SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ内検索 / 「ヴィクティム・レッド 61-1」で検索した結果
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ヴィクティム・レッド 61-1
──その日、キース・レッドは音の洪水の真っただ中にあった。 名前は知らないがとにかく有名そうな楽団が、名前は知らないがとにかく有名そうな曲を大音響で奏でている。 その楽団を指揮する初老の男性は明らかに巨匠然とした重厚な雰囲気を身にまとい、その楽団が生み出す旋律は明らかに高尚な趣を醸し出していた。 しかしクラシックどころか音楽そのものに興味のないレッドにとっては、その最高に贅沢な(だと思われる)演奏も単なるノイズでしかない。 それどころか、生演奏独特の、なんの調整も施されていない複雑怪奇な音波の反響は、レッドのARMS『グリフォン』の振動能力に干渉して彼に不快感を与えていた。 (……あー、うっせーっつーの。音が欲しけりゃCDでも鳴らしてろよ) 彼の頭上から降り注ぐのは、絢爛豪華を絵に描いたようなシャンデリアの放つ輝き。 カクテルグラスを盆に載せたウェイター... -
ヴィクティム・レッド 61-2
ドクター・ティリングハーストの報せを受けて、ほとんどなにも考えないままにセピアの収容されている 医療セクションへ向かったレッドだったが、今の彼に出来ることなどなにもなかった。 最高の頭脳、最高の技術、最高の設備が惜しみなく投入されたエグリゴリの医療体制に於いては、そこにレッドの介入する余地はまるでない。 レッドがしたことと言えば、集中治療室のドアの前にカカシのように立ち尽くして「手術中」を示す赤ランプを凝視したくらいだった。 無力だった。 強くなりたい。そう願っていたはずだったし、強くなろうとしていたはずだったし、少しずつでも強くなっていたはずだった。 だが、そんなものはまるで無意味だった。 どれだけ人を殺し、どれだけの強敵を撃破してもなお、こうして自分がどれだけちっぽけな人間なのかを思い知らされる。 自分のしてきたことのすべてがすべて空回り... -
ヴィクティム・レッド 54-1
いつの頃からか、キース・レッドの心の中ではある『少女』の囁きが聞こえていた。 その声はリフレインする──『憎い』、と。 ただその言葉だけを何度も何度も何度も繰り返し、レッドの意識の隅々までに染み渡らせていた。 その憎しみがどこに向けられたものなのか、レッドは知らない。 少女の声に聞き覚えがあるような気もするし、もしかしたらそれはまったくの気のせいのような気もする。 そんな茫漠の囁きに、レッドはあらゆる物の面影を重ねるのだ。 それは時として自分の兄弟だったり、任務上の敵だったり、或いは自分自身だったりもする。 名も知らぬ──本当に存在するかも疑わしい声に耳を傾け、己の目の前にあるものと重ね合わせるとき、 レッドの両腕に移植されたナノマシン兵器『グリフォン』は常識を超えた機能を発現させる。 その経験の反復を経て、レッドは漠然と理解していた。... -
ヴィクティム・レッド 48-1
キース・バイオレットの予想に反して、寝台の上のセピアは元気そうだった。 あくまで予想に反して、というレベルの話ではあるが。 セピアの収容されている個人病室の、過剰に豪奢な装飾はバイオレットの趣味だ。 同じく彼女の趣味のコレクションであるマイセンのティーカップに深紅色の液体を二人分注ぎながら、呟くように言う。 「急に倒れたと聞いたから驚いたわ」 「ごめんなさい……お姉さま」 「『お姉さま』はやめなさいと言うのに」 「でも、お姉さまはお姉さまですから」 ぎこちない笑みを浮かべるセピアの顔は蒼ざめていた。 その細腕には点滴のチューブが二本接続されている。鎖骨の辺りにさらに一本。 管を通して彼女の身体に注がれる薬液の名を、バイオレットは知らない。 カップを載せたソーサーを一つセピアに差出し、もう一つを自分に引き寄せる。 一口だけすす... -
ヴィクティム・レッド 53-1
ニューヨーク・マンハッタン島──カリヨンタワー。 その情報管理セクションの一室で、ひっそりと端末を操作するハイティーンの少女がいた。 照明の消された室内、ディスプレイの発する光だけが彼女の頬を青白く照らしている。 ふと、キーボードを叩く手を休め、傍らに置かれたティーカップに口をつける。 「……やはり、エグリゴリのデータバンクが外部からの侵入を受けた形跡はないか。 ESP能力者を殺して回っている『犯人』は……エグリゴリ内部の者ということかしら」 少女──バイオレットは誰に言うでもなく、その推論を口に上らせた。 やがて疲れたように首を振り、瞳を閉じて椅子の背もたれに体重を預ける。 掌で包み込むようにカップを持ち、その熱に浸る。 「わたしは……わたしたちは、いったいなにをやっているのだろうな……」 ある一つの目的のために、世界中のすべてを巻... -
ヴィクティム・レッド 58-1
二人で暗い道を歩いた。 切れ切れに瞬く電灯に頼りなく照らされて、風の吹くほうへ。 レッドもセピアも互いに言葉を交わさず、ただ前を目指して。 歩幅の広いレッドがときおりセピアより先に行ってしまうこともあったが、そういうときは足を止めて彼女を待った。 急かすような素振りは少しもなく、セピアが追い付くまでその場で静かに佇んでいた。 そして、また歩きだす。 それはまったくのんびりした歩調で、もしかしたら遠足かなにかに赴いてるようにも見える。 遠足――。 或いは本当に、それそのものなのかも知れない。 ニューヨークの地下トンネルの無人の道の、施設された線路の上を歩く。 日々の喧騒から遠く、世界から切り離された、孤独な、ゆえに自由な空間がそこにあった。 地上のいかなる悩みも、苦しみも、苛立ちも、今の二人の間には微塵も存在していない... -
ヴィクティム・レッド 47-1
「死ねよ!」 クリフはそう絶叫し、内なる意思を外界に投射する。 空間はそれに応え、その形を捻じ曲げてレッドへと襲い掛かる。だがその攻撃の先には、もはやレッドの姿はない。 「当たるか、馬鹿が!」 硬質化させたブレードを振るい、正面から切りかかる。それはクリフが反射的に展開させた力場に阻まれ、空中で静止した。 「……なんだよ、その腕は。君は化物なのか?」 「てめえにゃ負けるよ」 言いざま、脚でクリフの首を蹴りつける。意表を付かれたクリフはそれをまともに食らい、地面にもんどり打った。 間髪いれずにもう一発蹴りが飛んでくるが、クリフはその脚ごと念動力で受け止め、弾き飛ばす。 その勢いで壁に叩きつけられたレッドへ向けて、もう一度思念の波が向かう。 そのことを予測していたレッドは即座に飛びのいてそれをかわし、床と壁だけが無残に亀裂を走らせた。 ... -
ヴィクティム・レッド 46-1
どこか釈然としない気持ちで、ドクター・ティリングハーストの待つ医務室へ戻ったレッドだったが、 「なんだよ、いねえじゃねーか」 もぬけの空となっていた部屋のデスクに一枚の紙片を見つける。 それはレッドへと宛てられたもので、文末にはドクターのサインが記されてあった。 『急な用事のため、わしは戻らなくてはならない。簡潔ながら、先のクエスチョンに対するヒントを与えておく』 一瞬なんのことか分からず首をひねるが、すぐに思い当たった。 キース・セピアのARMS『モックタートル』についてレッドが見解を述べたところ、ドクターはそれを「半分の答」と評した。 そのレッドのアンサーには欠けていた、もう半分の答について、ここで触れているのだろう。 「つーか、ヒントってことは素直に教える気はねえのかよ」 などと文句を垂れながら、レッドはメモを読み進める。その先はたっ... -
ヴィクティム・レッド 55-1
かつて、海の向こうからやってきた白人の山師が、およそ24$という馬鹿みたいな安値でネイティブアメリカンから買い取った土地――マンハッタン島。 白人どもは途方もない努力と犠牲を払い、その24$相当の荒野に血と汗とフロンティア精神による煉瓦を積み上げた。 そして――やがてそれは、世界を支配する史上類を見ない巨大な帝国の本拠地となり、ありとあらゆる社会的ダイナミズムの中枢となる。 その価値と、そこに至るまでの年月は、そもそもの土地の対価である24$を年七分複利で回した場合に匹敵すると言われている。 たゆまぬ向上心と狂気じみた熱意と、不寛容な正義と洗練された拝金主義、他人が流す血への思いやりと侵略行為に対するにこやかな熱心さ、 どこまでも純粋な使命感と常に人柱を求める残酷さ、世界の心臓たらんとする集団ヒステリーじみたメサイア・コンプレックス―― そうした諸々の自... -
ヴィクティム・レッド 49-1
多かれ少なかれ、どこか俗世間とはかけ離れた人間性の持ち主揃いであるキース・シリーズの中でも、 キース・ブラックのそれはバイオレットにとって極めて不可解なものであった。 「妹よ……ドクター・ティリングハーストに『エクスペリメンテーション・グリフォン』の概要を漏らしたそうだな」 「──ええ。その通りです、ブラック兄さん」 どこの組織でも、機密情報の漏洩といえば重大な背信行為であり、それを犯したものには厳重な処罰が下される。 それはその者の組織における地位によって左右されるものではない──それが正しい組織のあり方であり、最高責任者のとるべき態度だ。 「だが私はお前たちの意志を尊重している……このことは不問にしようと思っているのだよ」 しかし、『エグリゴリ』のトップである彼は、そうした常識などまるで意に介さずにこの問題をその一言で片付けてしまった。 (意思を尊... -
ヴィクティム・レッド 45-1
「いいえ、あの人はみんなが思っているような傲慢な人でもなければ、 死と破壊に取り付かれたような怪物でもありません。 ただ、ちょっと怒りっぽくて、世界のあり方と自分の違いに苦しんで、でもそれをなんとかしようとしている。 ──そんな、どこにでもいるような男の子です。わたしの、大切なお兄ちゃんです」 横浜──。 日本でも有数の港町であり、世界でも有数の中華街、その街並みを一人の少年が歩いていた。 真夏だというのに長袖のシャツを着込んでいるが、暑そうに感じている様子はない。 かといって涼しそうな顔をしているわけでもなく、ただ暑さも寒さもどうでもいい、そんな風情だった。 「あ、ねえねえ、あの子可愛くない? 外国人?」 「モデルとかじゃない?」 そんな声が少年の耳に聞こえてきた。それが自分を指していることは、周囲から発せられる視線と 気配でなんとなく知れた。 (……くだらねえ。なにをじろ... -
永遠の扉 第064話
話は、八月二十七日の夜──屋上で空を見上げて泣くまひろを秋水が見た頃──に遡る。 銀成学園の職員室で鐶は生徒手帳を広げ、沙織の写真と、それそっくりの顔を並べていた。 「……似てますか?」 「カッコは似てるけどさ、そのタルい話しかたは何とかならんワケ?」 「やっぱり? 私このコの喋ってるとこを無銘くんの忍法で見たけど、すぐ覚えるの無理みたい」 「……うーんとさ。うまいかもしれんけど、キャラかわりすぎじゃん」 突然の豹変に香美は鼻の頭にシワさえ寄せて困惑した。 「はぁ……でも……まだ定着しないというか……友達の呼び方を間違えてバレそうな……」 『ふはは!! その不備を補うべく僕たちはココにいる!! まぁ僕は人間関係について努力 しようとして挫折したクチだが!!』 「ところでさひかりふくちょー。あたしのマネとかできる?」 沙織に扮した鐶の口が明... -
メニュー2
更新履歴 10/15/08 保管した本スレが表示されない不具合復旧 とはいえ、原因は不明、なんでしょうね? 10/10/08 トップページのみ。 ごめんなさい忙しくて、全然更新できないです。 不景気いくない。 スターダストさん、ふらーりさん、ありがとうございます。 スレ保管のトラブルの方は現在問い合わせ中。 もう少しお待ちください。 07/11/08 57-172まで。 NBさんの今回の更新が、このWikiの通産666ページ目でした。 さすが不吉を呼ぶブラックキャット 0619/08 トップ頁の現行スレのとこだけ更新。 とりあえず帰ってきました。 スレに書き込めなかったのでこちらで。 スパムフィルタで書き込めないとのことだったので調べてみたら、新たにスパムフィルタが導入されたようです。 とりあえず認証だけに設定して様子見です。 ... -
「無題46-1」(銀杏丸さま)
ふと気が付くと、そこは別の世界だった。 よく物語なんかじゃある話だが、自分がこういう目にあうとは全く持って予想の外だ。 「な…。 なんなんだ、いったい!?!?」 星矢はそう叫んだ。 右手にはシルクハット、左手には白いマスク。 自分の身を包むのは歴戦の相棒・天馬星座の聖衣ではなく、 なんとタキシードにマントという妙な格好。 これが学ランに木刀ならまだ分かるのだが…。 「星矢!事は緊急を要するのです」 しばらく似合わぬ黙考などしていた星矢の目の前に、 ぬぅっという擬音付きで我らがアテナ・城戸沙織が現れた。 「真面目な事を言っても、その格好じゃ説得力ないよ、沙織さん…」 みれば黒猫を模しているのだろうか? アテナこと城戸沙織はからだのラインがぴっちりと出るボディスーツに、 猫耳・猫尻尾までつけた格好で星矢の目の前に現れた。 何故か額... -
WHEN THE MAN COMES ARROUND (さいさま)45-2
《EPISODE7:The hairs on your arm will stand up at the terror》 「The same blue sky in a strange new world...Spinning round,turning round,spinning round...」 薄暗がりの中、呟くような不気味な歌声が低く響き渡っている。 それは、60年代に活躍したとされる“とされる”ミュージシャン崩れのテロリストが歌っていた曲だ。 歌声の主はNew Real IRAのリーダー、パトリック・オコーネル。 ギャラクシアン兄弟のアーマー市警察署襲撃、アンデルセン神父の出現、協力者の電話による激昂。 これらの出来事があった、彼にとっての馬鹿げた呪いの日から一夜が明けていた。 協力者からの電話以来、彼は言葉少なに本拠地(ホーム)の防備を固める命令を下し、あとは自室に 引... - @wiki全体から「ヴィクティム・レッド 61-1」で調べる