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「サヤとたっくんと」

五月晴れの日曜日。
「うおぉぉぉぉー」と奇声に近い叫び声をあげながら、
自転車で商店街を失踪する少女の姿があった。
彼女の名は桑原鞘子。友人からはサヤと呼ばれている元気な少女だ。
……ちょっと、その元気が空周り気味なところがあるのだが、
そこが彼女の魅力の一つでもある。

そんな彼女が向かっているのは、そうざい屋ちば。
近所でも評判の総菜屋で、彼女の友人、千葉紀梨乃の家でもある。

だが、彼女が向かっている理由は友人に会うためではなかった。
というより、友人に会わないために全力で失踪しているのである。

「ねー、ねー、たっくん。たっくん。サヤちゃんまだー。」
「んー、あ、見えてきた。見えてきた。おーい、サヤちゃーん」

そうざい屋ちばでは、2人の兄妹が今か今かとサヤの到着を待っていた。
彼らは、もちろんキリノの弟と妹。
今、サヤがそうざい屋ちばに向かっているのは、
"キリノが帰ってくる前に”彼らに会うことが目的なのである。

「たっくん。早く、サヤちゃんに聞きたいよね。お姉ちゃんのこと」
「しっ、姉ちゃんがいたらどうすんだよ。」
聞かれてはまずいことなのだろうか、たっくんと呼ばれた兄がたしなめる。
そのまま、キョロキョロと周りをうかがっていると、
キュイっと自転車のブレーキ音がして、サヤの自転車がそうざい屋の前に止まった。

「おまた、ごめんね。まったっしょー」
「うーうん、いぬと遊んでたから大丈夫だったよー」
「サヤちゃん、早くこっちこっち。例の話は俺の部屋で」



そうざい屋ちばの2階は、廊下を挟むようにしてキリノとたっくんの部屋が、
そして妹の部屋があるという間取りになっている。

いぬをぬいぐるみに混ぜない。

キリノの部屋のドアに立てかけてある看板を一瞥しつつ
相変わらず変な趣味の部屋なんだろうなとサヤはどうでもいいことを考えていた。

「ほら、ここが俺の部屋ね」

たっくんの部屋は、サヤが想像していたいわゆる男の子の部屋……ではなく、
まるで、ジョニーズのドラマに出てくるように、
きれいに片付いていて理想的な部屋に見えた。

(かずひこと大違いだわ……)と彼女は自分の弟とつい比較してしまう。

「それで、話って何だっけ?」
サヤは、見とれていても仕方がないので、早速本題を切り出すことにした。
「あ、うん。ねーちゃんのことなんだけど……」
「おねーちゃんって彼氏ができたの?」

言いにくそうにするたっくんを押しのけるように、
いぬを抱きながら妹が割り込んできた。

やっぱり、そうきたか~、とサヤは内心思うも、それを表情には出さずに聞き返した。

「どうして、そう思うの?」
「え、だって。だって」
最終更新:2008年04月24日 01:13