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「せんせー、せんせーも飛鈴中出身だったってホント?」
 少女が猫口をムニムニさせながら、剣道場で寝転がっている教師の顔を覗き込んだ。
「んあ……ああ。まあ、高校は室江じゃないんだけどな」
「じゃ、あたしと同じっすね」
 うれしそうにぱたぱたと手を振りながら、少女がニヤニヤと答えた。
「……そうだな」
 先ほどまで顔を覗き込まれていた教師が、ゆっくりと起き上がって頭をかく。
「どうしたんすか。なんか元気ないっすね」
「ああ……いや」
 男は、喉まで言葉が出かけるも、それを少女に言うべきかどうかためらう。
もし、これを言ってしまえば自分を慕ってくれている彼女がどんな反応をするのか、
彼は想像しただけで気が滅入ってしまいそうになっていた。
「やっぱり、あんなに頑張ったのに……クビなんですね」
 だが、カンのいい少女は教師の気持ちを察して先回りして答を当ててしまう。
「すまないな。実績のこせなくてさ」
「そんなことない! 先生はがんばったもん……ダメだったのは私たち……
ううん、きっと部長の私が弱かったから……」
 そういって、少女は目に涙を浮かべる。
「ごめんね、ごめんね先生」
「違うさ」
 泣きじゃくる少女をあやすように、男は笑顔で答える。
「これは、俺が結局まだ大人の強さを持てていなかったってことだと思う」
「……せんせい」
「ハハ、でもこれからどうするかな。実家にでも帰るか、それとも」
「ウチの」
 少女が声を振り絞る。
「ウチのそうざい屋に永久就職してください!」
「お前……」
「む、婿養子で!」
 顔を真っ赤にして、少女は教師の胸に飛び込んだ。
「ずっと、ずっと我慢してたんです。でも、もう先生が先生じゃなくなっちゃうなら
いいですよね。アタシの気持ちを我慢しなくてもいいですよね?」
 ふっと、笑って教師は少女の頭をなでる。
「心配かけちまってたんだな。ごめんよ」
「せんせぇ……せんせぇ……」
「もう、どこにも行ってほしくないんです」
「そうだな、そうざい屋も俺に向いてるかもな、なんて」
「本当?」
 顔を上げて少女が聞き返す。
「ああ」
 教師は優しく、答を返し……そして……唇を……。

「っていうのが、ウチの両親の馴れ初めだったそうっす」
「へー、おまえんちのオヤジさん。元々高校教師だったのか」
 放課後の剣道場。部活を終えたばかりの室江高剣道部メンバーは雑談に興じていた。
「コジロー先生も飛鈴中だったんですよね?」
「ああ、まあ高校は室江じゃなかったんだけどな」
「じゃ、アタシと同じっすね!」
「そうだな!」
 ハハハハと笑いながら、コジローはキリノの頭をなでた。
「じゃあ、もし、その……ごにょごにょだったらウチに永久就職を」
「あー、おまえんちだったらそうざい食い放題で食費が浮いていいかもな、なんて」
「もー、コジロー先生。真面目に聞いてくださいよー」

「あ、あの2人は天然なの? 天然なのか!」
「自分たちで気づかずいちゃいちゃしているバカップルってほんと迷惑だな~」
「そうね、ダンくん。そのうち、2人とも気づくんじゃないの」 
 2人の会話を聞きながら、室江高剣道部のメンバーは頭を抱えていましたとさ。
最終更新:2008年11月16日 16:46