ある日の室江剣道部。
「タマちゃん……今日、俺の家に寄ってかない?」
ユージがそう告げると、部員一同(顧問含む)の視線が瞬時にそちらへと向けられた。
無論のこと、ユージとタマキがごく普通に仲の良い幼馴染みであり、それ以上の関係などでないことは全員が知っている。
そしてそれは当事者であるタマキにとってもやはり同じことで、実を言えば帰りに彼の自宅に立ち寄るというのも珍しいことではない。
……のだが。
「ど、どうしてユージくん?」
彼の表情があまりにも真剣というかむしろ深刻ですらあったため、タマキはつい上ずった声を上げてしまった。
「……見せたいものがあるんだ」
いつも浮かべている笑顔(時々苦笑い)はどこへやら、ユージは真っ直ぐにタマキの目を見返しながら告げる。
その表情になにか圧倒されるような形でタマキは、
「う、うん。別に……いい、けど」
ぎこちなく、しかしこくこくと何度も頷いて答えたのだった。
……それから部活が終了するまで、タマキはずっとそわそわしていた。
「それじゃタマちゃん、行こう」
「う、うん……ゆ、ユージくんの家に、だよね」
言いながら、タマキとユージが道場を出て行く。それを見届けてから……
「なんだろねユージくん。すっごいマジメな顔してたよ?」
「うん。いつものマジメさとはまた違った意味でマジメな雰囲気だったね」
残った部員達と顧問は即座に道場の中央へと集合し、顔を突き合わせた。
「タマちゃんもユージくんの様子がおかしいことには気づいてたみたいですし……これはひょっとすると、ひょっとした展開かもしれませんよ」
「ユージもあー見えてやる時はやる男だからなー」
ミヤミヤとダンのその発言に、サトリがえっと声を上げる。
「えええ!? じゃじゃじゃあ、もももしかして、ユージくんがタマちゃんを家に招いたのは……!?」
キリノとサヤの顔がにんまりと歪んだ。ぱっとお互いに向かい合うと、
「『タマちゃん! 今までずっと黙ってたけど、実は俺、タマちゃんのことが……!』」
「『ユージくん……嬉しい……! あたしも本当は、ユージくんとこうしたかった……!』」
「『タマちゃん!』」
「『ユージくん!』」
ひしっと抱き合うキリノとサヤ。その二人の頭をすぱんとコジローがはたく。
「お前ら、妄想もそこらへんにしとけ。『あの』ユージがそんな気起こすワケねーだろ?」
「……ですよね~」
「タマちゃんとユージくんだもんねー」
あははーと笑いつつ離れる二人。
「……でも……ユージくんがいつもと違ったのは、事実ですよね」
ミヤミヤの指摘に、コジローとキリノとサヤ、三人の動きが止まる。
「タマちゃんも……明らかにそれを意識してましたよね」
更にサトリが告げると、全員が腕を組んで押し黙った。
……そんな展開になるワケがない。なにせあの二人だ。
あの二人にはそういった匂いを感じさせないほのぼのとした空気の方が似合っているし、そしてそれはお互いがお互いを異性として意識していないからこそのものだろう。それが、この場にいる全員の共通認識だった。
「でも……」
ぽつりとキリノがつぶやく。
「なにかのきっかけで、一度火がついちゃったら……」
サヤが後を続ける。
「簡単に延焼するでしょうね……どこまでも、果てしなく」
ミヤミヤが断言する。
「ユージもタマちゃんも、付き合いの長さは筋金入りだからなー」
ダンがなにかを悟ったような目で語る。
「むしろ今までそういうきっかけがカケラもなかったってことの方が奇跡的な確率だからな……」
コジローがしみじみと述べる。
「ユユ、ユージくんとタマちゃんが……!?」
サトリが慌てふためきながら言葉にならない声を上げる。
……まあ、明日になればわかるさと、割と楽観的な結論を下して一同は解散したのだった。
そして、ここにも心中穏やかならぬものが一人。
(ゆ、ユージくん……なんだか、いつもと違う)
隣でしゃこしゃこと自転車を漕いでいるユージの姿を見つつ、タマキは戸惑っていた。
……なんというか、先程の彼の顔は、えらく真剣だった。なにか、大事な話があるとでも言うような感じだ。
(だ、大事な話ってなんだろう……それに、あたしに見せたいものって……)
緊張していた。ついでになんだか鼓動がやかましかった。
黙ったまま、二人して自転車を漕ぎ……やがて、彼の自宅に到着した。
「じゃあタマちゃん、上がって」
「う、うん」
ユージの後に続き、彼の家へと足を踏み入れる。
「あ、あの、ユージくん。おじさんとおばさんは……?」
「ん? いや、今は二人とも出かけてるよ?」
「え」
絶句して、ついでに更に動悸が激しくなった。
(な、なんだろう……ユージくん、どういうつもりなんだろう)
困惑したまま、遂にタマキは彼の部屋へと辿り着いた。
そして……
『ダッツノゥ!!』
「タマちゃん、これ憶えてる? 『ブレードブレイバー・DATSU☆NO』。ブレイバーの放送が終わった後にやった特番だよ!」
『オ~レわっハァ~ ブレイドォ~ ブレイバァ~ だっつーの~ ダッツノー!!(ふみ殺せー!)』
「あ、あの……見せたかったものって……コレ……?」
「うん。いやー、こないだビデオの整理してたら偶然見つけちゃってさ。もう懐かしくて懐かしくて、これは是非ともタマちゃんに観てもらわなきゃって思ってね」
『お前のォ~ ハ~トうお~ ねじふせる~ん~ ダッツノーウ!(ムキエビ!!)』
(騙された……!!)
呆然とするタマキと、心の底から嬉しそうな表情のユージの目の前で、テレビの画面にはサブタイトル(『シケモク怪人飲んだくれブルース』)が映し出されていた。
終われ
最終更新:2008年05月07日 20:19