SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ内検索 / 「ロンギヌスの槍 part.5」で検索した結果
-
ロンギヌスの槍 part.1
...ればならない遺産……ロンギヌスの槍よ」 「もちろん、あれはレプリカよ」 自販機のコーヒー缶に口をつけながら、ティアが言う。 「キリストの脇腹を貫いたとされる槍……キリストの血を受けたとされる槍。聖遺物としての価値は、あの聖櫃(アーク)と並ぶとさえいわ れているわ。"運命の槍"、"聖なる槍"……呼び方は様々だけど、ただ一つ言い伝えられていることは」 「ロンギヌスの槍を持つ者は世界を統べる、だろ?」 「そう。だから、多くの権力者が槍を求めたわ。実際、槍の所有者は絶大な権力を手に入れた。 ローマのコンスタンティヌス1世、東ゴート王のテオドリック、ローマ帝国のカール大帝、フリードリッヒ1世……。そして、アドルフ・ヒト ラー」 未曾有の災厄をもたらした最大最悪の独裁者。 ヒトラーの周囲には、オカルトめ... -
ロンギヌスの槍 part.5
鉤十字騎士団再来の報はオーストリア政府を震撼させた。 これまでオーストリア国内に存在するネオナチは、民族主義、人種差別、外国人追放などを主張する反社会的な団体でしかなかった。 かつては戦争裁判を逃れたナチ軍人がその活動の中心を担っていたが、現在の主流は社会に不満を持つ若者達が占めている。 しかも思想的にはかつての第三帝国のそれと食い違う部分が多く、その実態は奇形的に発展した国粋主義者の集まりでしかなかった。 ルサンチマン的な感情から他民族排斥活動や暴行・略奪などの犯罪行為を繰り返すただのごろつきでしかなかったのだ。 だが鍵十字騎士団ならば話は別だ。 オーストリア諜報部に残存する資料によれば、重戦車の群れと互角以上に渡り合った鋼鉄の偉丈夫、戦況全体を算出するほどの 演算能力を備えた機械仕掛けの戦乙女などが、鍵十字騎士団に在籍していたという。 そ... -
ロンギヌスの槍 part.4
教皇庁――ヴァチカン。 その最深部で、二人の女性が会していた。 一人は青いカソックを纏ったシスターだ。 彼女の名はシエルといった。 「――久しぶりだな、シエル。元気そうじゃないか」 執務室の椅子に座っていた女性は、不敵な笑みでシエルを出迎えた。 ヴァチカンに保管されている優美な絵画がかすむほどの美貌だった。瞳には挑戦的な光が輝き、一挙一挙に自信が満ち溢れている。 だが、美しい花には毒がある。彼女は若輩ながら、教会における超武闘派組織――埋葬機関の長だった。 埋葬機関。設立から400年の時を数える、神の敵である異端を排斥し、殲滅する異端審問集団。 計八名という少人数ではあるが権限は強く、たとえ大司教であろうとも異端認定受けたものは、串刺しは免れない。 その凶暴性故に、教会内の異端として、彼女らは疎まれていた。何度も... -
ロンギヌスの槍 part.8
フィーアのすらりとした細く長い足を、赤い光が覆っていく。 魔力を帯びた光は凝縮し、形を現す。 そして、彼女の足先から大腿部にかけて――先鋭的な形状をし、軽装な鎧にも似た、"赤い靴"が形成されていた。 "赤い靴"――それはグルマルキンが用意したフィーア専用の魔術礼装だ。 使用者に一瞬で千里先まで駆け抜ける俊足を約束し、また無尽蔵に魔力が供給され続ければ、理論上、音速にまで達することさえできる。 そしてフィーアは走り出した。 と同時に、"赤い靴"が起動し、その使用の際の独特な感覚が、彼女の全身を支配した。 自分以外のすべてが遅くなる感覚。自分が世界から取り残され、ひとりきりになるような感覚。だが、怖れはなかった。 彼女を突き動かしているのは、任務への使命感。そこにゆらぎは... -
ロンギヌスの槍 part.2
時代に真っ向から逆行したような服装だった。悪名高い漆黒の軍装。グルマルキンと名乗った女性は、武装親衛隊の勤務服に外套を羽織 り、淡い金髪に軍帽をかぶっていた。他の二名もまた同様に、髑髏の結社の装いだ。 ティーン――同じく武装親衛隊の勤務服に、軍帽を目深に被り、腰に日本刀を佩いている。 巨躯――同じく武装親衛隊の勤務服に、無骨な鉄兜を被り、無機質な双眸が不気味に光る仮面をつけている。 優は銃口を向けていた。――腕章に刻まれたハーケンクロイツ。遺産を狙うのは、生者だけではない。過去からの亡霊もまた、その怨念を 晴らさんがために、力を求める。WWⅡの敗残兵。鉤十字の亡者達。 「ネオナチ、か」 「馬鹿なことを口にするな。我々はあんな半端ものではない。あの三千世界を焼く嵐を経験したことのない者たちなど、仲間といえるか。 日々を悪戯に過ごし力を磨耗していっ... -
ロンギヌスの槍 part.7
「ミスタ・ロング、これが今の状況です」 「ん」 黒い長髪を流し、右目に眼帯をした東洋人――エドワード・ロングは、仕事仲間から書類を受け取った。 仕事仲間――ロングの向かいに座る表情の起伏が乏しい、目を離した次の瞬間には顔立ちを忘れてしまうような、 なんとも印象の薄い男であった。 二人が居る場所はウィーンのカフェテラスだ。 市民の憩いの場所であり、まだ日の高い時間帯だったので、店内にいる客の数も多い。 二人とも仕立てのよいスーツ姿だったので、一般市民の中に違和感無く溶け込んでいた。 凶手として裏社会に名を轟かせるが故に、ロングの素性は多くの組織に割られていたが、 ここまで堂々としていると逆に誰も気がつかない。 「……」 ロングはカップを片手に、手渡された書類にすばやく目を通していた。印刷紙の上に整然と並ぶ文字の... -
ロンギヌスの槍 part.6
銃創がまだ真新しい壁に、優は拳を叩きつけた。 「くそ……また間に合わなかったか……!」 硝煙と鮮血の匂いが、優の苛立ちを煽り立てる。 地面にこびりつく血痕、転がる無数の死体、無惨に破壊された建物。 すべて鉤十字騎士団の仕業だ。 奴らは大胆にも憲兵隊の基地を襲撃し、殺戮の限りを尽くしたのである。 「……親衛隊は相変わらずのようね。半世紀の時を経てなお、いまだに血を求め続けている」 ティアもまた優の傍らで基地の惨状を見つめていた。 常に冷静さを失わない彼女も、このときばかりは怒りを隠せずにいた。 憲兵隊の基地が鉤十字騎士団の奇襲を受けている。 待機していた二人に、切迫したその通信が飛び込んできたのは、ほんの数分まえだ。 優とティアは現地に急行したが、時すでに遅し。 親衛隊の姿はなく、後には殺戮の爪痕が虚しく... -
ロンギヌスの槍 part.3
襲撃の翌日、日本から連絡があった。優の上司である山本という男からだ。内容は鉤十字騎士団なる組織の動向、そしてアジトの調査の結 果。アーカムの活動は全世界規模で行われており、なかでも魔術や錬金術が栄えたヨーロッパには、念入りにアーカムの情報網が張り巡らさ れている。しかし敵もさるもので、いまのところ有力な手がかりは掴んでいないとのことだった。追って連絡すると言葉を残し、山本からの 通信は切られた。 「さて、どうする」 そこはアーカムが経営するウィーンのホテルの一室だった。山本との連絡を終えた優は、ティアの個室に来ていた。その顔には苦々しいも のがあった。完全に手詰まりの状況にあったからだ。いまウィーンではA級エージェントと憲兵隊とが協力し合い、グルマルキンらが潜んで いると思われる場所を洗っている。しかしあの撤退の手際のよさを見る限り、まだ魔女らが国内に... -
ロンギヌスの槍 part.9
「もうフィーアったら、あんなに大きな声を出すんだもの、耳がきんきんするわ。お茶が飲みたいなら、素直にそう言えばいいのに。 そういえばフィーアは、よくコーヒーを飲みたがるんだけど、あんな苦いだけの泥水のどこがいいのかしら。 きっと背伸びしたい年頃なのね。まあ、そういうところが可愛いんだけど」 通話を切ったフュンフは、まずそう切り出した。 彼女の目の前には、豪華なティーセットが並んでいる。茶葉のバリエーションに隙はなく、あらゆるオーダーに対応できる品揃えだ。 専門店でもこうはいくまい。これらはすべて、フュンフの影から取り出されている。 フュンフの影――それは現実と異界とを繋ぐ門だ。迷い子アリスが通り抜けた、不思議の国へと通じる井戸によく似ている。 しかし両者の相違点は、それを潜り抜けた先には、気が狂いかねないほどの恐怖と悪夢が待ち構えている、... -
ロンギヌスの槍 part.13
「ふふふ……ははははは!! いかにスプリガンの魔女といえど、 わらわの悪夢の世界の前には、何もできぬか!?」 黒の女王アリスが、傲岸に、傲慢に、哄笑をあげる。背後に漆黒の悪夢達を従えて。 いまや彼女が従える悪夢の軍勢は、ティアの完全に包囲していた。そこに逃げ道はなく、また、逃がす気もないのだろう。 雲霞のごとき数の黒の兵士達が鎧を軋ませ、醜悪な容貌をした悪夢の怪物達が気味の悪い笑い声を上げる。 ひとつの生き物のように、彼らはざわめき、蠢き、嘲笑う。たったひとりで自分達に立ち向かうことの愚かさと、 たったひとりの人間の無力さを。 無力な人間を恐怖させ、嬲り、いのちを奪う――それが彼らに与えられたキャストだ。その割り振られたキャストを演じる限り、 彼らには、人間を容易く殺せる権能が約束される。人間の不安や恐怖といった負の想像が彼らの由縁であり、原典... -
ロンギヌスの槍 part.11
雄叫びが響く。 雄叫びが響く。 ティアによって召喚された幻想の魔獣が、黒の兵士達を粉砕する。 黒の兵士の戦列目掛け、翼の生えた獅子が突進する。その牙で敵を噛み砕き、その爪で敵を引き裂く。 なすすべなく悪夢の住人達は蹂躙されていく。兵士達の決死の突撃も、事もなげに魔獣はねじ伏せる。 その様はまさに圧倒的と言えた。 だが―― よく見れば、魔獣は無傷ではなかった。その巨大な体躯には、黒の兵士達の槍が何本も突き刺さっている。 確かに魔獣は圧倒的だった。その巨腕の一振りで何十人もの黒の兵士が吹き飛ぶのだから。 だが相手は、尽きることのない兵力を持っていた。 倒しても倒しても、次から次へと新しい兵士が湧き続けるのだ。この軍勢の主――<黒の女王アリス>の影から。 魔獣の疲弊を見て取った何十人、いや何百人もの黒の兵士達が、一... -
ロンギヌスの槍 part.10
(――こいつは、前に進むことしかできない火だ) フィーアから繰り出される鋭い蹴りを回避しながら、優はそう思った。 優の目の前には、赤い暴風があった。 そういう形容が許されるだけの荒々しさと力強さが、いまのフィーアにはあった。 彼女の戦い方を見た誰もが、人間とはこうも自由自在に動けるのかと感嘆し、また、重力の存在を忘れるだろう。 まず、回転蹴りから始まり、それが二回。続けて、地面に両手をついて、腰をねじり、大きく回転を加える。 そしてフィーアは一個の駒となり、その両足は凶器と化す。さらに、旋回する両足に宿った遠心力を利用し、絶妙なタイミングで 地面から離れ、空中蹴りの二連撃。 その一つ一つの蹴りは、それだけで完結せず、次の動作へつながり、大きな流れを形成している。一連の流れに澱みはない。 その上、"赤い靴"に... -
ロンギヌスの槍 part.12
...グルマルキン大佐は、ロンギヌスの槍で、この世界を変えると仰った。大佐なら、正しく遺産を行使してくれる。 それだけの叡智を持っている。人の命をいたずらに奪う劣等を駆逐し、わたしのような存在が生まれることのない世界を作ってくれる。 大佐なら、我々なら、それが可能だ!」 「……気にいらねーな。なら、聞くけどよ。お前らが正しいって保証は、どこにあるんだよ」 優の脳裏に蘇るのは、無残に殺されたオーストリア憲兵隊の姿だ。 誰かを守るために戦った彼ら。明日を奪われた彼ら。 彼らは死すべき存在だったのだろうか? そうではない、と優は思う。 「お前はいま、いたずらに人の命を奪う奴を、劣等って言ったよな。確かに人間の中には、 そんな最低な奴もいることは、否定しねーよ。だが、お前が殺した人間は、本当にそんな奴らだったのかよ。 いいや、違うね。... -
ロンギヌスの槍(ハシさま) part.1~part.9
part.1 part.2 part.3 part.4 part.5 part.6 part.7 part.8 part.9 part.10~part.19 -
ロンギヌスの槍(ハシさま) part.10~part.19
part.1~part.9 part.10 part.11 part.12 part.13 -
トップページ
... 08/18 ロンギヌスの槍(ハシさま)を長編SS Index へ移動。 本家まとめサイト(byバレさま) 現行スレ 前スレ 短編SS Index 長編SS Index 職人さん別 Index 保管手続きあれこれ 本スレ保管ページ バレさんの更新を手助けするためのまとめwikiです。 ご意見、要望ありましたらご連絡ください。 管理人ゴートへの連絡は下の「管理人に連絡」の項から、もしくは、この掲示板 もしくはdarkamotobeオパーイgmail.com へ「オパーイ」を「@」にして送ってください。 ~~職人様方へ~~ 下の「管理人へ連絡」からメッセージをください。 編集のための登録をしていただければ後で文章の修正などを任意にしていただけます。 便利帳 Googleの広... -
戦闘神話51-3
part.4 act2 「さぁて、星矢!檄!これからオニイサンと一緒に夜遊びと…」 「却下!」 「右に同じ!」 悪所に誘うのはいつも風間虎太郎なのだが、 さそうに相手が若すぎるのというのも理解の上だから性質が悪い。 だが、星矢にも檄にも通用しない。 なんだかんだ言って城戸沙織ことアテナに操を立てている不器用な星矢と、 年齢からくる気後れでそういった大人の階段を上れない檄なのだ。 「まったく、マジメだねぇ~。 特に檄!お前さん毎日のおべんきょーでストレス溜めてんだろ? だったら、こう、オネエサンの中でこう、プワァーっ…」 ごん、と虎太郎の頭に星矢の鉄拳突っ込みが入る。 「下品!」 つまりはそういう事だ。 清廉潔白などとは言わないし、冥府に乗り込んだ際に強烈な屁をぶちかました星矢... -
戦闘神話51-5
part.5 星華とすれ違い、エドワードとぶつかりそうになった少女は、 言うまでもないが錬金戦団亜細亜支部所属の戦士・津村斗貴子である。 彼女はこれでも忙しい。 戦闘終結と同時に事後処理に奔走する事になり、 それらがようやく落ち着いた今は、戦闘レポートの作成にかかりっきりだ。 今回の任務は、はっきり言ってしまえば大失態の連続だった。 着任早々に一般人に被害、回収した核金を使用しての治療が無ければ被害者は死んでいた。 本格的にホムンクルスとの戦闘に入ってみれば、その被害者の協力が無ければ失敗し、 挙句の果てには自分自身がホムンクルスになっていたという事実、 幸いにして、被害者にして協力者である武藤カズキの奮闘もあり、 辛うじて一連のホムンクルス事件の主犯格を打倒する事ができたが、 彼女自身が培ってきた矜持を痛く傷つける結果であったことは事... -
戦闘神話49-1
part.3 「…、アドニス?」 「どうかしたのか?瞬」 誰何の声はアステリオンではなく、紫龍だ。 ベルリン国際空港に降りたつや否や、瞬とアステリオンは、 紫龍の待つシュバルツバルトへと文字通り飛ぶようにして向かい、 紫龍たちと合流した。 「いや、アドニスの小宇宙が一瞬消えてまた現れたんだ。 戦闘でもしたみたいだ」 瞬にとって、アドニスは「黄金聖闘士を育てた」というよりは、 「黄金聖闘士の素質のある聖闘士を育てた」といった風に近い。 師・ダイダロスのようにはいかないと、瞬は日々思う。 門弟を多く抱え、来月四人目の聖闘士が彼の元から誕生するが、 まだ、「聖闘士の素質のある人間を育てている」という気がしてならない。 「なんですって?」 瞬の声に色を失ったのは、麒星である。 アドニスは未熟とはい... -
戦闘神話51-4
part.4 act.3 結論から言えば、風間虎太郎ことオリオンの同僚、月闘士リュカオンは星華を守り通している。 しかし、彼の主の秘密裏に行えという命令は全く果たされては居ない。 彼自身の弁を借りるのであれば、それをそうと認識していないので、ばれてはいないと成るのだろうが。 「それじゃ、私これであがります」 星華さん、お疲れ、といった挨拶を受けて彼女は職場を後にする。 児童養護施設・星の子学園。 東京都銀成市にあるカトリック系の児童養護施設であり、星華星矢姉弟もここの出である。 この姉弟の幼馴染であり、今年十七になる美穂は、だいぶ早い時期から手伝いなどしていたが、 このたび本格的に児童介護福祉について学ぶ為に進学を決意し、目下勉強中である。 貴鬼にオシャレが足りないなどといわれちゃいるが、勉強に年下の子供たちの世話と、 今の美穂に... -
とある殺人鬼の物語(後篇)
伝説にして空前絶後の殺人鬼―――<切り裂きジャック>。 その凶刃によって命を奪われた犠牲者は、確実に分かっているだけで五人――― 実際には、二十人近くの娼婦が殺されたとも言われている。 捜査線上には多くの容疑者が浮かび上がったが、その正体は誰も特定出来なかった―――否。 たった一人。 碩学(せきがく)ならぬ身で天才と呼ばれ、当時、唯一<名探偵>と称された男。 常識も桁も外れた洞察力と推理力と情報収集力、そして行動力を備えた超人。 その名を<シャーロック・ホームズ>。 彼に<切り裂きジャック事件>の捜査を依頼すべくベーカー街221Bのアパートを訪れたのは、二人。 まずは、スコットランド・ヤードのレストレイド警部―――そして、彼の帰りを見計らったかのように 現れた、ジュスティーヌと名乗る見目麗しい女性だった。 レストレイドは法と正義と国の平和―――個人的理由として溺愛する... -
戦闘神話 part.9
part.9 「…まてよ!」 「海皇ッ!」 半身を起こしてこちらを睨んでくるピスケス、どうやら先ほど撫でてやったときに脚を痛めたようだ。 口の端から血を零しながらも立ち上がるアリエスの声が、ややくぐもっているのは臓器を痛めたからだろう。 そんな状態でも二人ともまだ声が出せるという事は、すこし加減をし過ぎたか。と思うも、 「希望の闘士、その面目躍如といったところか? 決して諦めないその姿勢は見事だ…」 声音には純粋な歓喜。 海皇は不撓不屈の若き聖闘士に祝福を授けたい気持ちで一杯だった。 打ちのめされても屈しない。諦めない。貴(たか)く尊(たっと)く猛(たけ)き不撓不屈の魂。 それは英雄の資質だ。 「だが、詰みだ。 薔薇の乙女は我が手に落ちるぞ?」 足掻け、全力で足掻いて見せてくれ。 足掻いてもがいて抗って、この海皇に... -
戦闘神話10-2
part.10act2 閃光の鉄拳が驟雨となって海皇へと襲い掛かる。 天馬星座の神聖闘士の代名詞たる流星拳であるが、 その拳速はもはや音の域を遥かに飛び越え、光の域すら超え、神の域に達していた。 光速を越えた光速、神速というべきその領域は、まさしく彼ら神々が独占していた領域だった。 だが、其処へ人間の到達を許した。 所詮人間、たかが人間、人間如き、そう見下した連中が如何にして苦杯を舐めたかは彼の記憶に新しい。 何せ、その連中の一人が他ならぬ彼自身なのだから。 天馬星座の彼は、彼らは、神へ挑み、神から勝利と栄光を簒奪する為に己を練磨し、 ついにはその無謀を現実のものとするに至った。 神聖闘士。 かつて神と巨人とがその生存をかけて合い争ったギガントマキアにおいて、オリンポスの神々が纏い、 巨人とその雌雄を決した鎧にもっとも近づいた神聖衣をまとった... -
完結した短編集
素晴らしい国(キノの旅)(名無しさま) ある昼休み (鬼平さま) 二重の極め (鬼平さま) 無題 43スレ201さま 戦争を愉しむ者 (銀杏丸さま) Will Meet Again (さいさま) 一寸先は (しぇきさま) クロノート (41さま) kazikili Bey (銀杏丸さま) 18禁スーパーロボット大戦H -ポケットの中の戦争-(名無しさま) 強くなるのは、なれるのは(ふら~りさま) 魔法少女リリカルなのは外伝 ~恋は永遠の魔法なの~(VSさま) (掛川宿の噂「作者はVSさまだって!?」- まことであったか!!) 傷跡の記憶(流花さま) ハンバーガーにライ麦を(涼宮ハルヒの正義作者さま) (しぇきさま?) 力の解放 (名無しさま) サナダムシさん復活祈願! →... -
戦闘神話48-2
part.2act2 聖域中枢、教皇の間。 白い顔をさらに青白くしたニコルは、グラード財団からの出向で聖域に入ってもらっている男、 マース・ヒューズと内密の会談をしていた。 元イギリス陸軍諜報部所属、非公式作戦の功績から20代で中佐に昇進したという辣腕(らつわん)の情報将校である。 彼はグラード財団の招きに応じてあっさりと除隊。 愛妻家にして家族主義者である彼は、危険度の高い割りに給料の低い軍に見切りをつけ、 条件の良いグラード財団情報処理部門の特別顧問へと華麗に転職していた。 一児の父にしてよき夫、日本風の言い方をするならば一家の大黒柱。 そんな彼は、何の因果か欧州史上最悪のタブー「聖域」へ出入りする身分となっていた。 情報を制すものが世界を制す。 聖域は持ち前の機動力を生かした情報網を世界各地に張り巡らせている。 ありとあらゆる権力者... -
戦闘神話 part.7
part.7 少女人形の美しい光沢のある黒い翼のなぎ払い、それをアドニスは単純に飛んで避け、 貴鬼は何時もの様に空間転移で避けていた。 「…!?」 そう、驚愕する少女人形の真後ろへと。 ごめんよ、と一声かけると。 「クリスタル・ネット!!」 アリエスの一党の誇る鉄壁の捕獲網が彼女を捕らえていた。 この技は、詰まる所クリスタル・ウォールの応用系である。 クリスタル・ウォール自体、対手との零距離で用いれば 面攻撃の打撃技として通用するという一面を持っている事を鑑みると まさしく蜘蛛の糸の如き束縛を可能としていた。 事実、かつての聖戦でムウが用いた時、対手であった冥闘士・地妖星パピヨンのミューは なす術もなく捕らえられていた。 空間を支配しようと飛び回る相手には、非常に有効な手段なのだ。 「よぉーし、人形のアソコが…」 虎... -
戦闘神話 part.8
part.8 津波が収まると、如何なる奇術か、貴鬼も水銀燈を抱えたアドニスも、ポセイドン同様水の上に立つことができた。 まるで波紋だな、と馬鹿なことを考える余裕は今のアドニスはなく、一挙手一投足はすべて目の前の男、 海皇ポセイドンの対応へと振り分けられていた。 「さて、力ずくと言ってもこのままでは只の弱いもの虐めでしかないね。 私は地下の墓守の如き愚物とは違う」 パチンと指を鳴らすポセイドン、彼の一挙手一投足をけして見逃すまいとアドニスも貴鬼も、そして水銀燈も臨戦態勢だ。 「ハンディキャップマッチ、といこうか」 鳴らした指の音が三人の耳に入ったとき、アドニスと貴鬼の目の前には、見慣れた黄金色の櫃があった。 「黄金…聖衣だと!」 怒りを滲ませた声色でアドニスは叫ぶ。 水銀燈の鞄があった部屋に置いてきた筈の自分たちの聖衣が忽然と... -
戦闘神話51-2
part.4 act.1 聖域情報部の調査結果どおり、錬金戦団自体の歴史は意外と新しい。 錬金戦団のルーツでもある、現在はジュリアン・ソロが総帥を務める錬金術師組合の始まりが 古代にまで遡るのと異なり、錬金戦団は十八世紀中後半、 その錬金術師組合中の急進派十人の錬金術師によって結成されたとされている。 彼ら十人の中の三人は、当時彼らに親和的であった錬金術師組合員の手引きで、 チベット山中で発見された不思議な材質の鎧らしきものの一部を解析し、 賢者の石の第一歩として核金のプロトタイプを作ることに成功する。 この時点で各々の闘争本能に応じて独自の武器となる、自己再生能力がある、 といった核金の骨子は出来上がっていたらしい。 他の七人は、人以上の存在を目ざしホムンクルスの研究に専念し、 核金のプロトタイプの完成と時を同じくして開発に成功する。 ... -
戦闘神話48-1
part.2 聖戦終結から四年目になる聖域は、サガ期以降も含めてだいぶ様相を変えた。 皮肉なことだが。サガが政権を握り、以降自己基盤の磐石化を推進した結果は、内部改革につながっていたのだ。 教皇シオンは、たしかに名君だった。だが、その治世において失策が全く無かったかといえば嘘になる。 結果的に失策となってしまった、という件もあるが、その最たるものが「親族登用主義」だろう。 聖闘士は先天的要素に左右されがちだ。 潜在的に、親族登用主義が跋扈する要因足りえたのだろう。 教皇シオンの最初の妻、カシオペア座・セダイラの妹であり、 杯座・クレーターのメディアとの間に出来た三人の子が全て聖闘士となったことも遠因だろう。 結果的に、聖域出身者のみが重用されるこの体制は、サガが掌握した後々まで続くことになり、 完全に払拭されたのは星矢が聖域入りする直前、魔鈴が聖闘士... -
戦闘神話(銀杏丸さま)44-1
part.10 少々ケレンが強すぎたか、とポセイドンは自省した。 あの場ではああ言って見たものの、その実、身体へのダメージが無かったわけではないのだ。 無論、戦闘不能になってしまうような領域ではなかったし、戦闘続行は可能だが。 本来の状態ならば、おそらく黄金聖闘士といえども鎧袖一触であっただろうし、 テンスセンシズに覚醒していない者の攻撃などまずもって攻撃にはならなかっただろう。 仮定に仮定を重ねても詮無きことであるが、歴代ソロ家の人間の中で、 破格のポテンシャルをもったジュリアン・ソロであったとしても、 過去のアテナとの聖戦によって喪われてしまった己の本来の肉体を思わずにはいられなかった。 いや、神としての力の八割を封じられた現状が痛いのだ。 本来ならば海皇の覚醒によって完成するはずの肉体変化が、四年もの歳月をかけてもまだ不十分であることが、 海皇の悩みの種の一つとなっていた。 海皇は... -
戦闘神話49-2
part3.act2 ライトセーバー独特の脈動音を呻らせながらにじり寄る集団を見て、 アステリオンが誰に言うとでもなく。 「ダンテ、ケルベロスのダンテがな、あの映画大好きでな。 シスの暗黒卿と戦ってみたい、なんて言ってたが…。 まさかそんな日が来るとは思っても見なかった」 なるほど、赤黒く光る刀身はシスの暗黒卿のそれと瓜二つだ。 アステリオンが妙に乗り気なのもそのせいなのだろう。 「すまない、俺は見たことが無い。」 「残念ながら僕も」 偉大な先達二人の応えで、麒星はそれが軽口だと気が付いた。 実戦経験は乏しい麒星だ。ましてや対集団戦闘などは今回は初めてなのだ。 「なんだ、そうだったのか?アドニスは面白がってくれたんだが…。 よかったら今度DVD貸すぞ」 ダンテの供養だと思ってEP3のワー... -
戦闘神話11-1
part.11 エドワード・エルリックが来日したのは、四月も半ばを過ぎ、 五月に程近い頃だった。 彼は預かり知らぬことだが、 カズキがホムンクルス・パピヨンとの壮絶な死闘を演じた翌日である。 ギリシアからの移動中、ジュリアン・ソロの緊急通告により探し物の一つが減った為、 尋ね人への接触が主任務となったのだ。 エドワードとしては焦る気持ちは大きい。 この世界に来て二年目の春だ。 田舎育ちの彼としては、春は晴れやか且つ忙しい季節だという認識がある。 国家錬金術師となって以来、旅先で春の訪れを実感することが多いが、 それでも生まれ育った東部の田舎の風景を仰ぎ見ることは多かった。 同時に、詮無きことだが焦慮の感が強くなる季節でもある。 自分のことはどうでも良い、一時も速く弟を元の身体に、そして自分の体を元に戻す。 そのためだけに軍の狗と... -
WHEN THE MAN COMES ARROUND51-5
《EPISODE13:Will you partake of that last offered cup or disappear into the potter s ground》 ほの暗い部屋の中、二台のモニターに向かう老人がいた。 一台は砂嵐のようなノイズ、もう一台は“SOUND ONLY”という赤文字をそれぞれ映し出している。 どちらも何一つ音声らしきものは発していない。 傍らに立っていた秘書らしきスーツ姿の中年女性はリモコンで二台のモニターの電源を切ると、 老人に話しかけた。 「シャムロックは完全に沈黙。サムナー戦士長もこの分では……」 「構わんさ。彼に任せた任務は改良型ホムンクルスの稼動実験とイスラム原理主義者への武力供給だ。 New Real IRAに関しては二次的なものに過ぎん。サムナー戦士長は立派に務めを果たしてくれた」 ... -
ヴィクティム・レッド 47-6
キース・シルバー。 キースシリーズの次兄であり、戦闘型ARMS『マッドハッター』の適応者。 その両腕から放たれる『ブリューナクの槍』はあらゆる物を焼き払う。 全身をナノマシンで包み、どんな傷もたちまちに修復してしまう。 そしてなにより、キース・シルバーの性格は戦闘に適していた。 飽くなき闘争心はもとより、状況を有利に導くためならどんなものをも切り捨てられる潔さ、 そして無機的なまでに透徹された勝利への執念。 あらゆる観点からしても、彼こそが真の戦闘機械であることは疑いを容れなかった。 そんな強大な相手を目の前にして、 「ふ、ふふ」 レッドは笑っていた。 口の端をきゅう、と吊り上げ、挑戦的な目つきで『マッドハッター』を睨め上げている。 「レッド……このオレと戦うつもりか……!」 「そうだって言ったら?」 それに答え... -
WHEN THE MAN COMES ARROUND 47-3
《EPISODE10:Voices calling and voices crying,some are born and some are dying》 ――ズーロッパ・トレーディング・ファーム・ビルまであと3分程の車中 「見えてきたな……。アレが目標のビルだ」 ハンドルを握るサムナーが顎で指し示す先には、やや古びた六階建てのビルがそびえていた。 窓からは幾つかの明かりが洩れてはいるものの静寂に包まれており、まるでビル全体が眠っているかのようだ。 だが、それとは対照的に車中の五人には、今回の任務のクライマックスに相応しい緊張が張り詰めていた。 戦闘開始の瞬間が刻一刻と迫っている。 防人と千歳の心臓が早鐘のように打たれる。それは使命感か、高揚感か、恐怖感か。 どちらかというと火渡の方が落ち着いているように見えなくもない。 しかし、それも... -
項羽と劉邦 第8話 「日吉の快進撃」
暗い暗い空間に時折光が走って轟音を響かせる。 遠雷が駆け巡っていた。 遠雷は過大の人民を擁してなおあり余る大地をつんざきながらやがて亀裂を刻みこみ、平原 を駆ける牛馬を奈落へと付き落とす。 その原因が二メートルにも満たない三つの光球であるコトを大地は知らなかった。 天も知らず人の多くを制する楚軍すらも知らず。 赤い光球が青と黄色のそれに追いたてられていた。 それまで成層圏で打ち合っていたそれは何かの拍子で地表に戻ったらしく、グンと低空で疾駆 しながら野や砂漠をソニックブームで滅茶苦茶に破壊し終えた後、雄大な黄河の水面に巨大 なさざなみを迸らせながら徐々に距離を詰めていき、やがて赤い光球に青と黄色のそれが接 触。 猛然と速度を上げた。 行く手には山があり、中腹を一塊の光球が貫いた瞬間大爆発を起こした。 現在のゴビ砂漠の誕生である... -
ヴィクティム・レッド 47-1
「死ねよ!」 クリフはそう絶叫し、内なる意思を外界に投射する。 空間はそれに応え、その形を捻じ曲げてレッドへと襲い掛かる。だがその攻撃の先には、もはやレッドの姿はない。 「当たるか、馬鹿が!」 硬質化させたブレードを振るい、正面から切りかかる。それはクリフが反射的に展開させた力場に阻まれ、空中で静止した。 「……なんだよ、その腕は。君は化物なのか?」 「てめえにゃ負けるよ」 言いざま、脚でクリフの首を蹴りつける。意表を付かれたクリフはそれをまともに食らい、地面にもんどり打った。 間髪いれずにもう一発蹴りが飛んでくるが、クリフはその脚ごと念動力で受け止め、弾き飛ばす。 その勢いで壁に叩きつけられたレッドへ向けて、もう一度思念の波が向かう。 そのことを予測していたレッドは即座に飛びのいてそれをかわし、床と壁だけが無残に亀裂を走らせた。 ... -
WHEN THE MAN COMES ARROUND (さいさま)45-2
《EPISODE7:The hairs on your arm will stand up at the terror》 「The same blue sky in a strange new world...Spinning round,turning round,spinning round...」 薄暗がりの中、呟くような不気味な歌声が低く響き渡っている。 それは、60年代に活躍したとされる“とされる”ミュージシャン崩れのテロリストが歌っていた曲だ。 歌声の主はNew Real IRAのリーダー、パトリック・オコーネル。 ギャラクシアン兄弟のアーマー市警察署襲撃、アンデルセン神父の出現、協力者の電話による激昂。 これらの出来事があった、彼にとっての馬鹿げた呪いの日から一夜が明けていた。 協力者からの電話以来、彼は言葉少なに本拠地(ホーム)の防備を固める命令を下し、あとは自室に 引... -
短編SS
60kb以下の短編達です。 【職人さん別 Index】 完結した短編達 サナダムシさま短編集 バキスレにサナダムシさまが投稿された短編の数々です。 連載中の短編 ドラえもん のび太と真夜中のバンパイア(店長さま) 『絶対、大丈夫』(白書さま) 鬼と人のワルツ(鬼平さま) よつばと虎眼流(鬼平さま) 野比のび太(仮} (店長さま) ドラえもん のび太の新説桃太郎伝 (サマサさま) 無題(銀杏丸さま) 狂った世界で(proxyさま) カイジ外伝、やさぐれ獅子番外編(名無しさま) カシオスの冒険(名無しさま) ブルーグラード外伝(名無しさま) ドラゴンボール 恐怖!新たなる敵 DBIF(クリキントンさま) 再会(クリキントンさま) ... -
戦闘神話キャラクター紹介第一回・聖闘士星矢編
アリエスの貴鬼 13歳 教皇シオンの孫。 聖衣修復者兼黄金聖闘士という師の元で聖闘士としての修行を積み、 星矢本編時点で聖闘士の予備役である「アッペンデクス」になっていた これは装着者が死亡した場合、戦力低下を防ぐ為に設けられている措置であり、 他にはジェミニのカノンがこれに該当する。最も、当時の彼はまだ力不足であったが。 聖戦当時は戦闘という点に関しては年相応の面が大きかったが、 四年の歳月が彼を真実の黄金聖闘士へと成長させている。 ピスケスのアドニスとは親友兼ライバル ピスケスのアドニス(オリジナル) 13歳 先代ピスケス・アフロディーテの甥。母ミュラはアフロディーテの姉。 姉弟仲は非常によく、母子共にデスマスクとも面識があったほど。 アフロディーテは彼らを非常に愛していた。 彼はアフロディーテを敬慕していたのだが、 ... -
戦闘神話51-1
act.3 想定外の事態に、紫龍は焦っていた。 一つ、敵の戦闘能力。 青銅レベルでここまでてこずるのならば、今の聖域にとっては十分に脅威たりえる。 多兵に戦術は必要ない。 聖闘士だろうとも、数は暴力たりえるのだ。 平均的な白銀聖闘士にとって、青銅聖闘士一人は脅威足り得ないが、 青銅聖闘士十人ならば戦力的脅威となり、三十人ともなれば敗北は免れない。 聖闘士対聖闘士という事態そのものが万が一以下の稀有な事態なのだが。 現在の聖域は、その白銀聖闘士ですら十名に満たぬ有様なのだ。 最高戦力にして最高幹部である黄金聖闘士にいたっては、経験不足の小僧僅か二名。 紫龍たち神聖闘士たちは最大五名だが、 星矢・一輝・氷河は聖域に常駐している訳ではないので、事実上二名。 第二次大戦以降、聖闘士の総数は減少傾向にあり、サガの乱によって大きくその数を減らしている... -
WHEN THE MAN COMES ARROUND 48-2
「来い!!」 震脚で床を強く踏みしめて迎え撃つ防人。 両腕を広げて殺到するホムンクルス。 防人は充分に重心を落として腰を捻り、ホムンクルスに向かって一撃必倒の力を込めた拳を放った。 その拳はストレートというより正拳突きに近い。ただし、スピードは軽量級ボクサーのジャブさえも 遥かに凌駕する。 しかし―― パァンと乾いた音を立てて顔面に炸裂した突きであったが、ホムンクルスは数瞬、その動きを止めただけで 然したるダメージも負ってはいない。 その証拠に、ホムンクルスは打撃を受ける前とまったく変わらぬ勢いで防人に突進し、 勢いよく両手を振り下ろしてくる。 原因は明白。 「くっ……!」 シルバースキンに覆われて見えないものの、右の太腿に巻かれた包帯には血が滲み出している。 アンデルセンの銃剣に貫かれた傷だ。 その貫通創は強烈な痛みと下肢筋力低... -
DRIFTERS VERSUS ... 第二話
猛暑と疲労と落胆に、流石の土方もそこへ腰を下ろさざるを得なかった。 与一はそれに倣い、呂布もまた異人娘を傍らへ下ろして胡坐を掻く。 彼らをここまで導いた口喧嘩の主であるビリーとウィリアムも、喧嘩に飽きたか疲れたか、それぞれ座り込み、 へたばっていた。 一方、木にもたれて座っていたメンゲレは新たに加わった四人を興味深げに眺めていた。 いや、眺めるというよりも“観察”に近い。四人を一人一人、代わる代わる。 やがて、立ち上がったメンゲレは一行の下に近づいてきた。 異人娘の近くにしゃがみ込み、長と見た土方に話し掛ける。もちろん、母国語であるドイツ語で。 「良かったら私が診よう(Werde ich sie untersuchen)」 土方は慌てた。ドイツ語は当たり前の事、英語すらもわからないのだ。箱館陸軍の頃はフランス軍人もいたが、 会話は日本語か通訳を介してのものだった。... -
WHEN THE MAN COMES ARROUND 51-1
《EPISODE12:When the man comes around》 「ウオオオオオオオオ!!」 防人の咆哮と共に、一撃必倒の威力を誇る拳の弾幕がシャムロックを打ち抜いた。 拳の衝撃がシャムロックのボディで弾ける度に、派手な重い金属音がエントランスホールに響き渡る。 だが、この三種の生物を組み合わせた異形の合成獣(キメラ)は一歩、二歩後ずさりをするだけで ダメージを受けた様子は無い。 現に“蟹”の甲殻にはヒビひとつ入らず、歪みすら見当たらない。 野性を思わせる動きで鋏と“蟷螂”の鎌から成る四本の腕を振るい、“蜘蛛”の糸を尻の辺りから 垂らしている。 そして胸部に浮き出た人間の顔は、相変わらず唇の無い口で眼前に立つ錬金の戦士の名を不気味に 呟くだけである。 「CAPTAIN BRAVO…」 先程からこの繰り返しだ。... -
ヴィクティム・レッド 47-3
「バイオレット、どういうことだ?」 その問いに、キース・バイオレットはまたも珍しく弱気な表情を見せた。 「──クリフ・ギルバートとシルバー兄さんの戦闘は……現在進行形で続行中なの」 それからちらりとセピアとユーゴーに視線をやり、 「クリフ・ギルバートはユーゴー・ギルバートが死んだと思い込んでいるわ。 放送で呼びかけてみてもなんの応答もない。被害ばかりが拡大する一方。 シルバー兄さんはグリーンがこの子たちを助け出したことに気付いているでしょうけど…… 彼にその事実を教えることより、戦いを続けることを選んだのね」 あの人も一度思い込むとこうだから、と、バイオレットは両手で自分の視界を狭めるジェスチャーをしてみせた。 「お陰でカリヨンタワー内は未曾有の大惨事よ。危険レベルが4まで引き上げられて、 シークレットフォース『イプシロン』の投入も真面目に検討... -
ヴィクティム・レッド 49-1
多かれ少なかれ、どこか俗世間とはかけ離れた人間性の持ち主揃いであるキース・シリーズの中でも、 キース・ブラックのそれはバイオレットにとって極めて不可解なものであった。 「妹よ……ドクター・ティリングハーストに『エクスペリメンテーション・グリフォン』の概要を漏らしたそうだな」 「──ええ。その通りです、ブラック兄さん」 どこの組織でも、機密情報の漏洩といえば重大な背信行為であり、それを犯したものには厳重な処罰が下される。 それはその者の組織における地位によって左右されるものではない──それが正しい組織のあり方であり、最高責任者のとるべき態度だ。 「だが私はお前たちの意志を尊重している……このことは不問にしようと思っているのだよ」 しかし、『エグリゴリ』のトップである彼は、そうした常識などまるで意に介さずにこの問題をその一言で片付けてしまった。 (意思を尊... -
女か虎か(電車魚さま) 13:KINSLAYER
笛吹の上司である刑事部長は、記者会見を前にしきりに鏡写りを気にしている。 ネクタイが曲がったといっては直し、吹き出物の痕が気になるといっては擦り、しまいには 部下の女性警察官からファンデーションを借りてパタパタとはたき始めた。 更にその横に座っているのは、同じく笛吹の上司の総監代理。 こちらは逆に、『事件の心労でやつれ切った警察官僚』を装い、記者たちの追及を逃れたいらしい。 同じ女性警察官からアイシャドウを拝借し、目の下に慌ただしくクマを描いている最中だ。 ――まったくどいつもこいつも、自分の目先の利益にしか興味がない。 「笛吹さん、眉間に皺が寄っています」 「分かってる。機嫌が悪いから寄ってるんだ」 捜査一課長である笛吹も、この会見には参加することになっている。 開始まで残り三十分。既に堪忍袋の尾は断裂寸前だ。 「不安に怯える国民... -
WHEN THE MAN COMES ARROUND 49-1
《EPISODE11:Hear the trumpets,hear the pipers,one hundred million angels singing》 走る。ただ走る、走り続ける。飛ぶが如く、飛ぶが如く。 サムナー、火渡、千歳の三名は広い廊下を駆け抜ける。 ここは三つ巴の闘争劇が繰り広げられているビルの四階。 長い廊下の右手には大きめの窓、左手には各部屋へのドアが延々と続いている。 「これ以上の階を中央階段で上るのは危険だ」というサムナーの判断で、三人はフロア内を抜けて 非常階段に向かっていた。 サムナーは再びインヴィジブルサンを透明化させ、今はその饒舌な口を閉じて黙々と走っている。 千歳は、ホムンクルスと戦う為に一階に残った防人の事がずっと気にかかっている。 それは自分でも気づかない、いや気づいてはいるが押し隠している彼への恋心がさせて... -
涼宮ハルヒの正義、SOS団はいつもハルヒのちキョン48-4
ヒロインの悲鳴を聞きつけて、颯爽と現れた自称仮面ライダーこと涼宮ハルヒ。 勿論彼女が変身など出来るはずも無く、学校の制服のままで登場だ。 そして、彼女と闘うのは俺feat.蜘蛛の着ぐるみ。 しかしその正体は、グウにいつの間に改造された本物の怪人である。 当然、本物というだけあって、一般人一人なら簡単に葬れるくらい・・・。 「ぐはっ!!はあはあ・・・、やるわね蜘蛛男!!」 「は~っはっはっは!どうだ、仮面ライダーハルヒ! って、おい!!俺は何もしてないぞ!!」 一体何をやってんだコイツは? いきなり天井裏から出てきたと思ったら、今度は一人で倒れるなんて。 「仕方ないでしょ!アンタがカメラ目線で独り言をずっと言ってんだもん! だからアタシが状況を進めてやったのよ! 全く・・・、キョンみたいな事をするんだから。」 「だから俺はそのキ... -
HAPPINESS IS A WARM GUN 55-3
都内のとある喫茶店、内装はやや地味めで客の入りも盛況という程ではない。 そんな店内の片隅に“彼”は座っていた。 ポケットだらけのミリタリーコートとカーゴパンツに身を包み、頭はバンダナを巻いた上から キャップを目深に被っている。 更にはサングラスのオマケ付きだ。 端的に言えば“怪しい人物”ではある。 テーブルの上にはケーキ、コーヒー、そしてノートパソコン。 彼はもうしばらくの間、コーヒーカップに指を掛けたまま、ノートパソコンの画面に見入っている。 せっかくのコーヒーが冷めるのも厭わせないものとは何であろうか。 その答えは画面に映し出された、陽も暮れ始めた公園で向かい合う“二人の男”にあった。 一人は、黒のスーツが少しホストを思わせる銀髪の男。 たっぷりと腰を落とした半身の姿勢で、左腕はやや前に出してダラリと下げ、右腕は腰の高さに 落ち着け... - @wiki全体から「ロンギヌスの槍 part.5」で調べる