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今日は、キリノ先輩のおうちに料理を教えてもらいに来ています。
あのなんでもおいしそうに食べる先生が、「あいつのコロッケだけは!」と、こだわる味。
夕方のアニメの再放送は気になるけど、録画してあるので準備はばっちりです。

「――で、玉ねぎをこう、切ってね――聞いてる?タマちゃん」
「あ、あっ、はい。タマネギを切って――」
「ふふぅ、かわいいなあタマちゃんは」

下ごしらえをあっという間に終わらせた先輩は、
フライパンを持ちながらあたしのほっぺをつんつんしてきました。
アニメの事を考えていて上の空だった事は、言えそうにもありません。

「さて、じゃあ、ここから自分でやってみる?」

油を引いて玉ねぎをのせ、もうおいしそうな香りを出し始めているフライパンがそっと手渡されました。
あわてながらお箸と取っ手に集中していると、鼻唄を歌いながら挽肉と調味料が乗せられます。

「あの先輩、加減はどれくらいで……」
「ああ、塩とかコショウとか?好みにもよるけど、ふつうでいいと思うよー?」
「ふつう、って言われても……」

それを教えてくれるんじゃ。
と、思っていたら玉ねぎはあめ色になり、もう十分炒められたみたいです。

「よーしっ、それじゃそれをボールにとるよー」
「は……はい」

じゃがいもの素地の上に炒めた玉ねぎと挽肉を乗せ、卵と絡めてぐにぐにと。
それはもうあたしにも分かるくらいに、コロッケの中身のように見えて来ました。

「えっと、じゃがいも、玉ねぎ、お肉、お塩、コショウ、たまご……」
「簡単でしょー?」
「た、たぶん……」

まだ少し、自信はないけど。
指折り確認していたら、小麦粉と卵とパン粉が並べられました。
準備ができたみたいです。

「つ、次はえっと……これを丸くして、コロッケの形に……」
「ストーーーップっ!!」
「え、えっ?えっ?」
「ここからが大事なんだよっ!」

ずびし、と先輩が指を向けると、そのまま指を顎にやり、何か考え込んでしまいました。

「ふ~む、どうしようかなぁ……
 ここからは、うちの秘伝のレシピだからねえ……
 どうしようかなあ、教えてあげてもいいんだけどぉ……」
「あ……あの?」
「タマちゃんたっての頼みだしねえ……ふむっ、よしっ、ここは一つ、ネタバレしちゃおう!」

キリノ先輩は、もったいつけ……コホン。十分にタメた後。

「えっとねえ……コロッケのかたちを作る時は、好きな人の事を思い浮かべるんだよ?」
「す……好きな人、ですか?」
「そうだよー、一番好きな人、ね?ハイ!タマちゃんの好きな人は?」

しゃもじの先を向けられ、しどろになるあたし。
急にそんな事言われても。
でもちょっとだけ、りんごを拾ってくれたある人の、背中が見えた気がしました。そこへ。
むに。

「ふぃ……ふぃふぁいふぇふ、ふぇんふぁい……」

痛いです、先輩。
先輩はあたしのほっぺを横に引っ張り上げると、口を猫のようにして笑います。

「ブブー、不正解だよ?」
「ふ……ふふぇいふぁい??」
「今、ホントに好きな人の事、考えたでしょー?残念でしたっ!」
「???」
「答えは、これから食べてくれる人の事を思うんだよ?
 一番おいしそうに、喜んで食べてくれる、その人の笑顔の事とかをね?」

そう言うと、先輩はハイ、とコロッケの具を渡して来ました。
よく分かりませんが、これから食べてくれる人。

「おとうさん……」
「うん!それじゃ、お父さんの事を考えてねー?」

そういうと、手にサラダ油をつけ、握り、小麦粉をまぶせば。
ひとつ、またひとつと小判みたいなコロッケの素は出来上がります。
先輩は、あらかじめ入れておいたフライヤーの温度を確かめると。

「それじゃあ、仕上げるよ~?」
「は……はい」

ぼどぼどと、コロッケの素をフライヤーの中に落とすと。
じゅわあああ、という音と一緒に見る見る間にきつね色に揚がり、きれいなコロッケになりました。

「出来たねえ~」
「できました……?」
「うん、じゃあ一個味見してみようっ!」

さく。と熱々のコロッケを半分に割ると、じゃがいもと玉ねぎのいい臭いがたちこめました。
先輩はその半分をあたしに手渡すと。その端を齧りながら、なんだか照れくさそうにしています。

「おいしい?」
「おいしい……です」
「ゴメンねえ、さっきは変な事言っちゃって」
「ヘンなことですか……?」
「うん、えーっと、ホラ好きな人とかって」
「ああ……」
「あたしもねー、この作り方お母さんに聞いた時にね。
 一回引っ掛けられちゃったんだよねー、同じ事」
「はぁ……」
「だからその仕返しって訳じゃないけど、ちょっとイジワルしちゃった。ごめんね」
「いえ、別に……」
「ふふっ、かわいいなあタマちゃんは」

そういって食べ終わり、お店のクリアパックを貰い、残りのコロッケを入れると。

「では、失礼します」
「お父さんによろしくねー」
「ありがとう……ございました」
「うん、またねえー」

家へ帰る、自転車の上で考えました。
一番おいしそうに、喜んで食べてくれる、その人。
キリノ先輩も引っかかった、「好きな人」の事。
先輩が一番沢山料理あげてるのは……

――あれ、じゃあ先輩の好きな人って?

………
……
…

「まぁ、いいや」
少し考えると思考はすぐに、再放送のアニメが無事録画されているかに切り替わりました。




おしまい。
最終更新:2009年01月30日 23:08