ではない。存外、精神的箇所から出発タイプなのだ。斗貴子は心の支えだ。それだけでもう女神で 他の追随を許さない。よって香美が対象外なのは言うまでもないが……。 (………………) ... -
「演劇をしよう!! (前編)」 (11)
「で? いつになったら話してくれるの? 申し訳程度に作られた地下室。中央のヴィクトリアは嘆息しつつ問い掛ける。まひろはやや俯き加減なので、気持ち上体 を屈め覗きこむような格好だ。腰に手を当て返答するよう鋭い上目遣いを送っているがやればやるほどまひろは委縮する らしく──怯えているというよりは、「びっきーがこれだけ真剣に聞いてくれるんだからちゃんと言わなきゃ」と言葉選びに一 生懸命になり、ますます言えなくなっているようだ──埒があかない。もとより狭量で短気なヴィクトリアだ。流石に怒りのマー クが跳ねのある前髪で脈動し始めたころ、意外なところから声が掛った。 「いう必要もない!! 貴様の悩みなんてのはこの蝶・天才の俺にかかれば全部全部お見通しだ!! 「ひゃあああああ!?」 素っ頓狂な声はヴィクトリアの口から上がった。見ればパピヨンの顔がすぐ横にいる。それだけなら何とか耐えら... -
「演劇をしよう!! (前編)」 (10)
橙の光が闇の中を進んでいた。円形のそれは時おり左右へ傾き空間の暗黒を削っていた。灰色の壁。丸く歪曲した天井。 そして線路。光が無造作に抽出する景色はここがトンネルであるコトを示唆していた。 光はどうやらライトらしく後方から硬い足音がコツコツコツコツ常に響いている。それはもつれ合うような不協和音。足音の 主は複数いた。 「しかし広いわねココ。電波とか届くのかしら?」 場所に不釣り合いな嬌声が淀んだ大気を震わせた。 「届くって入ってすぐの頃に言っただろ! 戦団への定時連絡! 毎日毎日ボクに押し付けやがって!!」 こちらはいかにも坊ちゃんといった感じの若い男性の声。懐中電灯を握る手をぶるぶる震わせ憤りも露だ。 「何にせよ大戦士長救出作戦まで後2日。大まかな位置は把握できたな」 いかにも無頼漢じみたハスキーな声が笑みを含ませると、前者2人は軽く同意を示した。 「まさか... -
ダイの大冒険AFTER(ガモンさま) 第三話 破邪の洞窟の真実
カール王国は数千の被害を被ったがアバンとラーハルトの活躍によって壊滅は免れていた。 しかし、アバン達は倒壊した家の影に隠れているとても大きな扇子を持った少女を見逃さなかった。 「貴女は誰ですか?」 普通の人間ならばこの少女も戦禍に巻き込まれるのを恐れて隠れていたのだと思うだろう。 だがアバンとラーハルトはどう見ても不気味な気配を発していた様に見えたのだ。 何故ならこの少女は先程の戦いを監視していたのだから。 「なかなかやるね、私はテマリっていうんだけど。」 「お前がこの国にモンスターを嗾けたのか?」 「待ってくださいラーハルトさん、もしもそうならそう簡単に私達には話さないでしょう。」 しかしテマリは驚くほど簡単に秘密を洩らした。 「そうだよ。別にこの国を攻めること自体は大した目的じゃない、あんた達がバーンを倒した勇者の一味かどうか探りに来たんだ。」 ... -
「”代数学の浮かす” ~法衣の女・羸砲ヌヌ行の場合~」 5
遂に邂逅した武藤ソウヤと羸砲ヌヌ行。 彼らの目の前に現れたのは……”鎧”だった。 特定の1体を除いていえばヌヌ行がその姿を把握したのは戦闘終了後しばらく経ってからである。 戦闘はすぐ終わった。例の帯が支配する世界でじっくり観察しなければ敵がどういう姿かなど永遠に分からなかっただろう。 無数の裂け目から着地音もバラバラに降り立った彼らは。 鎧を着た執事。一言で形容すればそうだった。胸にブレス・プレート。両腕にはトーナメント・アーマー。兜はアーメット。 とは淹通(えんつう)なるヌヌ行が戦闘終了後ソウヤに披歴した知識だが……とにかく歪な姿だった。左右は非対称で 右肩からは用途不明のウィングが天めがけ高々と生えていた。手袋や爪先は唇のような赤。黒い葉脈の浮いた鎧のそこ かしこから覗く地肌らしき部分も赤。コントラスト。強烈な色彩を放っている。顔とき... -
永遠の扉 第025話
第025話 「変調(前編)」 後ろ手でぴしゃりと扉を閉めると、ヴィクトリアはひどく荒い息をついた。 部屋の中から千里の声がした。心配しているのだろう。 それを何とか押し込めて部屋から出てこないコトを祈りつつ、ヴィクトリ アは自室に向かって駆け出した。 変調。 にこやかに話すだけだった平穏でちょっと蒸し暑いだけの夜が、一気に 激しい魔性を帯びて洗いたての肌にまとわりついてきた。 自室を目指してどうするのか。 早く武装錬金を展開して地下に潜れ。 最良の解決策はそれだけだ。 脳内で冷たい老婆の声がリフレインするが、彼女は何をどうすればい いかまったくわからない、取り乱しきった表情でただ自室に向かっ て走り続けた。 そう。老婆よりも若々しくも冷酷な声が背後からかかるその瞬間まで。 ただ茫然とアスファルトの上に立ち尽く... -
「演劇をしよう!! (前編)」 (13-1)
「さあそろそろ犠牲になってくださいよぉ。この上なく尊び(たっとび)ますからあ」 (追い詰められた) 行き着いたのは袋小路。背後には塀。両側にも塀。これでもかと積まれた灰色のブロックどもは左官の奏功、目測が馬鹿 らしくなるほどの高さだ。登るのを考えた瞬間全身のそこかしこが悲鳴を上げた。手足の傷は決して軽くない。疲労もある。 衣服に染み込んだ血や汗ときたらクチクラやキチン質よろしくバリバリと凝固を重ね運動性というやつを大きく喪失せしめてい る。もはやできそこないの甲虫外骨格か甲殻類の表面かというありさまで気だるい重量ばかり全身にのしかかる。つまりまっ たく心身とも登攀(とうはん)不可の極地にまで追いやられている。 そのうえ眼前には黒い影。 まさしく絵に描いたような追い詰められ方だった。 影が一歩進んだ。街頭に照らされ素顔が明らかになった。右手の得物も同じく... -
「演劇をしよう!! (前編)」 (13.1)
「さあそろそろ犠牲になってくださいよぉ。この上なく尊び(たっとび)ますからあ」 (追い詰められた) 行き着いたのは袋小路。背後には塀。両側にも塀。これでもかと積まれた灰色のブロックどもは左官の奏功、目測が馬鹿 らしくなるほどの高さだ。登るのを考えた瞬間全身のそこかしこが悲鳴を上げた。手足の傷は決して軽くない。疲労もある。 衣服に染み込んだ血や汗ときたらクチクラやキチン質よろしくバリバリと凝固を重ね運動性というやつを大きく喪失せしめてい る。もはやできそこないの甲虫外骨格か甲殻類の表面かというありさまで気だるい重量ばかり全身にのしかかる。つまりまっ たく心身とも登攀(とうはん)不可の極地にまで追いやられている。 そのうえ眼前には黒い影。 まさしく絵に描いたような追い詰められ方だった。 影が一歩進んだ。街頭に照らされ素顔が明らかになった。右手の得物も同じく... -
永遠の扉 第047話
「のわあああああ! 正に驟雨の勢いで矢が降り注いでおりまするーっ! 不肖の背中をご覧 ください、恐らくかの武蔵坊弁慶の立ち往生かハリネズミか! 火をつけますればかちかち山の 狸と化して野山五百里わーわー駆けずり回るは正に必定! というか、と、いうかー!」 秋水とまひろの説得が佳境にさしかかった頃、小札は蝶野邸の庭を頭抱えつつ走っていた。 「というか畢竟(ひっきょう)つまびらかに本音漏らさば、痛いのです!」 彼女のいう通り、背中には何本もの矢が刺さっている。 「痛い!」 また肩口に矢が突き立った。 「痛い!」 鳶色のくりくりとした瞳に涙がにじんだ。 「お、おやめ下さいー!」 霧の中で小札は栗色のおさげを揺らしつつ振り返って、御前に抗議した。 「じゃあさっさと負けを認めちまえよロバ女!」 「うぅ……不肖もなるべくそうしたいのですがで... -
永遠の扉 51-2
第021話 「環境の変化(中編)」 「俺のシルバースキンは精神状態によって硬度が大きく左右される。戦闘時には例えミサイル が直撃しても爆ぜない……というのは既に何度も聞かせたな」 シルバースキンを解除し、脇腹の辺りを確認した防人はちょっと顔をしかめた。 つなぎが破られ、一文字の朱線から血のしずくがこぽこぽとこぼれている。 「ええ」 秋水はうなずくと、「それに倣ってみました」と言葉少なにつぶやいた。 表情は暗い。防人の傷を深刻そうに眺め、持っていた核鉄を差し出した。 シルバースキンが砕けた瞬間、あわや刃が肉に食い込む寸前で秋水は武装錬金を解除し たのだ。 「気にするな。そうやって咄嗟に止められただけでも偉い」 秋水を手で制して笑って見せる防人だが、もっとも内心はけして穏やかではない。 心中の彼は髪や瞳や不精ひげや肌の色素すべて... -
永遠の扉007-6
第007話 「みんなでお食事」 (6) 「私、武藤まひろ! まっぴーって呼んで!」 細身にまとわりつく元気いっぱいの少女に、ヴィクトリアはひどく嫌気が指してきた。 生徒たちからの質問攻めが終ったと思ったら今度はコレだ。 「すごい、びっきーがもう来てるー!」と叫びながら飛びついてきたと思えば、背後から抱きつ いたり髪をいじりまわしたり、人差し指と親指で作ったリングを目の前にかざして「79」と意味 不明の断定を下したり、「ね、ね、斗貴子さんと同じ制服だけどどういうカンケイ? ああでも いいなー斗貴子さんとペアルック。私も着たいー!」と好き勝手に騒ぎ散らしている。 (次から次へと鬱陶しいわね。どこがいい学校よ) だが、わざわざ猫をかぶって反応する自分のちぐはぐさにも腹が立つ。 イヤならば本性を露にし、楽しくて光に満ちた暖かな空間を壊して立ち去る方が良いのだ。 だがそれ... -
第094話 「パピヨンvsヴィクトリア&音楽隊の帰還」後編 (2)
【9月12日】 朝 ────銀成学園までバスで7分。山あいのログハウス前で──── 「厳しい修行だった……」 「だが、確かにこれならパピヨンに対抗できる!!」 そこには。 秋水と斗貴子、そして六舛の姿があった。何があったのか。最初の2人は全身のいたるところに包帯や絆創膏が見られた。 徹夜でアクションの修行をする──昨晩の修行の苛烈さが伺えた。 「斗貴子さん! 最近のジャンプの修行って過程見せないコトが多いよね! でも何をどうやってどうパワーアップしたか分 からないまま急に強くなって敵さん倒してもいまいちカタルシスないよ!」 「今度はまひろちゃんの声音か! いい加減にしろ!」 斗貴子はがなるが──… 彼女と秋水の顔はどこか明るい。直立不動の秋水は「いい試合をした」という顔である。俯き加減で拳を眺める斗貴子の 瞳で確信の... -
「演劇をしよう!! (前編)」 (8)
『ウソはつかないけど豆知識!! みんな知ってる『7つの大罪』、6世紀ごろまでは8つだった!!』 「暴食」 「色欲」 「強欲」 「憂鬱」 「憤怒」 「怠惰」 「虚飾」 「傲慢」 いわゆる枢要罪である。 「いきなり叫ぶなお前。うるせェ」 ムっとした様子の剛太に『すまない!』と詫びながら貴信は言う。 マレフィック 『このうち「憂鬱」と「虚飾」はそれぞれ怠惰と傲慢に統一され、「嫉妬」が追加された訳だけど!! 敵の幹部はこれらの罪 のうちどれか1つを持っている!! 規則で決められているかどーかは知らないけれど、必ず1つ! 何かの罪を!!』 あ。ひょっとして。桜花はくすりと笑った。 「もしかして光ちゃんのお姉さんって『憤怒』... -
第095話 「演劇をしよう!! (前編)」 (1)
栴檀貴信(ばいせんきしん)。肉体年齢は17歳である。 遡るコト7~8年前、ホムンクルスと化した「やかましい」青年であるところの彼は。 裂けたレモンのような巨大な双眸に芥子粒のような四白眼を泳がせている彼は……困っていた。 「ああもうヒマじゃん! ヒマ!」 「静かにしろ」 「ヘーイ! 転入生のカノジョー!! ヒマなら俺とお話しないー!」 原因は”前”である。 (余談だが栴檀は本来「せんだん」と読む。「ばいせん」とは無論誤用だが、響きがいいので使っているらしい) ホムンクルスの製造には「幼体」が用いられる。動植物、または人間の細胞を基盤(ベース)にしたそれらを投与された 場合、大抵の者は精神を”基盤”のそれに蝕まれ、体を乗っ取られてしまう。 だが貴信は『ある事情』によってそれを免れた。投与された「幼体」の基盤は……当時彼が飼っていたノルウェージ... -
「演劇をしよう!! (前編)」 (12-2)
「世間で言われてるような傲慢なんてのは存外それほど恐れるべきじゃないのかも知れないね。パピヨン君がいい例さ」 『彼』は指を弾きそして語る。 パピヨン。 彼は人を見下すあまり遂には人そのものへの関心を失くし我が事のみに没頭している。 Drバタフライもそうだった、と。 「彼はヴィクター君を隠匿せんとするあまりホムンクルスの本分たる人喰いさえ見事に統制しきっていた。むーん。なんとも コントロラーブル。皮肉だが傲慢さに救われた命も少なからずあるという訳さ」 ねばついた腐肉がどこまでも広がる異常な部屋の中。 半ば蹲(つくば)りながら坂口照星はため息をついた。 「そして私も今まさしく傲慢さに生かされているちいう訳ですねムーンフェイス」 目の前に聳(そび)える長身の怪人は気の毒そうに顔を歪めた。 「同情するよ照星君。どうやら彼らに言わせればキミ... -
永遠の扉 第027話
第027話 「動き出す闇(前編)」 まず本稿を描く前に一つの武装錬金に対する注釈を設けておく。 アンダーグラウンドサーチライト。 創造者 … ヴィクトリア=パワード。 形状 … 避難壕(シェルター)。 特性 … 亜空間への避難壕(シェルター)製造。 特徴 … 入口を閉じた状態での発見はほぼ不可能。 広さと内装は変幻自在。 (ただし広さや複雑さに比例して創造者への負担は大きくなる) 水・電気は現実空間の水道管や電線から拝借可能。 秋水が斗貴子に半ば連行される形で管理人室に入ると、すでに見慣 れた顔が卓を囲んでいた。 防人は斗貴子の顔を見ると困ったように頭をかき、千歳はいつものよう に無表情、桜花は秋水に「まひろちゃんとの会話は楽しかった?」とい いたげな顔... -
第097話 「演劇をしよう!!」(後編) (2)
「ありがとうございましたー」 自動ドアを潜り抜けた瞬間、ふたりの買い出しは終わる。 ここは銀成デパート1階南西の隅にあるペットショップ。扱う物品が物品だから、こういう場所にしては珍しくガラスのドア で区切られている。鼻からふっと獣臭が消えるのを感じ鳩尾無銘は一息ついた。彼も連れも本質は動物型ホムンクルス だから犬猫その他の醸し出す独特の臭いをあまりどうこう言えないのだが、それでも一応ひとの身、1日の、入浴に費やす 時間分ぐらい文句つけてもいいだろうと思うのだ。連れなどは無銘の嗅覚鋭きを知ってか知らずかそれはもうお風呂好きで、 流浪の一団にありながら1日と入浴を欠かした事はない。僻地でも最低限の水浴びをする。 とにかく、買い出しは終わる。 「というかなんで『コレ』なのだ。こんなのどう演劇に使うのだ」 「さあ…………」 鐶はポシェットを持ち上げ首を傾げた。2つある紐... -
永遠の扉006-3
第006話 「今は分からないコトばかりだけど」 (3) なぜ、こういう状況に置かれているのか。 正直理解に苦しむ。 けれど苛烈であろうと馬鹿げていようと、処して目的を果たすのが自分という存在に許された たった一つの在り方だ。 そう。 迷い込んだのは夢なんかじゃなくて現実。 自分を変えたいのなら動き出すしかないから…… 「司令…!! もはやこれまで!! 私はゾンビになどなるのは御免です。……お先に!!」 教壇の上で河合沙織がこめかみにつきつけた銃を弾くと、傍らのまひろは手にしたジッポラ イター(設定上は起爆スイッチ)のフタを開けた。 声に出すなら「むむむ……」といった面持ちをする彼女は、七三分けのカツラやつけヒゲと あいまってなかなかにコミカルである。 そしてその眼前へジッポライター入りの握りこぶしを荘重に掲げた後、下唇をかみしめてや や寂しげな目をし... -
第094話 「パピヨンvsヴィクトリア&音楽隊の帰還」後編 (10)
音楽隊はホムンクルス特有の禍々しさが驚くほど薄い。秋水にちょっかいを出した無銘でさえ言葉の端々にはそこはか とない愛嬌がある。 だがそんな姿を見てもなお、斗貴子は受け入れ難い。記憶こそないが故郷の赤銅島はホムンクルスたちによって甚大な 被害を受けている。家族はおろか使用人やクラスメイトすら喰い殺された。唯一覚えているのは戦団の施設で邂逅したホムン クルス。西山、と名乗るその少年は斗貴子の顔に消えるコトなき一文字の傷を刻んだ。顔に傷。女性たる斗貴子がホムンクル スを憎悪するに十分だろう。戦団の技術なら傷跡も消せるが、斗貴子にそのつもりはない。傷跡とともに抱え続けたいほどの 憎悪。それをホムンクルスに覚えている。 桜花や秋水は元々ホムンクルスに与していた。共闘に疑問はないだろう。 剛太が家族をホムンクルスに殺されたのは物心つく前の話だ。共闘が戦団の姿勢なら、あっさり受け... -
永遠の扉 第090話
「秋水先輩、空気ってどう読めばいいのかなあ?」 「君はいきなり何をいっているんだ?」 ゆらっと扉を開けてしょんぼり佇んでいる。 秋水の病室へやってきたまひろは正にそんな状態だった。 幽鬼のごとく部屋に入るなり、閉じたての扉の前で一歩も動かず秋水を眺めている。 グっと太眉の下がった困惑満面はもはや見慣れた感がある。何かといえばこの顔だ。.しかしどうであろうこの眉毛の明瞭 さは。古来「目は口ほどに物をいう」というが、まひろの場合「眉毛は目ほどに物をいう」のかも知れない。 (というか、そういう話の切り出し方は困る) 病室へ見舞いにくるなり「空気ってどう読めばいいのかなあ?」は如何なものか。質問それ自体がすでに空気を読めてお らぬ。ヴィクトリアがこの場にいれば「いきなりそういう質問をしなければいいのよ」と冷笑混じりに茶化すだろう。秋水はた だ... -
第097話 「演劇をしよう!!」(後編) (1)
『鐶光は鳩尾無銘が大好きだ。 彼女はむかし義姉に両親を殺された。その挙句監禁され、5倍速で年老いる人外へと……。 瞳が暗色に染まるほどの戦いを強いられ続けるうち果たした出会いが運命を変える。 ザ・ブレーメンタウンミュージシャンズ。標的を殲滅した流れの共同体を急襲し、小札、貴信、香美と立て続けに重傷を負 わせた鐶光の前に立ちふさがった者こそ……当時まだ人型になれずいたチワワ姿の鳩尾無銘。 苛烈を極めた戦いは引き分けに終わる。 鐶が無銘を好きになったのはその後だ。 折悪しくやってきた戦士から、鐶を、命がけで守ったから。 好きになった。お世辞にも自分より強いとはいいがたい、チンチクリンなチワワが、傷だらけになりながら戦士を退け …………守ってくれた。 救ったのは命だけじゃない。 親も尊厳も失い悲嘆にくれる鐶に彼は、... -
永遠の扉 第035話
第035話 「斜陽の刻 其の漆」 目を閉じていても、体に染み付いた術技は功を奏するものだ。 光輪を飾り輪のエネルギーで相殺すれば、目の前で凄まじい光が起 きるのは明らかだった。 よって秋水は手に斬撃の感触が通り過ぎるまで、目を閉じていた。 次に開いたその時。 「まだだ! せめててめえも道連れに!」 死にゆく逆向がチェーンソーをかざし、迫ってくる。 (そうか。『もう一つの調整体』の効果で震洋の体に宿った以上、普通 のホムンクルスのようには死なない……だがこうなったら震洋にはすま ないが、戦闘不能になるまで斬り伏せる!) 秋水は激しい息をつきながら再び構え──… 一体何が起こったのか、十体のムーンフェイスは判断に困った。 「特異体質発動」 気づけば彼らは密集していた。ひどく狭い場所に。 そのまま視界が空へ向かって流れた時、よ... -
永遠の扉 過去編 第003話 (1-1)
そのマンション襲撃の後始末は他の戦士長の管轄だったから筋からいえば別に防人衛が心痛を覚える必要はなかった のだけれど、例えば誰かが事後処理の進捗具合──といっても手がかりのなさを再確認するだけの空虚なやりとり──を 囁きあっているのを聞くだけでもう覆面の奥が蒼い哀惜で、だからだから剣持真希士は当惑した。 「燻ってんのさ。奴はずっと」 橙色の光輝のなか面白くなさそうに呟いたのは火渡赤馬。何かの任務で珍しく同じ班になった彼がこれまた珍しくかつて の同輩評をさほど親しくもない真希士に漏らしたのは、会話の端緒が、この時まだ新人(ルーキー)に毛が生えた程度の 後輩への文句づけだったからで、それはやがて師匠筋の防人へのダメ出しにスライドした。 「燻ってんのさ。奴はずっと」 とはつまり日頃抱えているかつての朋輩への他愛もない不満の表れなのだろう。 「... -
第097話 「演劇をしよう!!」(後編) (5)
歩く。 「銀成で2番目に旨いコーシーの店……ありますよ……」 「興味あるがガマンだ!! 母上から貰ったお金、あまり無駄遣いしたくない!!」 「……リーダーの……クレカ……も……ですか」 歩く。 「銀成で1番目に旨いコーシーのお店……も……ありますが……」 「ガマンだ!!」 「…………2件買い物しても……支出……1800円ぐらい……です……よ?」 立ち止まる。無銘は頑として叫ぶ。 「その1800円が曲者なのだ!! いいか!! 1800円というのはな!!」 「はぁ」 「あと1200円足したら3000円ではないか!!」 「なに……いっているのか……ちょっと……わからない……です」 当たり前ではないか。何をこのチワワは算数しているのだろう。 というカオする鐶がもどかしいのか、少年無銘はグヌヌヌしばらく唸ってから決然と叫ぶ。 「3000円っ... -
【過去編第000話】
「けーれども彼はこ・こ・でさよなら♪」 「「「「「「「「残念だったねェ!!」」」」」」」」 合唱。それが教室に響くとパピヨンは瞳を細めた。 「フム。やるじゃないか。始めたばかりにしては」 居並ぶ生徒たちがさざめいた。歓声。仲間との称賛。抱き合う女生徒も何人か。 ここは銀成学園の一角、とある教室。演劇部の巣窟だ。 「だがつけあがるなよ。貴様たち程度など掃いて捨てるほどいる!!」 「ハイ監督!!」 「この俺パピ・ヨン! のように美しくなりたければひたすら努力あるのみだ!!!」 「ハイ監督!!」 口をそろえて返事をする演劇部員。ハモリ具合ときたら合唱部も羨むほどだ。一種異様な──新興宗教の祖を呼ばう ような──な熱気が音波と化して膨れ上がった。それにビリビリと肌を焼かれるパピヨンはしかし笑った。牙をむき出す 邪悪のアプローチで。 「ほう。... -
第092話 「斗貴子が防人に報告。そして影、遂に過去より来(きた)る!」
【報告書】 9月10日午後6時頃、銀成市北東山林部にてホムンクルス30体を確認。これを撃破。 人質となっていた開盟学園生徒(男性・17)は無事保護。 そう締めくくられた事務的文章満載のA4用紙から目を上げると、防人衛は深い溜息をついた。 「何か不備でもありましたか」 すかさず卓袱台の向こうで鋭い瞳が輝いた。津村斗貴子。後頭部から肩めがけ急降下するショートボブは切り揃えたと いうより「長いと邪魔なので自ら背後から斬り捨てた」という方が適切だ。そういう物騒な形容が似合う一直線の髪が揺ら めいたのは姿勢を正し、卓袱台の縁から防人を直視するためである。続く釈明。曰く、人質に怪我はない。曰く、錬金術に ついての一切合切については口止め済み。湯呑をごとりと置いてからこっち、凛々しい唇は歌のように報告を口ずさむ。 「人質となった少年やその友人たちの... -
第098話 (1)
【9月13日・夜】 「ああそれか。俺もできるぞ」 寄宿舎管理人室地下トレーニングルームで秋水が防人衛の言葉に目を丸くしたのは20時も半ばを回ったころ。そろそ ろ生徒たちが寝静まる時間である。 「できるんですか?」 我ながら面白くない質問だと思いつつ秋水。 「一応な。ウソだと思うならやってみるか?」 事もなげにいう防人はいま素顔。シルバースキンは未着用だ。 代わりのツナギも今は上半分がはだけている。 黒いシャツに覆われた肉体は、細い。イザ戦ったときの防人がどれほど絶大な破壊力を振りまくか知っている者なら拍子 抜け間違いなしなほど細い。痩せているというより標準体型、筋骨隆々の逆三角とはほど遠い。 ただ秋水は知っている。少なくても剣において逆三角の体は機能しないと。 防人のような筒型の方が術理を極めるに向いている。 で、ある... -
「パピヨンvsヴィクトリア&音楽隊の帰還」後編 (4)
──────薄暗いどこかで────── 「ほー。で、で!? 霊魂に作用しとったらどうスゴいん!? 」 「むーん」 「『もう一つの調整体』いうても要はあれ、ふっつーの核鉄ちょっと改造しただけやろ? 100年調整に調整重ねた白い核鉄 ほどスゴクないんやないかな。うん。ウチはそう思うとるでー」 「むーん。それはだね」 ムーンフェイスは微苦笑していた。 一連の戦闘終了後、目下ムーンフェイスは銀成市から退散中だ。 いまは彼が「再就職先」と呼ぶ『組織』の用立てた建物に身を潜め、新たな戦いを待っている。 のだが。 (やれやれ。LXEの間の抜けた連中が懐かしいよ) 時々往時を忍ぶほど、再就職先の面々は「色々とヒドい」。 例えば大人しそうだと話しかけた「笑顔の似合う少女」 (確か……リバっち。いや、リバース君だったかな。何にせよ……... -
バレンタインは犠牲になったのだ…勇パルでホワイトデーする犠牲に…
太陽の光さえ届かぬ地の底。 幻想郷の地上と地底を繋ぐ巨大な洞穴の中に、その橋はあった。 ――渡る者が途絶えた橋。 つけられた名の如く、この橋を渡る人間、あるいは妖怪は存在しない。夜 の闇よりも濃い暗闇に浮かび上がる橋は不気味の一言で、進んでここを訪れ る者は、よほどの酔狂の持ち主か、はたまたこの橋と強い縁を持つ者か。 しかし、誰もいないと思われた橋の上に、一つの人影があった。 ややウェーブがかかった金色の髪に、鋭角的に尖った耳、ペルシャの民族 衣装によく似た装束を纏った少女。緑色の瞳に憂鬱を滲ませて、彼女はたっ たひとりで、洞穴の上を見上げる。その視線の先にある〝何か〟を、求める ように。 彼女の名は、水橋パルスィ。 『嫉妬心を操る程度の能力』を持ち、ここ幻想郷に生きる有象無象の妖怪 のひとつ、橋姫である。 ――橋... -
第095話 「演劇をしよう!! (前編)」 (2)
(とにかく、もりもり氏(総角)と小札氏は3年へ編入。早坂姉弟たちの監視を受けている! 無銘と鐶副長はどう見ても小 学生だけど1年生だ! 監視は防人戦士長と毒島氏!) そして2年生が貴信と香美。見張り番は斗貴子と剛太(体験入学扱いとかで特別に教室にいる)である。 (しかし香美はあまりに動物動物しすぎている! 学校はニガテのようだ!) 「うー。何さ。ヒマじゃん。ヒマ! なんでじっと座っとらなあかんのさ。遊びたい! あーそびたーい!!」 セミロングの髪をツンツンに尖らせた少女は先ほどから落ち着きなく唸っている。身を丸めて机を揺すったかと思うと急に 体を伸ばしてハエに飛びかかったり……まったく授業を受ける様子がなく、教師も生徒もただただ唖然と香美を眺めている。 「じゃあ一緒に授業ふけない? ハニー!!」 ただ一人香美に声をかけるリーゼント──岡倉英之──に関してはその伸びきっ... -
過去編第007話 「傷だらけの状況続いても」 1-3
文字だけで考えると分かり辛いコトこの上ない!! これでなんで遠くの敵を爆破できるか、ウチ自身慣れるまで苦労した。 えーと。図で考えよう。 ”媒介”は「ハンカチ」としよ。誰でもポケットにしまっとるからな。 で。次のような条件の場合なら。 条件1 ウチと敵の距離は3km。 条件2 ウチと敵の間にはハンカチが等間隔で落ちている。 条件3 敵のポケットにはハンカチがある。(=敵と媒介は同じ地点にいる) 条件4 ウチのすぐ前にもハンカチがある。 条件5 便宜上、前述の「一定範囲」は500mとする。 ※ 媒介を爆破するごとに、「500m以内にある媒介」の前にワームホール出現。 位置関係はこうや。 デッドからの 距離(km) 3.0 ‐┨ハンカチ …… 条件3の「敵のポケットのハンカチ」 . ┃... - @wiki全体から「“涼宮ハルヒ”の憂鬱 アル晴レタ七夕ノ日ノコトⅠ51-1」で調べる