SS暫定まとめwiki~みんなでSSを作ろうぜ~バキスレ内検索 / 「過去編 第003話 (1-5)」で検索した結果
-
永遠の扉 過去編
【過去編 ──接続章── 】 「”代数学の浮かす” ~法衣の女・羸砲ヌヌ行の場合~」 1 2-1 2-2 3-1 3-2 3-3 4 5 ──接続章── 「”過去は過去でなく輪廻して今”~音楽隊副長・鐶光の場合~」 1 【過去編第001話 「動き始めていた時間の真ん中で(前編)」】(1-1) (1-2) 【過去編第002話 「動き始めていた時間の真ん中で(中編)」】(1-1) (1-2) (1-3) (1-4) (1-5) 【過去編第003話 「動き始めていた時間の真ん中で(後編)」】(1-1) (1-2) (1-3) (1-4) (1-5) (1-6) (1-7) (1-8) (1-9) 【過去編第004話 「探した答えは変わり続けていく」】(1-1) (1-2) (1-3) (1-4) (1-5) (1-6) (1-7) ... -
過去編 第003話 (1-5)
手を振りかざした戦士の足もとで地面が割れた。 割れた、というより罅(ヒビ)が入った。例えば鋭利なスコップを突き刺したよう……転瞬なり響く轟音の中、衝撃波が玉 城の両隣を通りすぎる。総ては一瞬。注視していた筈の玉城でさえ一瞬なにが起きたか分からない。 濛々たる土埃の中で振り返る。丸太の山がはじけ飛び質素な山小屋は倒壊中。ほぼ中央が大きくえぐれ木片や石くれが 舞い飛ぶ真っ最中。しかし玉城の心を決定的に砕いたのはその破壊力ではなく 「チワワさん……!? 無銘を飛ばした辺りがすでに巨大な地割れに見舞われているからだ。 幅およそ3メートルのそれが幾筋も幾筋も地平へ向かっているのを認めた瞬間、ただでさえ虚ろな玉城はみるみると血色 を失った。長大で凶悪な裂け目が4つ、広場を侵食している。むしろ罅(ひび)割れの中にたまたま切り立った地面が3つ残っ ているとさえ... -
過去編 第003話 (1-6)
姉への罪の意識は口実だ。 本音は別の部分にある。 本当はただ死んで楽になりたいだけだろう? 彼は厳しい声を上げながら執拗に迫ってくる。 「姉が好きだと!? 笑わせるな! 本当に好きであれば客死によって再会を諦めるような所業などは絶対にせん! 少な くても我は違う! 師父と母上の元に戻るためならば臓物を引き摺ってでも前に進んでみせる!」 「それは──…」 「いまの貴様はかき消される叫び声の中で立ち尽くし後悔だけ抱えているに過ぎん! 姉へ悔い姉を恐れ、いま以上の傷 を浴びぬよう浴びぬよう隷属しているだけだ!」 無銘は、咆哮した。 「だが分かっているのか! いまここで貴様が贖罪気分で死のうが、姉は決してその態度を変えないのだぞ!」 息を呑む。寒気がした。すっかり乾いた筈の背筋がまた潤い出した。 「むしろその態度を世界に認められたとさえ思... -
過去編 第003話 (1-7)
「鳥型だと……!」 鋭い声がかかった。鉤爪は見た。森から広場へ躍り込んでくる影を。ひどくがっちりとした大柄の男だ。彼はぎょろりとし た三白眼の下で鋭い犬歯も露に吠えている。待て。勝負しろ。ありきたりの制止をひっきりなしに上げている彼はいうまで もなく先ほど総角に昏倒させられた戦士──… 剣持真希士。 「やはり遭遇していたか。怪我は?」 巨体に見合わぬ軽捷さで奈落を飛び越えてきた真希士、屈託ない笑みを浮かべた。 「ダイジョーブ! タンコブできたけどオレ様まだまだ戦える!」 なるほど言葉どおり後頭部にはひどく戯画的な瘤がある。それを彼は『三本目の腕』でさすってもいる。無駄な使い方を… …鉤爪の口から嘆息が漏れた。 (西洋大剣(ツヴァイハンダー)の武装錬金、アンシャッター・ブラザーフッド。本来その三本目の腕は剣を持ち替え相手の 虚を突くためのものだろうに) ... -
過去編 第003話 (1-9)
着のみ着のまま家を出た青空は、まずありったけの貯金を下ろし、都内のカプセルホテルを転々とした。 ライブ用に服も用立てた。チェック柄のロングスカートを履き、黒いボウタイブラウスの上にスタンドカラーのブルゾンを身 につけた。そしてチョーカーとブラウンのブーツも装備。 会計を終えてからさも「買った物をご賞味ください」とばかり入口に備え付けられている鏡の前でクルリと回りガッツポーズ。 「よし!」。どこも変じゃない。きっとオシャレ。 特にロングスカートについては青空会心のチョイスだった。ダークブラウンとカーキグレーのチェック模様を遮るようにパ ッチワークされたレース編みニットとトーションレースと花柄のコーデュロイはとても可愛かった。ドレープがなみなみと寄っ てギザギザとした裾のラインを描いているのも最高にいい。まるで自分に買われるため生まれたような気がして思わ... -
過去編 第003話 (1-8)
数十分後。森の一角は異様な変貌を遂げていた。 何もかもが、凍りついていた。葉の燃えカスも炭となるまでコンガリ焼かれた木も全て氷に包まれていた。 「忍法薄氷! 炎自体の直撃をもりもりさんと貴信どののW鎖分銅で咄嗟にいなした直後、無銘くんの自動人形で辺り一 面構わず凍らせ消火したのであります! 見まわったところ延焼の心配もございませぬ!」 説明御苦労。そういいつつ総角は前髪をくしゃりとかきあげた。 「……フ。どうやらあのポテトマッシャーは『普通』の物。武装錬金ではないらしい」 「ゆえにホムンクルスの不肖たちを斃すコトあたわず。結構な爆圧こそ浴びましたが、致命傷とはなりませぬ。……ですが」 「があぁ! せっかく見つけたのに目くらましされたら追えんじゃん! やっぱあの人形おらんし!」 「恐らくあの人形は武装錬金。我の兵馬俑と同じ自動人形。爆発で我たちの眼を晦まし... -
永遠の扉 過去編 第002話 (1-5)
(…………身内との確執、か。慕う者に虐げられるとは、哀れな) そう憐みながらも「もし自分が小札や総角に見捨てられ、人型になれぬコトを誹られたらどうするか」を考え、胸をチクリと 痛ませる無銘はいかにも少年臭い。彼は自分の勝手な想像に怯えた。親のように慕う彼らの役に立てるなら不惜身命の 心構えでいかなる痛苦も避けないが、見捨てられるコトだけは恐怖だった。 (だが!) つぶらな瞳に怒気を孕んだ光が燃え盛るのを無銘は止めようがなかった。 (こやつの姉はこやつを見捨てたも同然! 5倍速で年を取るだと! フザけるな! 不死のホムンクルスが年老いていく というのなら先に待ちうけるのは果てしのない地獄! 20年もすれば死ねぬだけの老体を引きずりまわすだけの存在に 成り下がる! なぜよりにもよって身内をそうしたのだ!!) 無銘は改めて玉城を見る。まだまだランドセルが似合う幼い姿... -
永遠の扉 過去編 第003話 (1-4)
必死の思いでヒビだらけの核鉄に手を伸ばす。兵馬俑。発動したところで玉城にやられた傷のせいでまともには戦えない だろう。だが総角たちが来るまでの時間稼ぎぐらいはできる。 そう思い伸ばした右前脚の先で核鉄が爆ぜた。 吸息かまいたちなる忍法を知悉している無銘は理解した。真空の奔流。カマイタチ。それが核鉄の表面に炸裂して、弾 き飛ばしたのを。 哀れひゅらひゅらと旋回しながら丸太の向こうへ飛ばされる核鉄。小型犬は首を旋回、戦士に向けるは煮えたぎる眼差し。 相手は右腕を鉤手甲ごと前に突き出している。何らかの衝撃波で核鉄を吹き飛ばした。唯一の武器の発動を、封じた。一拍 遅れて玉城の腹部が大きく裂け、錆びた臭い──血とはやや違う匂いに無銘は迸る液体が血液を模した擬態用だと初めて 気付いた──が立ち込める中。 「貴様!」 「大丈夫……大丈夫……です」 顔を... -
永遠の扉 過去編 第003話 (1-1)
そのマンション襲撃の後始末は他の戦士長の管轄だったから筋からいえば別に防人衛が心痛を覚える必要はなかった のだけれど、例えば誰かが事後処理の進捗具合──といっても手がかりのなさを再確認するだけの空虚なやりとり──を 囁きあっているのを聞くだけでもう覆面の奥が蒼い哀惜で、だからだから剣持真希士は当惑した。 「燻ってんのさ。奴はずっと」 橙色の光輝のなか面白くなさそうに呟いたのは火渡赤馬。何かの任務で珍しく同じ班になった彼がこれまた珍しくかつて の同輩評をさほど親しくもない真希士に漏らしたのは、会話の端緒が、この時まだ新人(ルーキー)に毛が生えた程度の 後輩への文句づけだったからで、それはやがて師匠筋の防人へのダメ出しにスライドした。 「燻ってんのさ。奴はずっと」 とはつまり日頃抱えているかつての朋輩への他愛もない不満の表れなのだろう。 「... -
永遠の扉 過去編 第003話 (1-3)
「終わり……です」 無銘は地面めがけ放り捨てられた。その損害状況を玉城はただ観察した。 チワワの尾は根元から千切れている。左後ろ脚もまた紙一重で繋がっている様子だ。両の前脚もあちこちが歪み、その 傍で吐瀉物が点々と水溜まっている。もはや彼は余喘も露わ。うずくまりか細くか細く震えるその姿はもはやあと一撃で絶 息する他ない残酷な事実を雄弁に物語っている。 「でも……しません。…………勝とうと思えば勝てたのに……私を気にして……話を聞いてくれたのは……嬉しかった…… です……だから……とどめは……さしたく……ありません。……さよなら、です」 後はあの金髪剣士たちを倒すだけ──…真っ白な踵が湿った土の上で方向転換をしようとした時、それは起こった。 この場を離れるべく身を反転しようとした玉城はまず、奇妙な引っかかりを覚えた。引っかかり。それは流転する戦闘局 面を制する... -
永遠の扉 過去編 第003話 (1-2)
こんがりと焦げ目のついたおいしそうなステーキが端っこの方からゆっくりと切り分けられていく。湯気が立ち、おいしそう な匂いが玉城の鼻孔をくすぐった。できたてホヤホヤ。食卓にのぼって間もない小判型のステーキ皿の上でじゅわじゅわ 溶けるバター。黄色く透き通ったジャガイモの破片。青々としたパセリ。普段なら食欲を掻き立てるそれらを前に玉城は ただ欝蒼とした表情を浮かべていた。 「どうしたの光ちゃん?」 ステーキ──病的なまでの均等さで切り分けたうちの1つ──を笑顔で口に放り込んだ青空はにこやかに聞き返した。 悪寒が走る。身が竦む。息を呑んだ口がもごもごと不明瞭な言語ばかりを呑みこんでいく。姉の手からこぼれ落ちた銀 の刃が黒皿と打ち合って凄まじい音を立てた。全身がさざめく。恐怖。覚えるのはそれしかなかった。姉がこっちを見てい る。見つめている。笑顔のままで微動だにせず、じっと見つ... -
過去編第004話 1-5
「あ。ねー」 雑踏の中、駆け寄ってくる光の顔はぱあっと輝いていた。それまで彼女は、自宅とはまったく反対方向、6kmは離れた隣 の市の繁華街を1人で歩いていた。心細かったのだろう、青空めがけトテトテ駆け寄ってくる。 空はとっくに暗く、ネオンと街灯が混じったけばけばしい光の中を仕事帰りのサラリーマンたちが賑々しく歩いている。それ らの影が交差する石畳からは街頭時計も生えている。目下その「6」「7」間で長いのと短いのが間でデッドヒートを繰り広げ ている。幼稚園児がうろついていい時間ではない……そう思いながら青空は聞く。 「で、今日はどうして迷ったの? よっこらせと抱き上げた光はしばらく目を白黒させてから「プラモがおれん」とだけ答えた。 「そう。いつも行っているおもちゃ屋さんに欲しいプラモがなかったのね」 「ほうじゃけん。ほかのお店行ことしたらいなげなトコに……」 ... -
永遠の扉 過去編 第001話 (1-1)
玉城青空(たまき あおぞら)の声帯は生後11か月にしてその機能の大半を奪われた。 母親のせいである。彼女は新婚生活に夢のみを描いている若い女性にありがちな育児ノイローゼを発症し、いまだ座らぬ ──11か月にして、まだ。発育不良によって将来を悲観させるには十分な──青空の首を発作的に絞めた。 治るはず、締まるはず、みんなのように座るはず……時に人は攻撃の暴発をもたらしたありとあらゆる悪感情を行為ごと その中で無自覚に弁護し、整合性を取りたがるらしい。少なくても青空の母親はそうであった。我が子の首にかけた十指 におぞましい力を込めながら「治るはず、締まるはず、みんなのように座るはず」と頑なに信じていた。我が子がむせ、チア ノーゼをきたし非定型的縊死への道を緩やかに歩んでいるのを見てもなお、たとえば首ヘルニアへ牽引を用いるような加療 意識によって我が子の首を絞めていた。それが... -
永遠の扉 過去編 第002話 (1-1)
妹の誕生によって玉城青空が最初に被った被害はインフルエンザだった。 小学校卒業を控えた冬、生後間もない妹──玉城光──が原因不明の高熱で入院した。義母は泊まり込みで看病し、 多忙な実父は会社から病院に直行し、家で少し寝てからまた出勤という生活をするようになった。 青空は、結果からいえば放置された。 「もうすぐお姉ちゃんになるんだし自分のコトは自分でやってね」 とは病院へ行く義母が放った伊予弁の翻訳結果だが、青空自身は心から素直に従うコトにした。もし病気が長引いて、 妹のノドがつぶれ自分のようになっては大変だと思ったのだ。もともと自立的で、周りに迷惑を掛けたがらない──言いか えれば他人に頼れない──性格である。誰も待っていない暗い自宅の鍵を開ける日々を受け入れた。(この頃祖父母は 4人とも死没していた) だがある朝起きると、ぞっと寒気に覆われるのを感じ... -
永遠の扉 第090話 ~ 第099話
第080話 ~ 第089話 第090話 「まひろと秋水、悩む」 第091話 「剛太と桜花、残党に挑む」 (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) 第092話 「斗貴子が防人に報告。そして影、遂に過去より来(きた)る!」 第093話 「パピヨンvsヴィクトリア&音楽隊の帰還」前編 (1) (2) (3) (4) 第094話 「パピヨンvsヴィクトリア&音楽隊の帰還」後編 (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) 第095話 「演劇をしよう!! (前編)」 (1) (2) (3) (4) (5) (6) (7) (8) (9) (10) (11) (12-1) (12-2) (13-1) (13-2) (14) (15) (16-1)(16-2) (17... -
永遠の扉 過去編 第002話 (1-4)
齟齬の形は三角形のよう……玉城光はそう思う。緩やかな勾配が突然途切れる直角三角形。衝撃の中、肺腑から 全ての空気を絞り出しながら玉城はゆっくりと振り向いた。這いつくばった姿勢のまま、首だけを、ようやく。そして見た。直 角三角形の石を。走ってる最中それに足を取られた。だから速度が制御不能の浮遊感になった。直角三角形の勾配を全 力で登ってる最中不意に出てきた直角の断崖をどうする事も出来ずただただ加速の赴くまま身を投げるように。そして頭か ら地面に突っ込んだ。無防備に叩きつけられ、肺腑は全体重と堅い大地のサンドイッチになって酸素も窒素も一切合切吐 きつくした。真空状態の肺は端と端の内壁が癒着しているようだった。息を吸おうにも肺は縮こまったまま動かない。だが 皮肉にもその窒息の苦しさが何分かぶりの正常意識を取り戻した。 件のアリス。完全な直撃を避けなければ転んでもなお悪夢に... -
永遠の扉 過去編 第002話 (1-2)
青空の肢体がすくすくと伸び第二次性徴を遂げ始めた頃、周囲の男性の目はそれまでの人形を眺めるような憧憬をや め、より具体的な、若者らしい獣性の光を湛えはじめた。 原因は青空自身をも悩ます肉体の変質である。乳児期の発育不良の反動だろうか。例えば胸部などは13歳の頃すでに 元モデルの義母と並び、高校時代になってもなお成長をやめなかった。 にも関わらず胴は悩ましくくびれ、臀部もまた豊かな隆起を描く。 青空は自分の身体をどうすればいいか深刻に悩んだ。美しさを誇り、男性諸氏に売り込むという選択肢はなかった。 服飾に関しては声質上ひかえめな性格の青空であるから、年頃になってもセーターにジーパンというそっけない物を好んで いた。が、身体の発育はむしろ質素をして淫靡たらしめているらしく、周囲の男性の目は否応なしに注がれた。 更に170センチという長身も相まって、街頭でモデルにスカ... -
永遠の扉 過去編 第001話 (1-2)
蒼い碧い天蓋を滑らかに突っ切る影一つ。 鳥が一羽、空を飛ぶ。 その鳥はまるで航空機のような直線的な意匠に彩られていた。翼も爪も嘴も全て図面から抜け出てきたと見まごうばかり に角張り、金属的で無機質な光沢を黙々と放っていた。 翼をモノクロなツートンに塗り分け白いマフラーから赤黒い首をぼんやりとむき出している姿はコンドルにやや似ていたが 前述の通り”そのもの”ではなく、誰かが機械的にしつらえたような雰囲気を無愛想に振りまいていた。 ただ一つ生物らしさがあるとすれば、胴体にかけている白いポシェットであろうか。強風に煽られるたび、それを見るコン ドルの瞳に生命らしい機微が宿った。風にさらわれるのを危惧しているのかも知れない。 そうして大空を滑空していたコンドルのような物体は一度大きく翼をうねらせると、下方に向かって猛然と疾駆した... -
永遠の扉 過去編 第002話 (1-3)
長い金髪は白霧の中でいっそう際立つ。玉城光はその10メートル先からくる強烈な色彩感覚を浴びながら、口を開く。 淡々と、淡々と。 「無効化……した筈です。あの光は……確かに……切り札」 「ああ。絶縁破壊。小札の奥の手だ。まともに喰らえば確実に行動不能」 「さっきは土壇場……でした。だから……一番強い技を……出すと…………思ってました……。だから…………利用…… しました。爆発でも……拘束……でも……一番強い技なら……あなたにも……効くと……。ハヤブサの急降下さえ…… 致命傷にならなかった……あなたにでも…………効くと……」 ほう、と感嘆した男は緩やかに貴信と兵馬俑を手放した。重力の赴くまま地面にぐなりと伏した彼らを見る瞳は妙に暖かく 玉城は軽く首を傾げた。 「フ。それをあの一瞬で見抜き、この俺にブツけたのは見事としかいいようがない。なにしろ俺さえ封じれば実... -
過去編第004話 1-6
(口に入れたのは1個です。あれも1個分。だから飲み干したのはフェイク……。わざと隙を作って攻めさせようとか、この 上なく性格悪いです) べっと吐き散らかされた白い粘塊はあたかも唾棄すべき嘘だらけとばかり供述書をねっとり汚した。 「毀損を承知でいわせてもらおうか。ヌシは義妹を逃がした。もちろん義妹自身その自覚はないよ。ただ迷って、帰れなくなっ た。そう思っておるだけじゃ。だがヌシは違うな? 方向音痴である事を承知の上で世に放った。不手際に見せかけて放逐 した……当たらずとも遠からずというところじゃろう」 『ただの不手際です。私の』 「じゃあどうしてヌシの自動人形は火薬の匂いがしとるのじゃあ?」 低い鼻がスンスンと動き始めた瞬間、青空は微かに体を震わせた。いつの間にか豊かな肢体すれすれに幼い高齢者が まとわりつきしきりに自動人形を嗅いでいる。静観していたクライマックスさえ... -
過去編第004話 1-1
「さてあれから20kmは駆けた不肖たち一行であります! 鐶どのの背中に乗りますればあっと言う間に移動は可能! さ れど副リーダー就任直後の任務がそれではしまりませぬ! よって不肖たちは走ってあの場を移動したのであります!」 ロッド代わりのマシンガンシャッフルを片手に小札は景気よく吠えていた。 「そもどうして移動をしたかといいますれば、先ほど鐶どののポシェットに潜んでいた愛らしき自動人形のせいであります! 自動人形は創造主と感覚を共有致しまするゆえ、不肖たちの所在は少なくても鐶どののお姉さんには筒抜けなのです! もしそれがあの方属する『組織』へ流されますれば大ピンチ! 9年前より不肖たちは追われる立場! 栴檀どのお2人の ように幹部級より逆恨みを買う片とているのですっ! よって大兵力を差し向けられる恐れアリ!」 ゆえに退避しました。などと捲し立てるお下... -
過去編第004話 1-3
仮にもマレフィックな以上、もっとこう強力な特性だとしても不思議じゃ──…) インラインスタンスに似た相手を威嚇する構えの青空。その腕に彼女そっくりの自動人形がぴょこりと乗った。 (モニター! さっき消したモニター! あれでリバースちゃんの様子見なきゃ、この上なくマズいです!) ダイアルやレバーやスイッチを乱雑に押しまくった甲斐あって、砂嵐まみれの画面は視界を回復した。 その中では、ちょうど。 青空に似た人形が銃口にブラ下がるところだった。 どうやらその人形の頭頂部から延びる毛は、ストラップよろしく楕円の輪へ変じるらしい。 それが、銃口に掛った。 (初めて見る形態です! まさか! まさか『特性』はあの形態から──!?」 サブマシンガン、イングラムM11の先端にあるサプレッサーから空気の奔流が射出された。不可思議だったのはその 瞬... -
過去編第004話 1-4
『で、続ける?』 「お断りに決まってるじゃないですか! というか、ななななななんなんですかアレはあ! 怖かったです! この上なく怖か ったですよおっ!」 装甲列車を解除したクライマックスはまず、そう絶叫した。えぐえぐと泣きながら。 『何っていわれても……。アレが私めの武装錬金の特性だから仕方ないじゃない』 「じゃ、じゃあこの顔とか手は何なんですか!」 「おうおう。相変わらず第一段階からして怖いのう♪」 楽しげに見上げ、時にはぴょこぴょこ跳ねさえするイオイソゴとは裏腹に。 冴えなさが造詣の良さを台無しにしている27歳の顔は──… あちこちの皮膚が剥落していた。赤い肉を剥きだしにしている部分がほとんどだったが、右頬に至っては全ての肉さえ削 げ落ち、白い珠の羅列が露になっていた。人体標本じみた醜さだ。それを訴えたクライマックス自身、すぐに右手でそこを 覆... -
過去編第004話 1-2
……ゴン。 ゴン ゴン…… どこからか鈍い音がした。 装甲が叩かれているようだった。 よく耳を澄ますと「よくも言ってくれたわね許さない許さない許さない」的な呪詛が流れているような気さえした。 カリカリカリ カリカリカリ カリカリカリ カリカリカリ カリカリカリ ガリッ ガリガリ ゴリゴリ ズゾカリガリゴリカリゴギギ…… 殴る音はひっかくような音に変わってもいる。 思わず後ずさる。するとブォンという音が鳴り。 眼前いっぱいに青空がきた。 「ひィ!!!?」 ... -
過去編第005話 1-1
私の名前は秋戸西菜。ぶ厚いメガネがトレードマークの小学3年生。 今日はまだ幼稚園の女のコ連れ込んじゃっています。ここは人気のない公園の裏手。今にもオバケや痴漢さんが出てき そうでこの上なく怖いです(ドキドキ) 「ママー」 「ママー」 「ママー」 しかしくじけてはなりません。私はこの子のお母さんを探すためにここまで来たのですから。この上なく大事な用事だって あります。頑張れ。負けるな私。ファイトです! 始まりはいつも突然! 大事な用事のために街を歩いていた私は、お母さんからはぐれたこのコと出会いました。そして ここまで来ました。 「ママー」 「ママー」 「ママー」 ……ぬぬっ。見つかりませんね? しかしそれもその筈、実はここにお母さんなんていません。「ここで見掛けたから一緒 に行きましょう」 連れ出すときに私はそう言いましたが実はこれ、真赤なウソだ... -
過去編第004話 1-7
ややあって。 イオイソゴは瓦礫残る広場に1人佇んでいた。顔つきは厳しい。腕を揉みねじり溜息さえ時々つく。 その部屋に──装甲列車が景気よく開けた穴を抜け──入ってきたのは美人だがどこか冴えない女性で、 「あれ? リバースちゃんは?」 と呟いた。澄んでいるが間の抜けた感じもいなめぬ声はもちろんクライマックス。きょろきょろきょろきょろ落ち着きなく 辺りを見回す元声優の体は、さきほど耆著でゲル状になった筈だが、しかしいますっかり元通りで、 「その様子じゃとぐれいずぃんぐめに治療して貰ったようじゃの」 「飛んでった先が診療室でした! いまはこの上なく快調ですっ!」 問いかけに明るく、とても明るくブイサインを繰り出した。 そんな27歳にはあと嘆息の555歳。 「気楽でええのう。ヌシは。わしは奴めを説き伏せるのに難儀したと... -
過去編第004話 1-8
「リバースに狙い撃たれ、崩壊した家庭。その後どうなったかは色々や。一家心中したトコもあるし娘が寝とる父親襲てハン マーで殴り殺したっちゅうのもある。いっちばんヒドかったのはスーパーで見ず知らずの4歳児殺した奴やな。隠し持っとった 出刃包丁ですれ違いざまに首バッサリ。だいたいああいう場所の天井って3mぐらい上にあるやん? 男児の心臓っちゅうの は元気なんやろな。水圧カッターみたく噴き上がった血しぶきが今でもベットリや。板変えろ? ムリムリ、そこな、事件のせー で潰れたよって。いま廃墟。でやな。犯人……よーするにリバースに家庭ブッ壊された奴の言い分はこうや。『子供と幸せそう に話している父親が許せなかった。自分は不幸なのになんでコイツだけ』……てな。ま、何のひねりもないアレや。裁判なら 『自己中心的、かつ悪質で』とかいうお馴染の枕詞確定、ベッタベタな動機や。ちなみにソイツの母親はな... -
過去編第007話 「傷だらけの状況続いても」 1-1
当事者 3 (ウチを舐めたらあかんで。今いるマレフィックの中では一番若手。けれどまだまだ伸び盛りや) 筒の中。疵のある目がくつくつと歪んだ。 実感があった。 これからの運命を総て総て掌握しているという……実感が。 目論見の初手は──… 当事者 1 あっという間に決着した。 車の影から躍りあがった瞬間、金髪の持ち主がゆるやかに振り返った。目が合うより早く手にした凶器を振り下ろす。日 本刀。鎖分銅ほど馴染のない武器が相手の腕へ吸い込まれるまで1秒と掛からなかった。腕が飛び、血の匂いが立ち込 める。ここは地下駐車場、換気はすこぶる悪い。鉄錆の、ねっとりとした臭気が吐胸をつく。舞い上がる腕を見た瞬間、貴 信の全身から血の気が引いた。 (切断するつもりはなかった。……なかったんだ) ただ... -
過去編第007話 「傷だらけの状況続いても」 1-3
文字だけで考えると分かり辛いコトこの上ない!! これでなんで遠くの敵を爆破できるか、ウチ自身慣れるまで苦労した。 えーと。図で考えよう。 ”媒介”は「ハンカチ」としよ。誰でもポケットにしまっとるからな。 で。次のような条件の場合なら。 条件1 ウチと敵の距離は3km。 条件2 ウチと敵の間にはハンカチが等間隔で落ちている。 条件3 敵のポケットにはハンカチがある。(=敵と媒介は同じ地点にいる) 条件4 ウチのすぐ前にもハンカチがある。 条件5 便宜上、前述の「一定範囲」は500mとする。 ※ 媒介を爆破するごとに、「500m以内にある媒介」の前にワームホール出現。 位置関係はこうや。 デッドからの 距離(km) 3.0 ‐┨ハンカチ …… 条件3の「敵のポケットのハンカチ」 . ┃... -
過去編第007話 「傷だらけの状況続いても」 1-2
当事者 2 灰色で塗り固められた部屋が闇に沈んでいた。 元は何かの研究所だったらしい。ディスプレイのついた筐体や巨大なカプセルが無造作に並べられ、それらは部屋の隅 から差し込む青白い光の中で錆や罅割れを無残に晒している。使われなくなって久しいらしい。 天井から剥離したと思わしきコンクリートが点在する床には空のペットボトルやコンビニの袋、染みのついた割り箸なども 散乱しており、ここが若者たちからどんな扱いを受けているか雄弁に物語っている。 ちょっとした講堂ほどある部屋の隅に、奇妙な一団がいた。 見た限り彼らはとても人間とは思えない。もし肝試しと称し侵入してきた若者がいれば、あまりの異様さに声を失くし全速力 で踵を返して逃げるだろう。 奇妙な格好の鳥と。 1mほどの筒と。 鎖で繋がれた子猫がいた。 そしてまず、鳥と筒の間で何かが爆... -
永遠の扉006-3
第006話 「今は分からないコトばかりだけど」 (3) なぜ、こういう状況に置かれているのか。 正直理解に苦しむ。 けれど苛烈であろうと馬鹿げていようと、処して目的を果たすのが自分という存在に許された たった一つの在り方だ。 そう。 迷い込んだのは夢なんかじゃなくて現実。 自分を変えたいのなら動き出すしかないから…… 「司令…!! もはやこれまで!! 私はゾンビになどなるのは御免です。……お先に!!」 教壇の上で河合沙織がこめかみにつきつけた銃を弾くと、傍らのまひろは手にしたジッポラ イター(設定上は起爆スイッチ)のフタを開けた。 声に出すなら「むむむ……」といった面持ちをする彼女は、七三分けのカツラやつけヒゲと あいまってなかなかにコミカルである。 そしてその眼前へジッポライター入りの握りこぶしを荘重に掲げた後、下唇をかみしめてや や寂しげな目をし... -
永遠の扉006-1
第006話 「今は分からないコトばかりだけど」 (1) ──8月28日。昼。 やっぱ変わっている。 居並ぶ剣道具の一団からそんな声が漏れると、みなひそひそながらに同意を示した。 彼らの前で展開される打ち合いは、実に濃淡鮮やかだ。 片や紺の剣道着にオーソドックスな黒の防具。 片や白の剣道着に気障ったらしくすらある白篭手と白面。 早坂秋水その人だ。 彼は面金の奥から鋭い叱責を飛ばす。 「動く時も左手はヘソの辺りに固定する事! 左手のブレは足にも響く!」 「は、はいっ!」 対する黒い防具の部員はまだ1年と年若い。 おたおたと必死に左手を直して、容赦なく注ぐ竹刀の雨に応戦する。 打ち合う竹刀がぱちぱち鳴るたび、彼の足取りは徐々に徐々に押されていく。 退き方も実にぎこちなく、一歩後ろへいくごとに体がブレてますます体勢が崩れていく。 それでもまだ、打ち込まれて... -
永遠の扉007-1
第007話 「みんなでお食事」 (1) 客足が遠のいたとはいえそれなりに忙しいお昼時をすぎると、バイト少女は一息ついた。 銀成市にはある意味でとても有名なハンバーガーショップが存在する。 名をロッテリや。 一時期、銀ピカの全身コートや蝶マスクのタイツ男、中国風の巨漢2人などなど、筆舌に尽く し難い変態どもの巣窟となっていたため、「変人バーガー」という蔑称の方が市民になじみ深い。 さて、お昼をすぎたとはいえやらねばならんコトはたくさんある。 例えばハンバーガーを入れる袋。 これは大きさに応じて4号袋(たい)、6号袋、10号袋とそれぞれ分かれているが、この内6 号袋はかなりの頻度で使用されるので、消耗が激しい。 うっかりしていると折角ハンバーガーができても入れる袋がないという事態を招き、お客様へ の円滑な商品引渡しが不可となるので補充はこまめに行わなければならない。... -
永遠の扉 第011話 1
第011話 「READY STEADY GO!」 (1) 何年前だっただろうか。その言葉を掛けてもらったのは。 ──キミにもいつか戦う目的が出来る時が訪れるかも知れない。 樹海でのサバイバル訓練で、傷を負い、無様にはいつくばった自分へその人は。 ──どうしても斃さねばならない存在(モノ)が現われた時 ──どうしても守りたい存在(モノ)が出来た時 ──その時、自分の非力に涙しない様、キミは今、ここで強くなっておけ 優しく真っ向から語り掛けてくれた。 ──さあ、立ち上がろう剛太 赤ン坊の頃、家族をホムンクルスに皆殺しにされ、過去も現在も実感できなかった自分へ。 未来への指標を見せてくれた。 だから剛太はその人──津村斗貴子に対して、憧憬を抱いている。 助力できるコトがあれば断じて惜しまないし、現にこの夏の前半部は火渡率い... -
第094話 「パピヨンvsヴィクトリア&音楽隊の帰還」後編 (10)
音楽隊はホムンクルス特有の禍々しさが驚くほど薄い。秋水にちょっかいを出した無銘でさえ言葉の端々にはそこはか とない愛嬌がある。 だがそんな姿を見てもなお、斗貴子は受け入れ難い。記憶こそないが故郷の赤銅島はホムンクルスたちによって甚大な 被害を受けている。家族はおろか使用人やクラスメイトすら喰い殺された。唯一覚えているのは戦団の施設で邂逅したホムン クルス。西山、と名乗るその少年は斗貴子の顔に消えるコトなき一文字の傷を刻んだ。顔に傷。女性たる斗貴子がホムンクル スを憎悪するに十分だろう。戦団の技術なら傷跡も消せるが、斗貴子にそのつもりはない。傷跡とともに抱え続けたいほどの 憎悪。それをホムンクルスに覚えている。 桜花や秋水は元々ホムンクルスに与していた。共闘に疑問はないだろう。 剛太が家族をホムンクルスに殺されたのは物心つく前の話だ。共闘が戦団の姿勢なら、あっさり受け... -
第097話 「演劇をしよう!!」(後編) (5)
歩く。 「銀成で2番目に旨いコーシーの店……ありますよ……」 「興味あるがガマンだ!! 母上から貰ったお金、あまり無駄遣いしたくない!!」 「……リーダーの……クレカ……も……ですか」 歩く。 「銀成で1番目に旨いコーシーのお店……も……ありますが……」 「ガマンだ!!」 「…………2件買い物しても……支出……1800円ぐらい……です……よ?」 立ち止まる。無銘は頑として叫ぶ。 「その1800円が曲者なのだ!! いいか!! 1800円というのはな!!」 「はぁ」 「あと1200円足したら3000円ではないか!!」 「なに……いっているのか……ちょっと……わからない……です」 当たり前ではないか。何をこのチワワは算数しているのだろう。 というカオする鐶がもどかしいのか、少年無銘はグヌヌヌしばらく唸ってから決然と叫ぶ。 「3000円っ... -
第097話 「演劇をしよう!!」(後編) (8)
鐶たちがヴィクトリアと戯れているころ、武藤まひろは走っていた。 「お財布~!! お財布返してよー!!」 住宅街の中、遥か前を灰色の影が走っていく。ニット帽を被っているせいで年のころは分からない。 彼女は、ひったくりに遭った。顛末はこうである。 デパートからの帰り道、急にノドが渇いたまひろは桜花たちといったん別れ、自動販売機を探した。 この春寄宿舎に入ったばかりだから土地勘はあまりない。ただこの少女は時々妙に勘がいい。自動販売機さんカモン 自動販売機さんカモンと念じつつ適当にホクホク歩いているとものの5分で発見した。 とりあえず冷たいお茶を買い釣り銭を取ろうとしたところで、不意に、さっき見たヴィクトリア(ゲームに夢中)への連絡を思 い出した。思いつくとすぐ取り掛かるのが美点であり欠点だ。常人ならまず釣りを財布にしまいケータイを持つ。だがまひろと きた... - @wiki全体から「過去編 第003話 (1-5)」で調べる